日米関係の将来

駐日米国大使ジョン・V・ルース

外交専門誌「外交」第2号(外務省発行/2010年10月)に掲載
「外交」編集部の許可を得て本サイトに掲載

 私は駐日米国大使として、日米関係の未来について 考えを述べるこのような機会を得たことを光栄に思う。 私の見るところ、日本と米国はこれまで、素晴らしい パートナーシップを構築し、今後の協力がさらに深ま るような道を開いてきた。私は両国の未来を楽観して おり、将来のあらゆる可能性に大いに期待している。

 周知のとおり、今年は「日本国とアメリカ合衆国と の間の相互協力及び安全保障条約(日米安全保障条 約)」の署名50周年に当たる。もちろん両国の関係は50 年よりもはるか以前にさかのぼる。実際私は、日米関 係の将来についてのコメントを求められると、両国民の 最初の出会いからこれまでの長い道のりをしばしば思 い起こす。1853年にペリー提督が日本を訪れた際 に、日本の役人と交わしたやりとりの大きな特徴のひ とつは、互いについての情報の無さだった。ペリー提督 と日本の交渉相手は第3の言語――オランダ語――で の意思の疎通を余儀なくされた。このことからも両者 の間には共通の了解事項も、両者を結び付けるきずな もなかったことは明らかだ。その後、我々が両国の間に このように深く包括的なパートナーシップを築くこと など、日米関係の始まったころの難しさを知るペリー提 督には想像もつかなかっただろう。

 私が日米関係の将来について非常に楽観的な理由の ひとつは、太平洋の両側で、非常に多くの人々が両国 の関係維持と強化のために多大な努力を払っているこ とをじかに見てきたからだ。中には見て非常に分かり やすい努力もある。例えばホワイトハウスでオバマ大統 領に最初に会った外国の指導者は日本の首相だった。 またオバマ大統領とクリントン国務長官が就任後初の アジア歴訪で最初に立ち寄ったのは日本だった。

 目立たない努力も無数に存在する。日米の政府担当 者間の日々の情報交換、フルブライト・プログラムのよ うな長い歴史を持つ教育交流、さらにお互いを知る機 会を多数の日米両国民に提供し非常に大きな成功を収 めた「語学指導等を行う外国青年招致事業(JETプ ログラム)」などの取り組みだ。新たな人と人とのつな がりが日々生まれている。日米のリトルリーグの野球 チームが毎年試合をし、両国の宇宙飛行士たちが国際 宇宙ステーションで一緒に働いている。また、両国の科 学者や起業家たちが、沖縄、ハワイその他各地で、革 新的で効果的なクリーンエネルギー戦略の開発に協力 して取り組んでいる。こうした教育・文化・科学交流 をさらに深め発展させるために、今後も協力を続ける ことが極めて重要である。

 両国関係の将来を楽観視できるもうひとつの理由は、 2国間の経済関係にある。農業から医療、金融、電気 通信に至る幅広い分野で、両国の太平洋を越えたビジ ネスが成功している。加えて、日本にはまだ活用され ていない膨大な技術革新や起業家精神があり、この潜 在力を引き出せば、各種の産業やビジネスに携わる人 たちの未来をさらに明るくすることができるに違いな い。

 もちろん、日米関係の将来は、両国にとって不可欠 な安全保障同盟抜きでは語れない。昨年11月の東京訪 問の際、オバマ大統領は「日米同盟は日米両国だけで なく、アジア太平洋地域にとっても安全と繁栄の基盤 である」と語った。2006年の「再編実施のための日 米のロードマップ」で、両国は、この地域での強力で持 続可能な米軍駐留に寄与しながら、同時に基地を受け 入れている日本の自治体、特に沖縄県における米軍駐 留の影響を最小限にとどめる一連の変更について合意 した。こうした変更は、変化する安全保障上の課題に 対し両国が適応しやすくすることを目的としている。 そして韓国海軍哨戒艦「天安」に対する攻撃などの最 近の出来事は、私たちに日米同盟の死活的な重要性を 間違いなく再認識させた。

 北朝鮮の弾道ミサイルと核開発計画は依然として最 も差し迫った懸案事項であり、核拡散リスクと体制崩 壊の可能性が安全保障上の大きな課題となっている。 さらに、極めて重要なシーレーンにおける海賊行為、海 洋での領有権問題、過激派グループの挑発的な行動な ど、地域の安全と安定に影響を及ぼす可能性のある課 題がほかにも存在する。不測の事態や予期せぬ危機は 起こりうるし、米国も地域のパートナー諸国もこれに 対処する能力を維持すべきである。

 幸いにも、私たちはすでに、こうした緊急事態に備 える基盤づくりを始めている。日米は2国間だけでな く、地域・世界規模でも協力している。自衛隊は洪水 に見舞われたパキスタンやハイチ地震での救援活動、 そして「アフリカの角」沖での海賊対策に貢献してい る。日本政府は最近、国連安保理決議1929号に加 え独自の対イラン制裁を発表した。これは、核拡散と 戦い、イラン政府の核兵器開発を阻止するための国際 社会の結束した取り組みにとって非常に歓迎すべき重 要な追加措置である。日米両国は、気候変動からアフ ガニスタンの復興まで、差し迫った地球規模の課題に対 する解決策を見い出すために協力している。

 私は、日米関係には浮き沈みがないだろうという幻 想は抱いていない。しかし、両国の関係は進化と成長を 続けると確信している。将来の日米関係は繁栄するだ ろう。なぜなら米国と日本は自由、人権への取り組み、 すべての国民のためのより良い世界の構築といった中 核となる価値観を共有し、我々の強固な同盟は地域の、 そして世界の繁栄と安全を確保しているからであり、 この揺るぎないパートナーシップは両国のためになっ ているからだ。

 これまでの1年は、過去50年間に両国が成し遂げて きたすべてのことを振り返り、深く考える素晴らしい 機会となった。私が日本の指導者や市民と会う際に交 わすやりとりが、もはや両国を隔てる点を強調するも のでなく、現在、そして将来にわたり両国を結び付け るきずなを強めていることを、私はうれしく思う。