2011年国別人権報告書――日本に関する部分
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
米国国務省民主主義・人権・労働局
2012年5月24日発表
日本
エグゼクティブ・サマリー
日本は議院内閣制を採用する立憲君主制国家である。民主党代表である野田佳彦首相の統治する権限は、日本国憲法に由来する。2010年7月の参議院選挙は自由かつ公正な選挙とみなされた。治安部隊は文民当局の監督下にあった。
主な人権問題には、起訴前の被勾留者に対する適正手続きの欠如、子どもの搾取、ならびに雇用における女性に対する差別のほか、非嫡出子、民族に基づくマイノリティー、障害者、および永住者を含む外国人に対する社会的差別などがあった。
その他の人権問題としては、刑務所および収容施設の状況、検察官による不正行為、報道機関による自己検閲、女性に対する配偶者からの暴力およびセクハラ(性的嫌がらせ)、汚職、人身売買、ならびに外国人研修生の搾取などがあった。
政府は人権侵害を禁止する法律を執行し、侵害行為を行った政府職員を訴追した。
第1部 個人の人格の尊重(以下の状況からの自由)
a. 恣意的または違法な人命のはく奪
政府またはその職員による、恣意的、または違法な人命はく奪は報告されなかった。
b. 失跡
政治的動機に基づく失跡の報告はなかった。
c. 拷問およびその他の残酷、非人道的、または屈辱を与えるような処遇または処罰
法律はこのような行為を禁止しており、実際に日本政府は、全般的にこれらの規定を順守した。
12月27日、受刑者の患者に暴行したとして処分を受けた岡崎医療刑務所の刑務官が辞職した。報道によると、この刑務官は、受刑者が薬の服用を拒んだため、受刑者をつかみ、蹴り、スリッパでたたいた。
8月5日、2010年3月に強制送還の途中に力ずくで拘束され、死亡したガーナ人男性の妻と母親が、日本政府を提訴した。司法解剖では死因を特定できず、身体的危害が加えられた形跡もないとのことだったが、この男性の妻は、身元確認の際に遺体にあざがあるのを見たと述べた。また入国管理局職員は国会で、このガーナ人男性はタオルで猿ぐつわをかけられ、10人の入管職員によって無理やり席に座らせられたと証言した。警察は2010年に入管職員を千葉地方検察庁に書類送検したが、2011年末時点で起訴された者はいない。
日本政府は依然として、死刑囚に対し、死刑執行日に関する情報を事前に提供せず、死刑囚の親族に対しては、死刑執行後、その事実を告知した。政府は、この方針は受刑者に自分の死期を知る苦しみを与えないためであると主張した。 権威ある心理学者の中には、この主張に同意する者も、異議を唱える者もいた。
少年犯罪者を収容する矯正施設において在院者を虐待したとして、2010年に4人の法務教官が有罪判決を言い渡され、その後、他の施設でも虐待があったとの申し立てがあったことを受け、日本政府は、全国の52カ所の少年院で中級管理職員を対象に、人権に関する研修を実施したと報告した。
2011年には、自衛隊での新入隊員へのしごき、いじめ、セクハラが引き続き問題として報告された。入手した情報によれば、自衛隊上層部は問題行為を行った隊員を処罰した。
刑務所および収容施設の状況
刑務所の状況は、全般的に国際基準に合致したものであったが、いくつかの施設では定員超過で、単独室の受刑者への飲料水の提供が十分でなかったり、冬季の暖房または夏季の冷房の不備が見られた。一部の施設では、受刑者を寒さから守るための衣類や毛布が十分に与えられていなかった。ほとんどの刑務所は、冬季に夜間気温が氷点下まで下がっても暖房を入れなかったため、受刑者は多岐にわたる予防可能な寒冷傷害にかかった。2011年、東京の外国人受刑者は、寒さに長期間さらされたためにさまざまな程度のしもやけができた手足の指を、面会した外交官に見せた。9月8日、神戸地方裁判所は、2006年に神戸拘置所に勾留されていた男性が拘置所内で死亡し、遺族が凍死したと主張していた訴訟で、この男性に対し医療措置を取らなかった拘置所の過失を認め、日本政府に対し、この男性の遺族に4300万円(約55万8000ドル)の支払いを命じた。
信頼できる非政府組織(NGO)は引き続き、刑務所の管理部門が、最長3カ月だが、必要と認められる場合に1カ月ごとの更新が可能とされる単独室収容に関する規則を、日常的に乱用していると報告した。刑務所側は、単独室収容は、定員いっぱい、あるいは超過状態にある刑務所内の秩序を維持するために重要であると述べた。あるNGOは、2010年の2件の死亡事件を受け、職員が単独室に収容されている病気の被拘禁者のニーズにより敏感になったと指摘した。
当局は死刑囚について、親族、弁護士、およびそれ以外の人々との面会を認めたが、死刑執行まで平均約8年間、単独室に収容したと報告された。アムネスティ・インターナショナル(AI)の3月の報告によると、こうした死刑囚の中には、何十年も単独室に収容されている人がいた。AIはまた、多くの死刑囚が隔離された結果、精神に異常をきたすようになったと結論づけたが、当局が死刑囚の精神的健康状態の記録の請求を即座に却下したため、独立した判断を下すことはできなかった。法律では受刑者の心神喪失を刑の執行の停止要因と定めているが、日本政府はこれまでにそのような事例はないと報告した。
信頼できるNGOと外国の外交官の報告によると、一部の施設では食料や医療処置が依然として不十分であった。外国の外交官は、刑務所の食事が不十分なため、筋肉量の低下を含む受刑者の体重が大幅に減少している事例を多数確認した。医療処置が遅れたり不十分であった事例が文書に記録されており、その中には既存の疾患がある被拘禁者や受刑者も含まれていた。警察および刑務所では特に精神疾患の治療が遅く、精神科の治療を提供するための手続きがない状態が続いた。NGO、弁護士、医師は、警察が管理する留置場ならびに入国者収容施設における医療体制も批判した。入国者収容施設の衛生状態が悪いため、収容者は依然として一般的な真菌感染症にかかった。安全な飲料水と衛生への人権に関する国連特別報告官は、2010年7月の訪問調査に関する7月4日の報告の中で、保護室における受刑者の衛生状態に懸念を表明した。
10月の時点の受刑者数は7万624人で、2010年からわずかに減少した。この数字には判決を受けた受刑者だけでなく、勾留されている被告と被疑者も含まれており、そのうち女性は5330人、未成年者は29人であった。刑務所と収容施設で、受刑者は男女別々の施設に収容されていた。全国の受刑者数は国の施設の収容可能人数である9万182人(2010年)を大幅に下回ったものの、13の刑務所では定員超過となった。判決を受けた女性受刑者の数は全国の収容可能人数の120%以上となり、最も過密な状態に置かれた。刑務所や通常の収容施設では未成年者は成人とは別に収容されていたが、入国者収容施設では未成年者を成人と別の施設に収容することを義務付ける規定はない。日本政府は定員超過が問題であると認識し、2007年から2010年までの間に収容能力をおよそ7400人分拡大した。
信頼できるNGOと外国の外交官は2011年を通じて、起訴前の被勾留者が隔離されたまま、最長23日間勾留されることが日常的であり、その間弁護人、あるいは被勾留者が外国人の場合は自国の領事以外との面会が許されなかったと報告した。当局はしばしば、受刑者の面会を近親者に制限した。法律により刑務所内では、刑務所の管理の妨げにならない限り、さまざまな宗教上の儀式を行うことが認められている。刑務所は教誨師(きょうかいし)との面談も許可するよう義務付けられているが、面談の頻度と宗教の種類は刑務所によって大きく異なっていた。その結果、日常的に宗教上の儀式を行うことは保証されていなかった。また外国の外交官は、宗教上の会合に参加したいという一部の受刑者の要望を、グループの規模に制限があるとして、刑務官が繰り返し拒否したと述べた。
当局は受刑者と被勾留者が検閲を受けることなく司法当局に苦情を申し立て、信頼に足る主張であれば非人道的な状況の調査を要求することを認めていたが、調査結果については、最終結論以外の詳細がほとんど書かれていない書簡を受刑者に送っただけだった。通常、初犯の非暴力犯の場合は、代替刑や執行猶予が適用された。
刑事収容施設法令では法務省が管理する刑務所および拘置所と警察が管理する留置場を、独立性を持つ委員会が視察する旨、規定されているが、受刑者と被勾留者を代理する行政監察官はいなかった。医師、弁護士、地方自治体職員、地域社会の代表、その他の地域住民で構成されるこの委員会は、2011年に視察と面会を行い、意見を提出した。
法律により入国者収容施設に対する同様の視察手続きが設置されているが、完全に独立した手続きではなかった。国内外のNGOおよび国際機関は2011年を通じ、この手続きが刑務所の視察にかかる国際的な基準を満たしていないと指摘し、その理由として法務省が視察委員会の全支援業務を担当していること、被収容者との面接時に法務省の通訳を使うこと、同じ施設を繰り返し訪問しないこと、収容施設職員が面接を受ける被収容者を選抜できること、そして被収容者が委員会に苦情を提出する鍵の掛けられた提案箱に法務省の職員がアクセスできることを挙げた。
日本の52カ所の少年矯正施設を監視する視察手続きはない。
2011年には、国際赤十字委員会は刑務所の視察を要求しなかった。
d. 恣意的逮捕または留置・勾留
法律により恣意的逮捕や留置・勾留は禁止されているが、信頼できるNGOとジャーナリストは引き続き、大都市の警察が人種プロファイリングを用い、「外国人のように見える」人、特に肌が浅黒いアジア人やアフリカ系の人に理由なく嫌がらせをし、時には逮捕することもあったと主張した。
警察および治安維持機構の役割
国務大臣がその長を務める政府機関である国家公安委員会が警察庁を管理し、都道府県公安委員会が地方警察に対し責任を負う。日本政府は権利の乱用および汚職を効果的に捜査し、処罰する制度を持っている。2011年には、治安部隊に関係する刑事免責の報告はなかった。しかし、一部のNGOは、地方の公安委員会が警察機関からの独立性に欠けている、または警察機関に対する十分な権限を持たないと批判した。
逮捕手続きと留置・勾留中の処遇
当局は、正当な権限を持つ当局者が十分な証拠に基づいて発付した令状により公に個人を逮捕し、被拘禁者を独立した司法制度の下で裁いた。信頼できるNGOによると、令状は高い頻度で発付され、証拠の根拠が薄弱であっても留置・勾留が行われることがあった。
法律は、たとえ同じ組織が捜査業務と留置業務の両方について責任を負う場合であっても、この2つの業務を分離すると規定しているが、警察の管理する留置場を使用することで、被疑者は取調官の監督下に置かれた。逮捕された被疑者の大部分が警察の留置場に送られ、法務省が管理する拘置所に収容された被疑者の割合はそれよりも大幅に少なかった。
法律により、被拘禁者には、その留置・勾留の合法性に関する迅速な司法決定を受ける権利が与えられており、当局は被拘禁者に対して、直ちに容疑を告知しなければならない。しかし実際には、起訴されることなく最長23日間にわたり身柄を拘束される場合が多かった。
法律により、被勾留者、その親族、または代理人は、裁判所に対して、起訴された被勾留者の保釈を請求することができる。しかし、警察の留置場または法務省が管理する拘置所に勾留されている起訴前の被勾留者には、保釈が認められていない。信頼できるNGOはまた、不正行為ではあるが、取調官が被勾留者に対し、自白と引き換えに保釈を申し出ることもあったと述べた。
起訴前に勾留されている被疑者は、取り調べを受けることが法的に義務付けられているが、警察庁の指針により、取り調べ時間は1日最長8時間に制限され、夜通しの取り調べは禁止されている。起訴前の被勾留者は、国選弁護人との少なくとも1回の接見を含め、弁護人と接見することができた。受刑者の権利擁護団体によると、実際にこうした接見については、2011年に時間と回数の両面で引き続き改善が見られた。しかし、取り調べ中に弁護人が同席することは認められていない。
親族と被勾留者との面会は通常許可されているが、その際には職員の立ち会いが要求された。法律により、被疑者が逃亡する、あるいは証拠を隠匿または隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合に限り、警察は被勾留者が弁護人以外の人物と面会することを禁止できる。薬物犯罪の容疑をかけられている被勾留者の大半を含む、多くの被勾留者は、起訴されるまで隔離されており、領事および弁護人との接見しか許されなかった。
検察官は自己裁量で被疑者の自白を一部録音・録画することができるが、権威あるNGOは、部分的かつ自由裁量による録音・録画が誤解を招く可能性があると指摘した。警察内部の監督官が取り調べに同席することが増えているが、独立した監視は行われていない。取り調べに弁護人を同席させるべきという国連拷問禁止委員会の2007年の勧告に対して、日本政府は7月、弁護人の同席により取調官が被疑者から迅速に真実の供述を得ることが阻害されるおそれがあると回答した。
国家公安委員会の規則は、警察官が被疑者に接触すること(やむをえない場合を除く)、物理的な力を行使すること、脅迫すること、被疑者に長時間一定の姿勢を取らせること、言葉で虐待すること、自白を引き出すために被疑者に好ましい申し出をすることを禁止している。しかし、信頼できるNGOによれば、この規則は適切に実施されず、当局は依然として被勾留者に対し8時間から12時間に及ぶ取り調べを行い、その間ずっと被勾留者を手錠で椅子につないだままにし、強引な尋問方法を用いた。
警察庁は3月24日、取り調べに関する指針に違反している可能性がある30件について、再検討したと発表した(ただし検討結果の公表はない)。警察庁はまた、同じ期間に、取り調べに関する苦情を474件受けたと述べた。4月、裁判所は、2010年9月に勾留中の男性が警察での取り調べの様子をひそかに録音し、その後検察に告訴した事件で、大阪の警察官、高橋和也被告に対し、脅迫罪で罰金30万円(約3900ドル)の有罪判決を言い渡した。全都道府県が取り調べの一部の録音・録画の試行を実施している。一部の県は取り調べの全過程の録音・録画の試行を開始した。
起訴前の勾留
当局は通常、逮捕から72時間まで、警察が運営する留置場に被疑者の身柄を拘束することができる。法律では、起訴前の勾留は、ある人物が罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があり、かつ証拠の隠匿もしくは隠滅、または逃亡のおそれがある場合に限られるが、実際には習慣的に行われている。裁判官は逮捕から72時間が経過する時点で被疑者を面接した後、起訴前の勾留期間を10日間ずつ、最長20日間まで延長できる。検察官はこの延長を習慣的に請求し、許可を得た。暴動、外国からの侵略、騒乱などの例外的な事案の場合、検察官はさらに5日間の延長を請求できる。裁判官は習慣的に検察官の勾留延長請求を認めるため、「代用監獄」として知られる起訴前の勾留は通常23日間続いた。2011年の被勾留者のほとんど全ては、代用監獄に勾留された。
e. 公正な公開裁判の拒否
法律により、独立した司法制度が規定されており、実際に日本政府は、全般的に司法の独立性を尊重した。
審理手続き
法律により、全ての国民に公正な裁判を受ける権利が与えられており、また起訴された個人がそれぞれ独立した裁判所で公開裁判を受けること、弁護人を得ること、そして反対尋問の権利を与えられることが保証されている。重大な刑事事件に関しては裁判員制度が置かれている。被告は、法廷で有罪と証明されるまで推定無罪と見なされる。また被告は、自己に不利益な供述を強要されない。
権威あるNGOおよび法律家は、実際に被告が推定無罪と見なされているかどうかについて、引き続き疑問を呈した。日本政府は国連拷問禁止委員会に対する7月の回答の中で、主に自白に基づいて有罪判決が下されているのではないとし、取り調べに関する指針により被疑者が罪の自白を強要されることのないよう保証していると主張したが、NGOによると、起訴された被勾留者の大半は、警察に勾留されている間に自白した。
2010年には裁判所で審理された事件の99%以上で有罪判決が下された。独立した立場の法律学者は、日本の司法は自白を重視しすぎると主張したが、日本政府はこれに異議を唱えた。
警察での自白に基づいて有罪判決を下された者が、後に無罪であることが証明された。例えば、5月24日、警察による取り調べの録音テープの改ざん等の新たな証拠に照らして最高裁判所の命じた再審で、裁判所は、1967年に茨城県で起きた殺人を自白し、有罪判決を受けていた男性2人に無罪を言い渡した。2人は1996年の仮釈放後も、自白が強要されたものであると主張し、無実を主張していた。
一部の独立した立場の法律学者によると、審理手続きは検察側に有利となっているということだが、日本政府はこの意見に異議を唱えた。法律により、弁護人との接見が認められているにもかかわらず、かなりの数の被告が、弁護人との接見不足を報告した。法律では、被告側の弁護人が開示手続きに関する厳しい条件を満たすことができる場合を除いて、検察官による資料の全面開示を義務付けていない。このため実際には、検察側が裁判で使用しなかった資料が隠されることもあった。その結果、一部の被告の法定代理人は、警察の記録にある関連資料を入手できなかった、と主張した。一部の事例では、上訴に当たり、被告側弁護人は無罪を証明できる可能性のあるDNA鑑定の証拠の入手を許可されなかった。これらの事例で警察は、全ての証拠は一審での審理の後に破棄された、と回答した。4月12日、裁判所は、政府職員が郵便制度の不正利用容疑で起訴された事件で、大阪地方検察庁の前田恒彦・元主任検事が証拠を改ざんし、その後その犯罪行為を隠ぺいしたとして、懲役18カ月の有罪判決を言い渡した。この捜査を監督した大坪弘道・元特捜部長および佐賀元明・元副部長は、犯罪行為を知りながら隠ぺいした罪で起訴された。この裁判は2011年末時点で継続中だった。
政治囚と政治的被拘禁者
政治囚または政治的被拘禁者が存在するとの報告はなかった。
民事司法手続きと救済
民事事件に関しては、独立した公正な司法制度がある。個人は、人権侵害に対する損害賠償、あるいは人権侵害の中止を求める訴訟を起こすことができる。不正行為の申し立てに対しては、行政による救済措置と司法による救済措置の両方がある。
f. プライバシー、家族、家庭、または信書に対する恣意的な干渉
法律により上記のような行動は禁止されており、実際に日本政府は、全般的にこれを順守した。
第2部 市民の自由の尊重
a. 言論と報道の自由
言論と報道の自由の状況
法律により言論と報道の自由が規定されており、実際に日本政府は、全般的にこうした権利を尊重した。自由に意見を述べる独立した報道機関、効果的な司法制度、および機能する民主的政治制度が相まって、言論と報道の自由が確保された。
検閲または内容の制限
2011年のフリーダム・ハウスおよびその他のNGOの報告によると、記者クラブ制度により、報道関係者、政府職員および政治家の間に緊密な関係が築かれ、情報入手の代わりにジャーナリストが自己検閲をするという状況が生み出されたため、無批判で似たような報道が依然として奨励された。ジャーナリストの記者会見への参加および情報へのアクセスの拡大を求めて、フリーランス・ジャーナリストのグループが民間の資金で運営される自由報道協会を設立し、4月25日に同協会としての活動を開始した。
インターネットの自由
政府によるインターネットへのアクセス制限はなかった。また政府が電子メールまたはインターネット・チャットルームを監視したとの信頼できる報告もなかった。個人および団体は、電子メールを含むインターネットを使って、平和的に意見を表明することができた。
学問の自由と文化的行事
文部科学省による歴史教科書検定、特に20世紀に関係する特定の題材の扱いが引き続き論争になった。教科書の執筆者の一部は、文部科学省が執筆者の意図した意味をゆがめるような形で文章を編集した、と非難した。
国歌と国旗は、依然として論議の的となる象徴であった。教員が国旗掲揚時に国歌を斉唱することを拒否して処分を受ける状況が続いた。5月30日、最高裁判所は、教員に対して国家斉唱時の起立を求めることは合憲であるという判決を下した。日本弁護士連合会および人権団体は、この判決に抗議した。
政府が文化的行事を制限することはなかった。
b. 平和的な集会および結社の自由
法律により集会と結社の自由が規定されており、実際に日本政府は、全般的にこれらの権利を尊重した。
c. 信仰の自由
「信仰の自由に関する国際報告書」(www.state.gov/j/drl/irf/rpt)を参照。
d. 移動の自由、国内避難民、難民保護および無国籍者
法律により、国内の移動の自由、外国旅行、移住、本国帰還の自由が規定されており、実際に日本政府は、全般的にこれらの権利を尊重した。日本政府は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)およびその他の人道支援組織と協力して、国内避難民、難民、庇護希望者、およびその他の関係者について保護と援助を行った。
国内避難民
3月11日、観測史上最大級の地震に続き、壊滅的な被害をもたらした津波と福島第一原子力発電所の事故が発生し、47万人以上の人々が、それぞれ期間は異なるが、自宅からの避難を余儀なくされた。政府は全般的に、避難所およびその他の保護サービスを十分に提供するとともに、移住または再建の選択肢を提供しようと努めたが、避難指示および被災者の一時的再定住への給付金の支給の遅れについて、国民から苦情が出た。12月15日時点で避難所には678人しか残っていなかったが、約33万4000人が仮設住宅で暮らしていた。
難民の保護
庇護へのアクセス
日本の法律は、庇護の付与あるいは難民の認定を規定しており、日本政府は難民を保護する制度を確立している。政府は小規模の試験的な第三国定住プログラムを継続した。この3年間のプログラムの第2年目にあたる2011年には、タイからビルマ人の難民18人が日本に到着した。
難民と庇護申請者は、難民審査参与員制度の下での異議申し立て審問への参加を弁護士に依頼することができる。法的支援を求める多くの難民および庇護希望者は政府の援助による法的支援を受けることができなかったが、日本弁護士連合会が、金銭的な余裕がない申請者に対して無償で法律支援を行うプログラムに資金を提供した。
移住者の人権に関する国連特別報道官は、2010年の訪問調査に関する3月21日の報告の中で、庇護希望者などの非正規移民を長期間収容するという政策について懸念を表明した。法務省が2010年に開始した、申請手続きを簡素化して申請者が収容される期間を短縮する政策により、2011年に状況が大幅に改善した。1年以上にわたり収容されている入国者数は、2009年の115人から2011年には47人に減少した。この政策では、収容されている全ての庇護希望者の事例を四半期ごとに調査し、一次審査の決定は申請から6カ月以内に下さなければならないと規定している。当局は平均でおよそ5カ月以内に一次審査の決定を下したが、これは2010年と比較して60%以上も早いペースだった。
NGOは、庇護申請の拒絶理由の説明が不十分なため、異議申し立てが難しくなっていると考えた。難民のグループは一部の庇護希望者が優遇されたと報告した。当局が2010年に何らかの人道的保護を提供した402人のうち、88%以上にあたる356人がビルマからの庇護希望者であった。庇護希望者全体に占めるビルマ人の割合は30%に満たない。
ノン・ルフールマンの原則
実際に政府は、帰国した場合、人種、宗教、国籍、特定の社会グループの一員であること、または政治的見解を理由に、生命や自由が脅かされると考えられる国への国外退去あるいは送還から、難民をある程度保護した。しかし難民グループは2011年に、日本政府が庇護申請を判断する際の証拠の基準が高いため、庇護希望者の中には危険な場所に強制送還された者がいたかもしれないという懸念を表明した。
雇用
難民認定申請者は、一定の条件を満たさない限り、通常働くことが認められない。就業する権利を得るには、その人が困窮しており、政府のシェルターまたはNGOの支援に依存していなければならない。当面の間、政府が出資する財団である難民事業本部が、少額の給付金を支給する。しかし、予算上の制約により、多くの申請者は2011年にこの給付金を受けられなかった。
基本的なサービスへのアクセス
難民は、他の外国人と同様、住居、教育、雇用の機会を制限される差別を受けた。上記の就業する権利を得る条件を満たす人を除き、難民認定が未決、または異議申し立て手続き中の人は、社会福祉を受ける権利がなく、過密状態の政府のシェルターや、労働法の監督対象にならない違法な雇用、またはNGOの援助に頼るしかなかった。移住者の人権に関する国連特別報告官は3月21日の報告の中で、日本の学校でも外国人学校でも移住者の子どもが教育を受けることが困難である点に懸念を表明した。
一時的な保護
政府はまた、難民と認定されない可能性のある個人を一時的に保護した。2010年にこうした保護を受けた人は363人だった。
第3部 政治的権利の尊重――国民が政府を変える権利
法律により、平和的に政府を変える権利が国民に与えられており、日本国民は、普通選挙権に基づいて定期的に行われる自由かつ公正な選挙を通じて、この権利を行使した。
選挙と政治参加
最近の選挙
2010年7月に参議院選挙が行われた。この選挙は自由かつ公正と見なされた。
女性およびマイノリティーの参画
衆議院では480議席中52議席、参議院では242議席中44議席を女性議員が占めた。2011年末時点で女性知事が3人いた。18人の閣僚のうち1人が女性であった。
民族に基づくマイノリティーの中には複数の民族の血を引いている人や、マイノリティーであることを自ら明らかにしない人もいるため、民族に基づくマイノリティーの中で国会議員となった人の数を把握するのは難しかった。3人の国会議員が帰化して日本国民となったことを認めた。
第4部 政府の汚職と透明性
法律により、公務員の汚職には刑事罰が規定されており、日本政府は全般的に法律を効果的に執行した。独立した立場の学識経験者は、政・官・財のつながりは密接であり、汚職は依然として懸念される問題だと述べた。NGOは、退職した政府の幹部職員が、政府との契約に頼る民間企業で高報酬の職を得る慣行が頻繁に行われていることを批判した。2011年の上半期に、警察庁は8件の贈収賄事件と1件の談合事件で逮捕者が出たと報告した。著名な政治家および公務員が関与した財務会計に関する不祥事の捜査がたびたび報道され、ある元党指導者の裁判が2011年末時点で継続していた。
政治家に財務情報開示を義務付ける法律に関して、取り締まりは十分に行われなかった。
一般市民には、政府の情報を入手する法的な権利がある。政府がそのような要請を拒否したとの報告はなかった。
第5部 人権侵害の疑いに対する国際機関および非政府機関の調査に対する政府の姿勢
国内外の多くの人権団体は、全般的に、政府による制約を受けずに活動し、人権侵害の事例について調査し、調査結果を公表した。政府関係者は、通常協力的であり、こうした団体の見解に対応した。
政府の人権機関
人権擁護機関は法務省に報告している。人権団体は人権擁護機関を独立した、または効果的なものとは考えておらず、国民の信頼を得られていないと報告した。
国のレベルで行政監察機関そのものは存在しなかったが、総務省の部局である行政評価局の行政相談制度が国の行政監察機関と同様の多くの役割を果たした上、その局長が国際的な行政監察機関での日本代表を務めた。それでも、行政相談制度は政府からの独立性を欠き、調査権限は弱かった。
第6部 差別、社会的虐待、人身売買
法律により、人種、性別、障害、言語、および社会的地位に基づく差別は禁止されている。政府はこれらの規定を執行したが、女性、民族に基づくマイノリティー、および外国人に対する差別の問題は残っている。
女性
強姦および配偶者からの暴力
法律により、配偶者間の場合も含め、暴力を用いた女性に対するあらゆる形の強姦が犯罪とされており、政府は全般的に、この法律を効果的に執行した。しかし、性交が強姦と認められるには、強制力の行使と被害者が物理的に抵抗した証拠が必要である。例えば、2010年10月、山形地方検察庁は3人の男性に対する集団強姦容疑について、引き裂かれた服や被害者の身体にできたあざなど、被害者の抵抗を封じるほどの強い強制力の行使を示す客観的な証拠がないとして、不起訴処分とした。警察庁の統計によると、2010年に報告された女性と少女に対する強姦事件の件数は1289件、2011年上半期は542件であった。最高裁判所の記録によれば、2011年に222人が強姦罪で有罪判決を受け、執行猶予から懲役20年までさまざまな刑罰を受けた。多くの警察署には、秘密を守って被害者の女性を支援するための女性職員がいた。
女性に対する配偶者からの暴力は法律で禁止されているが、依然として問題であった。警察庁の統計によれば、2010年に報告された配偶者からの暴力件数は3万3852件で、女性が全被害者の98%以上を占めた。最高裁判所の統計によれば、配偶者からの暴力に関する保護命令違反により15人が有罪判決を受け、執行猶予から懲役2年までさまざまな刑罰を受けた。
「慰安婦」(第2次世界大戦中に売春を強要された外国人および日本人の被害者)に対する謝罪と補償の要求が続いたことから、政府関係者は引き続き深い反省の意を表明し、これまでの補償金の支払いに言及した。
セクハラ
法律ではセクハラ防止を怠った企業を特定する措置が規定されており、都道府県労働局および厚生労働省はこれらの企業に対し、助言、指導、勧告を与える。厚生労働省は、2010年4月から2011年3月までに企業を特定し、対処した事例は51件だったと報告した。政府の指針を順守しない企業名は公表できるが、政府関係者はこれまでその必要はなかったと報告した。しかし、職場におけるセクハラはまだ広範囲に見られ、2010年4月から2011年3月までに厚生労働省が受けたセクハラの相談件数は1万1749件に上り、そのうち62.6%が女性労働者からの相談だった。厚生労働省が相談を受けた従業員が働く企業の数は、国内の全企業の10%以上にあたり、産業別では金融業界の30%に上る企業について苦情を受理した。5月29日、日本労働組合総連合会は、女性従業員の約17%が職場でセクハラを経験しているが、そのほとんどが苦情の申し出や相談を行っていないという調査結果を発表した。都道府県の労働局雇用均等室の政府ホットラインは、セクハラに関する相談に対処し、可能な場合は紛争を調停する。
リプロダクティブ・ライツ
夫婦と個人は、自由に、かつ責任を持って、子どもの数、子どもを持つ間隔と時期を決めることができた。また差別や暴力を受けたり、強制されることなく、こうした決定を下すための情報と手段を得ていた。女性は避妊法と、出産時の熟練した介助、妊婦健診、不可欠な産科治療や分娩後のケアなどの妊産婦医療サービスを利用することができた。男性も女性も、性感染症の診断と治療を平等に受けることができた。
差別
法律により性差別は禁止され、全般的に女性には男性と同じ権利が与えられている。内閣府の男女共同参画局は引き続き、男女共同参画に関する政策を検討し、その進捗状況を監視した。同局の「2011年版男女共同参画白書」は、女性の社会参加は依然として不十分であると結論づけ、経済、行政、政治の分野で上級職に就く女性の数を増やすため、定数制導入を提唱した。
雇用における不平等は依然として社会全体の問題として残っていた。2010年、女性は全労働力の42%を占め、平均月給は22万7600円(約2950ドル)で、男性の平均月給(32万8300円または約4260ドル)の約3分の2にとどまった。女性の管理職は全体の11%に過ぎず、雇用されている女性の70%が第一子の出産後に退職した。
NGOは、日本の性差別撤廃措置を実施する努力が不十分であるとし、法律における差別的な条項、労働市場での女性に対する不平等な扱い、選挙で選ばれた高位の議員の中に女性が少ないことを指摘した。NGOは日本に、女性にのみ適用される離婚後6カ月間の再婚禁止規定の廃止、婚姻最低年齢における男女の区別の撤廃、選択的夫婦別姓制度の採用、非嫡出子を差別する法律の条項の撤廃を要請した。
子ども
出生届
国籍法では、子どもの父親が日本人でその子の母親と結婚しているか、子どもを認知している場合、子どもの母親が日本人である場合、または子どもが日本で生まれ、その両親が不明あるいは両親に国籍がない場合に、生まれた子どもに日本国籍を認めている。
児童虐待
児童虐待の報告件数は増加を続けた。2010年4月から2011年3月までの間に各地の児童相談所が対応した、親あるいは保護者による児童虐待の報告件数は5万5152件であり、最新の統計に津波による被害を受けたため報告できなかった2県のデータが含まれていないにもかかわらず、前年度比で1万2000件以上増加した。厚生労働省は、虐待の報告件数の急増には、児童虐待に関する国民の意識の広がりが反映されているとコメントした。警察庁によると、2011年には384件の児童虐待の事例で409人の逮捕者が出た。親や保護者による虐待によって死亡した子どもは39人だった。
状況を改善するため、地方自治体は、虐待が疑われる親または保護者を児童福祉職員が面接し、必要に応じて支援を提供することを義務付けた。必要な場合には、虐待が疑われる家庭を立ち入り調査しなければならないが、その際には警察が援助する。法律により、児童福祉当局には、虐待する親が子どもと面会すること、あるいは連絡を取ることを禁止する権限が与えられている。また法律により、しつけの名目での虐待が禁じられているほか、疑わしい状況に気づいた者は誰であろうと、全国各地の児童相談所または地方自治体の福祉事務所に報告することが義務付けられている。5月27日、当局は法律を改正し、2年間の親権停止を可能にした。従来は、親権は無期限に停止する、もしくは全く停止しないのいずれかしか認められていなかった。子どもの権利に関する活動家は、規定がより柔軟になったことを歓迎した。
子どもの性的搾取
児童買春は違法であり、児童売春をした成人は5年以下の懲役もしくは300万円(約3万9000ドル)以下の罰金、あっせん業者は7年以下の懲役および1000万円(13万ドル)以下の罰金に処せられる。それにもかかわらず、引き続き行われている「援助交際」や、出会い系、ソーシャル・ネットワーキング、「デリバリー・ヘルス」などのウェブサイトの存在が児童売春を助長した。
法定強姦に関する法律がある。性的同意年齢は管轄区域によって異なり、13歳から18歳までと幅がある。法定強姦をした者は、2年以上の懲役に処せられる。
日本は依然として、児童ポルノの製造および取引の国際的な拠点であった。児童ポルノの商用化は違法であり、3年以下の懲役もしくは300万円(約3万9000ドル)以下の罰金に処せられる。警察は2011年、この犯罪の厳重な取り締まりを続けた。児童ポルノは幼い子どもに対する残酷な性的虐待を描写している場合が多く、その配布は違法だが、法律は児童ポルノの単純所持を処罰化していない。このため法律の効果的な執行や、この分野における国際的な法執行への参加に向けた警察の取り組みが引き続き妨げられている。警察の報告によれば、2011年の児童ポルノの捜査件数は1455件であり、638人の子どもが被害者となった。いずれの統計も2009年比で55%以上増加した。
性描写が露骨なアニメ、マンガ、ゲームには暴力的な性的虐待や子どもの強姦を描写するものもあるが、日本の法律は、こうしたアニメ、マンガ、ゲームを自由に入手できるという問題に対処していない。警察庁はこれらのアニメ映像と子どもへの性的虐待の関連性は証明されていないと主張したが、子どもに対する性的虐待を容認するように見える文化が子どもに害を及ぼすと示唆する専門家もいた。2011年、東京都はこのような図書やゲームを未成年に販売することを制限する条例を施行した。
国際的な子の奪取
日本は「1980年国際的な子の奪取の民事面に関する条約(ハーグ条約)」を批准していない。「ハーグ条約の順守状況に関する国務省の年次報告書」(http://travel.state.gov/abduction/resources/congressreport/congressreport_4308.html)
と、「国別情報」(http://travel.state.gov/abduction/country/country_3781.html)を参照。
反ユダヤ主義
日本国内のユダヤ人の人口は約2000人である。反ユダヤ主義の活動は報告されなかった。
人身売買
国務省の「人身売買年次報告書」(www.state.gov/j/tip)を参照。
障害者
法律により、雇用、教育、医療およびその他の国のサービスにおいて身体障害者、知覚障害者、知的障害者および精神障害者に対する差別は禁止されており、日本政府は全般的にこれらの規定を執行した。しかし、実際にはこうした国のサービスに対する障害者のアクセスは限られ、日本弁護士連合会は、差別が定義されていないため、司法的救済による法的強制力を持たないと抗議した。国連の「障害者の権利に関する条約」を批准するための国内法整備に向けて2009年に政府が設置した障がい者制度改革推進会議は、2011年末までにその目的を達成しなかった。
法律により、政府および民間企業は、障害者(精神障害者を含む)を一定の比率以上雇用することが義務付けられている。従業員300人以上の民間企業がこれを順守しなかった場合は、法定雇用数に足りない障害者1人当たり毎月5万円(約650ドル)の罰金を支払わなければならない。政府による障害者雇用は定められた最低限の比率を超えていたが、厚生労働省のデータによると、民間部門の障害者雇用は過去数年間で増加が見られたものの、公共部門に遅れを取っていた。
公共施設の新たな建設プロジェクトでは、障害者のための設備を整備することがアクセサビリティに関する法律で義務付けられている。また政府は、病院、劇場、ホテル、およびその他の公共施設の経営者が、障害者用の設備を改善または設置する場合には、低金利の融資および税控除を受けることを認めている。安全な飲料水と衛生への人権に関する国連特別報告官は、2010年7月の訪問調査に関する7月4日の報告の中で、障害者の水および衛生へのアクセスに悪影響を及ぼす住居面での差別に懸念を表明した。
NGOによると、推定2万人のホームレスが、住所不定と見なされたことが理由で、障害者年金および生活保護手当てを受給できなかった。その結果、社会福祉制度による保護が十分でないこと、そしてホームレスであるために社会的な汚名を着せられていることを理由に、かなりの数のホームレスの人々が、刑務所に入って食料とシェルターを得るために軽犯罪に及んだ。
精神衛生の専門家は、精神障害の汚名を軽減し、うつ病やその他の精神疾患は治療可能な、生物学に基づく疾患であることを一般の人々に知らしめる政府の努力が十分になされていないと批判した。警察および刑務所では特に精神疾患の治療が遅く、精神科の治療を提供するための手続きもない。
国籍・人種・民族に基づくマイノリティー
民族に基づくマイノリティーは、その程度はさまざまであるが社会的差別を受けた。
部落民(封建時代に「社会的に疎外された者」の子孫)は、政府による差別を受けていないものの、根深い社会的差別の被害者となることが多かった。部落民の権利擁護団体は、多くの部落民が社会経済的状況の改善を実現したにもかかわらず、雇用、結婚、住居、不動産価値評価の面での差別が横行している状況が続いたと報告した。公式に部落民というレッテルを貼って部落出身者を識別することはもうないが、戸籍制度を利用して部落民を識別し、差別的行為を促すことが可能である。部落民の権利擁護団体は、多くの政府機関も含め、就職希望者の身元調査のため戸籍情報の提出を求める雇用者が、戸籍情報を使って部落出身の就職希望者を識別・差別する可能性がある、と懸念を表明した。
日本に住む韓国・朝鮮人、中国人、ブラジル人、およびフィリピン人の永住者は、その多くが日本で生まれ育ち、教育を受けていたが、差別に対する法的な保護措置があるにもかかわらず、住居、教育、医療、および雇用の機会の制限など、さまざまな形で根深い社会的差別を受けた。日本に住むその他の外国人居住者や、「外国人のように見える」日本国民も似たような差別を報告しており、さらにホテルやレストランなど一般の人々にサービスを提供している民間施設への入場を、時には「日本人限定」と書かれた看板によって禁じられた、と述べた。権威あるNGOは、差別が通常あからさまで直接的であると指摘して、差別の禁止に向け政府が何の措置も取らないことを批判した。さらに、移住者の人権に関する国連特別報告官は、2010年3月の訪問調査に関する3月21日の報告の中で、日本政府に対し、移民の人権を尊重し、民族または国籍に基づく差別を禁止する法律の欠如、および移民に関する根強い人種差別と外国人嫌いに対する不十分な対応を批判した。
一般的に、永住権を持っていたり、日本に帰化した韓国・朝鮮人を社会が受け入れる状況は、引き続き着実に改善された。2010年には、6668人の韓国・朝鮮人が日本に帰化した。帰化申請のほとんどは当局により許可されたが、人権擁護団体は帰化手続きを複雑にする過度の官僚的な抜け穴や、不透明な許可基準について抗議した。帰化しないことを選択した韓国・朝鮮人は、市民的および政治的権利の面で困難に直面し、国連人種差別撤廃委員会に対する日本の定期的な報告によれば、住居、教育、公的年金、その他の給付金の面で常に差別を受けた。
旧社会保険庁の通達により、外国人語学教師の場合には、日本人の語学教師と比較し、雇用者による年金と健康保険料の雇用者負担分の支払い回避が明らかに容易になっている。2011年に教師の労働組合は、この通達によって、外国人教師を不法に社会保障システムに参加させなくても雇用者は責任を問われないと述べた。
多くの外国人の大学教授、特に女性の教授が、終身在職権を得る可能性がない短期契約で雇用された。
日本国民の間で、「外国人」(日本で生まれた民族に基づくマイノリティーを含む)が犯罪のほとんどを起こしているとの認識が広がっていた。法務省の統計によると、入国管理法違反を除外すると、外国人の犯罪率は日本国民の犯罪率より低いにもかかわらず、マスコミが日本人以外の犯罪を大きく報道してこのような認識を助長した。
多くの移住者は、帰化を阻む障害の克服に苦労した。そうした障害には、審査を行う担当官に広範な自由裁量が認められていること、日本語の能力が極めて重視されることなどがある。日本に5年間継続して居住した外国人は、帰化および国籍取得の申請資格を与えられる。帰化手続きには厳しい身元調査が必要であり、申請者の経済状態や社会への適応状況なども調査される。日本政府は、この帰化手続きは、外国人が社会にスムーズに同化できるようにするために必要であると主張した。
一部の民族学校の代表は、自らの学校を教育機関として認定し、その高校の卒業生に大学や専門学校の入学試験受験資格を認めるよう、引き続き政府に求めた。文部科学省は、国際的な評価団体によって日本の小・中・高12年間の学校制度と同等と認定された民族学校の卒業生は、大学あるいは専門学校の入学試験を受けることができると述べた。
2011年における移民排斥主義団体によるデモ行進は、頻度および程度ともに2010年に比べて減退し、重大な事件も減少した。
先住民
アイヌは他のすべての国民と同じ権利を享受したが、明らかにアイヌであると識別されると差別を受けた。法律はアイヌ文化の保存を重視しているが、土地の所有権を認めること、国会と地方議会での議席の割り当て、政府の謝罪など、一部のアイヌ団体が要求していた条項は含まれていない。
日本政府は「琉球民」(沖縄と鹿児島県の一部の住民を指す言葉)を先住民族と認定していないが、彼らの独自の文化と歴史を公式に認め、その伝統を保存し尊重する努力をしてきた。
その他の社会的虐待、差別、性的指向および性同一性に基づく暴力行為
日本の法律では性行為が男女間の膣性交としてのみ定義付けられていることから、強姦、性交渉およびその他の性交を伴う行為に関する法律は、同性間の性的行為には適用されない。このような定義により、男性に対する強姦の加害者に対する罰則が軽微になり、同性間の売春に関し法律上の曖昧さが増している。
ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、およびトランスジェンダーの人々を擁護するNGOは、2011年に、いじめ、嫌がらせ、および暴力行為の事例を何件か報告した。
性的指向および性別認識に基づく差別に対して個人を保護する国の法律はないが、地方自治体の一部は、性的指向に基づく雇用差別を禁止する条例を制定した。
その他の社会的暴力または差別
HIV・エイズ感染者に対する社会的暴力や差別の報告はなかった。
第7部 労働者の権利
a. 結社の自由と団体交渉権
法律は、民間部門の労働者が事前認可あるいは過度の要件なしに、組合を結成し、自分が選んだ組合に所属することを認め、ストライキをする権利を付与し、団体交渉を行う権利を保護している。
公共部門の職員および公共企業体の従業員には、法律により一定の制限が課されている。発電および送電、運輸および鉄道、通信、医療および公衆衛生、郵便などの必要不可欠なサービスを提供する部門の労働者は、ストライキをする日の10日前までに当局に通知しなければならない。公共部門の職員にはストライキをする権利がないが、公共部門職員の団体に参加することが許されており、こうした団体が公共部門の雇用者と賃金、労働時間、その他の雇用条件について一括して交渉することができる。 必要不可欠なサービスの提供に関わる従業員には団体交渉権が付与されていない。法律は組合に対する差別を禁止し、組合活動のために解雇された労働者の職場への復帰を規定している。
日本政府は組合の結成および参加に関する法律を効果的に執行した。労働組合は、政府の統制や影響を受けなかったが、公共部門の職員の基本的な労働組合権には別の法律が適用され、組合結成に実質的に事前認可が要求されている点で制約を受けている。日本政府は組合が活動する権利を保護した。しかし、法律違反の事例が時に見受けられた短期雇用契約の増加は、正規雇用の妨げになり、団結活動を妨げるものでもあった。
団体交渉権は自由に行使されたが、一部の企業は、法律の下での従業者の保護を回避するため、法人格の形態を変更して、法律的には雇用者と見なされない持ち株会社制度に移行した。同様に、日本の企業では、正社員よりも非常勤、短期契約、または非正規労働者の雇用が増加した。こうした労働者は労働力の3分の1以上を占めた。彼らは低賃金で働き、多くの場合、正規雇用の労働者より雇用の安定性や福利厚生が少なく、労働条件も不安定だった。2011年に職を失ったこのような労働者の多くは、雇用者が短期契約を繰り返し更新したことで、雇用者には自分たちを正社員として雇用する義務が生じたと主張して賠償金を求めた。賃金や研修の面で正社員と平等な待遇を受けるには、非常勤労働者は、業務内容、残業、転勤の面で正社員と同等でなければならない。実際には、このような要件を満たすのは、非常勤労働者のわずか4~5%にすぎなかった。
b. 強制労働の禁止
法律によりあらゆる形態の強制労働は禁止されているが、強制労働が行われたという報告が複数あった。日本に不法入国した労働者やビザの期限が切れたまま不法滞在した労働者には、賃金不払いや低賃金のリスクがあった。一部の企業は、外国人研修生・技能実習生制度に参加する外国人研修生の移動や外部との連絡を違法に制限し、渡航書類を取り上げて、給料を企業が管理する銀行口座に強制的に入金させた。移住者の人権に関する国連特別報告官は、3月21日の報告の中で、この制度は研修生を搾取から保護する体制になっていないと述べた。一部の中国人研修生は、日本への出発前に5000ドルを超える手数料と保証金の支払いを違法に求められた。労働者の権利擁護団体によると、被害者が待遇の悪さを報告したり研修を早く切り上げると、ブローカーがそれらの資産を差し押さえるという。
日本の法律や法務省のガイドラインでは、こういった慣行を禁止している。労働基準監督署は、職場が法律に従っているかどうかを監視した。日本政府による通常の対応は警告や勧告を出すこと、および違反企業のその後の研修制度への参加を禁止することであった。
国務省の「人身売買報告書」(www.state.gov/j/tip)を参照。
c. 児童就労の禁止と雇用の最低年齢制限
法律により、15歳から18歳の子どもは、危険な、あるいは有害と指定される仕事でなければ、いかなる仕事にも従事することができる。13歳から15歳までの子どもは「軽労働」であれば従事でき、13歳未満の子どもでも芸能界であれば働くことができる。これらの法律は実際に効果的に執行された。
児童労働の問題は、人身売買および児童ポルノ(第6部「子ども」を参照)に集中していた。
労働省の「最悪の形態の児童労働についての調査報告書」(www.dol.gov/ilab/programs/ocft/tda.htm)を参照。
d. 許容される労働条件
最低賃金は、業種別および都道府県別に定められており、時給645円(約8.40ドル)から837円(約10.85ドル)まで幅があった。法律は、最低賃金を支払わなかった雇用者に対し、50万円(約6500ドル)の罰金を科している。2009年には、全体の16%の世帯で所得が112万円(約1万4500ドル)の貧困線を下回っていた。
法律により、ほとんどの産業で労働時間は週40時間と規定されており、週40時間、または1日8時間を超えて働いた場合には、割増賃金を支払うことが義務付けられているほか、一定の期間に認められる時間外労働の時間数が制限され、かつ過度な強制時間外労働を禁止している。また国民の祝日を休日とするほか、6カ月間継続している正規労働者に対する年間少なくとも10日の有給休暇を義務付けている。日本政府が労働安全・衛生基準を定める。
厚生労働省が、ほとんどの業種の賃金、労働時間および労働安全・衛生に関する法律・規則の執行について責任を負う。国家公務員の労働安全・衛生については人事院が所掌する。鉱業については経済産業省が、海運業については国土交通省が労働安全・衛生をそれぞれ所掌する。合計3970人の労働基準監督官がこれらの法律・規則を執行した。労働組合は、政府が労働時間制限の執行を怠っている、と批判することが多く、政府職員を含め労働者が日常的に、法律で定められた労働時間を超えて働いていたことが広く認められていた。2010年4月から2011年3月までの間に、厚生労働省に過労死(働き過ぎによる死)の認定を求める遺族からの申請が802件あった。厚生労働省が2011年に過労死の被害者であると公式に認定したのは285人だったが、労働者の権利を擁護するNGOは、実際にはその数はもっと多く、2011年に発生した3万513件の自殺の多くは、働き過ぎやその他の労働条件が一因だったと主張した。
日本政府は、全ての産業において、労働安全・衛生に関する法律・規則を効果的に実施した。労働基準監督官は安全でない操業を直ちに停止させる権限を有する。国会へ提出するためにまとめられたデータによれば、2009年に労働基準監督官は、4万8448件の申告を処理し、14万6860カ所の事業所を監督指導し、4553件について危険な機械・設備などの使用停止命令を出し、労働安全・衛生に関する問題点を是正した。また、1110件を検察に送致した。
労働災害による死亡者数は、2011年におよそ2倍に増加したが、これは主に3月11日の地震と津波で1057人が勤務中の死亡したためであった。1月1日から11月30日までの間の、震災に関連しない労働災害による死亡者数は845人で、主に建設業および製造業におけるものであった。2011年の労働災害による死亡の原因として最も多かったのは、墜落・転落、交通事故および重機によるけがであった。
労働基準監督官は、外国人研修生・技術実習生制度に参加する外国人研修生が、たびたび時間外手当無しで残業させられ、最低賃金を下回る給料しかもらっていないことを含む、労働関連法違反を指摘した。8月の報道によると、福井労働局は、外国人研修生・技能実習生制度に参加する県内の企業54社の全てで労働関連法違反を認めた。外国人労働者を支援するNGOと労働組合は、外国人研修・技能実習制度に関する規則が新たになり、参加企業に対する労働基準監督が厳格化したことで、2011年には、企業の外国人労働者への待遇に大きな改善が見られると報告したが、問題はまだ残っているとも述べた。