文民の力を通じたリーダーシップ――2010年外交・開発政策見直し報告書(QDDR)――概要

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2010年12月15日

概要

 今日、世界のどこかの途上国で、辺境地域のうねった道を1台のジープが走っている。ジープにはその地域のさまざまな少数民族を熟知している米国国 務省の外交官と、地域社会が貧困から抜け出す自助努力を長年にわたり支援してきた米国国際開発庁(USAID)の開発専門家が乗っている。彼らは新たな水 の浄化システムや地域の女性の役割を向上させる新たな方法など、大勢の人々の生活を改善すると同時に地元の親米感情を向上させるプロジェクトについて話を するために、地元代表者たちの集まりを訪れるところだ。

 彼らがこの地域を訪れるのは初めてではないし、この地を訪れる米国政府職員は彼らだけではない。彼らの任務は米国の外交政策のあらゆるツールを利 用する、より広範な協調戦略の一環である。彼ら以前に農務省からかんがいの専門家、疾病対策センターから公衆衛生の専門家、司法省から法の支配の専門家な どさまざまな政府機関の職員が訪れている。

 最寄りの米国大使館では、米国政府全体から選ばれた、仕事熱心で多様なメンバーから成るチームを米国大使が統括している。同じ地域の他の米国公館は見識ある意見や専門知識を提供し、ワシントンからは戦略的指針や資源が送られてくる。

 受け入れ国との間の効果的なパートナーシップの構築や米国の国益と価値観の推進のために、こうした現場の文民たちはひとつのチームとして活動し、 それぞれ独自の能力を発揮しながら、急速に変化する現場の状況に一体となって適応しなければならない。そのための訓練を彼らはこれまで受けてきた。おしゃ れなオフィス用の靴と同じように作業ブーツも難なく履きこなし、前方配備される米国の文民の力の最前線にある。そして21世紀の課題に対処しチャンスをつ かもうとする米国の活動の第一線で活躍している。

 文民の力とは、外交、開発プロジェクトの実施、同盟やパートナーシップの強化、危機や対立の防止や対応のほか、米国の中核的な国益、すなわち安全 保障、繁栄、普遍的な価値観(特に民主主義と人権)、公正な国際秩序の推進に従事する、米国政府のあらゆる部門の人々の総合的な力である。彼らこそ和平条 約を交渉し、人権を守り、経済協力と開発を強化し、また複数の省庁で構成される代表団を率いて気候変動問題の会議に出席する人たちである。米国の軍隊が一 体となって活動するのと同様、米国政府の文民側も一体となって活動している。

 彼ら米国政府の文民は、どうすれば米国民の利益の推進でより良い仕事ができるかを常に自問している。その答えはどの省庁も同じである。すなわちよ り賢明により良い仕事をするには優先事項の明確な設定、成果達成に向けた管理、責任の引き受け、一丸となった活動が必要である。この初の「外交・開発政策 見直し報告書(QDDR)」は、それぞれ外交と開発を担う主要機関である国務省とUSAIDの包括的改革政策を示して、上記の目標の達成を目指している。 ここで取り上げるニーズの多くは、クリントン国務長官の前任者たちが、ライス国務長官の「変革外交」などの各種報告書ですでに認識しており、QDDRはこ うした前任者たちの活動の成果をさらに拡充したものである。QDDRは、国防総省および国土安全保障省の4年ごとの見直し報告書にならい、資源の最も効率 的な利用法、優先目標の最も効果的な達成の仕方、改善すべき点、将来に備えて準備すべき点を包括的に検討する。

 まず、今ある資源でこれまでよりずっと多くのことをしなければならない。クリントン国務長官は就任直後に、文民の力を引き上げ軍事力と並ぶ米国の 外交政策の2本柱とする必要があると強調した。そして地球規模の問題の解決手段として、統合された「スマート・パワー」の手法を提唱した。この概念は大統 領の「国家安全保障戦略」に具体化されている。

 QDDRはこのビジョンを実現し、それを通じて節約や業務を遂行するには、世界各地に存在する文民の力が国務省とUSAIDに限定されるものでは ないと認識する必要があることを前提にしている。エネルギー外交、疾病予防、警察の訓練、貿易促進など数々の分野で国際活動に関与する文民機関の数が驚く ほど増えている。

 これらの機関の活動を調整すれば、米国の国益を守り、米国のリーダーシップを示すことができる。私たちは脆弱(ぜいじゃく)な国家の無秩序状態へ の転落の防止、米国外の経済成長の促進、米国の産業界のための投資の確保、米国製品の新たな市場の開拓、対外貿易の促進、国内の雇用の創出に貢献する。他 国を支援し、その国の国民に役立ち、病気のまん延を防ぐ総合的で持続可能な公衆衛生システムを構築する。核兵器の拡散防止にも貢献する。自らの政府を選 び、その政府に説明責任を負わせる世界各国の市民社会団体の活動を支援する。経済的に自立し、子どもたちに教育を受けさせ、社会を改善し、自国に平和をも たらす女性の活動を支援する。これは米国の安全を守るという点で妥協しないが、これと同程度に米国の繁栄の推進と米国の価値観の保護にも力を尽くす積極的 な米国の政策課題――グローバルな政策課題――である。

 米国民のために成果を上げるべくこうした仕事に従事する人々により大きな力を付与することが、本報告書の最終的な目標である。QDDRの作業部会 には、国務省とUSAIDの各部門の多数の専門家に加え、政府内外からさらに多くの専門家が参加してさまざまな提案をした。本報告書は彼らの経験や、国務 長官および国務省とUSAIDの指導者たちの戦略的構想を反映している。

 この種の見直し報告書が改善すべき点を強調するのはやむをえないが、国務省とUSAIDが国外で米国の国益の推進に成功してきた長い歴史を認識、 称賛することから始めるのが重要である。私たちの施策の多くは大きな成果を上げている。QDDRはこのような成功した分野に重点を置いていないし、その必 要もない。クリントン長官は改善が見込める具体的な点、すなわち私たちが適応しなければならない分野、また任務遂行の効率性を高められる分野に焦点を絞り QDDRを作成するよう指示した。

 QDDRはまず今日の世界を把握し、今後の変化を予測する。大きな世界の動向によって国際情勢が変わり、米国の外交官や開発専門家は新たな要求に直面している。暴力的過激主義、核拡散、気候変動、経済ショックなど、世界の繁栄を後退させかねない脅威が迫っている。

 経済の相互依存や情報・資本・物品・人の迅速な移動などこうした問題を悪化させる要素は同時に、これまでにない可能性も生み出している。かつて国 際システムにおける影響力を行使したのはおおむね少数の大国だけだったが、今ではさまざまな国家、機関、非国家主体が影響力を共有している。また情報革命 が国際情勢の変化の速度を加速させ、新たな脅威も生み出している。例えば機密扱いになっている外交通信文がインターネット上で公開され、世界各地の人々の 生命を危険にさらし、公益を推進する努力を傷つけている。しかし情報革命は、より多くの人々がより多くの場所で全世界な討論に参加し、困っている人々の生 活を向上させる素晴らしい機会も提供している。今年のハイチ地震の際には個人が携帯メールを使って寄付し、復興資金として4000万ドルが集まった。

 米国の外交官、開発専門家、文民の専門家たちは毎日、こうした動向の影響に対処する。彼らが自らの任務を果たし米国民のために成果を上げられるか どうかは、この変化する世界に適応し、この世界の進路を決められるかにかかっている。QDDRで提案する事柄はすべてそうした目標の達成を目指している。 またコスト節約にもつながるが、さらに重要なことに人々の命も救う。

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 この概要の以下の部分は4つの章に分かれている。「21世紀の外交」の章では、新たな脅威と可能性に米国の外交をいかに対応させるかを示す。「成 果を上げるための開発の改革」では、USAIDを世界で傑出した開発機関として再構築する努力の概要を述べる。「紛争と危機に対する防止・対応策」では、 脆弱な国家で活動し、紛争・危機の発生前の阻止に貢献する能力をいかに高めるかを説明する。「より賢明な仕事」では、企画・調達・人事面の手法を改善する 手段について説明する。

21世紀の外交

 政府の省庁、国家の宮殿、そして国際機関の本部などが主体の従来型の外交は、今も米国の外交政策に不可欠なツールである。しかし21世紀の外交情 勢においては、国際的な議論に影響を及ぼす主体の多様性が増している。自らの外交方針に基づいて行動できる国家の増加、外国で活動する各種の米国政府機 関、多国間ネットワーク、企業、財団、非政府組織(NGO)、宗教団体、そして市民自身などである。米国の外交はこうした外交情勢に適応すると同時にこの 情勢を変えていかなければならない。

 そのために各国に駐在する米国大使たちは、現場での世界規模の文民活動を指揮・調整し、米国政府の多種多様な部門が関係する外交上の取り組みを実 施しなければならなくなる。また政府内にとどまらず、民間部門から一般市民までを含む新たなネットワークと直接関与する態勢も整えなければならない。

I.グローバルな文民活動の実施の主導

 米国の文民の力の中核となるのは、日々米国の国益と価値感の推進のために働いている人々である。こうした人々は多くの場合、危険かつ困難な状況の 中で働いており、今日ではその中には外交官やUSAIDの開発専門家だけでなく、公衆衛生、農業、司法、法執行といった重要な分野に精通した、他の政府機 関や省庁の文民の専門家たちも含まれている。こうした機関や省庁にはそれぞれの権限や目標があり、調整がますます重要となる。

 私たちの目標、例えばある国家の民主主義への平和的な移行の支援などを達成するには、こうした関係者全員が力を合わせなければならない。これは各 国に駐在する米国外交使節の最高責任者(Chief of Mission、以下便宜上「大使」とする)がこうした活動を指揮・監督する権限を与えられて初めて可能となる。

 私たちは他機関と連携しつつ以下の措置を取る。

  • 大使に複数の省庁が関わる任務の最高執行責任者(Chief Executive Officer)としての権限と説明責任を与える。大使が現地の全職員の評価に寄与し、ワシントンDCでの高官レベルの政策決定に可能な限り直接関与し、 その国にいる米国の文民全員について所属関係を明確にできるよう他の政府機関と協力する。また大使の実績評価に際し他の政府機関から情報を求める。

  • 大使および首席公使(Deputy Chief of Mission、各国駐在の米国外交使節団で大使に次ぐ役職)の選定および研修の基準として、多省庁にまたがる経験と才能を優先させる。大使および首席公使の省庁間研修を拡充する。

  • 民間契約業者を使う前に、適切であれば他の連邦政府機関の専門知識を活用して、管理手法を根本的に変える。これにより、あらゆる連邦政府機関が外国の諸機関との永続的関係を構築でき、契約業者への依存度を下げることができる。

II.新たな課題に対処するための米国の外交の変更

 クリントン国務長官は、今日の外交政策上の問題の解決には地域および世界規模の両面で物事を考え、それぞれの国、地域、利益を結び付ける要素を知 り、各国や各国民を結び付ける必要があり、これは米国だけができることであると述べている。米国の外交官には、こうした革新的な新たなパートナーシップを 構築するための訓練と手段が必要である。そのために以下の措置を取る。

  • 国務省内で一連の組織改革を実施し、国境を越える問題により効果的に取り組む。組織変革の大部分については新たなスタッフを必要とせず、すでに実施されている活動を統合し、欠落や重複をなくすことを目的としている。具体的には以下を実施する。

    • 相互に関連する地球規模の課題に対し、より効果的に対処するために経済成長・エネルギー・環境担当次官のポストを新設する。

    • 石油、天然ガス、石炭、電力、再生可能エネルギー、エネルギー統治、戦略的資源、エネルギー貧困の問題での外交活動およびプログラムに基づく活動を統一するために、エネルギー資源局を新設する。

    • 地理経済問題における国務省の役割を拡大して、経済外交を米国の外交政策の主要な構成要素のひとつにまで高める。その一環として首席エコノミスト を任命する。首席エコノミストは、米国政府内の他の同様のシステムと連携し、経済、安全保障、政治が交差する領域での課題を見つける新たな早期警報メカニ ズムを構築する。

    • 人間の安全保障の促進に向け私たちの活動を最も効果的に組織化するために、市民の安全保障・民主主義・人権担当次官のポストを新設する。

    • 軍縮・検証・順守局の新設と国際安全保障・不拡散局の再編により、軍縮・国際安全保障担当次官の権限を拡大する。

    • 連邦議会と協力してテロ対策局を設置する。これにより暴力的過激主義に対処し、パートナー諸国の能力を高め、対テロ外交に関与する米国の能力を強化できる。

    • サイバー問題担当の調整官のポストを新設する。このポストは各国政府間の通信の秘密の保持という外交に不可欠の要素を守る活動など、サイバーセキュリティーなどのサイバー関連の問題への国務省の関与を主導する。


  • 最も緊密な同盟国やパートナー国への関与を深める。米日韓の3カ国会合のような議論の場を通じ地域協力を強化する。またサイバーセキュリティーにおける北大西洋条約機構(NATO)との提携と同様、新たな課題に対処する提携関係を築く。

  • 米国政府のあらゆる部門の専門家とパートナー諸国の専門家とをつなぐ戦略的対話を通じ、新興国との関係を構築する。また台頭する地域への人員の再配置を継続し、首都以外の地域に働きかける活動を新たに始める。

  • 気候変動や紛争解決といった分野横断的な問題における専門家の拠点として地域の中核となる大使館を定め、地域的な関与能力を拡大する。こうした専門家は地域内の在外米国公館を巡回する。

  • 各地域局や国際機関局を再編して2国間、地域、多国間外交を統合し、地域および国際機関でより大きな成果を上げられるようにする。各地域局の首席次官補代理に国際機関への関与を監督する任務を与える。

III.非国家主体との関与

 今日、NGOから宗教団体、多国籍企業、国際カルテル、さらにはテロ・ネットワークまで、さまざまな非国家主体が国際情勢において果たす役割が増 大しつつある。米国の外交が21世紀に効果を発揮するには、従来関わってきた関係者だけでなく、新たな主体にも関与しなければならない。中でも市民社会に 重点を置く必要がある。ある国の国民が米国に反感を持っている場合、その国とはパートナーシップを構築できない。こうした問題に対処するために、最新の ツールや技術を取り入れるだけでなく、こうしたツールや技術を生み出す発明者や起業家も米国の外交・開発の一部としていく。具体的には以下の措置を取る。

  • 21世紀の国政術を取り入れ、民間および文民の各部門と米国の外交活動を結び付ける。そのために新たな人材やパートナーを交渉に参加させ、通信技術をより有効に活用し、官民パートナーシップのプロセスを拡大・促進・効率化する。

  • パブリック・ディプロマシー(自国のイメージ向上や自国に対する理解を深めてもらうために外国の一般国民に直接働きかける外交)を外交の中心任務 のひとつとする。そのために各地域にメディアハブを置き、優れたコミュニケーション能力を持つスタッフを配置して、いつでもどこでも公開討論に参加できる ようにする。またコミュニティー・ディプロマシー(地域社会との外交)の先駆けとなって利害を共有する人々のネットワークを構築し、人と人との関係を拡張 する。

  • 一般の人々と関わる私たちの活動の全てに女性や少女も参加させる。

IV.新たな任務に就く米国の外交官への支援

 米国の外交官が任務を果たすには、適切なツール、十分な資源、そして新しい手法を試す柔軟性が必要である。具体的には以下の措置を取る。

  • 報告義務の無駄をなくして、外交官が相手国の外交官や国民と関与できる時間を増やす。重複している報告義務を統合し、報告書の長さを制限するとともに、監督と評価を改善する。

  • 国務省の職員全員が、派遣国で入手できる最も効果的な個人通信技術を利用できるようにする。

  • 国務省の職員を保護する一方、彼らがより活動的な任務の要求に応えられるようにするリスク管理の新たな世界基準を確立する。

成果を上げるための開発の改革

 開発は外交と並び米国の文民の力の2本柱のひとつである。私たちは開発を通じ、持続的で広範な基盤を持つ経済成長の実現に向けた各国の取り組みへ の投資に努める。こうした経済成長は、その国の国民、家庭、社会が貧困や暴力的過激主義、不安定な状況から脱し、より繁栄する未来へと前進する機会を創出 する。最終的には、開発によって各国が自らの問題を解決し、世界共通の課題の解決に参加する能力が高まる。

 開発は米国にとって、外交や国防と同様、外交政策の中心となる戦略的・経済的・道徳的な責務である。2010年国家安全保障戦略は米国の目標を次 のように定義している。「活発かつ積極的な開発政策とこれにふさわしい資源を通じて、紛争の解決と国際犯罪ネットワーク対策に必要な地域のパートナーを強 化し、繁栄を生み出す新たな要素を持つ安定した包括的世界経済を構築し、民主主義と人権を推進できる。また今後何十年もの間に米国のパートナーとなりうる 有能で繁栄した民主主義国家を増やして、最終的には主要な国際課題に対応する米国の足場を固めることができる」。この目標についてはグローバルな開発に関 する大統領令で詳述しており、QDDRはこれを達成するための国務省とUSAIDの活動を提示している。

 こうした開発への取り組みが期待される成果を上げられるよう、私たちは国務省とUSAIDを改革している。

I.投資対象の絞り込み

 私たちは多くの国で活動範囲を広げすぎたため、多くの部門に投資が分散し、効果が限定されてしまった。今後は投資対象を絞り込んで深め、私たちの中核的な強さをさらに強化する分野で任務を遂行する権限を開発の専門家に与える。具体的には以下の措置を取る。

  • 以下の各分野においてUSAIDを大統領イニシアチブの主要実施機関とする。
    • 食糧安全保障(「将来の食を守る(Feed the Future)」)――世界食糧安全保障調整官を直ちに任命する。

    • 世界の保健(「グローバル・ヘルス・イニシアチブ」)――規定の基準を満たした場合にはこのイニシアチブの目標期限を2012年9月とする。

  • 米国の強みを生かせる6つの具体的な分野(持続可能な経済成長、食糧安全保障、世界の保健、気候変動、民主主義と統治、人道支援)に開発活動を絞 り込む。各分野で、女性や少女のエンパワーメント(自らの潜在能力を発揮し、望む人生を身につける過程)という目標に向け、常に女性や少女に投資する。

II.強い影響力を持つ開発の実施

 米国による援助活動は多くの命を救い、世界各地の人々が子どもたちのためにより良い未来を築く手助けをしてきた。しかし組織・制度の変革よりも業 務の実施を重視することが多すぎた。私たちは強い影響力を持つ開発の促進に向け、国務省とUSAIDを改革している。受け入れ国による持続可能な制度の構 築への支援を重視し、仕事の進め方を変え、援助から投資へ重点を移す。具体的には以下の措置を取る。

  • 受け入れ国や他の援助国との仕事の進め方のモデルを変更し、受け入れ国の制度や現地組織への依存度を高め、説明責任と透明性に重点を置き、他の援 助国、NGO、民間部門との調整を改善する。複数年にわたる対外援助計画を導入して、私たちの投資を予測可能かつ持続可能にする。

  • USAIDに開発研究部門の新設と、優秀な開発専門家20~25人を同部門に招くイノベーション奨学制度の設置により、イノベーションを育み、ベストプラクティス(最良事例)を開発する。

  • 実績評価の新基準を確立し、効果を測る厳格な評価制度を作り、評価結果を将来の予算配分を決定する一要素とし、プログラムの公正な評価と評価結果の全面的開示を促進して、監視・評価活動を強化する。

  • (他の措置に加え)国務省とUSAIDによる対外援助に関するデータを公表するウェブサイト「ダッシュボード」を新設し、援助活動の透明性を高める。

  • 男女平等に重点を置き、女性と少女への投資を増やす。この措置はそれ自体が重要であるだけでなく、全体としての成果を最大化する手段としても重要である。

III.USAIDを傑出した世界的開発機関として再建

 オバマ大統領、クリントン国務長官、そしてシャーUSAID長官は、大きな結果をもたらす開発を世界各地で促進するという米国の約束を果たす能力 を持つ世界で傑出した開発機関としてUSAIDを再建する決意を表明している。連邦議会の継続的支援を受け、以下の措置を取る。

  • 省庁間の政策決定プロセスにおけるUSAIDの参加を増やして発言力を高め、USAIDの現地の責任者を各米国大使の主要開発顧問とし、さらにUSAID長官を特定の地域開発銀行の政府副代表として承認して、開発を米国の外交政策の中心的な柱のひとつとする。

  • 政策・企画・学習局の設置、USAIDの予算管理能力の強化、科学・技術の開発活動への統合、調達制度の改革など「USAIDフォワード」の政策課題の実施を継続する。

  • USAIDの外交官の数を増やし、中堅職員の雇用を拡大し、USAIDの技術専門家の昇進の道として上級技術者昇進コースを新設して、USAIDの人的資源を充実させる。

IV.開発に対する国務省の支援の改革

 外交と開発は補強し合う。効果的な開発は国家の安定に貢献し、安定した国家はより効果的な外交上のパートナーとなる。また効果的な外交は国家間の連携を強化し、共通の開発目標の達成に向けた前進の一助となる。こうした相互依存関係を踏まえて、以下の措置を取る。

  • 上級外交官が開発問題の推進に費やす時間を増やす。また外交官と開発専門家の間のコミュニケーションと調整を改善する。

  • 外交官の向けの開発問題に関する研修の拡大と、対外援助の運営に関するベストプラクティスの提案により、国務省のひとつの分野として「開発外交」を確立する。

  • 資金拠出を実績と戦略的計画に基づいて決定し、援助効果の原則を必ず実践し、各種の対外援助資金を統合して、対外援助資源の管理を向上させる。

危機と紛争の防止・対応策

 脆弱な国家に対する取り組みがこれまでにも増して重要である。人、資金、アイデアが素早く世界中を移動し、紛争は――遠く離れた国で発生したもの さえも――米国にとってはるかに大きな脅威となっている。弱体化した政府や破たん国家はテロリスト、反政府勢力、犯罪組織の安全な避難場所を生む。主要経 済圏や供給ルートの近くで発生した紛争が、遠く離れた市場に衝撃を与える可能性もある。大規模な残虐行為へとエスカレートしかねない緊張状態は、米国が最 も尊重する価値観、特に民主主義と人権を損なう。

 私たちはすでにこうした動向に対応し始めている。現在国務省とUSAIDの職員の4分の1以上が、紛争のリスクの最も高い30カ国で任務に就いている。アフガニスタンとイラクだけでも、2000人以上の文民職員が派遣されている。

 しかしこれまで国務省とUSAIDの文民能力は多くの場合、一定の目的のみのために配置されており、他の連邦政府機関やパートナー諸国の文民能力 との統合が不十分であった。文民の使命を定義し、職員が必要とする訓練、ツール、体制を提供するには過去の経験から学ばなければならない。

I.脆弱な国家における紛争防止と対応を文民の中核的使命に

 脆弱な国家がもたらす危機に適切に対応するには、まず文民の使命を明確にする。その使命とは潜在的な不満の公平な解決と、必要最低限ではあるが効 果的な安全保障体制および司法制度を提供できる政府機関の設立の支援により、紛争を防止し、人命を救い、持続可能な平和を築くことである。より長期的に は、その国の政府が課題に取り組み、開発を促進し、人権を保護し、自力で国民を養う力を構築することが私たちの使命である。こうした責任を果たすために は、国務省とUSAIDの内部およびこの両機関の間に、明確に定められた、責任あるリーダーシップが存在するとともに、国務省とUSAIDがそれぞれ補完 的な能力を持つ必要がある。こうしたビジョンの実現に向け以下の措置を取る。

  • 国務省とUSAIDの間で、リーダーシップと責任を明確に分けた主導機関方式を採用する。国家安全保障スタッフの指導の下、国務省が政治や安全保 障面での危機への対応活動を主導する。一方USAIDは大規模な自然災害や産業災害、飢きん、病気の発生、その他の自然現象によって生じる人道的危機への 対応活動を主導する。

  • 市民の安全保障・民主主義・人権担当次官のポストを新設して、国務省の機能を統合する。また危機、紛争、不安定な状況に対する政策・運用上の解決策を提供する中心的な存在として、危機・安定化業務局を新設する。

  • 移行イニシアチブ室の対応・復興・安定化の専門知識の増強、これらの問題についてのスタッフの訓練、各種制度や管理の拡充により、USAIDの紛争防止・移行活動を強化する。

  • 新たな国際的運用・対応の枠組みを通じ米国の危機対応活動の調整を支援する。この枠組みは連邦政府機関全体の機能や専門知識を基盤とし、軍民の協働を向上させる。

  • 紛争の防止と対応に関わる活動に必ず女性が関わるようにする。

II.紛争の防止・対応策の現地での実施

 こうした統合的活動ビジョンを実行するために、現地の米国大使館や公館が必要とするのは適切な人員配置、施設、警備、資源である。この目標を念頭に置き以下の措置を取る。

  • 文民予備隊(Civilian Reserve Corps)に代わり、より柔軟でコスト効果の高い専門家部隊の設置を提案し、米国政府全体および政府外の専門知識を活用する。こうした専門家部隊の設置により米国政府外の専門家と協力し、彼らを迅速に現場へ派遣できる。

  • 危機・紛争防止活動における国際パートナーの外国での警察活動能力を高め、国連平和活動の近代化と向上のための改革を支援して、国際的なパートナーの貢献を拡大する。

III.安全保障と司法の両部門の改革に向けた効果的な能力の構築

 紛争や危機から抜け出せないでいる政府は多くの場合、自国の国民を暴力、犯罪、腐敗から守れない。不安定な状況が国境を越えた脅威を生み出してい る場合には、米国は援助を提供できる態勢を整えていなければならない。特に効果的かつ責任ある安全保障および司法機関の構築を支援する必要がある。私たち はこの種の援助を提供する能力の近代化を進めている。具体的には以下の措置を取る。

  • 安全保障面で中心となる主体、管理・監督機関、司法機関、および市民社会を結集するなど包括的な活動を通じて、安全保障および司法部門への援助を統合する。

  • 安全保障および司法部門での援助活動の計画と実施に、他の連邦政府機関、また必要に応じて州・地方政府の能力を統合し、あらゆる政府機関を活用する総合的手法を採用する。

  • 受け入れ国によるプログラムの主導を重視し、受け入れ国の懸念に対処するプログラムを支援して、安全保障および司法部門における米国の援助を開発につなげる。

より賢明な仕事――人事・調達・企画の機能の改革

 米国の納税者は納めた税金が効率的かつ効果的に使われることを期待する。QDDRでは、国務省とUSAIDが成果を重視し、自らに説明責任を課し て、納税者の期待に応える計画を示す。過去には、自らの活動を評価する基準として結果よりも投入した努力を、また達成した成果よりも費やした金額を用いて きた。QDDRではあらゆるレベルでこの発想を修正している。また米国の国益と価値観の推進に向けより賢明に仕事ができるよう人事・調達・企画面での具体 的な改革について説明する。

I.21世紀の労働力の構築

 スマートパワーにはスマート(賢明な)人材が必要である。米国の外交と開発の成功は、適切な専門知識を持つ最も優秀な人材を募集し、訓練し、配置し、意欲を持たせることができるかにかかっている。

 過去5年間に国務省とUSAIDは、アフガニスタン、パキスタン、イラクといった最前線国家での活動を大幅に拡張してきた。しかし職員総数は大き く増えていない。従っていずれの機関もかつてないほどの人員不足に直面している。こうした課題に対処するため、オバマ政権と連邦議会は協力して採用を増や そうとしている。これは第一歩としては効果的だが、さらに持続的な取り組みが必要である。そのため以下の措置を取る。

  • 国内勤務中心の事務職員を海外派遣する新たな機会を作り、期限付きで専門家を現地に送り、こうした事務職員が外交官に転向する機会を拡大して、適切な時期に適切な人材を適切な場所に配置する。

  • 専門家の現地採用職員の保持、USAIDの中堅職員の採用の3倍増、一時職員を採用するUSAIDの権限の拡大、省庁間の人事交流の拡大、上級外交官への昇進につながる技術系キャリアパスのUSAID内への設置により、21世紀の課題に対処する専門知識を確保する。

  • 革新的な考え方のできる人々や起業家精神を持つリーダーを見分けられるよう外交官試験を改革するよう努め、イノベーションを促進する。指導的なポストでのイノベーションが報われるようにし、重要な技能の訓練を拡充し、開発研究プログラムを発足させる。

II.より効果的な使命達成に向けた契約・調達の管理

 最前線国家における義務が拡大し、職員総数が頭打ちとなる中、国務省とUSAIDは人員を補完するため外部契約スタッフ・業者への依存度を高め た。補助金や契約には一定のメリットもあるが、任務の達成にとって重要な分野における政府の能力と専門知識を立て直す必要がある。そのために以下の措置を 取る。

  • 直接雇用職員と外部契約スタッフの構成比が適切になるよう、よりバランスが取れた職員構成を達成する。そうすることで米国政府が優先事項を設定し、政策を決定し、補助金や契約を正しく監視できるようになる。

  • 外部契約スタッフ・業者に頼る前に、米国の目標を推進する技能を持つ他の政府機関の経験と専門知識を活用する。

  • 契約をめぐる競争を促進し、可能な場合には受け入れ国の企業やNGOを活用して、私たちの調達手法が米国の開発の目標を推進しコストを節約するものとなるようにする。

III.成果を上げるための計画立案と予算の作成

 最大の効果を上げるには、健全な政策決定を可能にする計画立案・予算作成プロセスが必要である。QDDRはこのプロセスを示す。このプロセスは適切な利害関係者を関与させ、成果を上げるための優先事項や資源を調整する長期的な計画立案を可能にする。

 私たちはすでにいくつかの主要な措置を取っている。管理・資源担当国務副長官のポストが新設された結果、戦略的な計画立案・予算作成の一貫性と効 率性が高まり説明責任が強化された。USAIDでは予算・資源管理室の新設により、USAIDの管理する開発プログラムの予算執行におけるUSAIDの役 割が強化される。また国務省とUSAIDの2012会計年度予算に向け、統合され調整された透明なプロセスを構築する措置を取り始めている。

 しかし他にも成すべきことがある。具体的には以下の措置を取る。

  • 優先事項を反映し、資源配分に関する要望や決定の参考になる国務省とUSAIDの多年度にわたる戦略計画を立てる。高官レベルの戦略計画立案プロ セス、各地域局および専門分野担当局の戦略、そして外交、開発、およびより広範な対外援助の国家レベルの計画をひとつの包括的な戦略にまとめた「統合国家 戦略」を構築する。

  • 各国および各局の戦略に基づく多年度予算の作成へと移行して、計画に合わせた予算の調整を向上させる。

  • 実績評価とベストプラクティスの共有手段の強化に向け、監視・評価システムを改善する。

  • 2013会計年度以降にUSAIDが提出する包括予算案は、国務長官の承認を得て、より広範な国務省の対外援助予算案に含まれることになる。

  • 政策決定者や議員が国家安全保障の優先事項を総合的に把握できるような国家安全保障関連予算の作成プロセスの構築を目指し、国家安全保障スタッフや他省庁のパートナーと協力する。

報告から改革へ

 私たちはQDDRを通じ、今後の国際情勢を決定付ける主な動向を明らかにし、私たちの能力をはっきりと見直し、改革を提案し、優先事項と資源に関して難しい選択をした。

 この段階を踏むことにより、国務省とUSAIDは協力してより役立つ仕事ができるようになった。しかし国務省とUSAIDだけでは世界における米 国のリーダーシップを維持することはできない。米国政府全体にわたる協力が必要である。国務省とUSAIDはQDDRを通じ、そうした協力の推進に貢献す る決意を示している。

 何事も実行しなければ意味がない。大量の報告書がワシントンDC各地の本棚でほこりをかぶっていることを私たちは十分に承知している。QDDRが そうした報告書と同じ運命をたどってはならない、とクリントン長官は強く主張し、管理・資源担当国務副長官とUSAID長官にQDDRの実施の監督を要請 し、そのために必要なスタッフを提供した。

 これは継続的な作業となる。一部の改革はすでに完了しており、現在進行中のものもある。しかしすべてを一度に実施することはできない。国防総省の 場合と同様、4年ごとの見直しの実施を義務付けるよう連邦議会に要請するのはそのためである。数年後に再び見直しを実施し、自らの成果を評価しなければな らないと認識した上で、本報告書で指摘した改革を実施すべきである。

 これは容易な作業ではない。変革は困難でありビジョンと注意が必要である。言うまでもなく私たちは財政的な引き締めの必要性を認識しており、私た ちに委ねられた資金は1ドルに至るまで米国民の安全、繁栄、価値観の推進に役立つよう、より賢明に職務を果たしていく。そして賢明な投資に必要な取引を し、難しい選択をする。しかしオバマ大統領が述べているように、米国の安全保障は外交と開発にかかっている。私たちは連邦議会や他の米国政府機関と協力し て、必要な資源を確保すると同時に、米国民の期待する成果を上げる責任を自らに課す。

 米国は毎日、新たな課題や機会に直面している。米国の世界との関与は変化しなければならない。これこそこの継続的なQDDRのプロセスの目標であ る。すなわち国務省、USAID、そして米国の文民の力のあらゆる要素を、今後も世界のリーダーシップの最先端に位置付けていくことである。私たちはこの チャンスをとらえて、これから何十年も継続する米国のリーダーシップの基盤を築かなければならない。

QDDRの全文はwww.state.gov/qddrからダウンロード可能。