「21世紀における米中関係の展望」 - 第1回リチャード・C・ホルブルック記念講演会におけるヒラリー・クリントン国務長官の講演

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2011年1月14日、ワシントンDC

 本日この第1回記念講演会でお話しするに当たり、悲喜こもごもの思いがあります。(中略)リチャード・ホルブルックはベトナム駐在の若き外交官と して、デイトン合意(ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を終結させた1995年の合意)で不断の働きをした交渉担当者として、そしてアフガニスタン・パキスタ ン担当特別代表として、半世紀近くにもわたり米国の外交政策の中で最も困難かつ重要な課題に取り組んできました。そして国務省に、米国に、さらには世界 に、消えることのない足跡を残しました。彼の努力のおかげで米国はより安全になり、世界中の多くの人々が神から与えられた可能性をフルに発揮して生きる機 会を得ました。私たちはさまざまな方法でリチャードの功績をたたえていきます。本日午後にはここにいる多くの方がケネディ・センターに集まり、思い出を語 り合って彼を追悼します。そしてリチャードの功績に敬意を表すひとつの方法として私たちが選んだのが、重大な政策課題に対する彼の情熱と、こうした課題は 真剣な議論に値するという彼の信念を反映したこの新しい講演会シリーズです。

 リチャードは過去50年間の極めて重要な外交政策課題のほとんどに関わってきました。関わるように頼まれなくても関わってきました。今この部屋を 見回すと、米国だけでなく世界各国の友人たちが大勢いらっしゃいますが、皆さんの多くは私の言っている意味がお分かりのことと思います。彼は精力的に働 き、粘り強く、ノーと言われても決してあきらめませんでした。私も何度もノーと言いましたが、彼は受け入れませんでした。リチャードはここにいる多くの人 々と共にさまざまな重要な問題に取り組みました。本日私は彼が熟知していた問題、そして胡錦濤国家主席の訪米の準備をするに当たり私たちの誰もが考えてい る問題、すなわち米中関係の将来に焦点を当ててお話ししたいと思います。

 カート(キャンベル国務次官補)の話にもあったように、リチャードは国務省で史上最年少の東アジア・太平洋担当国務次官補として、1979年の中 国との国交樹立交渉で重要な役割を果たし、後に長年にわたりアジア協会の会長を務めました。彼はキャリアを通じて、強力な米中関係がアジア太平洋地域の安 定と安全の強化につながると理解すると同時に、米中の協力関係には多くの障害があることもはっきりと認識していました。しかし何よりも、米中関係の成功の 鍵は、その関係がまず両国の国民に、そして世界の他の国々にも良い成果をもたらせるかどうかであると理解していました。

 このような見識は現在にも当てはまります。今週ゲーツ国防長官が北京で、またガイトナー財務長官とロック商務長官がここワシントンでその点を強調 しました。米国と中国が初めて関与の扉を開いてから30年後、米中関係には大きな期待が寄せられ、誰もが認める成果も上げていますが、予想どおり大きな課 題にも直面してます。そしてこれまでにも増して私たちは、それぞれの国内だけでなく世界各地でより大きな平和、繁栄、進歩を実現するためにどのような結果 を残したかによって評価されるでしょう。

 米国と中国は今、重大な岐路――大小を問わず私たちの選択が米中関係の今後の進路を決めることになる重大な時期に差しかかっています。この2年間 オバマ政権は、より深く、広範囲に及ぶ持続的な協力の機会をつくり出してきました。初期の成功例もありますし進展しない分野もあります。今後、より堅実な 形で前向きな言葉を実際の協力に転化するのは米中双方の義務です。お互いの相違点に対処するのも双方の義務です。2つの国の間には必ず相違点が出てくるで しょう。私たちは賢明に、そして責任を持って相違点に対処する必要があります。またそれぞれの国際社会での責任と義務を果たすのも米中両国の義務です。米 中関係が今後その可能性を発揮できるかどうかを決めるのはこうした事柄です。

 1979年に米中が国交樹立の最初の一歩をためらいがちに踏み出して以来、両国の関係は大きな前進を遂げました。長年にわたり全く接触がないも同 然の状態の後、両国間には30年間に及ぶ密接な関与が続いています。当初の米中関係は、ほぼ旧ソビエト連邦という共通の脅威のみに重点を置いていました が、1990年代に入ってからより広範な地域的問題に関与するようになりました。そうした密接な関与の一例として、夫と娘と共に中国を訪問したことをとて も懐かしく思い出します。今日、両国の関係は世界規模になっています。2国間の対話においても多国間の会合においても、ほぼ全ての大きな国際問題について 話し合います。両国が共通の懸念を持つ問題であったり、人権問題のように根本的な意見の相違のある問題の場合もあります。来週オバマ大統領が胡主席をホワ イトハウスに迎える時、両国の関与の幅広さが明らかになるでしょう。

 米中関係のこの30年は、中国にとって目覚しい成長の30年でもありました。リチャード・ホルブルックとその同僚たちが初めて中国を訪れた時、中 国の国内総生産(GDP)は1000億ドルを超えるか超えないかという水準でしたが、今日ではほぼ5兆ドルに達しています。米中の2国間貿易総額は以前は 年間何億ドル単位でしたが、今日では年間4000億ドルを超えています。

 中国の変革を可能にした主な要因は中国国民の勤勉な努力と指導者のビジョンですが、同時に、開かれた絶えず変化する世界経済、そして長年にわたり 地域の安定を確保してきた米国の力もこれに寄与しました。この変革は何億もの人々を極貧から解放しました。そして今では世界の繁栄の推進に貢献していま す。米国はこの成長を歓迎してきましたし、その恩恵も受けてきました。今日、米中両国の経済は相互に絡み合い、両国の将来も密接に結び付いています。

 しかし過去30年間の前進にもかかわらず、中国は今も大きな課題に直面しています。中国の外交担当の指導者たちは、中国のこれからの道のりがいか に長いかということを情熱を込めて私に語ります。なぜならこれまでの成長にもかかわらず、中国の人口は米国の4倍近いのに対し、GDPは米国の3分の1に すぎないからです。また米国の欧州連合との貿易の規模は今も対中貿易を上回っています。ガイトナー長官が今週述べたように、外需と技術に依存する国家管理 経済から、内需とイノベーションが推進する市場志向型経済へと移行するために、中国にはやるべきことがまだたくさん残っています。また自らの文化的・宗教 的信条がより尊重されることを求める中国国民が増えています。彼らはまた労働条件の改善と不正行為に対する法的措置の機会の増大も求めています。

 米国やその他の国々が今日の中国を理解するには、中国が持つこうした強みと課題の理解が不可欠です。これにより世界における中国の役割の変化と米中関係の将来にとって重要な背景情報が得られます。

 歴史を見ると分かりますが、新たな勢力の台頭は往々にして対立と不確実性の時代へと導きます。事実、今も太平洋の両側で、中国の台頭と米中関係の 将来について不安が生じています。この地域において、また米国内においても、中国の成長を冷戦時代のような対立あるいは米国の衰退につながる脅威と考える 人たちがいます。一方中国には、米国が何が何でも中国の台頭を封じ込め、中国の成長を抑制しようとしていると案じる人たちがおり、そうした見方が強引な中 国のナショナリズムを新たにかき立てています。私たちはこうした考えを受け入れません。

 大国同士が相互に影響しあう状況を説明する19世紀のゼロ・サム理論を、21世紀に適用するのは無意味です。私たちは今、未知の領域を歩んでいま す。新たな影響力の中心地が生まれ、さらに非国家主体など従来とは異なる主体とグローバル化が生み出した、これまでにないような課題や可能性を特徴とする 国際情勢の力学の変化を理解する新たな方法を私たちは必要としています。これは特に米中関係に当てはまると私たちは考えています。両国の関与――あるいは 絡み合う関係と言ってもいいと思います――はこの新しく、より複雑な国際情勢の背景を通じてのみ理解できます。

 国務長官に就任して間もない頃、国務長官として初めて中国を訪れた時に、同じ船に乗ったら皆が同じ方向にこがなければならない、という中国の古い ことわざがあるという話をしました。米国と中国は同じ船に乗っており、同じ方向へこいでいくか、さもなければ残念ではありますが混乱と渦を生じさせ、両国 だけでなくその国境をはるかに越えたところにいる多くの人たちにも影響を及ぼすことになります。

 これは友人かライバルかという白黒のはっきりした関係ではありません。両国は大きく異なる歴史、政治制度、考え方を持つ複雑な国家です。しかし米 中両国の国民には、お互いに似ているところもたくさんあります。活力、力強い起業家精神、そして子どもや孫の世代のためにより良い未来を築こうとする決意 などです。またいずれの国も現在の秩序に深く力を注いでおり、対立よりも協力からはるかに多くを得ることができます。

 しかしそれは両国が競合しないという意味ではありません。競争は人間の活動の本質であり、私たちの人間としての特質でもありますが、より良い結果 を生む可能性が高くなる競争の仕方があります。平和な繁栄するアジア太平洋地域は、中国にとっても米国にとっても利益となります。繁栄する米国は中国のた めになり、繁栄する中国は米国のためになります。アジア太平洋地域の米国の友好国や同盟国もそう考えているでしょう。こうした国々は、対中関係と対米関係 のどちらかを選ぶことを強いられる可能性のある、旧態依然としたゼロ・サム思考から抜け出ることも望んでいます。

 これら全てから、この極めて重要な関係を慎重に、堅実に、かつ絶え間なく管理すること、つまり米国が中国に対し現実に根差し、結果を重視した、米 国の原則と利益に忠実なやり方で対処することが求められています。私たちはこのようなやり方で、中国と前向きで協力的・包括的な関係を追求していくつもり です。これからの1週間、この前向き、協力的、包括的な関係という言葉を何度も聞くことになるでしょう。これこそが私たちの将来への希望を端的に表わす言 葉であり、米中両国の首脳がこの2国間関係を表わす際に使ってきた言葉でもあるからです。

 しかし願望だけで関係を築くことはできません。今が重大な岐路であるのはそのためです。初めに申し上げたように、これからの何カ月、何年の間に双 方がする選択、実行する政策が、米中関係が期待通りの成果を上げられるかどうかを決める一因となります。そして首脳会談や公式訪問での約束を、現実の問題 での現実の行動に移すのは米国と中国の義務です。米中の建設的な関係を維持するには、お互いの相違点についても率直にならなければなりません。両国が協力 して当たらなければならない緊急の仕事の遂行に際し、そうした相違点に対しても毅然(きぜん)とした態度で取り組んでいきます。そして、失望につながるよ うな非現実的な期待を抱くことは避けなければなりません。そのためには協力する分野を広げ、意見の対立する分野を縮小しながら、それぞれの価値観を堅持し ていく、長期にわたる着実な努力が必要です。

 過去2年間の実績を足掛かりに米中関係の将来を形成していく中で、オバマ政権は相互に補強し合う3つの要素から成る戦略を進めています。その要素 とはアジア太平洋地域における活発な地域的関与の実施、米中間に信頼を築く努力、そして可能な限り経済・政治・安全保障上の協力を拡張する取り組みです。

 まず地域的関与についてお話ししたいと思います。米国は地理的に恵まれた位置にあるおかげで大西洋国家であると同時に太平洋国家でもあり、この2 つの大洋を通じた対外関係に力を注いでいます。私たちは対中関係を、より広範な地域的枠組みにしっかりと組み込もうとしています。なぜなら米中関係は安全 保障同盟、経済ネットワーク、そして社会的ネットワークが入り組んだアジア太平洋地域の関係から切り離せないからです。

 その際に私たちはこの2国間関係に対する適切な視点を維持していきます。今日、米中関係は世界のどの2国間関係にも劣らず重要ですが、G2という ものは存在しません。米国も中国もこの概念を否定しています。米中以外にも私たちと協力して地域や世界の情勢を形成する主要な主体、同盟国、機関、そして 新興国があります。

 この2年間、米国はアジア太平洋地域の積極的な参加国かつリーダーとなるという決意を再確認してきました。私が昨年秋にハワイで述べたように、米 国は「前方展開」の外交を実行しており、アジア太平洋地域のあらゆる場所、あらゆる首都で、人とプログラムと高官レベルの関与の面において米国の存在感を 拡大しています。米国は日本、韓国、タイ、オーストラリア、フィリピンといった同盟国とのきずなを再確認して強化し、インド、インドネシア、ベトナム、マ レーシア、シンガポール、ニュージーランドとのパートナーシップを深めてきました。

 私たちは、米国の防衛態勢がこの地域の複雑で進化しつつある戦略的環境を確実に反映するよういくつかの措置を取っています。米国企業のために新た な機会を作り出し、米国内での雇用創出を支援するために、韓国との自由貿易協定の批准に向けて努力し、環太平洋パートナーシップ協定を通じた域内の合意を 目指しています。今年ハワイで開催されるアジア太平洋経済協力会議で米国が議長国を務める際には、これらの目標を中心課題として取り上げます。

 私たちはアジア太平洋地域の地域機構の強化にも努めており、その一環として東南アジア諸国連合(ASEAN)の東南アジア友好協力条約に署名し、 東アジアサミットに初めて参加しました。また太平洋諸島フォーラムへの関与も深めてきました。アジアの地域機構により活力を持たせ、まとまりのあるものに すれば、地域の全ての国、特に米国と中国にとって利益となります。またあらゆる国の意見、あらゆる視点からの意見に耳を傾けるようになります。さらに知的 財産の保護から航行の自由の確保まで、公正な国際秩序の基礎となる規則と責任から成る制度が強化されます。こうした多国間の環境では、責任ある行動を取れ ば正当性が認められ、敬意が払われます。そして平和と安定と繁栄を妨げる行動を取る者に対しては、協力して責任を負わせることができます。

 米国の地域的な関与により、米中関係は適切な枠組みの中に置かれています。私たちの戦略の第2の要素は、中国との2国間の信頼関係の構築に重点的 に取り組むことです。両国がより効果的に協力し、意見の相違を乗り越えるために役立つ協力と尊重の習慣を私たちは身に付ける必要があります。こうした努力 のうち最も特筆すべき事例として米中戦略・経済対話があります。米中両国の多くの政府機関から多数の専門家が一堂に会し、かつてないほど幅広いテーマにつ いて話し合うだけでなく、両国政府間にそうした協力の価値観あるいは習慣を植え付けようとしています。ガイトナー長官と私は今春、第3回米中戦略・経済対 話で中国側の担当者の方々を迎えるのを楽しみにしています。

 幸先はいいですが、まだ双方に不信感が残っていることは私自身がいちばんよく知っています。米国と国際社会は軍を近代化し拡張しようとする中国の 取り組みに注目し、その意図を明確にしようと努めてきました。ゲーツ長官が今週北京で強調したように、透明性を高める持続的で実質的な軍同士の関与は米中 双方の利益となります。高官レベルの訪問、合同演習、軍事専門組織間の交流など、信頼、相互の意志の理解、親しみを深める措置を増やす必要があります。そ のためには、安定した透明な軍同士の関係の構築に対する抵抗感を時に中国が乗り越える必要があります。私たちはこれが非常に双方の利益にかなうと考えてお り、今後も引き続き中国との間でこの問題について提起し、取り組んでいくつもりです。

 しかし信頼の構築は両国の政府だけの仕事ではありません。米国と中国の国民も、引き続き新たなより深いきずなを築いていかなければなりません。教 室や研究室で、またスポーツ大会の会場や証券取引所で、米中の国民は長期的な信頼と理解を構築する日々の関係をつくり上げています。そのために私たちは、 人と人との交流についての新たな2国間対話や、中国で学ぶ米国人留学生を増やす「100000ストロング」プログラムのような新たな構想を開始しました。 こうした留学生たちは、第一線に立って米中関係の未来を決める人たちです。私はそれを上海万博でじかに目にしました。700万人もの中国人が米国館を訪 れ、米国人留学生から中国語で歓迎を受けました。そのように大勢の米国人留学生が中国語を学び、万博のような大きな国際活動に張り切って参加しているのを 見てとても驚く中国人の訪問客もいました。

 私たちの戦略の第3の要素は、米中の協力関係を拡大し、国際社会の他の国々と共に共通の課題に取り組むことです。世界的な景気後退、核拡散、テ ロ、公海上での海賊行為といった脅威は、中国を含む全ての国に影響を及ぼします。中国もこうした脅威に対処する活動に参加しようとしています。ですから私 たちは、協力分野を拡大し、こうした問題の解決に向けより積極的に米国と協力するよう引き続き中国に働きかけていきます。私たちには幅広い政策課題があ り、最終的にはそうした多くの分野で米中関係が真の利益を生んでいるかどうか判断できるでしょう。

 経済面では今週ガイトナー長官が述べたように、米国と中国は協力して、強力で持続的な、均衡の取れた世界経済の成長を確保する方向へそれぞれの経 済を導く必要があります。世界的な金融危機の後、米中はG20を通じて効果的に協力し、景気回復の促進に貢献しました。中国と米国のどちらかがこのように 建設的に協力しなかったならば、今日の経済がどうなっていたか想像できますか。想像するのも恐ろしいことです。

 私たちはこうした協力関係をさらに強化しなければなりません。ガイトナー長官は講演で、中国企業は米国からのハイテク製品の輸入や米国への投資を 増やし、市場経済国と同じ参入条件を与えられることを望んでいる、と指摘しました。一方米国企業は、中国に投資した500億ドルの米国資本により国際競争 力を支える新たな市場・投資機会の強力な基盤が確実に作られることを望んでいます。

 米国と中国はこれらの目標達成のために協力できますが、中国には改革に向け取るべき重要な措置がまだ残っています。特に米国は、中国が米国その他 の外国企業、あるいはその革新的な技術に対する不当な差別をやめ、自国の企業に対する優遇策や外国の知的所有権に損害を与える措置を全て廃止することを期 待しています。私たちは米国の工業製品、農畜産物、およびサービスの市場機会を広げるとともに、通貨の切り上げを加速させる必要があります。こうした改革 は米中両国のためになるだけでなく、世界経済の均衡、予測可能性、そしてより広範な繁栄に貢献すると考えます。

 米国と中国は直面する地球規模の戦略上の問題にも取り組む必要があります。例えば気候変動です。米国と中国は世界の2大温室効果ガス排出国です。 メキシコで開催された国連気候変動会議での米中の協力がカンクン合意の採択に極めて重要な役割を果たしました。私たちはその進歩をさらに前進させるため に、透明性、資金調達、クリーンエネルギー技術に関する合意を実行しなければなりません。これには一刻の猶予も許されません。米国と中国は、欧州連合、日 本、インドなどのパートナー諸国と協力して、世界がクリーンエネルギーの未来へ向けて速やかに前進するためのペースと方向性を定めるつもりです。

 国際開発に関しては、米中がそれぞれの投資を調整しプロジェクトを連携させて、多大な影響を与えることができます。米国は、透明性と持続可能性を 確保する国際的に認められた基準や方針の受け入れを中国に要請します。私が中国の指導者たちとの議論でよく耳にするのは、中国は類まれな発展を遂げている ため、開発途上国全体の意見を代弁しているという主張です。しかしアフリカその他の地域における中国の開発手法について深刻な懸念が生まれています。米国 は(中国の)開発への取り組みは歓迎しますが、共通の基準や手法の採用を目指してより緊密に協力したいと考えています。

 安全保障問題でもより緊密かつ建設的に協力する余地があります。

 例えばイランに関して事態の進展を見ましたが、今度はそれを最後までやり遂げなければなりません。中国は国連安全保障理事会の常任理事国として、 厳しい制裁決議の採択に貢献しました。そして今、私たちは協力してその制裁措置を実施しています。私たちは、国際社会がイランの指導者に不法な核開発活動 の停止を求める明確なメッセージを送るのを中国が支援することを期待しています。

 次に、過去2年間、特にここ数カ月間私たちを悩ませている問題、すなわち北朝鮮についてお話ししたいを思います。米国も中国も朝鮮半島の平和と安定の維持と北朝鮮の完全な非核化の実現が急務であると理解しています。

 米国は、韓国と日本が好戦的な隣国に対処するに当たり、今後も同盟国であるこの2カ国を支持していきます。ゲーツ長官が今週述べたように、北朝鮮 の核および弾道ミサイル開発は米国自体にとっても直接的な脅威になりつつあります。従ってこれは北東アジアの平和と安定や、同盟国への支持という問題だけ でなく、残念ながら米国本土の国家安全保障上の課題にもなっています。

 米国の現政権発足当初から米国と中国は、パートナーである韓国、日本、ロシアと共に北朝鮮の挑発的なミサイル発射および核実験を非難してきまし た。そして昨年、中国の支持を得て安全保障理事会で対北朝鮮の制裁強化に関する決議を採択しました。これらの活動から、中国が非常に建設的な役割を果たせ ば、私たちは共に北朝鮮に明確なメッセージを送る成果を上げられることが明らかになりました。

 私たちは中国政府に対し、北朝鮮と独自のつながりを持ち、6者協議の議長国でもある中国には、北朝鮮に行動を改めさせる上で特別な役割があると強 調してきました。韓国哨戒艦沈没事件に対して明確な対応をしなければ、北朝鮮が勢いづき危険な道を歩み続ける状態になりかねないことを私たちは恐れてお り、この点について中国側と掘り下げた話し合いを持ってきました。その後間もなく延坪島が攻撃され、複数の民間人が死亡しました。この砲撃事件は、この種 の無謀な行動がもたらす深刻な脅威をさらに明白に浮き彫りにしました。

 オバマ大統領と胡主席の会談をはじめとする、この数週間の集中的な関与の結果、私たちは北朝鮮の挑発的な行動の抑制に向けた協力を始めました。米 国の同盟国である韓国の正当な懸念に配慮するとともに、核開発計画を不可逆的な形で放棄するという北朝鮮の2005年の約束の実行に向けた意味のある交渉 の土台となる南北対話を支持する機運をつくり出そうとしています。米中の協力は不可欠です。ウラン濃縮計画の公表など北朝鮮による最近の挑発的な行動は受 け入れられないものであり、安全保障理事会の決議に違反するだけでなく、2005年の共同声明に盛り込まれた北朝鮮の義務にも反することを、同国に対して 明確に伝える必要があります。北朝鮮がその約束を守る意志を具体的な形で示すまで、中国は国際社会の他の国々と共に、安全保障理事会が昨年採択した制裁措 置を積極的に実施しなければなりません。

 台湾については、海峡両岸経済協力枠組み協定の歴史的調印が示すように、私たちは中国本土と台湾間の対話と経済協力の拡大に勇気付けられていま す。この問題への米国の取り組み方は今後も、3つの共同声明と台湾関係法に基づく「ひとつの中国」政策が指針となります。今後は中国と台湾の間の対話と交 流の増大や、軍事的緊張と軍隊配備の縮小を奨励し実現を目指します。

 最後に、そして極めて重大なこととして、人権の問題があります。これは現在も米国の外交の中核を成しています。

 中国がブログを検閲し活動家を投獄した場合、宗教の信者、特に未登録の宗教団体の信者が礼拝の完全な自由を否定された場合、弁護士や法的権利の擁 護者が政府の立場に反対する人々を弁護したというだけで投獄された場合、そして陳光誠氏のような人たちが解放された後にも迫害された場合には、米国は引き 続き中国に対してはっきりと意見を述べ、圧力をかけていきます。

 中国では、政府関係者だけでなく一般市民の中にも、米国による人権擁護を主権侵害であるとして不快に思ったり拒否する人たちがいることを私は認識 しています。しかし中国は国連の設立メンバーとして、国民全員の権利の尊重を約束しています。これは国際社会が認める普遍的権利です。

 ですから中国政府関係者との話し合いで、米国は劉曉波氏をはじめとする中国の大勢の政治犯の釈放を何度も要求します。こうした政治犯の中には自宅 軟禁されている人や、高智晟氏のように強制的に失踪させられた人たちも含まれます。私たちは中国がチベットや新疆の少数民族の権利、自由に意見を表明した り礼拝する権利、そして市民社会や宗教団体が法の支配の枠組み内でそれぞれの立場を主張する権利を保護するよう強く促します。また08憲章の署名者のよう に憲法の枠内で平和的手段で改革を主張する人たちが嫌がらせを受けたり起訴されるべきではないと強く信じています。

 中国が普遍的な人権の尊重と保護というこれらの義務を果たすならば、その恩恵を受けるのは10億人以上に上る国民だけではありません。中国の長期 的平和と安定と繁栄にも貢献します。例えば独立した公正な司法制度と法の支配の尊重は、市民の財産を守り、発明家に自らのアイデアから利益を得られること を保証します。政治活動家から学者、ジャーナリスト、そしてブロガーに至るまで、誰もが表現の自由を享受できれば、イノベーションと創造的な経済に不可欠 なアイデアの開かれた交換が促進されます。活気に満ちた市民社会は、食品の安全から公害、教育、医療まで中国の最も急を要する課題への対応に貢献できま す。このような兆しは四川大地震発生後にボランティアとして参加した個人や非政府組織(NGO)の活動にすでに現われています。自由の抑圧が長引けば長引 くほど、中国はこうした機会を逃すことになり、オスロでのノーベル賞受賞者の空席が、偉大な国家の実現されていない可能性と実行されていない約束の象徴で あり続けることになります。

 政治改革によって国家の安定が揺るがされ、不可欠な経済成長の継続が妨げられると中国の指導者が考えていることは分かっています。しかしこれまで に、韓国からインドネシアなど世界の多くの国々が、国民の不満を表明する権利を否定すればさらなる混乱が生じやすくなる一方、改革を受け入れれば社会の強 化につながり、開発の新たな可能性を引き出すことができると気づいています。私たちの相違点を覆い隠せないことは明らかですし、隠そうとすべきでもありま せん。しかし米国と中国がそれぞれ偉大な国家としての責任を果たせば、米中関係の将来は強固になります。

 世界は中国に注目しており、期待感が高まっています。なぜなら中国が他に類を見ない形で、21世紀を主導する国のひとつになる道があると考えてい るからです。21世紀の大国となることに伴う義務を受け入れることにより、中国の人々により多くの、そして今まで想像もしなかった可能性をもたらす未来を 実現できます。しかしそれは共通の問題を解決し、規則に基づく国際秩序に従い、そうした秩序の形成に貢献する責任を受け入れることでもあります。

 米国が初めて世界の真の大国として台頭したのは、今から1世紀近く前でした。率直に言って、米国が国際社会での新しい義務の引き受けに抵抗を示し た時期もありました。自国のことだけを考え、他国が将来について心配することに関わろうとしない、強固な姿勢が米国には昔から内在しています。しかし米国 民がそのような責任を回避しようと内向き志向になるたびに、必ず何かが起きて米国は現実に呼び戻されてきました。世界における米国のリーダーシップと最大 の国際的課題に取り組んでいく熱意によって私たちの力が弱まり、決意が鈍ることはありませんでした。逆にそれが世界全体の平和と繁栄と進歩の推進力たる今 日の米国を築いたと言えます。

 今重大な岐路に差しかかっていることは確かです。しかし私が米国民の皆さんに言いたいのは、今は将来を恐れている時ではないということです。米国 を特徴付ける性質、すなわちその開放性と革新性、強い決意、そして普遍的な価値観に対する情熱を、今ほど世界が必要とした時はありません。米国が変化しつ つある時代を管理し、この岐路がより大きな安定、平和、前進、繁栄へとつながるようリーダーシップを発揮することを世界は期待しています。それこそ米国が 常に実行してきたことであり、今後も常に実行していくことです。米国はそういう国なのです。そして米国には過去の問題や対立を乗り越えて前進する伝統があ ります。時に想像しがたいことですが、私の母が生きている間に米国が二度の世界大戦に関与し、最も優秀な若者たちの多くを遠い戦地へ送るというつらい体験 をしました。しかし今ではかつての敵対国と親密な関係を築いています。

 今日、私たちは中国との間に建設的な関係を築き、非常に望ましい将来を実現する機会を手にしています。米国は台頭する大国として中国を歓迎しま す。自国民を貧困から解放するだけでなく、繁栄と機会を輸出する中国の努力を歓迎します。そして中国が私たちと共に今日の、そして明日の課題に対処するも のと期待しています。将来の世代が私たちの時代を振り返り、次のように言う日が来ることを期待しています。「あの時代の人たちは建設的、協力的、包括的な 関係について話をしただけではない。正しい選択をし、協力し、成果を上げた。そしてより良い世界を残してくれた」。これこそ私たちのビジョンであり、この 最も重要な関係に対する私たちの決意でもあります。

 どうもありがとうございました。