「アジア太平洋地域の繁栄の原則」--在香港米国商工会議所におけるクリントン国務長官の演説(抜粋)
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
シャングリラ・ホテル、香港
2011年7月25日
本日私はここで、この地域の国々と米国が、自国、相互、そして世界のために、いかに経済協力を強化できるか、また世界中の人々のための繁栄と可能性に満ちた未来の実現に向け、力を合わせいかに取り組むべきかについてお話ししたいと思います。
しかし今後共に進むべき道について話す前に、これまでの成果を振り返ってみましょう。アジア太平洋地域の経済的台頭は、現在、そして将来にわたり世界を変化させる、驚くべき歴史的偉業です。これだけ大勢の人たちが、こんなにも速く、これほどの大きな発展を遂げた例は、歴史上ありません。
こうした発展はアジアの人々自身の努力と創意によるところが大きいのですが、私たち米国人も、この地域の繁栄促進に果たした役割を誇りとしています。米国は今後も、アジアの主要な貿易・投資のパートナーとして、またアジアの企業にとって役立つイノベーションを生み出し、毎年35万人のアジア人留学生を受け入れる国として、そして開かれた市場を推進し、普遍的な人権を擁護し、アジア太平洋地域全体の安定と安全を保障する国として、アジアの成長への貢献を続けていきます。
こうした取り組みは、現在のアジアの状況に対する私たちの楽観的な見方と熱意を反映しています。確かにこの地域の国々はいずれも、さまざまな課題に取り組んでいます。しかし私たちはアジアの将来を楽観視しています。米国も困難に直面していますが、これだけは確かです。私たちは米国の将来についても楽観的です。
米国は今も「機会に満ちた社会」です。活躍の場所であり、大学の寮の一室で生まれた素晴らしいアイデアや、ガレージで発明された製品が世界市場を開拓し、数十億ドル規模の企業に成長できる可能性と流動性を持つ国です。
今回のアジア歴訪では、米国は債務の上限引き上げ問題をどのように解決するのか、多くの人から尋ねられました。現在ワシントンでは激しい政治論争が行われていますが、こうした論争は、米国の歴史を通じて常に存在し続けてきたわが国の政治の一要素です。しかし開かれた民主的な社会は、こうした論争を通じ最終的には協力し、正しい解決策を導き出すのです。ですから私は、連邦議会が正しいことをする、つまり債務の上限引き上げ問題について合意し、オバマ大統領と協力して米国の長期的な財政見通しの改善に向けた措置を取ると確信しています。
米国は景気回復と成長を追求し、経済を外交政策の優先事項のひとつとしています。なぜなら経済的発展が強力な外交関係によって、そして外交面での発展が強力な経済関係によって左右される傾向がますます強くなっているからです。当然ながら米国の経済外交の大部分は、東アジア・太平洋よ地域に重点を置いています。米国の将来はこの地域の将来と緊密に結び付いています。逆もまた真実であり、アジア太平洋地域の将来も米国の将来と結び付いています。米国はアジアの大国のひとつとして存在しています。外交あるいは軍事上の大国であるだけでなくアジアの経済大国でもあり、今後もアジアに存在し続けます。
繁栄は生まれながらの権利ではなく達成された成果です。私たちが繁栄という成果を達成できるかどうかは、現代を特徴づける問題に私たちがどう対処するかにかかっています。それは、この地域での1世代にわたる成長をいかに1世紀に及ぶ共通の繁栄に変えていくかという問題です。
私たちは目の前にある最も緊急性のある課題から始めなければなりません。それは世界的な金融危機後の各国経済の再編です。これは世界規模の経済成長に向け、よりバランスの取れた戦略の遂行を意味します。米国は貯蓄を増やし支出を減らすだけでなく、債務も減らさなければなりません。米国のパートナー諸国は、こうした変化に対応し自らも変化する必要があります。他に道はありません。長期的な成長には、貯蓄率の高い今日のアジア諸国におけるより強い、より幅広い分野での内需が必要です。
何よりも、今後の経済関係の指針となる規則や原則について合意しなければなりません。3月にワシントンで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)関連の会合で、私は健全な経済競争を示す4つの特徴を挙げました。開放性、自由、透明性、公正というこれらの原則は非常に簡単な概念ですが、言うのは易しくても実行が難しいものです。
第一に、どこの誰でもあらゆる市場に参加できる開放されたシステムを追求する必要があります。
第二に、アイデア、情報、製品、そして資本の流れが、不要な、あるいは不当な障壁により妨げられない、自由なシステムを追求する必要があります。
第三に、透明な経済システムを追求する必要があります。規則や規制は利害関係者との開かれた協議で策定する必要があります。そうした規則や規制はあらゆる人に周知され、誰にでも平等に適用されなければなりません。
開放性、自由、透明性は第4の原則、つまり公正さの実現に寄与します。公正さによりシステムに対する信頼を維持できます。企業が外国市場へ参入する、あるいは外国市場で事業を拡大するために知的財産権の放棄を強要されたり、不可欠なサプライチェーンが遮断されればシステムに対する信頼を維持することは困難です。
米国がこの4つの原則を強く信じているのは、繁栄の時代だけでなく苦難の時代にもその価値が繰り返し証明されてきたからです。ベトナム戦争が終わった時、米国経済の衰退について世界中で盛んに論じられました。これは数十年ごとに繰り返し論じられるテーマのようです。しかし、これまでずっと、昔も今も、この4つの原則が起業家精神とイノベーションに満ちたシステムを育んできたのであり、そのシステムがあればこそ、2人の大学生がマイクロソフトという小さなハイテク企業を設立することも可能だったのです。
米国も含め、これら4つの原則を守るという点で完璧な国はありません。私たちは皆、その原則を曲げようとする誘惑を認識しています。そうすることで短期的な利益を得ている国もあります。開発途上国の中には、貧困との戦いに称賛に値するほど重点的に取り組んでいるのですが、自分たちが外国から恩恵を受ける規則を自国ではなかなか実施しない国もあるかもしれません。国の総計では裕福であっても国民1人当たりでは貧しい多くの国々は、こうした規則が自国には適用されないと考えることさえあるかもしれません。
実際には開放的で自由、透明かつ公正な競争から恩恵を受けるすべての人々は規則の順守に死活的な利害関係を持ち、また順守する責任があります。世界の商業活動の多くが開発途上国との間で営まれるため、規則に基づくシステムから途上国を除外すればシステムは機能せず、最終的には皆が貧困に陥ります。
4つの原則について話し、受け入れるのは簡単ですが、これらの原則は自動的に実施されるわけではありません。これらの原則の実施が常に私たちの課題です。米国はそのために鋭意努力しており、他国の政府にもこの取り組みへの参加を働きかけています。
米国は国際機関や地域機関、新たな貿易協定、新たなパートナー諸国への働きかけを通じ、世界中で4つの原則を推進する措置を取り、包括的で持続可能な成長を追求する活動への協力をあらゆる国に呼びかけています。こうした措置は米国経済の再活性化の取り組みと結びつき、また取り組みの上に築き上げられています。
世界貿易機関(WTO)が1990年代に有害な関税を廃止したように、私たちは今日、国営企業の活動の一部から国内の新たな貿易障壁まで、新しい課題に対する解決策を提供できる機関を必要としています。
また私たちは、新たな懸念事項に対処する規範や規則を策定する革新的なパートナーシップも支援しています。基本とすべきモデルは、政府系ファンド(SWF)に関するサンティアゴ原則です。これはSWF保有国政府、投資受入国政府、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、そしてSWF自身が合同で交渉し取り決めました。SWFに関する慣行に適用されるこの行動規範は、SWF保有国、投資受入国、民間部門などの利害関係者に安心感を与えています。また国営企業に民間企業と同じ条件で競争させるなど、その他の共通の課題でも手本となる可能性があります。
私たちは新たな市場を開くと同時に公正競争の基準を引き上げる、新たな最先端の貿易協定を実現しようとしています。米韓自由貿易協定(KORUS)の恩恵は経済面だけではありません。なぜならこの協定は効果的な戦略手段のひとつだからです。また米国と韓国が経済・外交面でも、国民のレベルでも長期的なパートナーであると示唆しています。オバマ大統領はKORUSと必要な貿易調整支援について、できる限り早期に議会の承認を得ようとしています。私たちはKORUSが模範的な協定であると考えています。
私たちは11月のAPEC首脳会議までには、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の概略を完成させたいと考えています。この協定は、先進国か途上国かを問わず太平洋地域全域の国々を集結させ、ひとつの貿易共同体をつくり上げるからです。TPPには労働者、環境、知的財産権、そしてイノベーションを保護する厳しい規定が必要です。また情報技術の自由な流れと環境保全技術の普及に加え、規制制度の一貫性とサプライチェーンの効率性を促進する必要もあります。TPPが意図しているのは、多国間の自由貿易に関する新たな高い基準の設定と、新しい市場への参入を保証することで各国が基準を引き上げTPPへ参加するよう奨励することです。
私たちは民間部門からの支援を期待しています。私たちは現代の金融慣行や見通しという制約の中でも、短期的な利益だけでなく長期的な影響も考慮しようと努力する必要があります。皆さん一人一人のビジネス活動は、人々の生活水準の引き上げ、人権と人間の尊厳を推進し、新たな市場の創出により、好循環の実現に役立てることができます。そうしなければ人々をさらなる貧困と環境の悪化という状況に陥れ、悪循環を招く恐れがあります。
この指針はアジア、米国、そしてビジネスにとって役立ちます。そして最も重要なことですが、人々にとって役立つのです。そして今後の21世紀において、平和な、安定した、繁栄する世界の実現に貢献すると私は固く信じています。