ゲーツ国防長官の慶応大学における講演

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2011年1月14日、東京

 丁重なご紹介ありがとうございます。またこのイベントを主催してくださった清家教授、国分教授をはじめとする慶応大学の皆さんのご尽力にお礼を申し上げます。

 私はかつて大学の学長を務めていたため、大学を訪れ学生の話を聞くのを常に楽しみにしています。米国国防長官としての現在の責務と、テキサス A&M大学学長としての以前の仕事の大きな共通点として、いずれの場合も大学へ行く年齢の大勢の若者たちの福利に責任を負ってきました。私はその責任を非 常に真剣に受け止めてきましたし、今もそれは変わりません。特に現在はわが国の若い兵士たちや国家が多大な危険に直面しているのですから、なおさら真剣に 受け止めています。

 私が国防長官として日本を訪れるのはこれが3回目であり、アジア訪問は過去8カ月で4回目となります。この12カ月の間に、オバマ大統領、クリン トン国務長官、ガイトナー財務長官、ロック商務長官、そしてチュー・エネルギー長官など米国政府高官が次々と日本を訪れていますが、私もその最後に名を連 ねることを光栄に思います。

 この1年間に米国と日本は、日米安全保障条約の署名50周年と、日本による米国への初の外交使節団の派遣150周年を祝いました。特筆すべきこと として、その第1回使節団に参加した若いメンバーの1人が、この大学を創立した福澤諭吉でした。ご存知のように、福澤はその時の体験とその後の米国訪問の 経験を生かし、米国の民主主義制度や価値観に関する日本の第一人者となり、この偉大な教育機関を築きました。

 今から1世紀以上も前に書かれた著書で福澤は、将来の日米関係に非常に大きな可能性を見出していました。残念ながらこの可能性の実現は戦争で中断 しましたが、今から50年前、日米両国がパートナーシップを築いた時に現実のものとなりました。そしてこのパートナーシップが、過去半世紀の大半の期間に わたり、アジアの安定、繁栄、そして政治的自由の拡大を促進してきました。

 日米同盟は経済や軍事的必要性のみに基づく関係ではなく、政府の自国民への接し方や国際関係における外国との交渉の仕方についての共通の価値観、 そして民主主義の理想と、軍国主義と強制ではなく国際規範や国際機関を通じた平和と繁栄の追求に対する信念にも基づいています。

 特に日米同盟に関し在日米軍駐留経費負担、普天間基地の移転、グアム移転資金などの難しい問題についての報道が多い中、こうした基本的な真実、まさに日米両国を結び付ける広く深いさまざまな価値観や利害を忘れないことが重要と私は考えます。

 そこで本日は、皆さんとの質疑応答に入る前に、日米防衛パートナーシップの戦略的枠組みについて少しお話ししたいと思います。

 まず、私たちが共に直面する数々の複雑な地域の安全保障上の課題と、共通の利益を持つ国々がこうした課題に2国間および多国間で取り組む利点につ いてお話しします。次に、日米防衛パートナーシップはこうした課題に対応するために変わらなければなりませんが、日米同盟の軍事能力の近代化と基地の配置 の改革を含め、いかに変わるべきかを説明したいと思います。

 日米同盟はその歴史を通じて、根幹となる本来の目的を達成してきました。その目的とは軍事侵略を抑止し、日本とこの地域が繁栄できるよう安全保障 の傘を提供することです。今日私たちがアジアにおける幅広い安全保障の課題に取り組むに当たり、日米同盟はさらに深化し広がりを見せています。そうした安 全保障の課題のうち、北朝鮮のような問題は何十年も前から、また海賊行為のような問題は過去何世紀にもわたり存在してきました。自然災害は有史以来の問題 です。一方国際テロネットワーク、サイバー攻撃、そして核拡散などは最近になって発生した問題です。これらの課題に共通するのは、複数の国家が協力して取 り組む必要がある点、そしてほぼ例外なく、米国や日本のような地域の主要関係国のリーダーシップと関与を必要とする点です。

 これに対し私たちは、人道援助や災害救援の提供、平和維持活動への参加、国際公共財の保護、地域機関の強化を通じた協力の促進と信頼の構築――における同盟の能力を向上させることで、私たちの共有する価値観を表現します。

 本日ここにお集まりの皆さんは誰もが、自然災害のもたらし得るすさまじい惨状をご存じです。米国と日本はこの地域のパートナー諸国と共に、そうし た危機への対応が安全保障において不可欠であると認識しています。近年の例を挙げると、米軍と日本の自衛隊が、インドネシアで地震に見舞われた人里離れた 被災地に救援物資を輸送しました。また日本に駐留する米軍の航空機がビルマの台風の被災者への支援を手助けしました。私たちは協力して、2004年のイン ド洋の津波、ジャワ、スマトラ、ハイチの地震、そしてごく最近ではパキスタンの洪水に対応しました。これらの活動は、米軍の日本駐留には実質的で、人命救 助につながる価値があることを実証してきました。またこうした活動により、日米の軍隊が合同演習や合同作戦を実施して共に活動する新たな機会も生まれま す。

 さらに米軍と自衛隊は世界を舞台に、破たん国家あるいは破たんしつつある国家の脅威に対処する活動をしてきました。日本の平和維持部隊はゴラン高 原や東ティモールなど世界各地で活動しており、イラク復興も支援してきました。アフガニスタンでは、日本は世界第2位の資金援助国であり、アフガニスタン 国家警察の給与に充てる資金を提供し、かつての反政府勢力を社会に復帰させるアフガニスタン政府の活動を援助して、国際協力に大きく貢献しています。

 さらに日本と米国は、商業輸送のための公海の安全の確保においても緊密な協力を続けています。米海軍と海上自衛隊は西太平洋に加え、毎年世界の石 油・貿易輸送の3分の1以上が通過するマレーシアとインドネシアの間のマラッカ海峡などの重要な航路で、一体となって活動しています。アフリカの角周辺で は、日本は水上艦と哨戒機を配備しており、極めて重要な海上交通路で海賊行為に立ち向かうという共通の目的のために世界各国から集結した水上艦・哨戒機と 共に作戦に参加しています。

 こうした活動への参加により、日本の自衛隊は安全の輸出者としての比較的新しく、時に慎重な対応が必要とされる役割を果たす立場に立っています。 これは20年ほど前の状況に比べても大きな変化です。当時、政権幹部の1人として国家安全保障を担当していた私は、第1次湾岸戦争中に日本が、反サダム連 合支援のために資金は出すが軍隊は出さない、いわゆる「札束外交」で批判されたことをよく覚えています。

 国際社会の主導の下、日本は日本国憲法の範囲内で自衛隊を海外へ派遣する意志をより強く示し、世界の他の偉大な民主主義諸国に並ぶ、日本にふさわしい立場に立とうとしています。これは、改革後の国連安全保障理事会で日本が常任理事国となる理由の一部です。

 こうした課題は2国間の行動だけでは対処できないため、強固な日米パートナーシップを基盤に、多国間の機関、すなわち包括的で透明かつ成果を重視する地域的枠組みの強化に向けさらに努力しなければなりません。

 わずか数カ月ほど前に私は、ハノイで開催された歴史的な第1回アセアン・プラス8国防相会議に出席しました。そして軍事医療作業部会の共同議長を 務めるという日本の決定に勇気づけられています。米国は今年、太平洋の国として、アジア太平洋経済協力会議の議長国の役割を、昨年大きな成果を上げた日本 から引き継ぎます。

 地域や国際的な話し合いの場を通じた活動により、日米同盟はアジアにおける最も困難な安全保障上の課題に対処する最適の立場に立っています。そうした課題の中でも、ここ数週間で再び実感しているように、北朝鮮ほど厄介で持続している問題はありません。

 韓国政府、米国とその同盟諸国、そして国際社会の願いと最善の努力にもかかわらず、北朝鮮政府の本質と優先事項は残念ながら変わっていません。北 朝鮮の通常兵器による地上侵攻能力は10年前に比べても大幅に低下していますが、その他の面ではより破壊的で、より大きな不安定要因となっています。

 今日私たちが注目しているのは北朝鮮の核兵器開発計画と、核兵器に関するノウハウおよび弾道ミサイル関連装置の拡散です。こうした事態は朝鮮半島だけでなく、環太平洋地域や国際的な安定も脅かします。

 北朝鮮による一連の挑発行為――ごく最近では「天安」沈没事件や、犠牲者を出した韓国・延坪島への砲撃――に、日本は韓国および米国と協力して対 処しています。私たち3カ国は日米韓防衛協議を通じて引き続き相互のつながりを深めています。このような長年の同盟諸国との多国間の関与が、今後さらに強 化・拡大されることを米国は望んでいます。

 北朝鮮の行動の結果、生産的で誠意ある交渉が可能と判断できる時が来た場合には、米国は日本、韓国、ロシア、中国と協力し、6者協議を通じた北朝鮮との関与の対話を再開します。

 そのプロセスの第一歩は南北の関与であるべきです。しかし北朝鮮がその意図を明らかにするには、国際的な義務を果たし、国連安全保障理事会の決議に従う具体的な措置も取らなければなりません。

 朝鮮半島の危機の緩和に向け前進するには、中国の積極的な支持が不可欠です。ご存じと思いますが、私は中国への公式訪問を終えたばかりです。中国 も重要な関係国のひとつであり、その経済成長がこの地域の繁栄を促してきましたが、中国の意図と不透明な軍の近代化の問題が近隣諸国の間に懸念を生んでい ます。

 この地域における中国の役割の拡大をめぐる問題は、領土紛争に表れています。最近では昨年9月に尖閣諸島付近で事件が発生し、日米相互の条約上の 義務の重要性を改めて認識させられました。海上の安全に対する米国の立場は今も明確です。すなわち航行の自由、制限を受けない経済開発と商業、そして国際 法の尊重は、米国の国益にかなうという立場です。また国連海洋法条約に表されているような国際慣習法が、領海の適切な利用とアクセス権についての明確な指 針となると考えています。

 それでも私は、中国が米国にとって避けることのできない戦略上の敵国であるという考え方には同意しません。私たちは国際舞台で建設的な役割を果た す中国を歓迎します。事実、私の(中国)訪問の目的は、両国の軍同士の関係を改善し、両国が利害を共にする分野の概要を把握することでした。私たちが中国 の軍隊について疑問を持っているからこそ、そして中国も米国について同様の疑問を持っているかもしれないからこそ、健全な対話が必要であると私は考えま す。

 昨年秋にオバマ大統領と胡錦濤国家主席は、何度も邪魔が入ったり、予測できない政治情勢に左右される関係ではなく、持続的で信頼できる防衛関係を前進させると約束しました。

 個人的なことをお話ししますと、私が以前政府で働いていた時にソビエト連邦と関わった経験から学んだことのひとつが、戦略的対話と意思疎通のチャ ンネルの維持の重要性でした。核兵器やその他の問題について、たとえ具体的な成果が上がらなかったとしても、そうした対話は私たちの相互理解の促進と、誤 解や誤算が起きる可能性の低減に貢献しました。幸い冷戦は何年も前に終結しており、現在の対中関係は当時の対ソ関係とは大きく異なっていますが、対話の維 持の重要性は今も変わりません。

 この数分間私は、米国と日本がアジアで直面する喫緊の安全保障上の課題と、日米のアジアにおける地域協力の最も実り多かった分野についてお話しし てきました。現在の環境は、脅威と機会という点で、世界の2つの超大国のライバル関係という枠組みの中で日米防衛パートナーシップが結ばれるに至った状況 とは全く異なっています。

 しかしこうした課題が影響する範囲の広さと複雑さ、そして危険性ゆえに、日米同盟の必要性、意義、重要性がかつてないほど高まっていると私は考え ます。そしてこの同盟関係の活力と信頼性を維持するには、軍事態勢などの防衛上の取り決めの近代化により、今世紀の脅威と軍事的要件をより正確に反映する 必要があります。

 一例を挙げると、北朝鮮の弾道ミサイル、およびこのような兵器の外国への拡散に対処するため、日米同盟がより効果的なミサイル防衛能力を持つ必要 があります。日米のミサイル防衛パートナーシップは、すでに世界有数の先進的なものとなっています。2006年および2008年の北朝鮮によるミサイル発 射を協力して監視したのは、米国と日本のイージス艦でした。

相互の支援と最先端技術、そして情報の共有を基盤とするこのパートナーシップは、さまざまな意味で日米同盟の最も優れた面を反映しています。米国と日本 は、新たな先進迎撃ミサイルの共同開発をほぼ終えています。このシステムは、北朝鮮によるいかなるミサイル攻撃も阻止する日米の能力の質的な向上を表して います。横田基地における航空およびミサイル防衛司令部の共同使用、そしてそれに伴うこの分野の情報共有、合同演習、および協調の機会は、両国にとって極 めて多きな価値があります。

 先に少し触れたように、サイバー戦争や衛星攻撃の分野での中国軍の能力向上が、太平洋のこの地域での米軍と自衛隊の活動およびコミュニケーション 能力を妨げる問題になる可能性があります。サイバー攻撃はあらゆる方向から襲ってくる可能性があり、攻撃元も国家、非国家、またはその組み合わせなどさま ざまです。そして先進的でネットワーク化された軍隊や社会に多大な損害を与えることができます。幸いにも米国と日本は、衛星およびコンピューター技術で質 的な優位性を保っており、この優位性を有効に利用して、サイバーおよび宇宙の分野での脅威に対処する方法の開発に努めています。

 つい先月、日本政府は国防態勢のビジョンを示した文書「国家防衛計画大綱」を発表し、日米同盟の進化の新たな一歩を踏み出しました。この大綱は機動力と即応展開能力により優れた自衛隊の体制、情報・監視・偵察能力の強化、そして南西諸島重視への方針転換を示しています。

 この新大綱は日米両国がより深く協力する機会を提供し、南西諸島重視の方針は日米同盟に基づく軍事態勢の重要性を強調しています。

 これは重要な点です。なぜなら日米同盟が今世紀の安全保障の課題に対処するため戦略、方針、および軍事能力において進化を続ける中でも、引き続き 極めて重要な要素となるのが米軍の日本駐留だからです。米軍の日本駐留がなければ、北朝鮮による軍事的挑発はさらに悪化し常軌を逸したものとなる可能性が あります。また中国が近隣諸国に対し、より強引な行動に出るかもしれません。この地域の紛争または自然災害の被害を受けた市民の避難に、これまでより時間 がかかるようになるでしょう。最近行われた合同演習「Keen Sword(鋭い剣)」のような、日米両軍が共に活動し、必要となれば共に戦う能力を磨くための充実した合同演習の実施が、これまでより困難になり、コス トもかかるようになるでしょう。そして米軍の日本駐留がなければ、情報の共有と調整が減り、地域の脅威や潜在的な敵の軍事能力についての知識も乏しくなり ます。

 日米同盟にとっての重要性を考えると、在日米軍駐留経費負担、すなわち日米共同の防衛活動への日本の財政的貢献について合意に達したことは、私た ちにとって喜ばしいことです。こうした支援は日米の安全保障関係に対する日本の深い関与の具体的な表れであり、米国が日本の防衛のために引き続き最先端の 軍事能力を展開していくことが可能になります。そして米国はこの資金を効率的、効果的に、そして透明な形で使うことを約束します。私たちは「緑の同盟」の 一環として、米軍の駐留をより環境に優しくする方法を見つけるよう共に努めます。

 5年前に発表された米軍再編ロードマップは、米軍基地の再編による米軍の駐留体制の近代化を目指しており、中でも最も重要な再編が普天間飛行場の 移転でした。米軍基地を受け入れる自治体は日本の安全保障と地域の平和に極めて重要な貢献をしており、私たちは米軍の駐留が地元住民に及ぼす影響を軽減す る手段を常に模索しています。

 普天間飛行場の移転計画は土地と施設を沖縄の人々に返還し、多くの米軍兵士とその家族を最も人口密度の高い沖縄南部から移動させ、飛行場をより人 口の少ない北部へ移転するものです。その結果、移転が完了すれば、沖縄の市民が見聞きする米軍兵士と航空機の数は、現在より大幅に減少します。

 最後に、日米同盟がさらに成長し深まるに従い、日本がその政治・経済・軍事的能力を反映した、地域および世界のリーダーとしてのさらに大きな役割 を引き受けることが重要になります。米国では米軍の規模、構成、そしてコストについて活発に議論しています。オバマ大統領は米国が特にアジアに重点を置い た関与と協力の戦略を取ると約束していますが、同時に私たちは米国の国益の保護、同盟諸国の防衛、潜在的な敵による侵略や威嚇の抑止のために必要な軍事力 を引き続き維持していきます。そのために私たちは、献身的で有能な安全保障パートナーとしての日本を必要としています。

 締めくくりとして、日米のパートナーシップが築かれた当初に比べ、世界が驚くほど変わったことを指摘したいと思います。1960年当時、サイバー セキュリティーの必要性や、真にグローバルな経済秩序がもたらす課題を誰も予測できなかったように、日米両国にとっての次の脅威や可能性を私たちが確実に 知るのは不可能です。

 日米安全保障条約がホワイトハウスで署名された直後、ドワイト・アイゼンハワー大統領はこの条約について、両国の間に不滅のパートナーシップを築 くという目標を達成するものであると称賛しました。この50年間私たちはそのビジョンを忠実に守ってきたと私は思います。そしてこれからの50年間がどの ようなものであれ、私たちの同盟は引き続き、安定のための不滅の力となり、私たちが共有する価値観を推進する道となり、これまで以上に相互につながり合う 平和な国際秩序を築く基盤となる、と私は確信しています。

 ありがとうございました。


 本日はお話どうもありがとうございました。私は慶応大学法学部の3年生です。米国の政策にとってより大きな脅威となるのは、日本が米国との同盟をやめ再軍備することでしょうか、それとも中国が主要技術の開発をさらに進めることでしょうか。

ゲーツ長官 まず中国は経済目的だけでなく軍事目的でも、技術開発をさらに進めると私は考えています。今週の「殲(せん)20」ステ ルス戦闘機の試験飛行で、中国の技術発展の一端を見たばかりです。これは避けられないことであり、実のところ米国を含む他のほとんどの国々もそれぞれ技術 発展を進めていくと思います。

 この50年間の経験が米国と日本のパートナーシップの価値を実証してきたと私は考えます。もし日本が独自の道を進む決断をした場合には、日本の防 衛費の劇的な増加は確実です。日米同盟があればこそ、日本は半世紀以上の間、防衛費が国内総生産(GDP)の1%未満にもかかわらず、国外の脅威から守ら れてきたのです。経済的観点から、この同盟は日本にとって非常に有利な取り決めだと思います。

 また、より大きな戦略的課題の存在が、日米がそれぞれ独自に活動するより、パートナーシップの下で協力する方がはるかに両国の力が強まることを明らかにしています。ですから戦略的にも経済的にもさまざまな理由で、この同盟には大きな意義があると考えます。

 ゲーツ長官、本日の講演どうもありがとうございました。お答えいただきたい質問が3つあります。長官は、米国が中国に対して敵対 的な姿勢を取るのは間違いであるとおっしゃいました。私の第1の質問は、具体的にどの分野で中国政府と友好的な合意に達することができるかということで す。

 第2の質問は、米国と中国の間には政治制度、価値観、統治でかなり相違があるため、米国が譲歩できない点があると思いますが、それはどのような点でしょうか。協調はかなり限定的だと指摘されています。

 最後の質問ですが、協調は本当に現実的でしょうか。

ゲーツ長官 すみません。第3の質問は何でしたか。

 第1ですか。第2ですか。

ゲーツ長官 第3です。

 第3の質問は、米国と中国の間には政治制度、価値観、統治でかなり相違があるため、協調はかなり限定的だと指摘されていますが、協調は本当に現実的なのかということです。

ゲーツ長官 まず米国と中国の間では、国交正常化以来、長年の間にすでに多くの合意がなされていると思います。米中は特定の安全保障 分野で、特にまだソビエト連邦が存在していた時に協力してきました。また両国が非常に緊密かつ広範囲にわたる経済関係を結んでいることは明らかです。驚く ほど多くの中国人留学生が米国で学んでおり、多くの米国と中国の大学が密接な関係にあります。

 ですから米国と中国の間には、この2カ国関係を支え、数々の分野で相互理解を深め協力する機会を提供するさまざまな関係があると思います。

 私の訪中時に、両国が協力できる分野、両国の軍隊さえも協力できる分野を検討し、人道援助と災害救助、テロ対策、海賊対策、そして両国が共通して直面するその他の課題に共同で取り組むことに合意しました。

 また正式な合意こそないものの、私が昨日述べたように、米国と中国は明らかに日本、韓国、ロシアと朝鮮半島の安定と平和の必要性を共有しています。そしてその目標の実現に向けこれまで協力してきており、今後も協力を続けます。

譲歩が不可能な分野ですが、米国にとって事実上、建国当時からの基本的な原則のひとつが、航行の自由、商業と貿易と輸送のためのグローバルコモンズ (公海など地球規模の公共財)の自由と言えます。これについては私たちは強い信念を持っています。これは国連海洋法条約に明記された共通の原則であり、国 際的に非常に幅広い合意がある分野だと思います。これは譲歩が非常に難しい分野の一例です。

 異なる経済・政治制度を持つ国同士が協力、協働する機会は常にあると私は考えます。米国とソビエト連邦の間でさえも、特に1980年代と90年代には、共通の問題への対処、核兵器の削減、地域的な対立のより効果的な抑制など協力分野が多数あったと思います。

 ですから2つの国が異なる政治制度を持っていることは、協調的な関係の障害にならないと私は考えます。またそのような関係を可能な限り強化・拡大することをあらゆる国が目指していると思います。

 本日はこの機会を与えていただきありがとうございます。法学部のナガノ・カツヤと申します。中国と利害を共にする分野の概要と、 対中関係の維持および確立についてお話があったので、現在の中国における軍の文民統制について長官のお考えをお聞きしたいと思います。この質問をするの は、胡主席を含む文民指導者がステルス戦闘機の試験飛行について事前に全く情報を得ていなかったことが事実だとしたら、それは世界に対してだけでなく自国 内にさえも、中国軍の不透明さと優位性を示すことになるのではないかと思うからです。この点についてお考えを聞かせていただけますか。

ゲーツ長官 この分野ではここ数年間、軍の指導者と文民指導者との間の断絶とも言える兆候がありました。今から2~3年前、米海軍の 音響測定艦「インペッカブル」に複数の中国船舶が強引に接近する事件がありましたが、中国の文民指導者はこのことを知らなかったと私たちは考えています。 こちらがつかんだ情報によると、文民指導者は約3年前の衛星攻撃兵器の実験についても知らなかった可能性があります。また私が昨日述べたように、彼らが 「殲20」の試験飛行について知らなかった様子がかなり明らかに見受けられました。

 政府で働いた長年の経験から、その原因のひとつは官僚機構ゆえのミスとして説明できると思います。外国の政府関係者がワシントンを訪問中である点 に配慮せず、米軍が軍事演習や軍事活動をした事例が少なからずあります。しかし全体的に見て、これは懸念すべきことだと思います。

 そして両国の軍民の代表が高官レベルで、より深い軍民対話を持つことを私が非常に強く求めてきた理由のひとつは、軍民の高官が安全保障または軍事 問題を話し合う場が現在存在しないからです。中国側から受けた質問のひとつは、これが他にもある軍同士の対話のメカニズムとどう違うのかということでし た。それに対して私は、これは軍民の高官が席を共にする唯一の場となると主張しました。こうした対話は多大な恩恵をもたらすと私は考えます。

 また私は中国共産党による人民解放軍の統制に疑問を持ってはいません。胡錦濤主席が司令し、責任者であることに疑いはありません。しかし米国自身 の制度での経験から、時として軍隊から文民指導者への情報の流れに断絶が生じることも分かっています。率直に言って、米国に国家安全保障会議が存在し、そ こに政府の軍民の代表が定期的に集まり、軍の活動に関する情報がホワイトハウスだけでなく国務省にも詳しく伝えられてきたことから、この数十年間米国は恩 恵を受けてきました。その結果、私たちの関係は緊密になっています。

 ですから私は、こうした対話はこのような軍民の協力を前進させる機会をもたらすと考えています。また軍同士の関係も強化すると思います。

 総合政策学部のワタナベ・ミツヒロと申します。昨年発表された日本の新防衛戦略に照らして、何が日本の役割とお考えですか。また「統合空海戦闘構想」について日本政府に具体的に何を期待していますか。ありがとうございます。

ゲーツ長官 まず私たちは日本の憲法の規定と、それによって自衛隊の活動が制限されていることを十分に認識しています。同様に私のス ピーチで申し上げたように、私たちが称賛していることのひとつとして、日本政府は国際社会の承認の下、平和維持活動や海賊対策などの課題に対処するため に、より積極的に自衛隊の能力を使うようになってきています。これは大国が引き受けなければならない責任です。

 私たちの緊密な協働関係や合同演習は明らかに日本の防衛の枠組み内にあり、これにより安全保障条約の下での私たちの義務の遂行が可能になります。 言うまでもないことですが、日米両国は、日本国憲法の制約が例えば日米合同の演習や作戦にも適用されるのか、また米軍が攻撃された場合に日本が支援に来る のかといった点を、長年にわたり何度も話し合ってきました。そして率直なところ、そうした問題の一部についてはまだ議論を続けています。

 しかしそれが対話を持つ価値であると思います。日本の自衛隊との関係は年を追って向上してきており、近年かなり劇的な進歩を遂げていると思いま す。そして今後も協力を続けます。ですから私たちが日本に期待することは、第一に日本が自国を防衛するために自国の国益に照らして必要な行動を取ることで す。しかし同時に、日本が自国の国際的な責任をより広義に解釈することも歓迎します。

 この機会を与えていただきありがとうございます。中国の軍隊である人民解放軍と政治指導者の間の断絶についてお聞きしたいと思い ます。米国の対外戦略がその断絶の原因であるという主張もあります。また、米国がその断絶をつくり出している大きな原因のひとつであると考える人たちもい ます。これについて考えを聞かせてください。

ゲーツ長官 私は米国にそれだけの影響力があればいいのにと思います。ある程度断絶があるとして、その断絶の発生に米国は何の役割も 果たしておらず、その断絶の解消が国益になると米国が考えていることは確信を持って言えます。しかしこれは中国の国内問題です。私が先に述べたように、軍 による一部の行動については、何らかの情報の断絶があったと思いますが、より大きな意味で中国の軍隊を統率し、最終的な権限を持っているのは胡錦濤主席で あり、政府の文民指導者たちである点に疑いはありません。

 しかし私が今説明し、中国側に提案したような対話が、伝達不備が発生する可能性を減らすとともに、航行の自由、技術開発や技術力など、これまでに 話し合ってきた、より大きな課題に取り組む手段となる可能性があると思います。しかし私は、中国の文民指導者があらかじめ何が起きるかを知らなかったこと がこれまでに何度かあったかもしれないと強調したいと思います。それでも中国軍の全体的な統率という意味では、胡主席と文民指導者が完全な権限を有してい ることに私は全く疑いを持っていません。

どうもありがとうございました。