2010年人身売買報告書(抜粋・日本に関する報告)

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2010年人身売買報告書(抜粋・日本に関する報告)

国務省人身売買監視対策室

2010年6月14日

(下記は、国務省発表の2010年人身売買報告書から日本の項目を抜粋した仮翻訳です。)

日本(第2階層)

 日本は、人身売買、具体的には強制労働や強制売春の被害者である男女や子どもの目的国であり、規模ははるかに少ないが、供給国や通過国でもある。中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、その他のアジア諸国からの移住労働者は男女共に、時として強制労働の被害者になることがある。東アジア、東南アジア、東ヨーロッパ、ロシア、中南米から雇用あるいは偽装結婚を目的に日本にやって来る女性や子どもの中には、売春を強要される者もいる。日本の組織犯罪集団(ヤクザ)が、直接的にも間接的にも、日本での人身売買で重要な役割を果たしているとみられる。人身売買業者は、借金による束縛、暴力による脅し、その他の精神的な威圧手段を用い、被害者の移動を厳しく制限する。マスコミや非政府組織(NGO)は、人身売買の一因である、借金による束縛、移動の制限、残業代の未払い、詐欺など、外国人研修生・技能実習生制度(以下「外国人研修生制度」とする)の悪用事例を引き続き報告している。女性たちは通常、契約開始時点で4万9000ドル以上の借金を負っており、加えて生活費、医療費、その他の必要経費を雇用主に支払わねばならず、借金による束縛を受けやすい状況に置かれた。行いが悪いとの理由で「罰金」が当初の借金に加算された。雇用主がこうした借金を計算する方法は不透明であった。多数の日本人女性や少女が、日本国内で性目的の人身売買被害者となっており、その数は増加しつつある。性目的の人身売買は、日本国内の犯罪ネットワーク、その他の業者にとって極めて収益の多い産業である。日本人被害者の場合、脅迫、クレジットカード債務、悪徳金融業者からの借金が、人身売買の強要手段として利用されることが多かった。日本は、東アジアから北米に売買される人々の通過国である。日本人男性は、引き続き、東南アジアにおける児童買春ツアーの需要の大きな源泉となっている。

 日本政府は、人身売買撲滅のための最低基準を十分に満たしていないが、満たすべく著しく努力している。本報告書の対象期間に日本政府が報告した、認知された人身売買被害者の数と、起訴され有罪判決を受けた人身売買犯罪者の数は過去最低だったが、日本の人身売買問題が減少したことを示す経験的証拠はなかった。2009年12月、政府は人身取引対策行動計画を発表した。しかしながら、政府による人身売買事案の捜査と起訴、および人身売買被害者の認知と保護への取り組みは、依然として不十分であった。政府は、これまで外国人研修生制度における労働搾取目的の人身売買事案を一度も起訴したことがない。日本で認知され支援を受けた人身売買被害者の数は4年連続で大幅に減少したが、同時に日本の人身売買問題の減少を示す信頼できる証拠はない。

日本への勧告:より多くの人身売買被害者を認知するために、正式な被害者認知手続きを確立して実施し、その手続きの活用方法についての研修を、売春で逮捕された人、外国人研修生・技能実習生、その他の移住労働者と接する職員を対象に行う。外国人労働者を雇用する企業および商業的性風俗業における人身売買を捜査するために、積極的な法執行の取り組みを拡大する。売買されたことに直接起因する違法行為を犯したことで、人身売買被害者が罰せられることがないようにする。労働目的の人身売買犯罪者の起訴および有罪判決件数を増やす。児童に対する性的搾取の疑いで日本人が捜査の対象となる場合に、現地の当局にできる限り協力するよう警察庁および日本大使館・領事館に働きかける。被害者向けシェルターにおいて、引き続き、通訳・翻訳サービスや被害者の母国語を話す心理カウンセラーを利用しやすくし、利用件数を増やす。認知された被害者全員に対し、無料で法的支援が受けられること、および入国管理上の救済措置という選択肢があることを通知する。

起訴

 本報告書の対象期間中、日本政府による人身売買対策のための法執行の取り組みは低下した。政府は、2009年に、刑法第226条の2「人身売買」に基づいて5人を起訴し有罪判決を下したと報告した。これらの犯罪者の量刑情報についての報告は政府からなかった。過去、有罪判決を受けた犯罪者のほとんどが執行猶予を受けている。日本は包括的な人身売買対策法を持たず、人身売買の捜査および起訴件数の統計を取っていない。人身売買事案を扱う各省庁間の協力は、起訴、有罪判決、量刑などの明確な統計記録の確立に必ずしも寄与していない。政府は人身売買に関与する組織犯罪集団に対し十分な捜査・起訴を行わず、有罪判決を追求しなかった。人身売買を禁止する2005年の日本の刑法改正や、労働基準法および児童買春・児童ポルノ処罰法を含むその他のさまざまな刑法の条文や法律は、人身売買とそれに関連する幅広い活動を刑事罰の対象としている。しかし、既存の法的枠組みが、すべての過酷な形態の人身売買を刑事罰の対象にするほど、十分に包括的なものかどうかは明確でない。人身売買を禁止する2005年の刑法改正は、最高7年の懲役刑という十分に厳格な刑罰を規定している。入国管理局と労働基準監督署は引き続き、企業による外国人研修生制度の悪用事例を何百件も報告した。こうした悪用事例の多くは人身売買に関連してはいなかったが、中には、詐欺的な雇用条件、移動の制限、給与の未払い、借金による束縛など重大な悪用事例の報告もあった。外国人研修生・技能実習生から渡航書類を取り上げ、逃避防止のために移動を制限する場合もあった。しかし政府は、外国人研修生制度を十分に監視や規制する努力をせず、この制度で労働目的の人身売買という罪を犯している者を刑法に基づき捜査し、起訴し、有罪判決を下したことはこれまで一度もない。2009年12月、上級職の入国審査官が、バーで働く女性の在留許可の審査で便宜を図る見返りにわいろを受け取ったとして有罪となり、懲役2年の判決を受けた。不正行為は、社会的に容認された日本の巨大な娯楽業界において依然として深刻な問題であるが、そのような不正行為に対する政府の取り組みは不十分であった。人身売買の犯罪の認定、捜査、起訴に関する法執行官の研修において、政府はNGOや国際機関と適度な協力関係を維持した。

保護

 本報告書の対象期間中、政府の人身売買被害者の認知と保護の取り組みは低下した。日本政府によって認知された人身売買被害者の総数は、4年連続で減少した。2009年に警察当局が認知した被害者の数はわずか17人で、2008年の36人、2007年の43人、2006年の58人、2005年の116人から減少した。政府は男性の人身売買被害者を1人も認知せず、男性の被害者が利用できるシェルターはなかった。日本人の子どもの性目的の人身売買被害者を保護する政府の取り組みは改善したと報告されたが、こうした被害者の認知数の報告は政府からなかった。人身売買問題を監視している、情報に通じた組織や個人は、脆弱(ぜいじゃく)な人たちの中から被害者を探し出すことに政府が積極的でないと引き続き報告している。日本の当局の中には、国際移住機関(IOM)発行の被害者認知の手引書を利用しているところもあるが、当局から、正式な被害者認知手続きを有しているとの報告はなかった。さらに、人身売買を含む分野の担当職員が日本の複数の省庁にいる一方、政府は、人身売買問題専任の法執行官や社会福祉担当職員は置いていないようである。認知された17人の被害者は全員、配偶者からの暴力の被害者向けの政府のシェルターである婦人相談所(WCC)に収容され、そこでは被害者の移動の自由は認められなかった。被害者は、診療を受けることができ、国際機関から心のケアを受けた。これらの被害者はすべて、売春施設で認知された。当局が、外国人研修生制度の参加者を含め、日本に数多く在住する外国人労働者を人身売買被害者と認知したことはこれまで一度もない。政府はNGOと協力し、被害者の母国語を話す通訳を利用しやすくしたと報告した。政府は、日本の法律下では刑事あるいは民事訴訟による法的救済あるいは賠償が可能であるという情報を人身売買被害者に対して十分提供していないようである。当局は、人身売買業者の捜査と起訴への参加を被害者に奨励していると報告したが、被害者に対して、例えば、就労や収入を得ることを可能とするなど、参加を促す奨励策を提供しなかった。政府は、人身売買被害者の長期間の在留ビザ取得は可能だと主張するが、外国人被害者にそのようなビザが発給された事例はこれまでに1件もない。2009年に日本は、人身売買被害者の本国への帰国と社会復帰を支援するためのIOMへの提供資金額を、30万ドルから19万ドル未満へ引き下げたが、これにより日本の被害者支援への取り組みに悪影響が及び、外国人被害者が本国に帰国できず、社会復帰の支援を得られなくなった。

防止

 日本政府は、国際機関とNGOの支援を受けて人身売買防止に取り組んだが、その取り組みは限定的だった。政府は引き続き、人身売買に対する意識向上のために、ポスターとパンフレットを配布した。当局はまた、IOMの支援を受け、警察大学校での法執行の研修を継続した。2009年7月に政府は、新たな人身取引対策行動計画の策定を目的に、NGOも参加する暫定的な作業部会を設置した。この新行動計画は2009年12月に発表されたが、NGOとの協力は盛り込まれていない。政府は引き続き、世界各地における多数の人身売買対策プロジェクトに資金を提供した。長年、多数の日本人男性が、子どもとの性行為を目的に、アジア諸国、特にフィリピン、カンボジア、タイに旅行してきた。2005年以降、当局が児童買春ツアーを理由に日本人を起訴した事例は1件もなく、本報告書の対象期間にそのような事案を捜査したという報告もなかった。日本の商業的性産業が繁栄しているにもかかわらず、政府は、商業的性行為や児童買春ツアーへの需要の減少にまったく取り組まなかった。日本は、国連で2000年に採択された人身売買議定書の締結国ではない。