米国のアジア太平洋地域への関与に関するヒラリー・クリントン国務長官の演説

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

カハラ・ホテル、ハワイ州ホノルル

2010年10月28日

 アロハ。

 (中略)

 再びハワイを訪れることができて大変うれしく思います。前回は、ハイチで起きた大地震のために旅程を切り上げなければなりませんでした。ここは私 たちの大統領が生まれた土地であり、米国と東洋とを結ぶ架け橋でもあります。そして今回私は、ここハワイから、アジア太平洋地域7カ国の旅に出発します。

 私はしばらく前から、この旅を楽しみにしていました。ハワイからまずグアムへ行き、そこからベトナム、カンボジア、マレーシア、パプアニューギニ ア、ニュージーランド、オーストラリア、そして米領サモアを訪れます。この旅程は、アジアの多様性と活力を反映しています。また、来週から再来週にかけて のオバマ大統領によるインド、インドネシア、日本、韓国歴訪を補完する旅程でもあります。2年近くにわたるこの地域への積極的な関与を経て、大統領と私 は、この大切な時期にこの極めて重要な地域をそれぞれ訪問します。2人の旅程を合わせると、この地域のかなりの部分を占める国々を訪れることになります。 そして、私たちは行く先々で、アジア太平洋地域における米国のリーダーシップの維持と強化、安全保障の向上、繁栄の促進、米国の価値観の普及――という包 括的な目標を推進します。

 こうした訪問やその他のさまざまな方法により、私たちは「前方展開」とも呼べる外交を実践しています。つまり、非常に積極的な体制を取っていると いうことです。政府高官、開発の専門家、そして広範囲に及ぶ緊急の課題を担当するチームなど、米国の外交にかかわるあらゆる人材を、アジア太平洋地域の至 る所、あらゆる首都に派遣しています。また、共通の目標を推進する積極的な活動として、地域の諸機関、パートナーや同盟諸国、そして地域の人々との関与の ペースを速め、規模を拡大しています。

 これはオバマ政権誕生初日からの優先事項です。なぜなら、21世紀の歴史の大部分がアジアで書かれることが分かっているからです。この地域は、世 界で最も飛躍的な経済成長を経験するでしょう。アジア地域の都市のほとんどが、世界の商業と文化の中心地となるでしょう。そして、アジア全域でより多くの 人々が教育を受け、機会を享受できるようになるにつれて、ビジネス、科学、技術、政治、芸術といった分野で次世代の地域および世界のリーダーが台頭してく るでしょう。

 しかしその一方で、アジアは根深い問題も抱えています。今も続くビルマの軍事政権による人権侵害は、私たちに、進展の見られない場所があることを 改めて認識させます。北朝鮮の挑発行為やこれまで見られたような核拡散活動には注意深く警戒する必要があります。また継続中の領土紛争に伴う軍事力の増強 により不安が生まれ、波紋を呼んでいます。気候変動のような地球規模の緊急課題に対処する解決策の成否は、アジアにおいて何が起きるかにかかっています。 これが、今実体を現しつつある未来――急速な変化に満ち、さまざまな課題に直面する未来です。そしてその未来は、米国が主導していかなければなりません。

 なぜなら、今日の進展をもたらしたのは、アジア各国の指導者や市民の懸命な努力だけではないからです。この地域の国境を守り、海域を巡視する米国 の陸・海・空軍、そして海兵隊の兵士たち。紛争を調停し、共通の目的に向け各国を団結させた米国の外交官。新たな市場に投資し、太平洋をまたぐパートナー シップを構築した経済界の指導者や起業家。災害後の国家の復興を支援した米国の援助関係者。そして太平洋の向こうの教師や学生と意見を交換し、さまざまな 経験を分かち合ってきた米国の教師や学生たち。こうした人たちも今日の進展に貢献しました。

 ところで、このように長い歴史を持つ米国のアジア太平洋地域におけるリーダーシップが終わろうとしている、という人たちがいます。米国はアジアにとどまらない、というのです。しかし米国の実績を見てください。実状は全く違います。

 この21カ月間、オバマ政権は、この変化する地域の各地で、米国のリーダーシップの強化、関与の拡大、そして米国の考えを提示し影響力を発揮する 新たな手段の実践に力を注いできました。それに際し、党派にかかわらずアジアにおける米国の役割についてビジョンを共有する指導者たちから多大な支持を得 てきました。私たちは共に、これから何十年も先の遠い未来に目を向けています。今日の政治情勢では、明日より先のことを考えるのが非常に難しいことを、私 は理解しています。しかし、アジアでもその他の地域でも、明日より先のことを再び考えられるようになることを願っています。なぜなら、世界における私たち のリーダーシップの基盤の構築には何十年もかかったからであり、さらに今後、この政策の継続と実施には何十年もかかるからです。

 今、国務長官として6度目のアジア訪問へ出発するに際し、私はアジアの将来を楽観し、自信を持っています。また米国の将来についても同様に楽観し 自信を持っています。さらに、今後、すべてのアジア諸国が米国のリーダーシップとともに達成できることについても、楽観し自信を持っています。

 そこで本日は、アジアにおける米国の関与の主な手段、すなわち、さまざまな国との同盟、新たなパートナーシップ、そして各地域機関との協力を強化 するためにオバマ政権が取ってきた措置について、簡単にお話ししたいと思います。また、私たちがこうした手段をどのように利用して、以下の3つの主要方針 に従い前方展開の外交を推進しているかを説明します。第1にアジア太平洋地域経済の将来の方向付け、第2に地域の安全保障の支援、そして第3に民主主義の 強化と普遍的な人間の価値観の普及の支援です。

 まず、米国のアジアへの取り組みの出発点となる同盟国についてお話しします。アジアという広大で多様な地域において、米国の同盟国である日本、韓 国、オーストラリア、タイ、およびフィリピンとのきずなは、引き続き米国の戦略的関与の基盤となっています。こうした同盟関係は、過去半世紀にわたり地域 の平和と安全を守り、この地域の驚異的な経済成長を支えてきました。今日、私たちは、変化する世界でこれらの同盟関係がその効力を保てるよう、その関係の 維持だけでなく更新にも努めています。

 まずは、アジア太平洋地域における米国の関与の礎である日本との同盟です。今年、両国は、安保条約署名50周年を祝いました。しかし、日米のパー トナーシップは安全保障だけにとどまるものではありません。米国と日本は世界の3大経済大国のうちの2国であり、アフガニスタンの復興支援では世界第1位 と第2位の貢献をしています。また核不拡散から気候変動まで、世界的な主要課題で主導的役割を果たす責任を共有しています。過去50年間と同様に、日米同 盟がこれからの50年間も効果的なものとなるように、私たちは、戦略的環境の変化に合わせて協力関係を拡大しています。私は昨日、日本の(前原)外務大臣 との2時間に及ぶ協議とその後の共同記者会見の中で、日米が共に直面するさまざまな課題について述べました。

 今年はまた、もうひとつの同盟国との関係においても記念すべき年でした。朝鮮戦争開戦60周年を迎え、私はこの夏、ゲーツ国防長官と共にソウルを訪れました。また2週間後にオバマ大統領がG20サミットのためにソウルを訪問する際には、両国の大統領が会談します。

 米韓両国は、北朝鮮の魚雷による韓国哨戒艦「天安」の沈没という悲劇的な事件をはじめ、北朝鮮の脅威や挑発行為に共に立ち向かってきました。米国 は今後も、北朝鮮が国際社会との関与の恩恵を十分享受できる唯一の道は、完全かつ検証可能で不可逆的な非核化であることを北朝鮮に対して明確に示すため に、日韓両政府と緊密に協力していきます。

 米韓同盟は、この地域の安定と安全保障の要ですが、今はそれをはるかに超えるものとなっています。両国はアフガニスタンで協力しており、韓国の復 興チームがパルワン州で活動しています。またアデン湾では、米韓両軍が海賊対策で連携しています。そしてもちろん、両国の間では軍事協力だけでなく経済関 係も非常に活発であり、そのため両国の大統領は、ソウルでのG20サミットまでに米韓自由貿易協定に関する問題を解決するよう訴えてきました。

 さらに来年にはもうひとつ記念すべきことがあります。オーストラリアと米国の同盟が60周年を迎えます。これから2週間のうちに、私はアジア歴訪 の最後の訪問国としてオーストラリアを訪れ、発足から25周年を迎える米豪閣僚会議(AUSMIN)に参加します。ゲーツ国防長官と私は、オーストラリア のスミス防衛大臣、ラッド外務大臣と会談します。またオーストラリア初の女性首相であるジュリア・ギラード首相と会見します。そしてこうした指導者たちと 協議するだけでなく、オーストラリアと米国の同盟関係の将来についての方針を述べる機会も得ます。

 米国は、東南アジアの同盟国であるタイおよびフィリピンとの間では、政治、経済、環境、および安全保障など広範な問題について緊密に協力してお り、その範囲は拡大しています。この夏、私たちはタイとの創造的パートナーシップ協定を開始しました。この協定の下では、タイと米国の大学や企業が協力 し、タイ経済における革新的な分野の開拓を支援します。フィリピンとは、来年1月に、米・フィリピン間で初めて「2+2」戦略対話を実施します。また先月 私はアキノ大統領と共に、フィリピンの経済開発の加速と貧困の緩和を目的としたミレニアム・チャレンジ協定に署名しました。

 この地域における米国の5つの同盟国との関係は、いずれも安全保障同盟として始まったものが時とともに拡大し、今ではさまざまな分野での共同活動 を含むようになっています。そして私たちは今後も、それぞれの国との関係にあわせて、より多くの人々により多くの恩恵をもたらせるようにし、これらの同盟 関係を一層強化するにはどうすればよいか、という難題を自らに問いかけていきます。

 同盟関係以外にも、米国は新たなパートナーとの関係を強化しています。インドネシアは、この地域、特に地域機関において主導的な役割を果たしてい ます。来年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国として、2011年東アジアサミットを主催します。また、バリ民主主義フォーラムの創設国として、ア ジア各地の民主主義改革を率先して推進しています。来月のオバマ大統領のインドネシア訪問中に、インドネシアと米国の大統領が、両国の新たな包括的パート ナーシップ協定を正式に開始します。

 ベトナムでは、米国はわずか10年前には考えられなかったレベルの協力関係を育んでいます。両国の外交・経済面のつながりは、かつてないほど生産 的なものとなっており、最近では話し合いの対象を海洋安全保障およびその他の防衛関連の問題にも広げています。またベトナムは今年、米国を東アジアサミッ トのゲストとして初めて招待してくれました。これは、協力に向けた極めて重要な新しい道を開くものです。両国の間には、いまだに意見の相違はありますが、 私たちはつらい過去から抜け出して、より繁栄した良好な関係へと移行する決意です。

 国の大きさに見合わない力を持つという意味で、シンガポールの右に出る国は少ないでしょう。米国とシンガポールは、シンガポールのASEANでの リーダーシップと、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉で果たしてきた役割を利用し、経済の成長と統合を促進すべく協力しています。また、マレーシアと ニュージーランドでは、外交官や開発の専門家たちが、それぞれの能力を発揮して、貿易の拡大、草の根交流、核不拡散体制の強化の取り組みなど、あらゆるレ ベルでより強力な提携関係を築いています。

 非常に活力があり影響力を増しつつある数多くの新興国の中でも、特に傑出しているのは言うまでもなくインドと中国です。この2カ国が同時に台頭し ていることで、世界は変わりつつあります。そして米国がこの2カ国といかに効果的に協力できるかが、米国の指導者にとって極めて重要な課題となります。イ ンドと米国は、政府、経済、国民のレベルでの関係強化により、かつてないほど互いに重要な存在となっています。世界の2大民主主義国家として、米国とイン ドは共通の利害と価値観で結ばれています。

 今年私たちは米印戦略対話を開始しました。そこで取り上げた中心的な課題のひとつが、東アジアへのインドの関与と統合の強化です。それは、インド がこの地域で、そして国際舞台で中心的な役割を持つと考えているからです。オバマ大統領が、来週からの重要なアジア歴訪の最初の訪問先としてインドを選ん だのもそのためです。大統領の訪問は、アジアにおける米国のリーダーシップを刷新し、米印間のパートナーシップを全く新しいレベルにまで高めるという米国 の2つの優先事項を結び付けるものとなります。

 一方、中国と米国の関係は複雑かつ非常に重要であり、私たちはこの関係を正しく進めることに全力を注いでいます。中国と米国は基本的に利害が対立 すると考える人たちがどちらの国にもいます。彼らは米中関係にゼロサム理論を当てはめ、どちらかが成功すればもう一方は失敗すると考えます。しかし、私た ちはそう考えてはいません。21世紀において米国と中国が互いを敵とみなすことは誰の利益にもなりません。ですから両国は、この新たな世紀に、前向きで協 力的かつ包括的な関係を築くために協力しています。

 また中国には、米国はあくまで中国を封じ込めようとしていると考える人たちもたくさんいますが、私は、米中が国交を樹立して以来、中国は驚異的な 成長と発展を遂げてきた、とだけ指摘しておきます。もちろん、それは主に中国国民の懸命な努力によるものです。しかし、米国は1970年代以降、政権や議 会が共和党主導であれ民主党主導であれ、一貫してこの目標を支援してきました。そして、中国が地域および世界的な問題でより大きな役割を担うと同時に、よ り大きな責任も負うようになる中、米国は2国間、さらに主要な機関を通じた、中国との密接な協力を期待しています。当面は、北朝鮮の挑発により効果的に対 処し、北朝鮮に韓国との関係の再構築と6者協議への復帰を強く求めるために協力する必要があります。

 イランに関しては、中国がイランによる核開発の野望を阻止するための国際的な制裁措置の効果的な実施を支援することを期待しています。軍事に関し ては、米国と中国の軍隊がより近接した場所で活動するようになっていることから、信頼を築き、衝突を避けるためのルールを確立するために、さらに対話を深 めて行くことを望んでいます。気候変動に関しては、世界の温室効果ガスの2大排出国である米国と中国には、エネルギー効率を向上させ、世界的な気候外交を 推進するための具体的な戦略を策定する責任があります。

 通貨と貿易に関して、米国は(中国に対し)、ガイトナー長官が明確に述べている責任ある政策調整と、中国における米国の企業、製品および知的所有 権のための環境改善を求めています。政府以外に目を向ければ、米国と中国は相互の留学生数の増加に向け協力しなければなりません。この目標を推進する取り 組みとして、「100000 Strong(中国への米国人留学生の数を今後4年間で10万人にする計画)」があります。また人権に関しては、あらゆる人々の普遍的な権利の保護を推進 するための広範囲に及ぶ対話を求めています。私たちは2011年初めに、胡錦涛国家主席を国賓としてワシントンに迎えます。米国は、この訪問が歴史的大成 功に終わるよう全力を尽くします。また胡主席訪米の準備に向けた、今週の戴秉国・国務委員との面談を楽しみにしています。

 米国とその同盟国およびパートナー諸国との関係は、アジア太平洋地域における米国の関与の3つの主な要素のうちの2つに相当します。3つ目の要素 は、この地域の多国間機関への参加です。10カ月前にここハワイを訪れた時、私はアジアの将来にとって強力な地域機関がいかに重要かお話ししました。ここ では、アジアの(地域)機関における米国の役割の指針となる原則について簡潔に述べさせてください。その原則とは、安全保障、政治、および経済に関する重 要な問題が議論されており、それが米国の利害に関わる場合には米国は協議に参加する、というものです。それゆえ、米国はASEANを、アジアの新たな地域 機構を支える基盤とみなしており、数々の政治・経済・戦略的課題への対処に不可欠と考えています。

 米国は、東南アジア友好協力条約への加盟やASEAN担当の米国政府代表部の新設など、ASEANとの関係強化に向け一連の措置を取ってきまし た。ゲーツ国防長官は先日、ハノイでのASEAN国防相会議に出席し、帰国したところです。オバマ大統領は2度にわたりASEANの指導者たちと個人的に 関与し、米国がASEANへの関与をいかに真剣に考えているかを示唆しました。また米国はASEAN地域フォーラムでも主導的な役割を果たし、北朝鮮や南 シナ海など、進行中の安全保障上の問題について話し合ってきました。南シナ海については、最近中国が、より正式で拘束力のある行動規範について、 ASEANとの協議を開始する姿勢を見せていることを心強く思っています。

 アジア太平洋経済協力(APEC)会議については、APECがその使命を再活性化し、21世紀の経済課題に取り組むための非常に重要な時期が来て いる、と考えています。そして、今年のAPECにおける日本の積極的なリーダーシップを高く評価しています。日本は、貿易自由化についてAPECが今後取 るべき道を明確に示し、中小企業への事業投資を拡大する具体的な活動を推進しています。

 米国は、来年のAPEC議長国であり、そこでリーダーシップを発揮するための準備として、日本と緊密に協力してきました。そしてそのリーダーシッ プは、ここホノルルで行われる首脳会議が基盤となります。私は、ここにいらっしゃる開催委員の皆さんの、この重要な会議への支援に感謝しています。私たち の目標は、APECが、あらゆる国が共有できる持続可能な経済発展を推進する、結果重視の重要なフォーラムへと進化するよう支援することです。

 米国はまた、マルチラテラル(多国間)に対し、私たちが「ミニラテラル」と呼ぶ手法で、リーダーシップを発揮しています。その一例が、カンボジ ア、ラオス、タイ、ベトナムで教育・保健・環境プログラムの支援を目的に昨年打ち出したメコン川下流域イニシアチブです。また米国は、気候変動から航行の 自由までさまざまな課題に真剣に取り組み、解決しようとする太平洋諸島の国々を支援するために、太平洋諸島フォーラムを通じて活動しています。そしてその ために、私は、米国国際開発庁(USAID)が来年太平洋地域に復帰し、フィジーに事務所を開設して、気候変動緩和の支援に2100万ドルの資金を投入す ることをここで発表します。

 私はこの講演の直後にハノイへ向かい、東アジアサミットに米国代表として出席します。米国にとっては、今回が初めての参加であり、私たちはその機 会を与えられたことに感謝しています。そこで私は、オバマ政権の東アジアサミットへの取り組みにおける2つの主要原則を紹介します。ひとつはASEANが 中心的な役割を果たすという点、そしてもうひとつは、東アジアサミットが、核不拡散、海洋の安全、気候変動など喫緊の戦略的・政治的課題に実質的に関与す る場となることを米国が望んでいるという点です。

 このように、米国の同盟関係、パートナーシップ、多国間機関が米国の関与の主な手段です。

 私たちがこうした関係にかかわる際に認識しているのは、米国はその歴史、能力、そして信頼性ゆえに、アジア太平洋地域で指導的な役割を果たす上で 独自の立場にあるという点です。過去何十年にもわたりそうであったように、米国は頼りにされています。私がこの20カ月間各地を訪問した中で、アジアの指 導者たちから最もよく言われた言葉は、米国が再びアジアで積極的な役割を果たしてくれるようになり非常にうれしく、感謝しているというものでした。彼ら は、米国が幅広く持続的な経済成長のために必要な条件の整備に貢献し、米軍の効果的展開により安全保障を確保し、堅固な民主主義を支援して人権と人間の尊 厳を守ることを期待しています。

 そこで私たちは、経済成長、地域の安全保障、そして永続的な価値観という3つの領域で米国のリーダーシップを発揮していくつもりです。これらの領 域によって、20世紀の米国はリーダーシップの基盤を形成したのであり、21世紀においてもその重要性は変わりません。しかし、こうした領域での活動内容 は変化しなければなりません。世界が変化しており、今後も変化し続けるからです。

 まず経済成長については、あるテーマが常に存在しています。それは、アジアは、米国がこの地域の活発な貿易や金融取引において、積極的に関与する 楽観的で開放的、かつ創造力に富んだパートナーであることを現在も望んでいる、というものです。また私は、米国各地の経済界の指導者と話し合う中で、米国 がアジア各地の活力ある市場で輸出や投資機会を拡大していくことがいかに重要かを聞いてきました。これらは、オバマ政権の再均衡政策に不可欠な要素です。

 一方、米国は、貯蓄額の拡大、金融制度の改革、借入金への依存度の引き下げにより、経済の建て直しを図っています。またオバマ大統領は、雇用創出と、切望されている貿易の均衡を実現するために、輸出を倍増するという目標を設定しました。

 しかし貿易の均衡を実現するには、双方の努力が必要です。均衡とはそういうものであり、一方から押し付けることはできません。従って私たちは、 APECやG20、そして各国との2国間関係を通じて、より開放された市場、輸出品に対する制限の削減、透明性の向上、そして公正な競争条件を実現するた めの総体的な取り組みの推進に努めています。米国の企業や労働者は、知的所有権から現地のイノベーションに至るあらゆる分野で予測可能な規則が整備されて おり、自分たちが公正な競争環境で事業活動をしていると確信する必要があります。

 自由貿易が正しい形で実現すれば、雇用が創出され、価格が下がり、成長が促進され、人々の生活水準が向上します。私は先に、私たちが米韓自由貿易 協定に関する協議を終えて米国議会に提出したいと考えていると述べました。私たちはまた、TPP交渉も進めています。この協定は、米国の新たな自由貿易協 定の相手国になる4カ国を含む環太平洋9カ国をひとつにまとめる革新的かつ野心的な多国間自由貿易協定で、今後さらに参加国が増える可能性もあります。

 2011年は、この分野にとって極めて重要な年となります。米韓自由貿易協定に始まり、続けてTPPの交渉、G20における金融の再均衡に向けて の協力、そして最後にハワイでのAPEC首脳会議と続く中で、私たちにはアジア太平洋地域全体に広範で持続的な、均衡の取れた成長を生み出す歴史的な機会 が与えられます。そして私たちはその機会を生かすつもりです。

 持続的な経済発展の成否は、安定と安全保障への持続的な投資次第であり、米国はそうした投資を今後も続けていきます。アジアにおける米軍の存在は、60年にわたり紛争を抑止し安全を提供してきました。そして今後も経済成長と政治的統合を支援していきます。

 しかし、進化する世界に合わせて米軍の駐留にも進化が必要です。現在、国防総省は包括的な世界規模での態勢見直しに取り組んでおり、その中にこの 地域に引き続き米軍が前方展開する計画が盛り込まれる予定です。この計画には、政治的持続性の向上、作戦面での弾力性の改善、地理的展開の拡大、という米 国の国防態勢の3つの原則が反映されることになります。

 これらの原則を踏まえて、私たちは北東アジアにおける米軍の駐留態勢を強化しています。グアムでの増強は、日米安保同盟50周年に基地設置に関して日本との間で達した合意同様、こうした考え方を反映するものです。また、韓国との間でも新たな防衛の指針を採用しました。

 東南アジアと太平洋地域で、米国は、先の原則に沿って米軍を再編中です。例えば、シンガポールでは駐留する米海軍の規模を拡大しました。フィリピ ンとタイでは、両国の対テロ能力と大災害への対応能力を強化するための関与を深めています。また、ニュージーランドとの軍事協力では新たな基準を設定し、 オーストラリアとはより複雑な海上情勢に対応するために防衛協力関係の近代化を続けます。さらに、世界の貿易・商業にとってのインド洋・太平洋海盆の重要 性を私たちは理解し、太平洋におけるインド海軍との協力を拡大しています。

 ここで、なぜ国務長官が国防態勢について話をしているのか、という疑問が出るかもしれません。しかしこの地域こそ、米国の外交政策の3つのD、す なわちdefense(防衛)、diplomacy(外交)、development(開発)が交わるところなのです。アジアにおける米国の軍事活動は、 米国の包括的な関与の重要な要素です。そうした軍事活動と、外交や開発への前方展開的な取り組みとのバランスを取り、それらを統合することで、私たちは自 らの国益の確保、そして共通の利益の推進に最も有利な立場に立つことができます。

 これは、朝鮮半島で平和と安全の維持に携わっている米軍、海賊に立ち向かい、航行の自由を促進し、多数の人々のために人道的救援に従事している米 海軍、そして東南アジアで友好国やパートナー国の人々と密接に協力し各国がテロの脅威に迅速に対応できるように訓練や装備の提供、能力開発に携わっている 米国の兵士や民間人にも言えることです。

 軍事力や経済力にも増して、米国の国家として最も貴重な資産は、私たちの価値観――中でも民主主義と人権に対する揺るぎない信念――が持つ説得力です。

 こうした価値観を維持し広めようとする私たちの努力は、米国という国にとって不可欠の要素です。またそれは、私たちが世界のためにできる最も優れた、最も重要な貢献のひとつです。ですから言うまでもなく、それは米国のあらゆる外交活動に不可欠な要素でもあります。

 多くの国々と同様、米国も、この地域の一部で見られる人権侵害を憂慮しています。私たちは、全世界の大勢の人々と共に、アウン・サン・スー・チー 氏の解放を求めています。彼女は軟禁を解かれなければなりません。またアジアの象徴的な3人のノーベル賞受賞者、すなわちアウン・サン・スー・チー、ダラ イ・ラマ、劉暁波の各氏は、軟禁状態または獄中にあるか亡命しています。世界でもこのような地域はアジアだけであり、私たちはその事実に心を痛めていま す。

 私たちはこうした問題について意見の異なるパートナー諸国との関与を深め、統治の向上と人権保護、そして政治的自由の推進をもたらす改革を受け入れることを、引き続き強く促していきます。

 また、ビルマで起きている人権侵害の説明責任を追求するために、国連での友好国、同盟国、パートナー諸国との密接な協議を通じて、国際調査委員会 を設置しようとする米国の熱心な取り組みについても強調したいと思います。ビルマは間もなく、大きな欠陥のある選挙を実施しますが、過去数年間に私たちが 学んだことのひとつは、民主主義は選挙のみによって成り立つのではないということです。そして私たちは、ビルマの新旧いずれの指導者にも、過去の政策と決 別しなければならないことを明確に伝えていきます。

 米国は、自国の価値観の他国への押し付けはできないことを理解していますが、一方で、普遍的な価値観も存在すること、そしてそうした価値観はアジ アを含む世界中のあらゆる国の人々が大切にしており、安定し平和で繁栄する国には必ず備わっていることを確信しています。つまり、人権はすべての人々の利 益になります。これが、米国があらゆる地域で毎日発信しているメッセージです。

 私たちは、これらの国々と多くの課題について同時に協力をしていかなければなりません。私たちは、あらゆる関心事項を進展させることを決してやめ ません。経済、安全保障、人権のどれかひとつしか前進させられないこともあるかもしれませんが、それでも包括的な取り組みは必要です。今日私は、以前から の約束と、米国が現在実行中の新たな取り組みの両方についてお話ししました。そして、そうした取り組みを通じて私たちは話を聞き、協力し、主導していま す。

 言うまでもなく、難しい選択をしなければならないのはアジアの人々です。また、国民の生活水準だけでなく、国民の政治的自由と人権を向上させると いう極めて重要な選択をしなければならないのは、アジアの指導者たちです。より良い未来を構築し一般市民の生活を向上させ、経済を発展させるだけでなく国 を変えていこうとするアジアの指導者や国民には、米国が必ず支援の手を差し伸べます。私たちがこのような約束をするのは、アジアのためだけでなく、米国の ためにもなるからです。これは私たちの未来にかかわることです。私たちの子どもや孫の世代に与えられる機会にかかわります。そして私たちは、これまでの何 十年間と同じように、米国は、アジア太平洋地域において、その未来の形成に大きな役割を果たすことができる独自の立場に立っている、と考えています。

 私は、ハワイがアジア太平洋地域への架け橋としていかに大きな役割を果たしているか認識しています。またハワイの多様性と活力を見れば、米国だけ でなく太平洋地域内の各国で何が可能かが明らかであることも理解しています。従って私たちは、米国の利益になると信じていること、そしてアジアの人々の利 益にもなると強く確信していることを、今後も支持していきます。また私は、APEC首脳会議のために再びハワイを訪れる日を楽しみにしています。その時 は、これまでの成果や進ちょく状況を確認します。そして、ハワイの指導者や市民の皆さんが、今後も将来への道を示してくださることを期待します。

 ありがとうございました。