APECのCEOサミットでのクリントン国務長官の演説

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

極東大学、ロシア・ウラジオストク

2012年9月8日

(前略)

 オバマ大統領に代わりごあいさつするとともに、アジア太平洋経済協力会議(APEC)に深く関与するという米国の決意を改めて明言したいと思います。米国は太平洋国家であり、外交・軍事面だけでなく、経済面でも大国です。21世紀の歴史の大半はアジアで書かれると私がよく申し上げる理由のひとつは、この地域での経済的な相互依存度が高まっているからです。

 しかし、アジア太平洋地域における米国の経済的関与と、それが米国のより広範な地域戦略にどう関係するかをお話しする前に、今回のホスト国について少しお話しします。

 経済面では、ロシアの世界貿易機関(WTO)加盟に対しお祝いの言葉を述べたいと思います。[この部分聞き取り不能]これはロシアにとって良いことです。米国にとっても、そして世界経済にとっても良いことです。米政権は過去3代にわたり、ロシアのWTO加盟という目標の達成に向け、一貫して支援してきました。私たちは、関税だけでなく補助金、調達での優遇措置、知的財産権などで国際的に認められた規範に従う国家は、開放された市場と自由貿易の恩恵を享受できるというWTOの基本的な取り決めを強く支持しています。

 例えば世界銀行の概算によると、ロシアがWTOの約束を効果的に実施すれば、その国内総生産は中期的に約3%、長期的には最高11%も成長する可能性があるとされています。このように、規則に基づく国際的な貿易制度への参加は利益につながります。ロシアの貿易相手国も利益を得ることになります。私たちは、米国のロシアへの輸出が2倍あるいは3倍にまで増える可能性があると考えています。
 
 では私が本日お話ししたいと思っている、より大局的な論点に入ります。昨年私は、ワシントンと香港でのAPECのイベントで、先進国、途上国を問わずあらゆる国家に適用される、合意された規則に基づく経済システム――すなわち、開かれた、自由で透明かつ公正なシステムの実現に向けた米国の取り組みについて概要を説明しました。

 この取り組みは、この地域における米国の戦略の主眼のひとつです。米国は長期にわたり他の地域や紛争に注意を集中させ、多大なリソースを投じなければなりませんでしたが、今はアジア太平洋地域への投資を大幅に増加させています。私たちは、皆の利益となる公正で安定した地域の秩序を築くために、他の国々と協力しようとしています。

 オバマ大統領は、世界規模の金融危機と景気後退のさなかに大統領に就任しました。当時も、そして現在も、米国経済の均衡を取り戻し、不安定な状況を改善することが急務です。従って私たちは当初から、経済発展を促す数々の目標の達成を目指してきました。本日はその中のいくつかについて少しお話ししたいと思います。

 第一に、米国の企業を強く支援して、公平な条件で競争できるようにすることです。第二に、アジア太平洋地域全域のパートナー国との間で新たな貿易協定の締結を目指すことです。第三に、共通の経済的課題に対し、効果的な共同措置を取ることができる地域および国際機関への関与を広げることです。そして第四に、より多くの場所でより多くの人々の公式経済への参加を可能にする改革を推進することです。各分野において、私たちは具体的かつ測定可能な形で前進しています。しかし、ここにいらっしゃる皆さんをはじめ、この地域のパートナー諸国と協力して成すべきことがまだ残っています。

 まず、米国企業への支援についてお話ししたいと思います。オバマ大統領は、2014年末までに全世界に対する米国の輸出を倍増するという意欲的な目標を設定しました。APEC域内では米国の輸出が大きく伸びました。2009年から2011年までの間だけでも、米国から他のAPEC諸国・地域への輸出は45%近く増え、2012年上半期にはさらに7.5%増加しました。しかし、さらにこれを推し進めることが可能です。米国企業は対アジア投資の拡大に意欲的です。その際に不公平な規制に直面したり、現地の慣習について助言が必要な場合には、米国企業は国務省に相談し、国務省は米国企業を支援します。

 一例を上げると、私たちはこの7月にカンボジアのシェムリアップで、米国・ASEAN間では過去最大のビジネス・イベントを開催しました。このイベントには、各国の経済界同士のつながりの強化という共通の目的の下に、米国から150人以上、域内各国から数十人の財界のリーダーが集まったほか、国家元首3人と閣僚が十数人参加しました。

 財界のリーダーたちは、新たなパートナーシップの機会を打ち出す一方で、貿易・投資の拡大をいまだに妨げている障害についても建設的な話し合いをしました。各国政府の代表はそれぞれの話に耳を傾け、アジア太平洋地域のビジネス環境改善のためにすべきことについて理解を深めました。 

 もちろん、たとえこのように画期的で、参加者が多い会議であっても、会議を開催するだけでは効果が限られていることはわかっています。この地域の潜在能力をフルに引き出すためには、私たち全員が具体的な措置――特に市場を歪めたり、一部の企業を差別するような保護主義政策に対する措置を取る必要があります。私たちは、重大な差別的調達規則や現地調達率に関する要件がまだ残っていることを認識しています。市場に参入、あるいは事業を拡大しようとする外国企業に不公正な条件を課す、いわゆる「料金所」と呼ばれる制度、強制的な技術移転や政府がほう助する知的財産権の侵害、国営または国家が支援する事業の優遇などです。こうした規則や要件は、私たちが立ち向かわなければならない、今も存続する市場の歪曲の一例です。

 こうした保護主義政策は、短期的には国内企業に利益をもたらすかもしれませんが、同時にサプライチェーンを混乱させ、投資家を不安にし、最終的には経済を後退させ、誰にとっても利益になるように策定された規則を弱体化させます。

 この点に関しては、米国も含めどの国もこれまで完ぺきではありませんでしたが、私たちは21世紀に必要な世界経済の構築に尽力しています。そして公正な機会と公平な競争の場を与えられれば、米国企業はどこでも競争し成功できると確信しています。 

 米国企業がこのロシアで競争できるようにするために、私たちはジャクソン・バニック修正条項のロシアへの適用を廃止し、ロシアに「恒久的正常貿易関係」を与えるために、米国連邦議会と緊密に協力しています。私たちは、この重要法案が今月議会で可決されることを期待しています。

 2番目の措置として、米国はアジア太平洋地域のパートナー諸国との間で、市場を開放し障壁を軽減する貿易協定を締結するため、多大な努力を払ってきました。韓国との間の歴史的な協定には、米国製品の輸出を100億ドル以上増やし、韓国経済を6%成長させる可能性があります。この協定には、関税引き下げに加え、知的財産権の保護とその執行の向上、公正な労働慣行、環境保護、そして規制上の適正手続きも含まれています。

 これは、広範囲に及ぶ新たな地域貿易協定である環太平洋パートナーシップ協定(TPP)についても言えます。この協定は、先進国、途上国を合わせて少なくとも11カ国の経済をひとつの太平洋貿易圏に統合するものです。TPPは貿易障壁を引き下げるとともに、 基準を引き上げ、より大きな、質の高い成長を生み出します。また国営事業が競争に及ぼす影響、地域のサプライチェーン同士の結合性、そしてどの国においても経済成長と雇用をけん引する中小企業にとっての機会拡大、といった新たな貿易問題に対処しており、(この種の協定の)先駆けとなります。

 第三に、地域および国際機関については、米国はそうした機関と共に、あるいはそうした機関内でより緊密に協力するために協調的な努力をしてきました。均衡がとれ、安定した経済の促進は、各国が単独で取り組むにはあまりにも広範で複雑な課題だからであり、そのためには私たち全員が協力し、国境を越えて広がりうる、また実際に広がっている財政的な圧力の原因に正面から取り組む必要があります。すなわち米国のような先進国がもっと国内でモノを作り、海外への輸出を増やす必要があるということであり、またアジア各国の経済を発展させるということです。私たちは、国産と輸入の両方の製品・サービスに対する需要を喚起できる中流階級を拡大する必要があります。そうした購買力をもたらすのは、より高い賃金と、より安全な労働環境を提供できる、より質の高い雇用であり、女性、移住労働者など公式経済から排除されることの多い人たちの雇用も含まれます。こうしたことを正しく実行できれば、グローバル化は頂点を目指す競争となり、生活水準が向上し、より幅広い層が繁栄を共有できるようになります。

 米国はこの目標を、米中戦略・経済対話を含む米国の2国間外交の中心に据えています。各機関への働きかけという点では、私たちはG20を、経済政策での国際協力を話し合う主要な場に格上げしました。また米国はASEANとの友好協力条約に署名し、東アジアサミットにも参加しました。そして昨年はホノルルでAPEC会議を主催し、地域の経済統合の強化、環境に優しい持続可能な成長の促進、規制面での協力と収束の推進、女性の経済機会の拡大を中心とする計画を推し進めました。

 私たちが成し遂げてきたことの例をひとつだけ挙げると、オバマ大統領はハワイで、効果的で市場主導型の非差別的なイノベーション政策のための一連の原則について、APEC各国首脳の意見をまとめ上げました。

 イノベーションを確実に将来の成長をけん引する主な要因のひとつにする――私たちは皆これを目指しており、グローバル基準の積極的な支持、知的財産権の実施、強制的な技術移転の廃止、調達政策の改善を各国に義務付ける詳細なガイドラインの下に、私たちが同意したイノベーションの原則をそれぞれの国が実施する時が来ています。これが今後のAPECの大きな優先事項のひとつになるべきです。 

 ここウラジオストクで、APECが50以上の環境製品に対する関税について上限額の設置で同意したことを私は喜ばしく思います。これは、地域全体におけるクリーン技術の開発とより環境に優しい成長を促します。この他にも、各国首脳が検討し同意する予定の措置として、干ばつや食料不足の際に食品価格の高騰につながる輸出規制の防止と、絶滅危惧種や保護種などの野生生物の違法売買の阻止を約束しました。

 第四に、最後の措置として、米国はより多くの人々――特に女性――が、より多くの場所で公式経済に参加できるようにするための改革を推進しています。事実、上級管理職も含め、仕事をする女性が増えればイノベーションが促され、生産性が上がることを示す証拠が増えています。また女性の幹部や役員を採用する企業は成功し、そうした女性を採用しない企業より業績が良い場合が多いという調査結果もあります。しかし最近の調査によると、アジアの新興経済諸国では、女性の取締役がいない企業が全体の70%以上に上ります。そして、世界銀行などの概算によると、APEC地域では女性の経済参加の制限により、年間400億ドル以上のGDPが失われています。

 昨年米国は、APECのホスト国として、アジア太平洋地域全域の女性の大きな経済的可能性を引き出すことに力を入れました。サンフランシスコで開催されたホノルルでの首脳会議の準備会合では、参加国・地域が資本へのアクセス、市場へのアクセス、技能と能力の開発、そしてリーダーシップという4つの重要な分野について話し合いました。さらにサンクトペテルブルクで開催された、ここウラジオストクでのAPEC会議の準備会合では、この4つの分野における目標を達成するための70以上の新しいプログラムや政策について合意し発表しました。米国は、排他的でない融資慣行について中央銀行や商業銀行に研修を行い、自らの購買力を活用して女性の起業家や小規模企業を支援する各国政府を援助する新たな取り組みを開始しました。私たちは今後もこうした課題に重点を置いていきます。なぜなら、いかなる経済システムも、人口の半数に当たる人々を排除し搾取している限り、真に開かれた、自由で透明かつ公正なものにはなり得ないからです。

 最後に、皆さんにお伝えしたいことがあります。米国は、アジア太平洋地域に大きな投資をしています。そして、開かれた、自由で透明かつ公正な経済システムを促進するために、できる限りのことをしています。しかし、そうした努力が成功するかどうかは、ここにいる全員、すなわち政府、企業、市民に等しくかかっています。民間部門は、企業の長期的な繁栄を可能にするシステムを求める必要があります。すなわち、有害な保護主義政策をやめ、TPPのような基準の高い貿易協定を支援するよう、各国政府に強く要求する必要があります。また規則に従い、労働者を尊重し、能力のある女性に機会を与え、そして何よりも、民間部門が最も得意とするモノ作りと雇用と成長を実行する必要があります。

 APECは長年にわたり、民間部門にパートナーとして参加してもらうことを優先事項のひとつとしてきました。APECのCEOサミットとビジネス諮問委員会はいずれも、この対話を継続する機会です。また私たちは、食料安全保障、女性と経済、科学技術・イノベーションという3つの新たなAPEC政策パートナーシップを創設しており、[この部分聞き取り不能]がそれぞれ話し合いに参加します。官民が協力して行わなければならないこの重要な作業に、皆さんのエネルギーと専門知識を貸していただけないでしょうか。

 持続可能な成長の道を歩む地域と、短期的な成長に終わる地域との違いは、最終的には規範であり、「交通規則」のようなものです。そうした規則を定め、執行することは、政府にとっても企業にとっても最優先事項のひとつとなるべきです。今、アジア太平洋地域の各国のリーダーには、この任務を前進させる機会が与えられています。米国には、そうした取り組みにおいて建設的なパートナーとなる用意があります。私たちはアジア太平洋地域に信頼を置いていますが、何年も前、APECが発足した時に予見していた経済共同体が、大きく前進したことも認識しています。しかし現在の課題は、飽くことなく、内向きになることなく、共に前進を続けることです。そうすれば、アジア太平洋地域の明るい将来が実現するでしょう。米国を代表し、私たちは将来にわたり、皆さんと協力し、より非排他的な、より素晴らしい、持続可能な繁栄をアジア太平洋地域全体で実現できるものと期待しています。

 皆さん、ありがとうございました。