ルース駐日大使:「ジェンダー暴力の根絶を」

*以下は、2011年12月8日付毎日新聞朝刊6面に掲載されたルース大使の寄稿を、同新聞社の許可を得て転載したものです。

 米国のジョン・ルース駐日大使が毎日新聞に寄稿し、ジェンダーによる暴力の根絶に向け、国際社会が取り組みを強化する必要性を訴えた。

 「ジェンダー暴力と闘う16日間キャンペーン」が11月25日の「女性に対する暴力撤廃国際デー」から12月10日の「世界人権デー」まで実施されている。私たちはジェンダーによる犯罪の加害者に立ち向かい、暴力を防止するために決意を新たにしなければならない。

 女児の堕胎、教育を受ける機会や栄養摂取の制限から、児童婚、近親相姦(そうかん)、「名誉の殺人」まで、ジェンダーによる暴力は人生のどの段階でも女性や少女にとって脅威となり得る。花嫁の持参金絡みの殺人や配偶者の暴力、性的暴行(配偶者からの暴行を含む)、性的搾取や虐待、人身売買、夫を亡くした女性に対する無視や追放といった形を取ることもある。世界中で3人に1人の女性が生涯に何らかの形でジェンダーによる暴力を経験する。この比率が70%に達する国もある。

 女性と少女が軽視され、弱い立場に置かれるのは彼女たちの地位の低さが原因であり、私たちは世界各地でこの状況を改めなければならない。暴力に立ち向かって防止し、性差に関する考え方を正し、地域社会と政府の指導者の責任と義務を拡大し、うまく機能している効果的な取り組みを広める--。そのためには男性や少年も関与させる必要がある。

 ジェンダーによる暴力は女性だけの問題ではない。性別や年齢を問わず全ての人々の幸福に悪影響を及ぼす。女性や少女が不当な扱いを受ける時は経済が悪影響を受け、収入は減少し、家族は飢える。子どもは悲劇的な暴力の連鎖を生む行動に染まりながら育つ。

 身体的暴力は性と生殖に関する健康の問題、流産、HIV(エイズウイルス)をはじめとする性感染症など、女性が深刻な健康状態に陥るリスクを大幅に高める。妊産婦死亡率、子どもの健康不良や疾病率と暴力の間には強い因果関係がある。

 女性に対する暴力行為の防止および訴追には当初は費用がかさむかもしれないが、長期的には大きな利益をもたらす。米国では「女性に対する暴力防止法」により、女性への暴力という犯罪を捜査し、訴追する取り組みを強化した結果、これまでに推定160億ドル以上を節約した。

 だが、このような大きな進展にもかかわらず、配偶者からの暴力は今も深刻な問題だ。オバマ大統領は先ごろ、この重要課題に現政権が取り組むことを改めて約束した。

 日本では01年の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)」の施行以来、配偶者からの暴力に対する認識が高まり、被害者の保護が強化された。勇気ある非営利組織(NPO)や政府職員がホットラインで1日24時間相談を受け付け、被害者を支援してきたことは、力強い希望のメッセージを被害者に送るとともに、日本では女性や少女を虐待する者は必ず罰せられるという厳しい警告にもなっている。

 女性と少女が権利を得て、教育、医療、雇用、政治参加での機会均等が実現されれば、彼女たちは自らの家庭、地域社会、さらには国の状況を改善し、変化をもたらす。クリントン国務長官が先ごろ述べたように、「世界中の女性と少女の可能性に対する投資は、世界中の女性だけでなく男性にとっても、世界経済の発展、政治的安定、より大きな繁栄を実現する最も確実な方法のひとつ」なのである。【原文は英語。日本語訳は在日米国大使館提供】