「オバマ大統領のアジア政策と今回のアジア訪問」―トム・ドニロン大統領補佐官(国家安全保障担当)の戦略国際問題研究所での講演(草稿)

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2012年11月15日、ワシントンDC

 皆さん、おはようございます。ハムレ所長、ご紹介ありがとうございます。所長の友情、そして政府とここ戦略国際問題研究所(CSIS)でのわが国への貢献に感謝します。CSISにお招きいただき光栄です。CSISの研究、見識および分析は半世紀にわたり、オバマ政権時代を含め、非常に多くの米国安全保障政策にさまざまな形で情報を提供する知的資本としての役割を果たしてきました。

 CSISと政府は考えもスタッフも共有してきました。その中には、本日ここで私がお話しするテーマである米国の対アジア太平洋戦略も含まれますし、マット・グッドマン氏のように政府とCSISの両方での勤務経験を持つ人たちも含まれます。マットは国家安全保障スタッフの1人として、大統領の国際経済外交にとって欠くことのできない存在でした。マット、そして皆さん、特に多くのASEAN諸国の大使の皆さん、本日はお越しいただきありがとうございます。 

 オバマ大統領は、これから48時間もたたないうちに、再選後初の外国訪問に出発します。まずタイを訪れ、歴史的なビルマ訪問を行い、最後にカンボジアで東アジアサミットに参加します。再選後間もないこの時期に大統領がアジア訪問を決定したことから、大統領がこの地域を重視していること、そしてこの地域が米国の国家安全保障上の利益および優先事項の多くにとって重要であることがわかります。

 本日私は、大統領の今回のアジア訪問について、一歩引いた立場から、次のような観点に照らしてお話ししたいと思います。すなわち、今回の訪問が大統領のより広範な国家安全保障政策にどのように組み込まれるのか、大統領のアジア太平洋地域を重視したリバランス(再均衡)が米国の国家安全保障上の利益をどのように高めるのか、そして今回の訪問がこの地域に対する各政策の柱または米国の多元的な戦略をどのように推進するのか、という観点です。本日参加されている皆さんは長年にわたり、この地域に関しての経験をお持ちですから、皆さんからの質問を受け、意見を交換できることも楽しみにしております。 

 はじめに、どの政権においても、外交政策の実施と遂行における最大の課題のひとつは、日々の課題や次々に生じる難局が、長期的な利益を追求するためのより広範な戦略の策定を妨げないようにする点であると指摘したいと思います。オバマ政権発足当初―まさに最初の数日間―に、大統領が国家安全保障チームのメンバーに対し、米国のプレゼンスと優先事項について戦略的な分析、すなわち全世界的な視点で検討するよう指示した理由はここにあります。

 私たちは、米国が世界に残した足跡は何か、世界に向けてきた顔、そしてそのあるべき姿とは何かを問いました。そして追求すべき重要な国家安全保障上の利益の特定に着手しました。私たちは世界を見渡し、そして問いました。力を入れ過ぎている地域はどこか。力の入れ方の足りない地域はどこかと。

 この分析の結果、一連の重要な決定が下されました。米国の国力の投入に不均衡があったことは明らかでした。中東地域における軍事的関与のように、特定の分野や地域に力を入れ過ぎていると大統領は判断しました。他方で、アジア太平洋地域のように、力の入れ方の足りない地域も存在しました。

 こうした決定に従い、私たちは、世界における米国の態勢のリバランスに取り組み始めました。何よりも、大不況からの景気回復と、米国の国力の基盤である強い経済を取り戻すことに最大の焦点が当てられていることはご存じのとおりです。また米国独自の資産である重要な同盟―大西洋から太平洋にかけて存在する条約同盟国の強固なネットワークの活性化を始めました。そして米国の国益に資する国際機関および地域機関への関与を深めることにしました。

 大統領はイラクでの戦争を終わらせ、米国のテロ対策を転換して再活性化し、アフガニスタンでは移行計画を策定してきました。大統領はこれによって米国の戦略的行動の自由を大きく向上させ、変化する世界および活力ある地域で、米国の軍事態勢と米国の国益が一致するようにしています。

 しかし、米国のリーダーシップの刷新は、優先事項に重点的に取り組み、リソースを配分するために、外交政策のリバランスを行うことも意味しました。大見出しやニュース番組の抜粋などではその重要性を測り得ない持続的な国益、すなわち21世紀に最も重要な国益に特化して重点的に取り組むことを意味しました。   

 このため大統領は、リソース、国や地域機関に対する外交活動や関与、そして政策という点で、アジア太平洋をさらに重視するために、やはり政権初期に、全世界的な見直し作業の一環として重要な決定を下しました。皆さんの多くがご存じのとおり、クリントン国務長官は、1961年のディーン・ラスク国務長官以来、就任後の初の訪問先としてアジアを選んだ初めての国務長官となりました。大統領が大統領執務室で会った最初の外国の首脳はアジア―日本の首相でした。これらは、この地域が優先事項のひとつとなることを大統領が早期に示した力強いメッセージです。

 私たちの取り組みは単純な命題に基づいています。すなわち、米国は太平洋国家であり、その国益はアジアの経済、安全保障および政治秩序と密接不可分に結び付いているというものです。21世紀における米国の成功は、アジアの成功と切り離せません。

 経済面では、世界経済および米国経済にとってのアジアの重要性は、どれほど言葉を尽くしても言い表せないほどです。市場為替レートで換算すると、アジアは世界のGDPの約4分の1を占め、その比率は2015年までに30%近くにまで増加すると見込まれます。この地域は2017年末までに、米国を除く全世界の成長のおよそ50%を占めるとも予測されます。また米国の物品およびサービスの輸出の25%、輸入の30%を占めています。現在、およそ240万人の米国人が、対アジア輸出に支えられた仕事に従事しており、この数は拡大しています。つまり、アジアにおける米国の活発な貿易と投資が、米国経済の回復および米国の長期的な経済力にとって極めて重要であるという状況が続くでしょう。

 安全保障に関しては、ここ数十年間のこの地域の目覚ましい経済成長の土台である地域の安全保障には、安定的な米国のプレゼンスが必要であることは広く認識されています。この地域は世界最大級の軍隊が駐留する場所であるとともに、朝鮮半島のような紛争の火種を抱える地域でもあり、米国はこの地域の同盟国およびパートナー諸国に対して、安全保障上の義務を負っています。福島第一原発事故やインドネシアの津波などの出来事により、米国は今も、人道支援や災害救助などの従来とは異なる安全保障を提供できる特異な能力を有することが明らかになりました。

 アジア太平洋地域に対する関与を米国が新たにしたのは、地域のさまざまな国が米国のリーダーシップを求めているからでもあります。従来の安全保障上の課題や新たな人道支援および災害救助の必要性に加え、米国の経済的関与、貿易の統合のほか、紛争を解決するための地域機関、行動規範および法の支配の強化、ならびに人権の擁護も必要になっています。私たちはまた、持続可能なエネルギーの問題での関与の深化と強化においても共通の利害を有します。

 こうした利害に鑑み、大統領は私たちが追求すべき将来を明確にしてきました。昨年、大統領はキャンベラにおいて米国の構想を明らかにしました。簡単に言うと、米国の包括的な目標は、経済の開放、紛争の平和的解決、民主的統治および政治的自由に根差した、安定した安全保障環境および地域秩序を維持することです。

 この目標は、わが国の長期的な対アジア構想に基づいています。米国は、新興国が平和的に台頭する地域、海、空、宇宙およびサイバー空間への自由なアクセスにより商業活動が活発になる地域、多国間の議論の場が共通の利益の推進に資する地域、そして政府に影響力を及ぼす市民の力が徐々に強まり、普遍的な人権が擁護される地域を望んでいます。これこそ同盟国および友好国との協力の下、私たちが追求する将来の姿です。

 これらの目標の達成に向け、米国はどのように取り組んでいるのでしょうか。この取り組みにはどのような要素があるのでしょうか。私たちは持続的で多元的な戦略を進めています。このうち安全保障の要素がしばしば最も注目を集めることはわかっています。しかし私は、リバランスの取り組みとは何かを明確にしたいと思います。実際のところ私たちは、国の優先順位に従ってリソースを配分しようとしていますが、今回の取り組みは単に軍事資源の移転だけではありませんし、他のいかなる国も封じ込めようとするものでもありません。 

 アジア太平洋に対する米国の態勢のリバランスは、国力の全ての要素を活用するものであり、今世紀に直面すると見込まれるさまざまな機会と課題に対処するために態勢を整える長期的な取り組みです。そしてこの取り組みは、明確に区別される複数の分野で続けられます。

 第一に、米国は地域全体の安全保障上の同盟関係を強化し、近代化してきました。 

  • 米国は、役割、任務および能力面での相互運用および連携の向上を含む、日米同盟の機能向上と近代化に成功しました。 
  • 韓国との間では、安全保障面での協力の強化へ向けた共同構想を実施し、米韓自由貿易協定を実施しているほか、アフガニスタンや、ソマリア沖の海賊対策のパートナー国としての協力など、世界規模での安全保障に貢献する「グローバル・コリア」誕生を支援してきました。
  • オバマ大統領は昨年のオーストラリア訪問で、米国海兵隊の歴史的な巡回派遣と、合同訓練および演習を通じた地域的課題に対応する一連のイニシアチブを、ギラード首相と共に発表しました。クリントン国務長官およびパネッタ国防長官は昨日オーストラリアで、同盟と地域問題について話し合ったところです。
  • オバマ大統領は今年6月、ワシントンDCにフィリピンのアキノ大統領を迎えました。両国は一連のテロ対策および海上安全保障問題について緊密に協力しています。 

 結論として、アジア太平洋における米国の同盟関係は、これまでと同様に、あるいはこれまで以上に強くなっています。これは、今お話ししたパートナーシップの幅広さと深さに反映されていますし、オバマ大統領とこの地域の首脳たちとの個人的関係の強さと、米国が現在維持している高い地位に反映されています。そして申し上げたとおり、この地域で米国の持続的なリーダーシップが求められていることにも反映されています。 

 同盟強化に加え、米国は新興諸国とのパートナーシップの進化という第二の分野でも取り組みを続けています。私たちは、米国の目標達成のために将来必要となる同盟やパートナーシップとは何かを自問し始めました。

 そのため、米国はインドとの関係を深めてきました。2009年のインドのシン首相のワシントンDC訪問は、オバマ政権最初の国賓としての公式訪問でした。2010年のオバマ大統領のインド訪問および米印戦略対話を踏まえ、米国はインドを21世紀の戦略的パートナーと考えています。そのため、米国はインドの「ルック・イースト」政策、そしてインド洋を含むアジアにおける役割を拡大する取り組みを歓迎しています。他方で、インドネシアがグローバルなパートナーとなる可能性の実現への支援に努めてきました。2010年の大統領のジャカルタ訪問および米印の包括的パートナーシップの正式な発足は、この取り組みを推進するものでした。
 
 第三の分野として、私たちは地域協力、紛争の平和的解決、ならびに人権の保護と国際法の順守を促進するために、国際および地域機関への関与を一層深めてきました。例えば、国際的なレベルでは、大統領はG20を国際経済協力分野で最も重要な議論の場とすることを強く支持しました。言うまでもなく、これにより中国、韓国、インド、オーストラリア、インドネシアなどアジア太平洋のより多くの国が、世界経済問題の意思決定の場に参加することになりました。

 この地域で、私たちはASEANとの関与を深めてきました。オバマ大統領は昨年、バリで開催された東アジアサミットに参加し、同サミットに参加した初の米国大統領になりました。来週はカンボジアで開かれる今年のサミットに再び参加する予定です。このことは、見過ごされがちでありながら、非常に重要な米国の戦略の一面を表しています。つまり、米国はアジア太平洋を重視するリバランスだけではなく、アジア太平洋地域内のリバランスにも取り組んでおり、東南アジアとASEANをあらためて重視しています。CSISのアーニー・バウワー氏が最近述べたように―今バウワー氏は移動中だと思いますが―「オバマ大統領は米国のアジアへの関与について新たな形を作り出そうとしています」。その中には「ASEANを中心に据えた」アジア政策が含まれます。 

 なぜでしょうか。インド洋から太平洋にまたがるASEAN10カ国は全体で6億を超える人口と、アジア第3位の経済を有しています。ASEANはマラッカ海峡など、世界で最も重要な交易路および海上交通路にまたがっています。ASEANはその設立以来、地域協力のための緩やかな議論の場から、幅広い実践的協力を担う制度化された機関へと成長し、より広範な地域の経済、政治、安全保障面での統合に向けた言動力となっています。ASEANはその本領を発揮し、共通の課題に対する地域としての対応をつくり上げ、効果的なルールに基づく秩序を構築するという重要な役割を果たしてきました。米国はこうした取り組みを強く支持します。なぜなら、統合された効果的なASEANは、本質的に米国の、そして地域の利益になると考えるからです。オバマ大統領が昨年、デービッド・カーデン氏を初の駐ASEAN米国大使に任命したのはこのためであり、来週のカンボジアでの会合がオバマ大統領とASEAN首脳との4回目の会合になるのもこのためです。米国の目標は、ASEANを地域機関として支援・強化し、地域の安定、政治・経済的発展、人権と法の支配を一層効果的に推進できるようにすることです。

 大統領とASEAN首脳との会合は、貿易、投資、エネルギーなどの分野でこれらの国々との関係を一層深めるという米国の決意を反映するものです。また大統領は東アジアサミットを、首脳レベルで戦略上・安全保障上の問題を議論する効果的な場とすることを支持しており、今回の大統領訪問はその点も反映しています。つまるところ、APECはこの地域の首脳が経済と貿易の問題に関して話し合う機会を提供し、ASEAN地域フォーラムとアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)は閣僚の会合の場となっています。しかし率直に言って、この地域の首脳が政治問題について話し合う場は東アジアサミットの他にありません。そしてそのような場が必要とされています。東アジアサミットはそうした問題を話し合う場になりえます。

 米国の戦略の第四の要素は、中国との安定的かつ建設的な関係の追求です。北朝鮮から、イラン、シリア、世界経済の不均衡の是正や気候変動まで、中国を交渉のテーブルにつかせることなく対処するできる外交および経済面での課題は世界にほとんどありません。

 米中関係にはもちろん、協力と競争の両要素があります。米国は一貫して、中国との協力関係と米国の競争力を量的にも質的にも向上させる形で、この2つの要素のバランスを取る政策を取ってきました。同時に、健全かつ破壊的ではない方法で意見の相違や競争に対処しようとしています。これはまた、共通する全世界的な問題という観点から国益を定義し、そうした問題に対処する国際社会を支援する責任を負うよう中国政府に働きかけることも意味します。

 戦略・経済対話のような中国との高官レベルの協議を通じ、米国の対中交渉は国の安全保障上の利益を高める重要な成果を生んできました。イランと北朝鮮の核およびミサイル開発計画に関して、中国から意義のある持続的な協力を引き出してきましたし、経済面では中国と連携し、2009年に世界経済を活性化させたほか、G20を世界の主要経済機関に育て上げました。米中の軍事関係は、9月のパネッタ国防長官訪中の成功などにより、機運が高まっています。

 加えて、私たちは米国の利益と価値観に合った形で問題に対応してきました。この中には、普遍的な人権の擁護の重要性について率直に語りながら、より広範な分野で安定的な関係を維持することも含まれます。

 中国が国際的な交渉の場に参加する機会が増えるにつれ、自らの世界的な影響力および国力の高まりに見合った責任を取る必要があることを、私たちは明示してきました。従って、米国の政策目標のひとつは、中国と協力し、G20からAPEC、東アジアサミットまでの諸機関を強化し、地域および国際的課題に対応するこれらの機関の能力を高めることです。米中関係を正すことは長期的な取り組みであり、中国の新しい指導部が権力を握ろうとしている中、オバマ政権2期目においても引き続き優先事項としていきます。

 米国の戦略の最後の要素は、地域の経済体系の推進です。大統領がこれまで述べてきたように、私たちは開放された透明な経済と自由で公正な貿易を求めています。そして規則が明確であり、そうした規則に従って各国が行動する、開かれた国際的な経済制度も求めています。米国はこの目標に向かい、環境関連の物品に対する関税引き下げに関するAPECの指導力を足がかりとして、継ぎ目のない地域経済の実現に向けAPECのパートナー諸国との協力を継続します。

 さらに、私たちは高い基準の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の実現に向け交渉を進展させる決意です。TPPは国際貿易制度において現在進行中の最も意義のある交渉であると広く認識されています。TPPは当初の7カ国から拡大し、現在はベトナム、マレーシア、メキシコおよびカナダも交渉に参加しています。日本などの国々も、交渉参加への関心を表明しています。   

 TPPは関税の引き下げのみならず、21世紀の貿易・投資問題への対応により、地域的な経済統合を深化させます。こうした問題の中には、優れた規制慣行、国有企業の活動に対する公平な競争条件の確保、デジタル物品およびイノベーション分野での市場に基づく貿易、小規模企業の直面する問題への対処があります。大統領はこうした交渉を成功させるため、TPP参加国の首脳と協力することを楽しみにしていると思います。

 今申し上げた全てが今回の大統領のアジア訪問の背景です。繰り返しますが、オバマ大統領が再選後初めて訪れる地域がアジアであることは、大いに意味のあることです。今回のアジア歴訪は、オバマ政権の2期目においても、1期目と同様、アジア太平洋が引き続き戦略的優先地域であり続けるという強力なメッセージを送っています。ある意味、大統領のこの地域への取り組みの重要な要素の縮図になっています。

 大統領のアジア歴訪は、外交関係の始まりが1833年までさかのぼる、地域で最も古くからの友好国、タイから始まります。本日のパネッタ国防長官のタイ訪問を踏まえ、大統領は両国の2国間関係全般の強化、混乱の時期を経た後の民主的秩序の継続的かつ平和的な回復の支援、安全保障、核不拡散、開発および環境分野での両国の協力の深化に向け、インラック首相と会談します。

 次はビルマへの歴史的訪問です。この国の指導者たちは、数十年にわたる弾圧の時代を経て、改革と民主化への道のりへ歩み出すことを選択しました。今回の大統領の訪問は、ビルマ当局にさらなる行動を促すには関与が最善の方法であるという大統領の信念を反映しています。ビルマを訪問する初の米国大統領として、オバマ大統領は現在進められている改革を支持・支援するとともに、改革派に勢いを与え、前進の継続を促します。

 大統領執務室にアウン・サン・スー・チー氏を迎えた大統領は同氏に対し、米国の目標は、(ビルマ)国内の関係者および国際社会との連携を促し、継続的な改革を奨励するような形で(ビルマ)政府に関与することであると伝えました。このため、ビルマでの政府、スー・チー氏を含む野党、および市民社会と大統領との会合では、政府が正しい選択をする場合には、米国はパートナーとして信頼できる存在になりうることがはっきりと示されるでしょう。

 大統領と各関係者との会合とビルマ国民に向けた演説は、なお必要とされる前進について再確認する機会にもなるでしょう。前進が必要な項目としては、いまだに収監されたままの政治犯の無条件の釈放、民族紛争の終結、法の支配を確立する措置、少年兵の徴用の廃止、紛争地域における人道支援提供機関および人権監視団の受け入れの拡大があります。

 大統領はまた、民主的変革、ビルマの発展、ビルマが直面する困難な課題への対応の支援に向けた具体的な措置も提示します。例えば米国は、民主制度の確立、法の支配の確立支援、人権の促進、そして全ての利害関係者を改革プロセスに確実に参加させるといった優先分野に関するプログラムに焦点を当てた米国の支援の枠組みを検討しています。また腐敗対策と少数民族間の和解の促進に関する国家行動計画の策定で、ビルマ政府と協力しています。

 ビルマ指導者層による改革の決定は素晴らしいかもしれないが、その成否はビルマ国民の関与と国民への権利の付与にかかっている―これは大統領が今回伝える重要なメッセージのひとつです。米国はビルマの市民社会と草の根レベルの活動家を長年支援してきており、彼らに引き続き権利が与えられ、ビルマの変革に参加しているようにしたいと思います。

 もうひとつの重要な課題はロヒンギャ族の窮状です。ラカイン州ではここ数カ月間、ロヒンギャ族に対する差別と暴力が急増しており、米国はその状況を深く懸念しています。私たちは暴力を非難し、この問題の核心にある正当な要求に対応するための冷静で意味のある対話を求めてきました。

 (ビルマ)政府は、平穏を取り戻すために有益な役割を果たす、この問題で被害を受けた多くの地域が人道支援を受けることを認める、暴力の扇動者を裁くことを明確に約束するなど、いくつかの建設的な措置を取ってきました。私たちはビルマ政府がこれらの各分野で約束を順守することを期待しています。デレク・ミッチェル米国大使は、ラカイン州民の安全と福祉の確保について、ビルマ政府と非常に緊密に連携してきました。大統領はこの問題についても言及すると私は期待しています。

 ビルマ訪問後、カンボジアで開催される東アジアサミットで大統領は、海上安全保障と法の執行から、災害対応と人道支援、開発、伝染病、教育、食料安全保障、エネルギーに至るアジア太平洋地域におけるさまざまな懸念事項について議論します。 

 おそらく首脳たちは、南シナ海における領有権をめぐる問題についても協議するでしょう。大統領は昨年のバリと同様、主要な原則をあらためて強調します。すなわち紛争の平和的解決の必要性、妨害されない合法的な商取引、航行の自由、および紛争解決手段としての威嚇または武力もしくは経済制裁の行使の拒否という原則です。特に私たちは、紛争の解決および防止のためのルールに基づく枠組みを定める確固とした行動規範を策定するASEANの取り組みを支持しています。米国は南シナ海および東シナ海のいずれについても、領有権問題についてどちらの側にも立たないことを明言してきましたが、大統領のメッセージは、これらの紛争に対処するにあたり、地域の平和、安定および繁栄を支持する方法が取られることに、米国が非常に強い関心を持っているという点を強調することになります。

 この意味で、今回の大統領の訪問は、米国のアジア太平洋を重視した、そしてアジア太平洋域内でのリバランスの取り組みでの次の段階の始まりを意味します。そして、この点についてお話しして、本日の私の話を締めくくりたいと思います。この地域内にも、米国にも、さらにおそらくこの場にいらっしゃる方の中にも、米国の取り組みが長期的に持続可能なものなのかという疑問を持たれたことがある方がいることはわかっています。私が本日ここで、大統領が米国はこの地域で長期にわたり、より大きな役割を果たすと述べる時には、本気であることを伝えたいと思います。また大統領も、今回の訪問でそれを再確認するでしょう。

 これは米国内から始まります。なぜなら大統領が述べてきたように、「人類の歴史において、経済力の衰退した国が軍事的および政治的優位を維持した例はかつてない」からです。従って大統領は、米国の景気回復の維持と、財政正常化へ向けた困難だが必要な決断を下すための連邦議会との協力を引き続き重視しています。 

 例えば、十年に及ぶ戦争が終わり、米国の国防予算はある程度縮小されるでしょう。しかし、米国の新しい国防戦略に従い、米国の国防支出および計画は、アジア太平洋における米国のプレゼンスおよび任務を含む主な優先事項を今後も支えていくことになるでしょう。昨年キャンベラにおいて、大統領は米国の国防支出の削減によりアジア太平洋が犠牲になることはないと約束しました。大統領はこの約束を守ってきまし、今後も守っていくでしょう。 

 米国は今後も、強固で柔軟かつ幅広く分散した地域的なプレゼンスを維持できるように軍事資源を割り当てます。この中には、アジア太平洋地域に重点を置いて海軍を配備し、さらにプレゼンスと能力を拡大することも含まれます。今後、米国は西太平洋の戦略拠点としてグアムの強化を継続し、日本、グアム、オーストラリアおよびハワイに完全な能力を持つ海兵空陸任務部隊を確立し、この地域における国境を越えたさまざまな脅威に対応する能力を拡充するためシンガポール沖に最大4隻の沿海域戦闘艦を巡回させ、武力侵略の抑止および打破、ならびに同盟国およびパートナーを安心させるために適切な能力の構築に投資していくつもりです。 

 2020年までに、米国は米国艦隊の60%を太平洋に配備します。また東南アジアからオセアニア全域で、海上安全保障と法執行のパートナーシップと、妨害されない商取引および航行の自由を支持するプレゼンスの構築を継続します。 

 本日私が概説したように、米国のリバランスを定義づけるのは国防態勢だけでありません。経済面・政治面でのより深い関与も、引き続き定義づけの要素に含まれます。この地域の人々の自由と尊厳のために立ち上がることも含まれます。つまり、私たちがフィリピンやインドネシアで行い、そして今ビルマでも行っているように、民主的な移行への支援を継続することであり、普遍的な人権の擁護の必要性について公的な場所でも私的な場所でも、率直に発言することを意味します。 

 私たちは錯覚に陥っているのではありません。米国のアジア太平洋に対する―そして地域内での―リバランスは、短期間で終わる取り組みではありません。私たちが大きな関心を注ぎ、忍耐を必要とする長期にわたる取り組みです。大統領が今後数日間のうちにあらためてはっきりと述べるように、この地域は今後も、オバマ政権にとって外交政策上の優先地域であり続けます。

 どうもありがとうございました。質問をお受けしたいと思います。