2012年人身売買報告書(抜粋・日本に関する報告)

国務省人身売買監視対策室

2012年6月19日

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

日本(第2階層)

 日本は、強制労働および性目的の人身売買の被害者である男女、および性目的の人身売買の被害者である子どもの目的国、供給国、通過国 である。中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、その他のアジア諸国からの移住労働者は男女共に、時として強制労働の被害者になることがある。東アジ ア、東南アジア、南米、また過去には東ヨーロッパ、ロシア、中米から雇用あるいは偽装結婚のために日本にやって来た女性や子どもの中には、売春を強要 される者もいた。本報告書の対象期間中、日本人、特に十代の少女や、外国で生まれ、後に日本国籍を取得した日本国民の子どももまた、性目的の 人身売買の被害者となった。また人身売買業者は、強制売春を目的に外国人女性を日本へ容易に入国させるために、こうした外国人女性と日本人男 性との偽装結婚を引き続き利用した。日本の組織犯罪集団(ヤクザ)が、直接的にも間接的にも、日本における人身売買の一部に関与している。人身 売買業者は、借金による束縛、暴力や強制送還の脅し、恐喝、被害者を支配するためのその他の精神的な威圧手段を用い、被害者の移動を厳しく制 限する。強制売春の被害者は契約開始時点で借金を負っている場合があり、ほとんどの被害者はさらに、生活費、医療費、その他の必要経費を雇用主 に支払うよう要求され、容易に債務奴隷とされる状態に置かれた。また素行の悪さを理由として「罰金」が被害者の当初の借金に加算された。売春宿の運 営者によるこうした借金の計算方法は不透明であった。日本は、人身売買の状況に置かれている人が東アジアから北米へ移動する際の通過国でもある。 日本人男性は依然として、東南アジア、および程度は少ないものの、モンゴルにおける児童買春ツアーの需要の大きな源泉となっている。

 日本政府は、基本的な産業上の技能・技術を育成し、実用的な技能・技術を習得する機会を提供する目的で政府が運営する外国人研修生・ 技能実習生制度における強制労働の存在を公式には認めていない。しかし、政府は同制度における労働者の虐待に対処する多くの取り組みを行った。マ スコミや非政府組織(NGO)は、これまでよりも少なくなっているものの、外国人研修生・技能実習生制度での悪用事例を引き続き報告した。こうした悪用 事例には、借金による束縛、移動の制限、賃金や残業代の未払い、詐欺、労働者を他の雇用主の下で働かせる「飛ばし」などがあった。こうした要素は 人身売買という状態を示唆している可能性がある。技能実習生の大半は中国人であり、中には中国を出国する前に、中国人の労働者ブローカーに最高 1400ドル相当の手数料、または最高4000ドル相当の保証金を支払う者もいる。こうした手数料を支払うため、意欲ある労働者は融資を受けたり、財 産を担保にすることを余儀なくされる場合もあり、結果として借金による束縛という状態に置かれる可能性がある。これらの手数料、保証金、および「罰則」 契約は2010年以降、禁止されているが、技能実習生制度に参加する中国人の間では依然として広く行われている。逃亡や外部との連絡を防ぐために 、実習生がパスポートや渡航書類を取り上げられ、移動を制限されたとの報告は減少した。この傾向は、政府がこうした慣行の監視を強化した成果である と労働問題の活動家は認めた。

 日本政府は、人身売買撲滅のための最低基準を十分に満たしていないが、満たすべく著しく努力している。2011年に日本政府は、人身売買 関連の訴追を推進する上での大きな空白を補うことになる人身売買対策法案の起草と法の制定をしなかった。また、2011年に政府が逮捕、訴追、また は有罪にした強制労働の加害者は1人もいなかった。一方で、NGOによると、外国人研修生・技能実習生制度における労働法の執行の強化により、同 制度での悪用事例の報告件数が減少した。2011年に政府は、法執行官および社会福祉機関の担当者に向けた人身売買被害者の保護に関するマ ニュアルを発行するとともに、法執行官に対し人身売買対策の研修を引き続き義務付けた。政府が認知した性目的の人身売買の成人女性被害者は 45人、未成年の児童買春の被害者は619人だったが、強制労働と強制売春のいずれについても、男性被害者は1人も認知しなかった。日本には人身 売買被害者専用のシェルターはなく、人身売買被害者への保護サービスは依然として限定的であった。政府は人身売買防止のため啓発活動に取り組ん だが、政府が実施した広報活動の中には、効果がなく、対象層にまで伝わらなかったものもあったという報告があった。

日本への勧告:あらゆる形態の人身売買を禁止し、他の重罪と同等の十分に厳しい処罰を規定する包括的な人身売買対策法案の 起草と法の制定を行う。強制労働の事案を捜査、起訴し、懲役刑を科して犯罪者を処罰する取り組みを大幅に強化する。外国人研修生・技能実習生 制度における強制労働の一因となる保証金、罰則の合意、パスポートの取り上げ、その他の行為の禁止の実施を強化する。人身売買や関連犯罪の政 府当局による共犯の積極的な捜査と、正当な理由がある場合の処罰を継続する。強制労働を認知する際の担当官の指針とするために、正式な被害者 認知手続きをさらに拡大、実施する。人身売買されたことに直接起因する違法行為を犯したことで、人身売買被害者が罰せられることのないよう引き続き 徹底する。男性被害者や強制労働の被害者を含む全ての人身売買被害者のための保護政策を確立する。所得の多寡にかかわらず、医療・法的支援 サービスを含む保護支援サービスが、人身売買の被害者に全面的に利用可能となるよう徹底する。児童買春ツアーに関与する日本人の捜査、起訴、処 罰を積極的に行う。

訴追

 日本政府は、女性および子どもの強制売春の起訴および有罪判決では前進を続けたが、本報告書の対象期間中、労働搾取目的の人身売買 または男性被害者の人身売買との闘いでは著しくは進展しなかった。人身売買を禁止する2005年の日本の刑法改正では、人身売買の定義が狭く、 国連で2000年に採択された人身売買議定書に合致していない。また既存の法的枠組みが全ての過酷な形態の人身売買を刑事罰の対象とするかどう かは明確でない。これらの法律は1年から10年の懲役刑という刑罰を規定している。これは十分に厳格であり、他の重罪に対して規定されている刑罰とお おむね同等である。2011年に政府は、性目的の人身売買に関連する犯罪を25件捜査し、その結果、20件で有罪判決が下り、そのうち18件で18カ 月から4年の懲役の判決が下ったと報告した。政府はまた、児童買春に関連し、842件の捜査を行い、470件で児童買春の有罪判決が下り、そのうち 74件で1年未満から3年の懲役の判決が下ったと報告した。外国人研修生・技能実習生制度で強制労働の兆候があるにもかかわらず、政府の報告に よると、本報告書の対象期間中の強制労働に関連する捜査は1件のみであり、労働搾取目的の人身売買での逮捕、起訴、有罪判決は1件もなかった。 警察庁、法務省、入国管理局、および検察庁は、法執行官に対し、人身売買の捜査および起訴の手法についての研修を続けた。本報告書の対象期 間中に、新規採用の全警察官、各都道府県警察本部の全上級職員、および全入国管理官が、人身売買の捜査および認知の手法について研修を受 けた。さらに63人の検察官が、人身売買関連の訴追を行う上での専門的な研修を受けた。

 外国人研修生・技能実習生制度の 労働者に関わる悪用事例や強制労働の申し立ては、ほとんどが示談、行政審判または民事訴訟で決着が 付けられたため、強制労働のような人身売買関連の犯罪が関係する事案としては、十分に厳しいとは言えない処罰に終わった。NGOおよび労働問題の 活動家は、同制度の労働現場の視察を強化し、同制度に参加している雇用主を対象に労働基準に関するセミナーを開催することにより、同制度におけ る悪用事例および強制労働の発生が減少したと報告している。2011年の人身売買報告書に記載された、過労死した31歳の中国人実習生に関わる 民事損害賠償訴訟は、本報告書の対象期間終了までに決着をみなかった。

 さらに、政府は売春を含む人身売買の犯罪に関する政府の共犯を防止するいくつかの措置を講じたが、腐敗は日本の巨大な娯楽産業において 依然として深刻な問題である。本報告書の対象期間中、人身売買関連の共犯を理由とする政府職員に対する捜査、起訴、有罪判決、または懲役刑 の申し渡しの報告は政府からなかった。政府は、退職した元警察署長が児童買春容疑で国内で逮捕された2012年2月の事件を積極的に捜査した。

保護

 日本政府は過去1年間、ささやかではあるが、人身売買の被害者を保護する努力を行った。政府が2011年に認知した性目的の人身売買の被 害者は、成人女性が45人と、2010年に認知された被害者の43人から増加した。そのうち1人は、当初、外国人研修生・技能実習生制度の参加者 として日本に入国した。同制度の労働者に対する虐待について十分な証拠があったにもかかわらず、日本政府は18年間、国内で強制労働の被害者を 1人も認知していない。日本政府当局は、「人身取引事案の取扱方法(被害者の認知に関する措置)」と題するマニュアルを作成し、 職員に配布した。 しかしこのマニュアルは、人身売買の被害を受けやすい人々をその意に反して搾取していることを示す兆候の特定よりも、外国からの移住者の在留資格や 日本への入国手段の特定に主に重点を置いているようである。しかしながら、結果としてこのマニュアルが、これまで被害者を認知したことがなかった4県での 人身売買の被害者の認知につながった。日本政府から、強制労働の被害者を対象とする具体的な保護政策や専用のサービスの報告は一切なかった。 日本には、人身売買の被害者専用のシェルターも、明確に男性被害者向けといえる保護手段もない。政府は、全国43カ所の婦人相談所への一般的 な(人身売買対策に限定されない)資金提供を継続した。婦人相談所は、主に配偶者による暴力の日本人被害者を保護しているが、本報告書の対象 期間中、37人の外国人の人身売買被害者にも保護支援サービスを提供した。こうしたシェルターでは場所、言語能力、カウンセリング能力に制限がある ため、婦人相談所が、政府の補助を受けているNGOのシェルターへ被害者を委託することもあった。厳密に言えば、婦人相談所にいる被害者は自由に施 設を離れることができるが、被害者の外出に施設職員の同行を求める根拠として、被害者の安全確保上の懸念が主張されることが多い。外国人および日 本人の被害者が政府の運営する施設で保護されている間は、政府が被害者の医療費を全額負担している。しかし、いくつかの団体や政府職員によると、 人身売買被害者の医療および心理カウンセリングサービスへの委託状況は一貫しておらず、2011年にこうしたサービスに委託されなかったり、サービスを提 供されなかった被害者もいた。政府はこうした格差を認識し、シェルター到着前の被害者への説明、シェルターでの小冊子の配布、利用可能なサービスにつ いての婦人相談所職員への研修などを行って、格差の解消に取り組んだ。

 NGOによると、人身売買業者が被害者に植え付けた政府当局に対する恐怖と、場合によっては、人身売買されたことに直接起因する違法行為 を犯したために、逮捕され罰せられるという恐怖の両方から、多くの被害者は政府の援助を求めることを拒んだ。また、認知された人身売買被害者が利用 できる保護サービスが全体的に不足しているため、政府の援助を求めることに消極的な被害者もいた。逮捕または拘束された後に法執行機関により無事 に認知された人身売買被害者もいた。政府が出資する日本司法支援センター(法テラス)は、人身売買被害者も含め、困窮した犯罪被害者に無料で 法的支援を提供したが、本報告書の対象期間中に、政府が出資する法的支援を利用した人身売買被害者の数は、利用した被害者がいた場合である が、不明だった。本報告書の対象期間中に、日本政府は619人の児童買春の被害者を認知し、政府の少年保護機関がこれらの被害者を保護した。 さらに、当局の報告によると、当局では人身売買業者の捜査と訴追への参加を被害者に奨励したが、被害者は捜査および訴追手続きに参加している間 、就労が許可されなかった。認知された人身売買被害者が帰国を恐れる場合、長期間の在留許可を受けることができるが、過去にこの許可を申請し、受 けた人は1人しかいない。本報告書の対象期間中に長期間の在留許可が認められた人身売買被害者は1人もいなかった。

防止

 本報告書の対象期間中、日本政府は人身売買防止に取り組んだが、その取り組みは限定的だった。警察庁および入国管理局は、潜在的な人 身売買被害者向けに多言語で作成した緊急時連絡先情報を更新、拡充した。政府は、潜在的な人身売買被害者に向けた多言語の緊急時連絡先 情報を記載したリーフレットを、各地の入国管理事務所および人身売買被害者の送出国政府に配布したが、NGOは、こうした広報活動の多くはほとんど 効果がなく、その対象層の関心を引くことはなかったと報告した。入国管理局は人身売買に対する意識向上のためのオンライン・キャンペーンを継続するとと もに、小冊子を用いて各地の入国管理事務所に対し人身売買の兆候に注意を払うよう奨励した。

 日本は長年、児童買春ツアーの需要の源泉となってきた。日本人男性は、他のアジア諸国、特にタイ、インドネシア、カンボジア、フィリピン、および程 度は少ないものの、モンゴルへ渡航し、子どもの商業的性的搾取に関与してきた。本報告書の対象期間中、海外での未成年者との性交、または海外で の児童ポルノの製造の容疑で、日本の裁判所で日本国民を審理することを認める日本の法律に基づき、1人が有罪判決を受けた。日本は、国連で 2000年に採択された人身売買議定書を締結していない唯一のG8参加国である。