2010年国別人権報告書――日本に関する部分
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
米国国務省民主主義・人権・労働局
2011年4月8日発表
日本
日本は、人口およそ1億2740万人の議会制民主主義国家である。2009年8月の総選挙で民主党が勝利し、ほぼ半世紀にわたる自由民主党による支配が終わった。2010年6月に菅直人氏が、鳩山由紀夫氏の後を引き継ぎ総理大臣に就任した。7月に行われた参議院選挙で民主党が率いる連立政権は参議院での過半数を失ったが、より強い力を持つ衆議院での支配力は維持している。選挙は全般的に自由かつ公正な選挙とみなされた。治安部隊は文民当局の監督下にあった。
人権問題を扱う非政府組織(NGO)の 報告によると、日本の収容施設と司法制度に問題が見られた。2010年には政府の汚職が数件報告された。セクハラ(性的嫌がらせ)および雇用差別も引き続き報告された。非嫡出子、マイノリティー、外国人に対する差別が問題であった。外国人研修生に対する搾取も依然として問題であった。
人権の尊重
第1部 個人の人格の尊重(以下の状況からの自由)
a. 恣意的または違法な人命のはく奪
政府またはその職員による、恣意的、または違法な人命はく奪は報告されなかった。
b. 失跡
政治的動機に基づく失跡の報告はなかった。
c. 拷問およびその他の残酷、非人道的、または屈辱を与えるような処遇または処罰
法律によりこのような行為は禁止されており、実際に日本政府は、全般的にこれらの規定を順守した。
3月22日、日本から強制送還される途中だったガーナ人男性が、離陸前の航空機内で手錠をかけられたまま死亡した。司法解剖では死因を特定できず、身体的危害が加えられた形跡もないとのことだったが、この男性の妻は、身元確認の際に遺体にあざがあるのを見たと述べた。入国管理局職員は国会で、このガーナ人男性はタオルで猿ぐつわをかけられ、10人の入管職員によって無理やり席に座らせられたと証言した。警察が過剰な暴力行使の有無について捜査した結果、この10人の入管職員は12月に千葉地方検察庁に送致され、起訴が妥当かどうかを判断されることとなった。
NGOと外国の外交官は、一部の刑務所で身体的虐待が疑われる事例があったと報告した。少年犯罪者の矯正施設である広島少年院の法務教官4人が、2009年に在院していた約50人の少年に身体的虐待を加えたとして、2010年に有罪判決を言い渡された。この事件を受け法務省は、全国の他の51カ所の少年院にアンケート調査を実施した。その結果、在院中の全少年の2.1%強に当たる71人が、教官から虐待を受けたことがあると回答した。
日本政府は依然として、死刑囚およびその親族に対し、死刑執行日に関する情報を提供しなかった。死刑囚の親族は、死刑執行後、その事実を告知された。政府は、この方針は受刑者に自分の死期を知る苦しみを与えないためと主張した。死刑囚は死刑執行まで平均約8年間、単独室に収容されたが、親族、弁護士、およびそれ以外の人々との面会は認められた。あるNGOは、死刑囚が何十年も単独室に収容されることもあると報告し、その結果、こうした死刑囚の多くが精神に異常をきたすようになったが、死刑囚の精神的健康の記録の請求は即座に却下されたと述べた。
NGOは引き続き、刑務所の管理部門が受刑者の単独室収容に関する規則を日常的に乱用していると報告した。懲罰としての単独室収容が認められているのは最長60日間だが、刑務所の運営手続き上は、刑務所長が受刑者を無期限に「隔離」できる。2010年に府中刑務所から釈放されたある受刑者は、刑期の最後の4年間隔離されていた。刑務所側は、単独室収容は、定員いっぱい、あるいは超過状態にある刑務所内の秩序を維持するための重要な手段であると語った。
自衛隊では新入隊員へのしごき、いじめ、セクハラが報告された。
刑務所および収容施設の状況
刑務所の状況は、全般的に国際基準に合致したものであった。しかし、いくつかの施設では定員超過で、冬季の暖房または夏季の冷房の不備が見られた。夏の猛暑で刑務所内の温度が極度に上がったため、7月に大阪刑務所で男性受刑者1人が、8月には高知刑務所で女性受刑者1人が死亡した。2件とも、受刑者は保護室(通常、自殺を図る可能性のある受刑者を監視するため使われる)に移された直後に倒れ死亡した。高知刑務所の受刑者はその4日前、熱中症との診断を受け一時的に病院に移されたが、その後刑務所に戻されていた。
受刑者の権利擁護団体はまた、受刑者が冬季に凍死した可能性があると主張した。一部の施設では、受刑者を寒さから守るための衣類や毛布が十分に与えられていなかった。ほとんどの刑務所は、冬季に夜間気温が氷点下まで下がっても暖房を入れなかったため、受刑者は多岐にわたる予防可能な疾患にかかりやすい状況に置かれた。東京の外国人受刑者は面会した外交官に、心身に有害なほどの寒さや時には凍える環境に長期間さらされたためにしもやけができた手足の指を見せた。
NGOと外国の外交官の報告によると、一部の施設では食料や医療処置が不十分であった。外国の外交官は、刑務所の食事が不十分なため、筋肉を含む受刑者の体重が大幅に減少している事例を多数確認した。医療処置が遅れたり不十分であった事例が文書に記録されており、その中には既存の疾患がある被拘禁者や受刑者も含まれている。警察および刑務所では特に精神疾患の治療が遅く、精神科の治療を提供するための手続きもなかった。福岡県弁護士会は、ある受刑者がカテーテルによる治療を拒否したにもかかわらず、刑務所の医務官がその使用を繰り返し強要したことに懸念を表明した。その受刑者はその後、カテーテル挿入に起因する尿路感染症にかかった。NGO、弁護士、医者は、警察が管理する留置場ならびに入国者収容施設における医療体制も批判した。入国者収容施設の衛生状態が悪いため、収容者が一般的な真菌感染症にかかった。
2009年末時点の受刑者数は7万5250人で、2008年からわずかに減少した。この数字には判決を受けた受刑者だけでなく、勾留されている被告人と被疑者も含まれており、そのうち女性は5212人、未成年者は38人であった。刑務所と収容施設で、受刑者は男女別々の施設に収容されていた。刑務所や通常の収容施設では未成年者は成人とは別に収容されていたが、入国者収容施設では未成年者を成人と別の施設に収容することを義務付ける規定はない。
NGOと外国の外交官は、起訴前の被勾留者が隔離されたまま、最長23日間勾留されることが日常的であり、その間弁護士、あるいは被勾留者が外国人の場合は自国の領事以外との面会が許されなかったと報告した。受刑者の面会はしばしば近親者に限られた。法律により刑務所内では、刑務所の管理の妨げにならない限り、さまざまな宗教上の儀式を行うことが認められている。刑務所は教誨師(きょうかいし)との面談も許可するよう義務付けられているが、面談の頻度と宗教の種類は刑務所によって大きく異なっていた。その結果、日常的に宗教上の儀式を行うことは保証されていなかった。また外国の外交官は、宗教上の会合に参加したいという一部の受刑者の要望を、グループの規模に制限があるとして、刑務官が繰り返し拒否したと述べた。
受刑者と被勾留者は検閲を受けることなく司法当局に苦情を申し立て、信頼に足る主張であれば非人道的な状況の調査を要求することが認められていたが、調査結果については、最終結論以外の詳細がほとんど書かれていない書簡が受刑者に送られただけだった。
受刑者と被勾留者を代理する行政監察官はいなかったが、刑事収容施設法令では法務省が管理する刑務所および拘置所と警察が管理する留置場を、独立性を持つ委員会が視察する旨、規定されている。委員には医師、弁護士、地方自治体職員、地域社会の代表、その他の地域住民が含まれていた。2009年4月から2010年3月までの会計年度に、委員会は合わせて194カ所の刑務所および収容施設(起訴前の収容施設を除く)を視察し、刑務官が同席せず756人の被収容者と面会した。委員会は刑務所および収容施設の長に603件の意見を提出したが、そのうち356件が実施済み、あるいは実施中であった。加えて、130件についてさらなる協議または再視察が必要とされ、117件が法務省に伝達された。
2009年の「出入国管理及び難民認定法」改正で、入国者収容施設に対する同様の独立した視察手続きが設置された。日本の52カ所の少年更正施設を監視する視察手続きはない。
2010年には、国際赤十字委員会は刑務所の視察を要求しなかった。
d. 恣意的逮捕または留置・勾留
法律により恣意的逮捕や留置・勾留は禁止されているが、NGOとジャーナリストは、大都市の警察が人種プロファイリングを用い、「外国人のように見える」人、特に肌が浅黒いアジア人やアフリカ系の人に理由なく嫌がらせをし、時には逮捕することもあったと主張した。これらの多くは、警察官が入国書類の提示を合法的に求めた事例だったが、中には警察署まで無理やり連行されて強制的に衣服を脱がされた男性もおり、外国人が警察に尿サンプルを提出するよう求められた事例も数件、新聞で報道された。
警察および治安維持機構
警察庁および地方警察に対する文民統制は効果的に行われた。日本政府は権利の乱用および汚職を効果的に捜査し処罰する制度を持っている。2010年には、治安部隊が関係する刑事免責の報告はなかった。しかし、一部のNGOは、地方の公安委員会が警察機関からの独立性に欠けている、または警察機関に対する十分な権限を持たないと批判した。
逮捕手続きと留置・勾留中の処遇
個人の逮捕は、正当な権限を持つ当局者が十分な証拠に基づいて発付した令状により公に行われ、被拘禁者は独立した司法制度により裁かれた。NGOによると、令状は高い頻度で発付され、証拠の根拠が薄弱であっても留置・勾留が行われることがあった。
法律により、被拘禁者には、その留置・勾留の合法性に関する迅速な司法決定を受ける権利が与えられており、当局は被拘禁者に対して、直ちに容疑を告知しなければならない。当局は通常、逮捕から72時間まで、警察が運営する留置場に被疑者の身柄を拘束することができる。裁判官は被疑者を面接してから、起訴前の勾留期間を10日間ずつ、最長20日間まで延長できる。検察官はこの延長を習慣的に申請し、許可を得た。暴動、外国からの侵略、騒乱などの例外的な犯罪の場合、検察官はさらに5日間の延長を申請できる。NGOは、延長が習慣的に認められるため、勾留の合法性に関する司法判断を迅速に下すという法の目的が損なわれていると指摘した。
刑事訴訟法により、被勾留者、その親族、または代理人は、裁判所に対して、起訴された被勾留者の保釈を請求することができる。しかし、警察の留置場または法務省が管理する拘置所に勾留されている、起訴前の被勾留者には保釈が認められていない。裁判官は習慣的に検察官の要求する勾留延長を認めるため、「代用監獄」として知られる起訴前の勾留は通常23日間続いた。起訴前に勾留されている被疑者は、尋問を受けることが法的に義務付けられているが、警察庁の指針により、尋問時間が1日最長8時間に制限され、夜通しの尋問は禁止されている。起訴前の被勾留者は、国選弁護士との少なくとも1回の接見を含め、弁護士と接見することができた。受刑者の権利擁護団体によると、実際にこうした接見には時間と回数の両面で引き続き改善が見られた。しかし、取り調べ中に弁護士が同席することは認められていない。親族と被勾留者との面会は通常許可されているが、その際には職員の立ち会いが要求された。 刑事訴訟法第81条により、被疑者が逃亡する、あるいは証拠を隠匿または隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合に限り、警察は被勾留者が弁護士以外の人物と面会することを禁止できる。薬物犯罪の容疑をかけられている被勾留者の大半を含む、多くの被勾留者は、起訴されるまで隔離されており、領事および弁護士との接見しか許されなかった。検察官は自己裁量で被疑者の自白を一部録音することができるが、NGOは、部分的かつ自由裁量による録音が誤解を招く可能性があると指摘した。警察内部の監督官が取り調べに同席することが増えているが、取り調べに対する独立した監視は行われていない。
e. 公正な公開裁判の拒否
法律により、独立した司法制度が規定されており、実際に日本政府は、全般的に司法の独立性を尊重した。日本は2009年から、重大な刑事事件に関して裁判員制度を開始した。NGOは裁判員制度により証拠開示手続きが改善されたと述べたが、裁判員が下す無罪判決を検察官が尊重するかという点についてはまだ懐疑的だった。裁判員裁判で全面無罪判決が下った最初の2件は控訴されたが、2010年末時点で裁判官による控訴審はまだ始まっていなかった。
審理手続き
法律により、すべての国民に公正な裁判を受ける権利が与えられており、また起訴された個人がそれぞれ独立した裁判所で公開裁判を受けること、弁護人を得られること、そして反対尋問の権利を与えられることが保証されている。被告は、法廷で有罪と証明されるまで推定無罪と見なされる。また被告は、自己に不利益な供述を強要されない。
国連拷問禁止委員会(CAT)、NGOおよび弁護士は、実際に被告が推定無罪とみなされているかどうかに疑問を呈した。NGOによると、起訴された被勾留者の大半は、警察に勾留されている間に自白した。被疑者が強制的に犯行を認めさせられることがないように、また被疑者が本人の自白のみを証拠に有罪判決を受けることがないようにするための保護手段が存在する。国家公安委員会は2009年に、警察官が被疑者に接触すること(やむをえない場合を除く)、物理的な力を行使すること、脅迫すること、被疑者に長時間一定の姿勢を取らせること、言葉で虐待すること、自白を引き出すために被疑者に好ましい申し出をすることを禁止する規則を施行した。被疑者の弁護士が取り調べに立ち会うことは認められていない。
NGOはこの新しい規則が適切に実施されておらず、被勾留者は引き続き8時間から12時間に及ぶ長時間の尋問を受け、その間ずっと手錠で椅子につながれたままであり、強引な尋問方法が用いられている、と報告した。NGOはまた、不正行為ではあるが、取調官が、被勾留者の自白と引き換えに保釈を申し出ることもあったと述べた。日本弁護士連合会によると、2009年4月から2010年3月の間に、尋問に関する指針に違反する事例についての報道が29件あった。勾留中の男性が9月に自分への取り調べの様子をひそかに録音し、その後検察に告訴した事件では、12月に大阪の警察官が脅迫罪で起訴された。
警察の留置場の使用は、被疑者が取調官の監督下に置かれることになるため、批判された。日本政府は、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」第16条により、留置業務と捜査業務は分離されている、と述べた。逮捕された被疑者の大部分が警察の留置場に送られ、法務省が管理する拘置所に収容された被疑者の割合はそれよりも大幅に少なかった。2009年には裁判所で審理された事件の99%以上で有罪判決が下された。独立した立場の法律学者は、日本の司法は自白を重視しすぎると主張したが、日本政府はこれに異議を唱えた。
警察での自白に基づいて有罪判決が下り、後に無罪であることが証明された複数の事例についてマスコミが報道した。7月には、「布川事件」で1967年に自白により殺人の有罪判決を受けた男性2人の再審が始まった。彼らは1996年に仮釈放されたが、自白は強要されたものだと主張し、無実を訴えてきた。警察による尋問の録音テープの改ざん等の新しい証拠が見つかり、最高裁判所は再審を決定した。審理は2010年12月10日に終了し、2011年3月に判決が下される予定であった。
一部の独立した立場の法律学者によると、審理手続きは検察側に有利となっているということだが、日本政府はこの見解に異議を唱えた。法律により、弁護士との接見が認められているにもかかわらず、かなりの数の被告が、弁護士との接見不足を報告した。法律では、被告側の弁護士が開示手続きの条件を満たすことができる場合を除いて、検察官による資料の全面開示を義務付けていない。このため実際には、検察側が裁判で使用しなかった資料が隠されることもあった。その結果、一部の被告の法定代理人は、警察の記録にある関連資料を入手できなかった、と主張した。一部の事例では、上訴に当たり、被告側弁護士は無罪を証明できる可能性のあるDNA鑑定の証拠を入手することができなかった。これらの事例で警察は、すべての証拠は一審での審理の後に破棄された、と回答した。被告側の弁護士への証拠の開示に関する政府の公式の立場は、DNA鑑定を含むいかなる証拠も、刑事訴訟法の開示手続きを踏むことで、「条件が満たされれば」開示できる、というものである。郵便不正事件で公務員が裁判にかけられた事件で、9月に大阪地方検察庁の主任検事が証拠改ざんの容疑で、また10月には同特捜部長および副部長が犯罪行為を隠ぺいした容疑で逮捕された。12月にはこのスキャンダルを受けて、検事総長が辞任した。
言葉の壁は外国人の被告にとって深刻な問題であった。裁判官、弁護士、および日本語を話せない被告との間で、効果的な意思疎通を確保するためのガイドラインはなかった。外国人被拘禁者の中には、適切に翻訳されておらず理解できない日本語の供述書に署名することを警察に強要されたと主張する者もいた。法廷通訳者になるための標準的な免許制度あるいは資格取得制度はない。翻訳や通訳なしでは裁判を進めることはできない、という日本政府の主張にもかかわらず、翻訳や通訳がない状態でも裁判は進行した。2010年警察白書によると、県の警察は、外国語の技能を持つ警察官またはその他の職員を、尋問の際の通訳者として利用できるようにした。
政治囚と政治的被拘禁者
政治囚または政治的被拘禁者が存在するとの報告はなかった。
民事司法手続きと救済
民事事件に関しては、独立した公正な司法制度がある。個人は、人権侵害に対する損害賠償、あるいは人権侵害の中止を求める訴訟を起すことができる。不正行為の申し立てに対しては、行政による救済措置と司法による救済措置の両方がある。
f. プライバシー、家族、家庭、または信書に対する恣意的な干渉
法律により上記のような行動は禁止されており、実際に日本政府は、全般的にこれを順守した。
第2部 市民の自由の尊重
a. 言論と報道の自由
法律により言論の自由と報道の自由が規定されており、実際に日本政府は、全般的にこうした権利を尊重した。独立した報道機関、効果的な司法制度、および機能する民主的政治制度が相まって、言論と報道の自由が確保された。
インターネットの自由
政府によるインターネットへのアクセス制限はなかった。また政府が電子メールまたはインターネット・チャットルームを監視したとの報告もなかった。個人および団体は、電子メールを含むインターネットを使って、平和的に意見を表明することができた。日本の人口の約78%がインターネットを利用した。
学問の自由と文化的行事
政府が学問の自由や文化的行事を制限することはなかった。文部科学省による歴史教科書検定、特に20世紀に関係する特定の題材の扱いが引き続き論争になった。教科書の執筆者の一部は、文部科学省が執筆者の意図した意味をゆがめるような形で文章を編集した、と非難した。国歌と国旗は、依然として論議の的となる象徴であった。2008年4月から2009年3月までの間に、69人の教員が国旗掲揚時に国歌を斉唱することを拒否して処分を受けた。
b. 平和的な集会および結社の自由
法律により集会と結社の自由が規定されており、実際に日本政府は、全般的にこれらの権利を尊重した。
c. 信仰の自由
信仰の自由に関する詳しい記述は、「信仰の自由に関する2010年国際報告書」を参照。
d. 移動の自由、国内避難民、難民保護および無国籍者
法律により、国内の移動の自由、外国旅行、移住、本国帰還の自由が規定されており、実際に日本政府は、全般的にこれらの権利を尊重した。日本政府は、国連難民高等弁務官事務所およびその他の人道支援組織と協力して、難民、亡命希望者、およびその他の関係者について保護と援助を行った。
法律により国外追放は許可されておらず、政府がこれを実行することもなかった。
難民の保護
日本の法律は、亡命者の保護あるいは難民の認定を規定しており、日本政府は難民を保護する制度を確立している。政府はまた、タイの難民キャンプで暮らしていたビルマ人の難民27人が参加する小規模の第三国定住プログラムを開始した。
実際に政府は、帰国した場合、人種、宗教、国籍、特定の社会グループの一員であること、または政治的見解を理由に、生命や自由が脅かされると考えられる国への国外退去あるいは送還から、難民をある程度保護した。政府はまた、難民と認定されない可能性のある個人に一時的な保護を提供した。2009年にこうした保護を受けた人は501人だった。
難民と亡命申請者は、難民審査参与員制度の下での異議申し立て審問への参加を弁護士に依頼することができた。しかし実際には、難民に対する法的支援が限られていることと、亡命問題に取り組む弁護士の数が少ないことから、難民や亡命申請者が法定代理人を得る機会は限定されていた。法務省が設立した日本司法支援センター(法テラス)で、亡命申請者と難民を含む外国人に無料の相談サービスが提供されたが、このセンター以外には、亡命申請者の弁護士費用を賄うための公的資金援助はなかった。資金を持たない亡命申請者のために働く弁護士は、日本弁護士連合会に資金援助を申請することができた。
国連のCAT、NGOおよび弁護士は、亡命申請が却下されてから強制送還されるまで、亡命申請者が無期限に、しばしば長期にわたり収容されていることを批判した。移民の人権に関する国連特別報告官は、亡命申請者などの非正規移民を長期間、時には3年もの間収容するという政策について懸念を表明した。NGOは、亡命申請の拒絶理由の説明が不十分なため、異議申し立てが難しくなっていると考えた。2010年には仮放免が認められなかった亡命申請者が、自殺、自殺未遂、ハンガーストライキを行った事例が相次いだ。法務省は2010年に、亡命申請手続きを簡素化して申請者が収容される時間を短縮するプログラムを実施した。このプログラムでは、収容されている全ての亡命申請者の案件を四半期ごとに調査し、一次審査の決定は申請から6カ月以内に下さなければならないと規定している。このプログラムにより、収容されている亡命申請者の数は近年で最も低い水準になった。
国連人種差別撤廃委員会(CERD)は、一部の国からの亡命申請者が優遇される一方で、その他の国からの申請者が危険の及ぶ可能性がある場所に強制送還されることもあったと報告した。
難民申請者は、一定の条件を満たさない限り、通常働くことが認められなかった。難民申請者が就業する法的権利を得るには、その人が困窮しており、政府のシェルターまたはNGOの支援に完全に依存していなければならない。当面の間、政府が出資する財団である難民事業本部が、少額の給付金を支給する。しかし申請者数の増加に伴い予算が不足し、給付条件が厳しくなったため、多くの申請者が給付を受けられなかった。
難民は、他の外国人と同様、住居、教育、雇用の機会を制限される差別を受けた。上記の条件を満たす人を除き、難民認定が未決、または異議申し立て手続き中の人は、就業したり社会福祉を受ける法的権利がなく、過密状態の政府のシェルターや、労働法の監督対象にならない違法な雇用、またはNGOの援助に頼るしかなかった。
第3部 政治的権利の尊重――国民が政府を変える権利
法律により、平和的に政府を変える権利が国民に与えられており、日本国民は、普通選挙権に基づいて定期的に行われる自由かつ公正な選挙を通じて、この権利を行使した。
選挙と政治参加
7月に参議院選挙が行われ、民主党率いる連立政権が衆参両院で多数派を占める状態が終わった。自由かつ公正な選挙が行われたと見なされた。政党は制約または外部からの干渉を受けることなく活動した。
衆議院では480議席中52議席、参議院では242議席中44議席を女性議員が占めた。2010年末時点で女性知事が3人いた。18人の閣僚のうち2人が女性であった。民族に基づくマイノリティーの中には複数の民族の血を引いている人もおり、またマイノリティーであることを自ら明らかにしないため、民族に基づくマイノリティーの中で国会議員となった人の数を把握するのは難しかった。3人の国会議員が帰化して日本国民となったことを認めた。
第4部 政府の汚職と透明性
法律により、公務員の汚職には刑事罰が規定されており、日本政府は全般的に法律を効果的に執行した。独立した立場の学識経験者は、政・官・財のつながりは密接であり、汚職は依然として懸念される問題だと述べた。2010年の上半期に、警察庁は20件の贈収賄事件と4件の談合事件で逮捕者が出たと報告した。小沢一郎・元民主党幹事長の起訴を求める検察審査会の決定など、著名な政治家および公務員が関与した財務会計に関する不祥事の捜査がたびたび報道された。9月には、鈴木宗男衆議院議員に対する収賄の有罪判決が確定し、2年間の懲役のため収監された。2009年に始まった鳩山由紀夫首相(当時)の政治資金虚偽記載問題に関する捜査の結果、4月に鳩山氏の側近に有罪判決が下された。鳩山氏は不起訴となった。
政治家に財務情報開示を義務付ける法律は存在するが、取り締まりは十分に行われていない。
一般市民には、政府の情報を入手する法的な権利がある。政府が情報公開の合法的な要請を拒否したり、情報入手のために法外な料金を課したとの報告はなかった。
第5部 人権侵害の疑いに対する国際機関および非政府機関の調査に対する政府の姿勢
国内外の多くの人権団体は、全般的に、政府による制約を受けずに活動し、人権侵害の事例について調査し、調査結果を公表した。政府関係者は、全般的に協力的であり、こうした団体の見解に対応した。
日本政府は国際政府機関と協力し、国際移住機関や国際労働機関など国連その他の国際政府機関の代表の訪問を許可した。
人権団体は、日本には独立した国の人権機関がまだ設立されていないこと、既存の人権委員会が法務省に報告していることを指摘した。国のレベルで行政監察機関が存在しなかった。国会には公式の人権委員会はなかったが、死刑廃止など人権関連問題を扱う非公式のグループが存在した。
第6部 差別、社会的虐待、人身売買
法律により、人種、性別、障害、言語、および社会的地位に基づく差別は禁止されている。政府は全般的にこれらの規定を執行したが、女性、民族に基づくマイノリティー、および外国人に対する差別の問題は残っている。
女性
法律により、配偶者間の場合も含め、女性に対するあらゆる形の強姦が犯罪とされており、政府は全般的に、この法律を効果的に執行した。警察庁の統計によると、2009年に報告された女性と少女に対する強姦事件の件数は1402件、2010年上半期は571件であった。2009年に検察が起訴した強姦事件は662件だった。多くの警察署には、秘密を守って被害者の女性を支援するための女性職員がいた。
女性に対する配偶者からの暴力は法律で禁止されているが、依然として問題であった。法務省の統計によると、2009年には「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」に基づき、70人が起訴された。地方裁判所は、脅迫あるいは虐待を受けている配偶者と20歳未満の子どもを保護するため、配偶者からの暴力の加害者に6カ月間の接近禁止を命ずる保護命令を出すことができ、違反者には懲役1年以下または100万円(約1万2150ドル)以下の罰金を科すことができる。2009年に、裁判所は3087件の保護命令申請のうち2411件を受理した。このうち526件が申請取り下げとなり、150件が却下された。この法律は、内縁関係にある者や離婚している者にも適用されるが、虐待の被害者の親せきや暴力で脅された者にも適用される。警察庁の統計によれば、2009年に報告された配偶者からの暴力件数は2万8158件で、女性が全被害者の98%以上を占めた。配偶者暴力相談支援センターは、2009年の相談件数は7万2792件であり、女性が被害者であった事例が全体の99%以上を占めたと報告した。
職場におけるセクハラはまだ広範囲に見られた。3月までの12カ月間に厚生労働省が受けたセクハラの相談件数は1万1898件に上り、そのうち60%超が女性労働者からの相談だった。法律では、セクハラ防止を怠った企業名を明らかにする措置が規定されているが、違反した企業の名前を公表する以外には、順守させるための懲罰的措置はない。政府は、都道府県の労働局雇用均等室にホットラインを設置し、セクハラに関する相談に対処し、可能な場合は紛争を仲裁する義務を課した。
歴代の日本の政治指導者による謝罪にもかかわらず、多数のNGOが、「慰安婦」(第2次世界大戦中に売春を強要された被害者)に対する日本の謝罪と補償が不十分であると引き続き批判した。日本政府は、政府が発足させた民間基金を通じて補償金を支払い、反省の意を表明し、被害者に謝罪した。
夫婦と個人は、自由に、かつ責任を持って、子どもの数、年齢差、出産のタイミングを決めることができた。また差別や暴力を受けたり、強制されることなく、こうした決定を下すための情報と手段を得ていた。女性は避妊法と妊産婦医療サービスを利用することができ、出産時には、不可欠な産科治療や分娩後のケアなどを含む、熟練した看護を受けることができた。2008年の妊産婦死亡率は、出産数10万件に対して6.8件であった。男性も女性も、HIVを含む性感染症の診断と治療を平等に受けることができた。
法律により性差別は禁止され、全般的に女性には男性と同じ権利が与えられている。内閣府の男女共同参画局は引き続き、男女共同参画に関する政策を検討し、その進捗状況を監視した。同局の「2010年版男女共同参画白書」は、男女共同参画社会基本法施行から10年以上たった今も、女性の社会参加は依然として不十分であると結論づけ、働く女性に加えて男性や専業主婦に働きかける男女共同参画の意識改革を求めた。
雇用における不平等は依然として社会に残っていた。女性は全労働力の41.9%を占めており、その比率は2009年と変わらなかった。女性の平均月給は22万6100円(約2750ドル)で、男性の平均月給(33万3700円または4050ドル)の約3分の2にとどまった。女性の管理職は全体の10.7%に過ぎず、雇用されている女性の70%が第一子の出産後に退職した。
2009年8月に、国連女子差別撤廃委員会は、日本の性差別撤廃措置を実施する努力が不十分であるとし、民法における差別的な条項、労働市場での女性に対する不平等な扱い、選挙で選ばれた高位の議員の中に女性が少ないことを指摘した。同委員会は日本に、女性にのみ適用される、民法の離婚後6カ月間の再婚禁止規定の廃止、選択的夫婦別姓制度の採用、非嫡出子を差別する民法および戸籍法の条項の撤廃を要請した。日本政府は、こうした懸念事項の一部に対処する国籍法と民法の改正点を挙げた。その中には姓の選択の問題を解決する措置、夫の年金に対する妻の権利の確立、子どもの親権問題での女性に対する法的保護の向上などが含まれていた。
子ども
国籍法では、子どもの父親が日本人でその子の母親と結婚しているか、子どもを認知している場合、子どもの母親が日本人である場合、または子どもが日本で生まれ、その両親が不明あるいは両親に国籍がない場合に、生まれた子どもに日本国籍を認めている。
児童虐待の報告件数は増加を続けた。2009年4月から2010年3月までの間、親あるいは保護者による児童虐待の可能性があると全国児童相談所に報告された事例は4万4210件に上り、前年度と比べて1500件以上増加した。警察庁によると、2009年には335件の児童虐待の事例で逮捕者が出た。親や保護者による虐待によって死亡した子どもは28人だった。子どもの安全をより確実に確保するため、地方自治体は、虐待が疑われる親または保護者を児童福祉職員が面接し、必要に応じて支援を提供することを義務付けた。必要な場合には、虐待が疑われる家庭を立ち入り調査しなければならないが、その際には警察が援助する。法律により、児童福祉当局には、虐待する親が子どもと面会すること、あるいは連絡を取ることを禁止する権限が与えられている。また法律により、しつけの名目での虐待が禁じられているほか、疑わしい状況に気づいたものは誰であろうと、全国各地にある児童相談所または地方自治体の福祉事務所に報告することが義務付けられている。
児童買春は違法であり、法律に違反した者は、あっせん業者や勧誘業者を含め、3年以下の懲役もしくは100万円(1万2150ドル)以下の罰金に処せられる。しかし「援助交際」や、出会い系サイト、ソーシャル・ネットワーキング、「デリバリー・ヘルス」のサイトを使ってのあっせんが容易であることから、事実上の国内児童買春ツアーが問題となった。法定強姦に関する法律がある。性的同意年齢は管轄区域によって異なり、13歳から18歳までと幅がある。法定強姦をした者は、2年以下の懲役に処せられる。
日本は依然として、児童ポルノの製造および取引の国際的な拠点であった。児童ポルノの配布は違法であり、3年以下の懲役もしくは300万円(約3万6460ドル)以下の罰金に処せられる。児童ポルノの配布は違法だが、法律では、幼い子どもに対する残酷な性的虐待を描写している場合が多い児童ポルノの単純所持を処罰化していない。このため現行の児童ポルノ処罰法の効果的な執行や、この分野における国際的な法執行への参加に向けた警察の取り組みが引き続き妨げられているが、児童ポルノの捜査件数は2009年に40%増加して935件となった。7月に発表された新たな対策には、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)による児童ポルノが掲載されているウェブサイトに対する閲覧防止措置(ブロッキング)の自主的導入の促進、外国の警察との連携強化、捜査人員の増強が含まれていた。これらの対策は、現行の法律を変えずに児童ポルノ問題に取り組むために策定された。しかし子どもの権利擁護団体は、このブロッキング対策がISPや携帯電話のデータサービス・プロバイダーに児童ポルノの画像のブロッキングを義務付けておらず、実際には法律により、プロバイダーによるインターネット利用者のアクセスの検閲が禁止されているとして、この対策を批判した。
またこの対策は、性描写が露骨なアニメ、マンガ、ゲームが自由に入手できるという問題に対処していない。警察庁はこれらのアニメ映像と子どもへの性的虐待の関連性は証明されていないと主張したが、この状況が子どもに対する性的虐待を容認する文化をつくり出し、子どもに害を及ぼすと示唆する専門家もいた。
日本は「1980年国際的な子の奪取の民事面に関する条約(ハーグ条約)」を批准していない。親による国際的な子どもの連れ去りに関する情報は、ハーグ条約の順守状況に関する国務省の年次報告書と、国別情報を参照。
反ユダヤ主義
日本国内のユダヤ人の人口は約2000人である。反ユダヤ主義の活動は報告されなかった。
人身売買
人身売買に関する情報は、国務省の「人身売買年次報告書」を参照。
障害者
法律により、雇用、教育、および医療において身体障害者や精神障害者に対する差別は禁止されており、日本政府は全般的にこれらの規定を執行した。しかし、日本弁護士連合会は、差別が定義されていないため、司法的救済による法的強制力を持たないと抗議した。2009年12月に政府は、国連の「障害者の権利に関する条約」を批准するため、国内法整備に向けて障がい者制度改革推進会議を設置した。
障害者は、全般的に、雇用、教育、またはその他の公共サービスにおいて公然と差別されることはなかったが、実際には、こうしたサービスの利用は制限されていた。
法律により、政府および民間企業は、障害者(精神障害者を含む)を一定の比率以上雇用することが義務付けられている。従業員300人以上の民間企業がこれを順守しなかった場合は、法定雇用数に足りない障害者1人当たり毎月5万円(約600ドル)の罰金を支払わなければならない。政府による障害者雇用は最低基準を超えていた。厚生労働省のデータによると、民間部門の障害者雇用は過去数年間で増加が見られたものの、公共部門に遅れを取っていた。従業員数が56人より多い民間企業を対象にした2009年の調査では、従業員の1.6%が障害者であることがわかった。
公共施設の新たな建設プロジェクトでは、障害者のための設備を整備することがアクセサビリティに関する法律で義務付けられている。また政府は、病院、劇場、ホテル、およびその他の公共施設の経営者が、障害者用の設備を改善または設置する場合には、低金利の融資および税控除を受けることを認めている。
NGOによると、住所不定と見なされたことが理由で、老齢年金、障害者年金、および生活保護手当てを受給できないホームレスの数は推定2万人であった。社会福祉制度による保護が十分でないこと、そしてホームレスであることで社会的な汚名を着せられていることを理由に、かなりの数の高齢者とホームレスの人々が、刑務所に入って食料とシェルターを得るために軽犯罪に及んだ、とNGOは報告した。調査によると、一部の刑務所では、累犯者の最高60%を精神障害者が占める可能性が示された。また調査では、累犯者の中で、社会福祉サービスを受けていないホームレスの人々が大きな割合を占めることも示された。警察および刑務所では特に精神疾患の治療が遅く、精神科の治療を提供するための手続きもなかった。
NGOと医師によると、精神障害者は汚名を着せられ、教育と就職でも障害に直面した。精神衛生の専門家は、精神障害の汚名を軽減し、うつ病やその他の精神疾患は治療可能な、生物学に基づく疾患であることを一般の人々に知らしめる努力が十分になされていないと述べた。
国籍・人種・民族に基づくマイノリティー
民族に基づくマイノリティーは、その程度はさまざまであるが社会的差別を受けた。およそ300万人いる部落民(封建時代に「社会的に疎外された者」の子孫)は、政府による差別は受けていないが、根深い社会的差別の被害者となることが多かった。国連のCERDと部落民の権利擁護団体は、多くの部落民が社会経済的状況の改善を実現したにもかかわらず、雇用、結婚、住居、不動産価値評価の面での差別が横行している状況が続いたと報告した。公式に部落民というレッテルを貼って部落出身者を識別することはもうないが、戸籍制度を利用して部落民を識別し差別的行為を促すことが可能である。部落民の権利擁護団体は、就職希望者の身元調査のため戸籍情報の提出を求める多くの政府機関も含め、雇用者が戸籍情報を使って部落出身の就職希望者を識別・差別する可能性がある、と懸念を表明した。
日本に住む大勢の韓国・朝鮮人、中国人、ブラジル人、およびフィリピン人の永住者は、その多くが日本で生まれ育ち、教育を受けていたが、差別に対する法的な保護措置があるにもかかわらず、住居、教育、医療、および雇用の機会の制限など、さまざまな形で根深い社会的差別を受けた。日本に住むその他の外国人居住者や、「外国人のように見える」日本国民も似たような差別を報告しており、さらにホテルや温泉など一般の人々にサービスを提供している民間施設への入場を、時には「日本人限定」と書かれた看板によって禁じられた、と述べた。NGOは、差別が通常あからさまで直接的であると指摘して、差別の禁止に向け政府が何の措置も取らないことを批判した。
旧社会保険庁の通達により、外国人語学教師の場合には、日本人の語学教師と比較し、雇用者が年金と健康保険料の雇用者負担分の支払いを避けることが明らかに容易になっていた。教師の労働組合は、この通達によって、不法に外国人教師を社会保障システムに参加させなくても雇用者は責任を問われないと述べた。
多くの外国人の大学教授、特に女性の教授が、終身在職権を得る可能性がない短期契約で雇用されたと不満を述べた。
日本国民の間で、「外国人」(その多くは日本で生まれた民族に基づくマイノリティー)が犯罪のほとんどを起こしているとの認識が広がっていた。法務省の統計によると、入国管理法違反を除外すると、外国人の犯罪率は日本国民の犯罪率より低いにもかかわらず、マスコミが日本人以外の犯罪を過度に報道してこのような認識を助長した。帰化した日本国民を含む長期の外国人居住者は、特に警察から標的とされたと報告した。
多くの移住者は、帰化を阻む障害の克服に苦労した。そうした障害には、審査を行う担当官に広範な自由裁量が認められていること、日本語の能力が極めて重視されることなどがある。日本に5年間継続して居住した外国人は、帰化および国籍取得の申請資格を与えられる。また、帰化手続きには厳しい身元調査が必要であり、申請者の経済状態や社会への適応状況なども調査される。日本政府は、この帰化手続きは、外国人が社会にスムーズに同化できるようにするために必要であると主張した。
日本にいる約60万人の韓国・朝鮮人が永住権を持っていたり、日本に帰化していた。一般的に、社会がこうした人々を受け入れる状況は着実に改善されつつあった。2009年には、前年比で微増の7639人の韓国・朝鮮人が日本に帰化申請した。申請の大多数が許可された。帰化しないことを選択した韓国・朝鮮人は、市民的および政治的権利の面で困難に直面した。
一部の民族学校の代表は、自らの学校を教育機関として認定し、その高校の卒業生に大学や専門学校の入学試験受験資格を認めるよう、引き続き政府に求めた。文部科学省は、国際的な評価団体によって日本の小・中・高12年間の学校制度と同等と認定された民族学校の卒業生は、大学あるいは専門学校の入学試験を受けることができると述べた。
2010年には、外国人や日本生まれの民族に基づくマイノリティーに対する、移民排斥主義団体による嫌がらせがますます活発になった。8月には、京都朝鮮第一初級学校で児童に対し言葉による嫌がらせなどの示威運動を行った4人の外国人排斥団体のメンバーが逮捕された。
先住民
アイヌは他のすべての国民と同じ権利を享受したが、明らかにアイヌであると識別されると差別を受けた。1997年に制定されたアイヌ文化振興法は、アイヌ文化の保存を重視しているが、土地の所有権、国会と地方議会でのアイヌへの議席の割り当て、アイヌ民族に対する政府の謝罪など、一部のアイヌ団体が要求していた条項は含まれていない。
国連人権委員会は2008年、日本政府に報告書を提出し、アイヌと琉球民(沖縄と鹿児島県の一部の住民を指す言葉)の両方を先住民族として認定し、それらの文化や伝統の保護・振興を支援するよう勧告した。日本政府は「琉球民」を先住民族と認定していないが、彼らの独自の文化と歴史を認め、その伝統を保存し尊重する努力をしてきた、と回答した。
その他の社会的虐待、差別、性的指向および性同一性に基づく暴力行為
性的指向に基づく差別を防ぐ国の法律はないが、地方自治体の一部は、性的指向に基づく雇用差別を禁止する条例を制定した。ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、およびトランスジェンダーの人々を擁護するNGOは、いじめ、嫌がらせ、および暴力行為の事例を何件か報告した。
その他の社会的暴力または差別
HIV・エイズ感染者に対する社会的暴力や差別の報告はなかった。
第7部 労働者の権利
a. 結社の自由
法律は、労働者が事前認可あるいは過度の要件なしに、組合を結成し、自分が選んだ組合に所属することを認めており、日本政府は同法を効果的に執行した。労働組合は、政府の統制や影響を受けなかった。しかし、これとは別の法律により、公務員の基本的な労働組合権は制約されており、組合結成には実質的に事前認可が要求されている。2009年には、全労働人口の約18.1%に当たる1000万人強が労働組合に所属していた。農業、林業、水産業分野では、労働人口の約2.7%に当たる1万5000人が組合に所属していた。
公務員および公共企業体の従業員を除き、労働組合が干渉されることなく活動することは法律により認められており、日本政府はこの権利を保護した。労働基準法違反の事例がしばしば見受けられた短期雇用契約の増加は、正規雇用の妨げになったばかりでなく、団結活動を妨げるものでもあった。
民間部門の組合にはストライキをする権利があり、労働者は実際にこの権利を行使した。しかし、発電および送電、運輸および鉄道、通信、医療および公衆衛生、郵便などの必要不可欠なサービスを提供する部門の労働者は、ストライキの10日前までに当局に通知しなければならない。公共部門の職員にはストライキをする権利がないが、公共部門職員の団体に参加することができ、こうした団体が公共部門の雇用者と賃金、労働時間、その他の雇用条件について包括的に交渉することができる。団体交渉協定を結ぶことはできない。
b. 団結権と団体交渉権
団体交渉権は法律により保護されており、自由に行使された。しかし、27万6345人の公務員および必要不可欠なサービスを提供する251万5728人の労働者(全労働人口6270万人のうち約4.5%)には、この権利が付与されていない。全労働者の約3分の1は非常勤または非正規雇用であり、団体交渉のために組合に参加することが難しいと感じた。さらに、法人格の形態を変更して持ち株会社制度に移行する企業が増加した。法律的には雇用者と見なされない投資信託「会社」も、より大きな役割を果たしているように見えた。企業形態の変化に加えて労働市場でも、企業活動に影響を及ぼす変化があった。その結果、団体交渉権を享受することができない労働者の割合がかなり高かった。
組合に対する差別、またはその他の形での雇用者による組合活動に対する干渉は報告されなかった。
日本には輸出加工区はない。
c. 強制労働の禁止
法律により強制労働は禁止されているが、強制労働が行われたという報告が複数あった。日本に不法入国した労働者やビザの期限が切れたまま不法滞在した労働者には、賃金不払いや低賃金を含む強制労働の危険があった。一部の企業は、外国人研修生・技能実習生制度を使って外国人研修生を違法に残業させ、手当てを払わず、移動や外部との連絡を制限し、渡航書類を取り上げて、給料を企業が管理する銀行口座に強制的に入金させた。日本の法律や法務省のガイドラインでは、こういった慣行を禁止している。労働基準監督署は、職場が労働関連法に従っているかどうかを監視した。同監督署の通常の対応は警告や勧告を出すことであり、最も深刻な事例を除き、通常は法的手段に訴えることはなかった。
国務省の「人身売買年次報告書」を参照。
d. 児童就労の禁止と雇用の最低年齢制限
法律により職場における子どもの搾取は禁止されており、厚生労働省は法律を効果的に執行した。法律により、15歳から18歳の子どもは、危険な、あるいは有害と指定される仕事でなければ、いかなる仕事にも従事することができる。13歳から15歳までの子どもは「軽労働」であれば従事でき、13歳未満の子どもでも芸能界であれば働くことができる。人身売買および児童ポルノの被害者以外では、児童就労は問題にならなかった。
国務省の「人身売買年次報告書」を参照。
e. 許容される労働条件
法律改正により最低賃金が引き上げられ、10月24日から実施された。都道府県により、最低賃金は時給643円(約7.81ドル)から821円(約9.98ドル)まで幅があった。同じく法律改正により、最低賃金を支払わなかった雇用者に対する罰金額が50万円(約6080ドル)に引き上げられた。最低賃金の日給は、労働者とその家族がある程度の生活水準を維持するのに十分であった。
法律により、ほとんどの産業で労働時間は週40時間と規定されており、週40時間、または1日8時間を超えて働いた場合には、割増賃金を支払うことが義務付けられている。しかし、公務員を含め労働者が日常的に、法律で定められた労働時間を超えて働いていたことは、広く認められていた。労働組合は、政府が労働時間制限の執行を怠っている、と批判することが多かった。2009年4月から2010年3月までの間に、厚生労働省に過労死(働き過ぎによる死)の認定を求める遺族からの申請が768件あった。厚生労働省が2010年に過労死の被害者であると公式に認定したのは293人だった。労働者の権利を擁護するNGOは、実際にはその数はもっと多く、2010年に発生した3万1560件の自殺の多くは、働き過ぎやその他の労働条件が一因だったと主張した。
経済協力開発機構によると、日本の雇用者は、労働法による労働者の保護を回避するため、正社員よりも非常勤の短期契約社員、または非正規労働者を雇用した。こうした労働者は労働力の3分の1を占め、低賃金で働き、多くの場合、正規雇用の労働者より雇用の安定性や福利厚生が少なく、時には労働条件も不安定だった。2010年にその多くが民間部門の人員削減のために仕事を失った。また短期契約を繰り返し更新したことで、雇用者は自分たちを正社員として雇用する義務が生じたと主張して賠償金を求める労働者もいた。他の団体は、規制が変更され、この種の労働が認められるまで、労働システムは硬直しすぎていた、と主張した。2008年改正労働者派遣法の規定された目標のひとつは、大半が女性である非常勤労働者に、賃金・研修面で正社員と平等な待遇を提供する、というものであった。しかし、その対象となるためには、非常勤労働者は、業務内容、残業、転勤の面で正社員と同等でなければならない。実際には、このような要件を満たすのは、非常勤労働者のわずか4~5%にすぎなかった。
権利擁護団体は、日本語や日本における法的権利をほとんど、または全く知らないことが多い違法に働く外国人労働者を、雇用者が搾取していると報告した。法律により、学生は週28時間しか働くことができない。しかし、その大半を中国人が占める外国人留学生、特に私費留学生は、2つか3つの低賃金の仕事を掛け持ちしており、その結果、程度の差はあるものの睡眠不足であり、それに伴い、けがや病気の危険が高まっていた。
移民の人権に関する国連特別報告官とNGOは、国際援助の一翼を担うという目的が明示されているにもかかわらず、外国人研修生・技能実習生制度が外国人労働者の搾取を促すように作られている、と報告した。こうした研修生の大多数は中国人であり、この研修制度への参加申請のために中国人ブローカーに1400ドルを超える手数料を支払い、日本への出発前に最高で4000ドルの保証金を預け、時には自宅を担保にしなければならない。労働者の権利擁護団体によると、労働者が待遇の悪さを報告したり研修を早く切り上げると、ブローカーがそれらの資産を差し押さえるという。2010年に日本政府は省令により、研修制度への参加申込者に保証金を求めたり、参加者に罰金を課す行為を禁止した。雇用者の違反に対処するため、研修制度を規制する法律が改正され、政府は2010年に法の執行を強化したが、告発した被害者を罰する制度であったため、多くの企業が、安価な、規制されていない労働力を得るために研修制度を利用する状況が続いた。
一部の企業では、研修生が時間外手当無しで残業させられ、最低賃金を下回る給料しかもらっていない、という報告があった。さらに、「強制預金」は違法であるにもかかわらず、研修生の給料は企業が管理する銀行口座に自動的に入金された。NGOによると、研修生は渡航書類を取り上げられ、「逃亡しないように、また外部と許可なく連絡を取らないように」行動が制限される場合もあった。2009年に法務省は、外国人研修生を受け入れた360の企業その他の組織が、不正行為に関わっていたことを確認した。そのうちおよそ80%が、賃金や残業手当ての不払いや、研修生を労働者として他の会社で働かせることを含む、労働関連法違反であった。不正行為と認められた444件のうち、123件が労働関係法および規則の違反であった。外国人労働者を支援するNGOと労働組合は、企業における外国人労働者の待遇は全く改善されていない、と指摘した。国際研修協力機構の調査によると、2009年4月から2010年3月までの間に死亡した研修生は27人で、そのうち9人が、長時間労働が原因となることが多い脳疾患と心臓病で死亡した。また3人の研修生が自殺した。11月19日、労働基準監督署は、2008年に死亡したある研修生が過労死だったと公式に認めた。死亡した31歳の中国人研修生が働いていた会社は、タイムカードに記載されたわずかな残業時間しか報告していなかったが、労働基準監督署は、その研修生は死亡する前の12カ月間、平均して週80時間働いていたと結論づけた。その会社は刑事事件の取り調べを受けた。
1月に熊本地方裁判所は、外国人研修生の仲介機関と研修を行った縫製会社に対し、4人の中国人研修生への損害賠償として440万円(約5万3480ドル)の支払いを命じ、縫製会社にはこれに加え、未払い賃金1280万円(約15万5560ドル)の支払いも命じた。数件の類似の訴訟ではまだ判決が下っていなかった。
政府が、労働安全・衛生基準を設定する。厚生労働省は、労働安全・衛生に関する各種の法律・規則を効果的に実施した。労働基準監督官は安全でない操業を直ちに停止させる権限を有し、また法の規定に基づき、労働者は、雇用の継続を脅かされることなく職業安全について懸念を表明し、安全ではない労働環境から離れることができる。2009年に労働基準監督官は、4万8448件の申告を処理し、14万6860カ所の事業所を視察し、4553カ所の事業所に事業停止命令を出し、労働安全・衛生に関する問題点を正した。また1110件を検察に送致した。