ウェンディ・カトラー米国通商代表補の冒頭発言――APCAC 2012米国アジア・ビジネスサミットのパネルディスカッション「TPPとアジア太平洋地域における貿易構築の展望」

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2012年3月1日、東京

(司会のメラニー・ブロック氏による紹介に続いて)

 メラニーさん、ありがとうございます。本日はこの場に参加でき大変光栄に思っています。数分前にメラニーさんに初めてお目にかかり、オーストラリア産牛肉の素晴らしさを教えてもらいました。私が米国産牛肉が、いかに安全でおいしいか、しかお話しできないこともご存じでした。米国商工会議所と米国商工会議所アジア太平洋協会(APCAC)から、本日ここで講演する機会をいただいたことに深く感謝します。米国通商代表部(USTR)で勤務してきた20年余りの間、私はアジア各国の米国商工会議所と共に仕事をしてきました。皆さんの見識や助言を高く評価するとともに、注意を向ける必要がある問題を指摘いただくことをありがたく思ってきました。本日はこの場に参加でき、とても光栄に感じています。この地域の米国商工会議所から、当初より大きな支援をいただいてきた分野のひとつに米韓自由貿易協定(KORUS)があります。こうした支援は在韓米国商工会議所だけでなく、この地域の全ての米国商工会議所から受けたものです。皆さんは早くからこの協定の重要性や、この地域にとっての意義、そしてこの協定の締結・実施が貿易相手国としての米国の信頼性に及ぼす影響を認識していました。

 本日ご報告したいことがあります――私はこの時をおよそ6年間も待っていました。KORUSが2週間後に発効します。

 ここに至るまで長い道のりがありましたが、両国がこの協定から得る大きな利益を考えればその価値はあります。

 さて本日のテーマに移りましょう。日本にいるほとんどの皆さんが関心を持っていると思われる、あるいは少なくとも私をつかまえて話をしようとする皆さんが関心を持っているテーマ――環太平洋パートナーシップ協定(TPP)です。

 TPPが高い関心を呼び、既にこの地域に大きな影響を及ぼしていることは間違いありません。ここ日本においては、特にこの影響が感じられます。本日、大変多くの皆さんにお集まりいただいていること自体が、TPPへの関心の高さの表れだと思います。

 日本ではTPP参加の是非に関し、活発な議論が行われていると言っていいと思います。このような議論は日本がアジア太平洋経済協力会議(APEC)を主催した年(2010年)に始まり、日本が関係国との協議入りに関心を持っていることを昨年11月11日に野田首相が表明した後さらに活発になりました。正確に言えば野田首相は「TPP交渉参加に向けて(協議に入る)」と言いました。

 ここ数週間の日本の新聞を読んだだけでも、(TPP関連の)記事や社説の多さに非常に驚きました。今回の会議のために日本を訪れている多くの皆さんもおそらくお気づきと思います。日本の皆さんが自問し、議論している多くの疑問点は、私たちの多くにとっても、2国間の自由貿易協定(FTA)や、TPPのような地域のFTAへの参加の是非について決断を下さなければならなかったどの国にとっても、なじみのあるものです。

 こうした疑問点の例を挙げてみます。


• 参加すると、自国にどのような影響が出るのか。
• 参加しないと、自国にどのような影響が出るのか。
• 参加すると、自国の経済、国民、生活水準にどのような影響が出るのか。
• 参加すると、アジア太平洋地域や世界における自国の立場や他国との関係にどのような影響が出るのか。

 本日お集まりいただいた多くの皆さんは、TPPの概要についてよくご存じだと思います。TPPの交渉に入り、交渉が進展するに際し、(各国の)米国商工会議所からいただく支援、助言、情報に深く感謝しています。 

 私が今日ここでお話しする間にも、TPP第11回交渉会合がオーストラリアのメルボルンで始まり、各国の交渉担当者が集まって20を超える分野で協議を続けています。

 本日はTPPに関する米国と日本との協議という視点から、お話ししたいと思います。日本で議論となっているいくつかの疑問点に関する米国の見方を提示し、TPPが追求していることと追求していないことを明らかにすることにより、この活発な議論に貢献するとともに、米国がTPPに対する日本の関心を真剣に受け止め、国内の協議手続きを開始したことを、その理由も含め説明したいと思います。

TPPについて

 はじめにTPPそのものについて少しお話ししたいと思います。TPPについて一つだけ知るべきことがあるとすれば、それはTPPが非常に高い基準の協定であるこということです。包括的な関税の撤廃のみならず、非関税措置、知的財産権の保護とエンフォースメント、サービスと投資、労働や環境面の規律などの分野にも取り組んでいます。 

 さらにTPPは、これまで拘束力のある貿易協定で取り扱われることのなかった、各国経済が直面する新たな喫緊の問題にも対応しています。私たちはこれらの問題を21世紀の課題と呼んでいます。実はこれらの課題の多くについては、ここにいらっしゃる多くの皆さんから注意を喚起されてきました。なぜなら皆さんこそ、この地域でビジネスをしている方々だからです。規制の統一、サプライチェーン、FTAを中小企業にとって魅力的なものとする方法など、私たちはこうした課題をTPPの議題に加えてきました。 

 私たちはTPPをいわゆる「オープン・プラットフォーム」の協定にしようとしています。つまり高い基準の協定の順守を約束すれば、他のアジア太平洋地域の国・地域も交渉に参加できるようにしています。これはTPPの重要な特徴のひとつです。 

 TPPは「スパゲッティーボウル」または「ヌードルボウル」と呼ばれた、複数の協定が入り組んだようなシステムからの決別であり、この地域のさまざまな国で事業を営む企業にとってより好都合な、より統合されたシステムへ向かっています。

 ここでTPPは米国がつくり出した協定ではないことを確認しておきたいと思います。実際には何年も前に、P4諸国と呼ばれるアジア太平洋地域の4カ国が始めたものです。ここにいる皆さんがP4諸国とはどの国かご存じかどうか分かりませんが、念のため申し上げますと、シンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイの4カ国です。

 米国は2年程前に(TPPに)参加しました。その決定に至るまでに、参加した場合の利点について米国内で詳細に議論し、現在の日本と同じように、反対派や懐疑的な意見にも直面しました。  

 これらの懸念を全て考慮した上で、オバマ政権は(TPPに)参加し、高い基準の協定を追求する他の諸国との地域的な取り決めの作成に携わることが、米国の国益になるという判断を下しました。

 米国の参加により、この地域的な貿易交渉への関心と重要性が高まったことに疑問の余地はありません。同様にもし日本が参加すれば、この交渉(への関心と重要性)はさらに高まり、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を実現するための最も期待できる手段になる可能性がさらに大きくなるでしょう。

 日本の経済規模が非常に大きいことから、(日本が参加すれば)TPPは強化されるでしょう。日本の国内総生産(GDP)は、米国を除く他の8つのTPP参加国のGDPの合計の約2.5倍です。また日本は既に他のTPP参加国との間で緊密な貿易関係を築いています。米国と日本の2国間貿易額は、米国と他の8つのTPP参加国との貿易額の合計より2500億ドル以上大きくなっています。

 これら全てを勘案すれば、TPPへの参加制度が機能するためには、両国が適正な評価を行い、互いの期待する点、優先順位および懸念について十分に理解することに加え、国内で広く協議し、この取り組みについて国内の支持を取り付けることが重要です。現在私たちはこうした作業に取り組んでいるところです。 

 昨年11月11日に野田首相が日本のTPP交渉参加に対する関心を表明した直後、オバマ大統領は私の上司であるカーク米国通商代表に、国内の協議手続きを開始するよう指示しました。ホノルルから帰国してすぐに、私たちはこの手続きを開始しました。国内の協議手続きの目的は、日本にTPPに参加する用意ができているかの評価です。

 この用意には2つの側面があると思います。まず日本がTPP協定の高い基準に従って行動し、これを順守する用意ができているかを評価しています。日本だけでなく、他のFTAやTPPの参加国についても同様の評価をしてきました。その際、交渉中の問題をひとつずつ検証し、新しい参加国も共有する必要があるさまざまな義務について、何を期待するかを伝えました。

 同時に私たちは、日本に特定の問題および懸念分野に対処する用意があるかも検討しています。この点は重要です。なぜなら長年にわたる2国間の懸案事項を解決し、あるいは解決へ向けた道筋を開くことにより、交渉で他の課題を重点的に議論できるようになると思うからです。こうした姿勢には困難な課題に立ち向かう国の決意、政治的な意思、取り組みも表れます。

 評価への参考とするため、私たちは利害関係者や連邦議会の議員とも会い、彼らの意見や情報の提供を求めてきました。連邦官報(Federal Register)に公告を出し、100件を超えるコメントを受け取りました。

 2009年から開始したKORUSの手続き(の経験)から、今の段階で時間を割いて利害関係者に会いに行き、彼らの懸念を理解し、彼らと向き合うことが、長い目で見れば有意義であることを学びました。 

 そしてKORUSについては、この協定が超党派の強い支持を得て昨年10月に連邦議会を通過した際に、こうした手続きが真に有意義なものであることが分かりました。

 私たちは日本との協議も開始し、先月(2012年2月)2回の会合を持ちました。2月7日に外務省の担当者がTPPについて協議するため、関係省庁の代表で構成されるチームを率いてワシントンへやってきました。米国側は日本に国内の協議手続きの進行状況や、利害関係者の意見を説明しました。日本側からも同様に、日本国内の手続きについて進行状況の説明がありました。

 そしてつい先週、各分野の専門家から成るチームが(日本から)2日間の会合のためにワシントンを訪れました。会合では各分野のTPP交渉担当者と会い、それぞれの分野で期待されている点を明確に理解するため、問題をひとつずつ議論しました。

 具体的な日程は決定していませんが、今後もこうした協議を継続する予定です。

 日本のTPPへの参加については、他のTPP参加国の場合と同様、米国が決定するのではなく、TPPの全参加国の総意を得る必要があります。他のTPP参加国も日本の参加申し入れを真剣に検討しています。  

 米国の国内手続きが他のTPP参加国より多少入念なことは確かですが、米国が多くの点がでやるべきことが他の国よりもたくさんあるのは、他の多くのTPP参加国と異なり、現在米国は日本との間に自由貿易協定を結んでいないからです。

 TPPの参加国が個別に意思決定した後に、参加国全体の判断が下されます。 

 先ほど申し上げたように、こうした手続きが現在進行している一方で、私たちがここで議論している間もTPP交渉がメルボルンで続いています。ホノルルでの機運に乗じ、できるだけ迅速な進展を図るため、定期的な会合が開かれる予定です。 

 はっきり申し上げておきますが、現在2つの手続きが同時に進行しています。TPP交渉がそのひとつであり、日本の評価は別の手続きで進んでいます。ある時点でこれら2つの手続きは統合されるでしょう。その時期は、日本と米国が協力し、日本がTPP交渉に参加する用意ができていると私たちが確信を持てるようになるまでにかかる時間によって決まります。

 以上の全ての点に関し、手続きを進めるには内容が伴わなければならないことをはっきり申し上げたいと思います。これは単に決定の日を選ぶという問題ではなく、私たちが確実に宿題をしなければならないということです。適正な評価を行い、互いが何を期待しているかを明確に理解し、懸念に対処する有意義な措置を取り、成功すると強く確信しなければなりません。 

 こうした作業の全てを通じ、私たちが取り組んでいる仕事には画期的なものとなる可能性があること、そしてTPPが追求していることと追求していないことを常に心に留めておく必要があります。
 
 これから説明することは、米国商工会議所の皆さんというよりは、日本の友人そして日本の報道関係者に対するものです。まずTPPが追求していないことを明らかにし、その後TPPが追求していることを明らかにしたいと思います。

• TPPは日本、またはその他のいかなる国についても、医療保険制度を民営化するよう強要するものではありません。

• TPPはいわゆる「混合」診療を含め、公的医療保険制度外の診療を認めるよう求めるものではありません。

• TPPは学校で英語の使用を義務付けるよう各国に求めるものではありません。

• TPPは非熟練労働者のTPP参加国への受け入れを求めるものではありません。

• TPPは他国の専門資格を承認するよう各国に求めるものではありません。

 次にTPPが追求していることをお話しします。TPPとは、他の手本となる高い基準を設定した、野心的で包括的な貿易協定をまとめ上げるという共通の目的の下、アジア太平洋地域の諸国が協力して取り組んでいるものです。

 TPPは21世紀の貿易ルールづくりにおいて最前線にあります。

 TPPは各国の競争力を強化し、雇用の創出と維持を支え、生活水準の向上を推進し、子どもたちのために各国の経済を将来に備えさせようとしています。

 最後に日本のTPPへの参加の見通しについて申し上げます。日本の参加は重要であり、歴史的な意味を持つとともに、率直なところ、とても楽しみです。

 しかしそう申し上げた上でお伝えしますが、日本のTPP参加は、日本のみならず、米国そして他のTPP参加国にとっても大きな課題を提示することになります。私たちはこうした課題に正面から対処する準備を整える必要があります。それにより、皆さんが事業を展開するこの活力に満ちた地域において、将来的にどのような形で経済統合が実現するかを方向づけ、明らかにする機会を私たちは得ることができます。

 ありがとうございました。