「2013年の米国とアジア太平洋」―トム・ドニロン大統領補佐官(国家安全保障担当)によるアジア・ソサエティーでの講演(草稿)

トム・ドニロン大統領補佐官(国家安全保障担当)

 *下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

 2013年3月11日、ニューヨーク

  本日は、このような素晴らしい場で皆さんとご一緒でき、大変光栄に思います。アジア・ソサエティーは約60年にわたり、アジアと米国の文化、考え方、指導者そして人々をつないできました。

  ここアジア・ソサエティーで大きな足跡を残した1人が、当会の会長を務め、私の30年来の友人でもあったリチャード・ホルブルック氏であることは間違いありません。リチャードは、バルカン諸国から南アジアに至る地域で功績を挙げましたが、東アジアを担当する史上最年少の国務次官補になり、真のアジア専門家でもありました。リチャードは、進歩と平和は実現可能であるという信念を持っていました。私たちはこの教えを、彼が熱心に取り組んだ南西アジアのみならず、アジア太平洋全体で守っています。本日私がここに参りましたのも、この取り組みがこれまで以上に重要性を帯びている、すなわち米国の未来が、アジア太平洋の新しい経済的、戦略的、政治的秩序と、これまで以上に緊密に結びついているからです。

 昨年11月、私はワシントンDCで、アジアの重要性の高まりを反映し、米国が実施している全世界での態勢のリバランス(再均衡)について概要をお話ししました。オバマ政権の第2期が始まるにあたり、私は前途にある具体的な課題について、いくつか焦点を当ててお話ししたいと思います。

 今この話をするのは、アジアが移行期にあるという意味で、特にタイミングがよいと言えます。東京とソウルで新政権が発足しました。北京では今週、中国指導部の交代が完了します。オバマ大統領および国家安全保障チームのメンバーは、新しく指導者となる方々と、それぞれ既に建設的な対話を始めています。マレーシアやオーストラリア、その他の国でも選挙があります。こうした変化により、この活力ある地域において、米国が変わらず、持続的に関与することの重要性を再認識できます。

なぜアジア重視なのか

 アジア太平洋を重視する米国のリバランスについて、全体の分脈の中でお話しすることから始めたいと思います。どの政権においても、次々に生じる難局が、大きな課題や機会に対処する長期的な戦略の策定を妨げないようにしなければならないという課題に直面します。

 9.11の同時多発テロ、2つの戦争、そして金融危機に直面した10年を経てオバマ政権が発足した時、大統領は米国の世界的なリーダーシップの土台である米国の経済力の回復を決意していました。以来、米国は自国の経済を回復軌道へ乗せるため一連の政策を実施し、この35カ月間で600万の雇用創出に貢献してきました。

 同時に、米国のリーダーシップを取り戻すということは、今マスコミに大きく取り上げられる課題だけでなく、将来の世界秩序を形成する地域に集中的に取り組み、リソースを割くことも意味していました。政権発足当初から、さらには就任前にも、大統領が国家安全保障チームのメンバーに対し、戦略的な分析、すなわち米国のプレゼンスと優先事項に関する全世界的な視点での検討を指示した理由はここにあります。私たちは、米国がどのような足跡を世界に残してきたか、どのような顔を世界に向けてきたか、そしてあるべき姿とは何かを問いました。そして追求すべき重要な国家安全保障上の利益の特定に着手しました。世界を見渡し、こう問いました。力を入れ過ぎている地域はどこか。力の入れ方の足りない地域はどこか、と。

 この分析の結果、一連の重要な決定が下されました。米国の国力の投入と集中に不均衡があったことは明らかでした。中東地域における軍事行動を含め、特定の分野や地域に力を入れ過ぎていると大統領は判断しました。他方で、アジア太平洋地域のように、力の入れ方の足りない地域もありました。実際のところ、私たちはこの点に米国の主な地域的不均衡があると考えました。

 ある面では、これは、この地域のこれまでにない社会的、経済的発展に向け、安定した基盤を提供するという、米国が何十年もアジアで果たしてきた重要な役割を認識したことを反映していました。しかしそれ以上に、アジアと米国の将来は深く結び付いており、その結び付きはさらに深まっているという本質を理解したことが、私たちの指針となりました。経済的には、アジアは既に世界のGDPの4分の1以上を占めています。今後5年間に、米国を除く世界の成長のおよそ半分は、アジアからもたらされると見込まれます。このような成長により、この地域を変化させる強力な地政学上の勢力が勢いを増しています。すなわち、中国の台頭、日本の回復、「グローバル・コリア」の出現、東方政策へ転じたインド、そしてかつてない程一層緊密に結び付き、繁栄する東南アジア諸国などです。

 これらの変化は、アジアの経済的、外交的、政治的ルールがまだ作られている最中に生じています。太平洋の両側にいる人々には大きな利害があります。そしてアジア太平洋を重視する米国のリバランスは、米国のリーダーシップ、経済的関与、地域機関に対する持続的な関心、および国際的規則や規範の保護を、地域全域の国々の指導者や人々が強く求めていることに対応するものでもあります。

リバランスが意味することと意味しないこと

 こうした状況を背景に、オバマ大統領は、米国が追求する未来についてはっきりした立場をとってきました。大統領が2011年にキャンベラを訪問した際に、オーストラリア議会で行った演説をまだお読みになっていない方は、ぜひお読みください。この地域における米国の政策を明確に述べた演説であり、自由を声高に呼びかけるとともに、米国がアジア太平洋に関して「総力を挙げる」ことを示すもうひとつの証左でもあります。

 キャンベラで大統領が説明した通り、この地域での米国の包括的な目標は、安定した安全保障環境、そして経済の開放、紛争の平和的解決、ならびに普遍的権利と自由の尊重に根差した地域秩序を維持することです。

 このような構想の実現に向け、米国は包括的かつ多元的な戦略を実施しています。すなわち、同盟関係の強化、新興勢力とのパートナーシップの深化、中国との安定的、生産的かつ建設的な関係の構築、地域機関の活性化、持続的な繁栄の共有を可能にする地域経済体系の構築の支援です。

 これらは米国の戦略の柱であり、リバランスとは、それぞれを遂行するために必要な時間、努力、リソースを投入することを意味します。ではリバランスが意味しないこととは何でしょうか。リバランスとは、他の地域の重要なパートナー諸国とのつながりを弱めることではありません。中国を封じ込めることでも、アジアに対して条件を突き付けようとすることでもありません。そしてリバランスは、米国の軍事的プレゼンスの問題だけではありません。リバランスとは、軍事、政治、貿易と投資、開発、米国の価値観といった、米国の国力の全ての要素を活用する取り組みなのです。

 おそらく、このリバランスが最もはっきりと反映されているのは、ワシントンで最も貴重な財である大統領の時間でしょう。例えば、オバマ大統領が国家元首レベルが参加する東アジアサミットへ毎年参加し、米・ASEANサミットの開催を決定したこと、大統領がこれまでに東南アジアまたはワシントンのいずれかで、地域のほぼ全ての指導者と2国間協議を行ってきたこと、そして中国には、胡錦濤国家主席との12回の直接会談を含め、これまでにない頻度で関与してきたことは、大変重要な意味を持ちます。

 さて、ここで米国の戦略のそれぞれの柱と、2013年に米国が直面するいくつかの課題について、お話ししたいと思います。

同盟関係

 第一に、米国は引き続き同盟関係を強化します。アジアでさまざまな変化が起きている中で、これだけは変わりありません。この地域の同盟関係は、これまでも、そしてこれからも、米国の戦略の基礎であり続けます。米国の同盟関係が現在、これまで以上に強固になっていると、私は確信しています。

 日本との同盟関係は、今も地域の安全保障と繁栄の礎です。ちょうど2年前の今日、3月11日に津波および福島の原発事故が起きた時ほど、日米の友情が明確に示されたことはかつてなかったでしょう。同盟国として、そして友人として、政府内外の米国人が、日本の災害対応と復興のために支援の手を差し伸べようと駆けつけました。

 同じような結束の精神は、日本の新しい首相である安倍晋三氏が、オバマ大統領が2期目に迎えた最初の外国指導者の1人となったことからも明らかです。両首脳は、貿易、安全保障協力の拡大、在日米軍の再編へ向けた次の措置について充実した議論を持ちました。大統領の2期目の課題の中には、米国が日本に重要な役割を果たしてもらうことを期待しない地域的または国際的な問題はほとんどありません。

 韓国との関係では、米国は地球規模の同盟および貿易パートナーシップの深化を希求するという共通のビジョンを足掛かりに前進しています。私は、ソウルで開催された韓国初の女性大統領、朴槿恵大統領の就任式に出席し、戻ってきたばかりですが、米韓の首脳が優先事項やビジョンをいかに共通しているかを知り、驚きました。朴大統領にお会いした際、私は韓国防衛に対するオバマ大統領の揺るぎない決意を伝え、朴大統領からは、米韓同盟の近代化と地域および世界の幅広い問題で連携する努力の継続について、全面的な支持をいただきました。私の滞在中に、朴大統領はオバマ大統領からのワシントンへの招待を受け入れました。本日この場において、5月に朴大統領をホワイトハウスにお迎えすることを発表したいと思います。

 日本と韓国については、安全保障面で米国と緊密に協力していくことを約束した新しい指導者に期待することができます。これは偶然でも、驚くべき出来事でもありません。両国の世論調査によれば、米国との同盟関係についてそれぞれの国民の約80%が支持しているからです。同時に、将来的には、活力ある地域で安全保障を維持するには、日本、韓国、米国による一層緊密な連携が求められることは明らかです。

 オーストラリアとの関係では、大統領のオーストラリア訪問と、米国海兵隊の巡回配備に関するギラード首相との共同発表の後、両国はそれぞれの軍を一層緊密に連携させています。ギラード首相は、アジア太平洋地域の繁栄と安全保障を促す米国の取り組みにおいて、傑出したパートナーであり続けてきました。米国は、テロ対策、人道支援、災害支援に対応するため、タイおよびフィリピンとの長年にわたる同盟関係を再活性化しました。フィリピンのアキノ大統領のワシントン訪問、そしてオバマ大統領のタイ訪問とインラック首相との会談はいずれも、米国の戦略のもうひとつの重要な側面を示しています。すなわち、米国はアジア太平洋を重視するリバランスだけではなく、東南アジアの重要性の高まりを認識し、アジア内でのリバランスも行っています。東アジアへの力の入れ方が足りないことがわかったように、特に東南アジアへの力の入れ方が足りないことに気付いたのです。私たちはこれを是正しようとしています。

 近年の厳しい財政状況にあって、このリバランスが持続可能なものなのかという疑問を持つ人がいることはわかっています。十年に及ぶ戦争が終わり、米国の国防予算が縮小されるのは自然なことです。しかし、間違ってはいけません。オバマ大統領は、米国のアジア太平洋における安全保障上のプレゼンスと関与を維持するとはっきり述べています。特に米国の国防支出と計画は、米国の永続的な朝鮮半島での駐留から西太平洋における戦略的なプレゼンスまで、米国の主要な優先事項を今後も支えていくことになるでしょう。

 このことは、米国の軍事資産のうち、今後は太平洋に配備される割合が高まることを意味します。2020年までに、米国艦隊の60%を太平洋に配備します。今後5年間で、米空軍も太平洋へ比重を移します。陸軍および海兵隊のいずれも(この地域での)能力を増強します。国防総省は、潜水艦、F-22やF-35などの第5世代戦闘機、偵察プラットフォームなど、最も近代的な能力の配備について、太平洋軍を優先する努力を続けています。また同盟国と連携し、これらの国々やこの地域全体が直面する最も差し迫った脅威、すなわち北朝鮮による危険で安定を損なう行為に対抗するためのレーダーおよびミサイル防衛システムの拡大を急速に進めています。

北朝鮮

 さて北朝鮮について少しお話ししたいと思います。

 米国は60年にわたり、朝鮮半島の平和と安定の確保に尽力してきました。これは北朝鮮による武力侵略の抑止と、同盟国の防衛を意味します。また朝鮮半島の完全なる非核化も意味しています。米国は、北朝鮮を核保有国として受け入れません。また北朝鮮が米国を標的とし得る核ミサイルの開発を進めることを傍観するつもりもありません。先週、国連安全保障理事会が、北朝鮮の挑発的な核実験に対する新たな制裁決議を全会一致で採択したように、北朝鮮による重大な国際義務違反が重大な結果をもたらすことを国際社会は明確にしてきました。

 米国の対北朝鮮政策は、主に4つの原則に基づいています。

 第一に、日本および韓国との緊密かつ広範な協力です。北朝鮮の挑発行為に直面して米・日・韓が構築し、朴大統領と安倍首相が再確認した結束は、抑止の場合と同じように、外交的な解決を探る上でも重要です。北朝鮮がこの3カ国の政府の間隙をつくことができた時代は終わりました。

 また、平和的な解決を実現するには、米国と中国の新政権との緊密な連携が求められることも付け加えたいと思います。私たちは、中国を含むいかなる国も、隣国を威嚇する北朝鮮に対し「普段通りに対応」すべきではないと考えます。中国は朝鮮半島の安定化に関心を持っており、北朝鮮の核開発計画を終わらせる明確な道筋を求めています。米国は、中国の国連安全保障理事会での支持、および北朝鮮の完全で、検証可能かつ不可逆的な形での大量破壊兵器および弾道ミサイル計画の放棄に対する中国の継続的な要求を歓迎します。

 第二に、米国は北朝鮮の悪行に対し見返りを与えることを拒否します。米国は空約束を受け入れたり、脅しに屈服するようなゲームをするつもりはありません。ゲーツ元国防長官が述べたように、私たちは同じ馬を二度買うことはしません。私たちは北朝鮮との信頼できる交渉を積極的に受け入れることを明言してきました。しかし、それに対して北朝鮮から返ってきたのは挑発行為と過激な発言のみです。北朝鮮が切に必要とする支援と、要求している敬意を手に入れるには、北朝鮮自身が変わらなければなりません。そうしなければ、米国は同盟国やパートナー諸国との連携を継続し、北朝鮮の核およびミサイル計画を阻止するため、自国の、そして国際的な制裁を強化します。本日、米国財務省は、北朝鮮の大量破壊兵器開発計画への支援を理由に、北朝鮮の主要外国為替銀行である朝鮮貿易銀行を制裁対象とすることを発表します。

 これまでに明らかになっているのは、北朝鮮の指導者による挑発行為、扇動、お粗末な選択により、北朝鮮がより不安定になるだけでなく、その国民が、韓国のみならず他の東アジアの全ての国々と全く異なる、貧困レベルでの生活を強いられているということです。

 第三に、米国は、米国本土および同盟国の防衛に力を尽くすことを明確に再確認します。北朝鮮高官は先ごろ、極めて挑発的な声明を発表しました。北朝鮮の主張は大げさなものかもしれません。しかし米国の政策については、疑問を差し挟む余地はありません。私たちはあらゆる能力を利用して、北朝鮮が米国および同盟国にもたらす脅威を防ぎ、対処します。こうした脅威には、北朝鮮による大量破壊兵器の使用だけでなく、大統領が明言したように、他国や非国家主体への核兵器または核物質の移転も含まれます。このような行為は、米国および同盟諸国に対する重大な脅威であると考えられ、北朝鮮はそのような行為がもたらす結果について全責任を負うことになります。

 最後に、米国は北朝鮮に対し、よりよい道を選択するよう引き続き働き掛けます。オバマ大統領が何度も述べているように、政権発足時、大統領には、拳を開く者に手を差し伸べる意思がありました。米国には、北朝鮮の経済開発と国民への食糧提供を支援する用意があります。ただし、北朝鮮自身がその姿勢を改めなければなりません。米国には、北朝鮮との交渉の席に着き、両者によるこれまでの約束について交渉し、実施する用意があります。私たちが北朝鮮政府に求めているのは、自らの約束を順守し、自らの言葉を全うし、国際法を尊重することを示す意味のある措置を取って、真剣さを証明することだけです。

 大統領の約束を疑うのであれば、新しい指導者が改革プロセスを開始したビルマについて考えるだけで十分におわかりになると思います。オバマ大統領の歴史的なラングーン訪問は、敵対的な関係を強固な協力関係へと転換させる用意が米国にあることを証明しています。ビルマはすでに何十億ドルもの債務免除、大規模な開発支援、そして新しい投資を受けています。改革は継続中ですが、ビルマは既に孤立から抜け出し、隣国や米国とのパートナーシップの下、国民にとってはるかに望ましい未来への扉を開きました。そして、オバマ大統領がビルマ国民に向けた演説で述べたように、米国は、権利、民主主義、改革を支持し続ける人々を支持し続けます。ですから私は、北朝鮮の指導者に対し、ビルマの経験をよく考えるよう強く呼び掛けたいと思います。

新興勢力

 米国は北朝鮮のような課題に対処するため、強固な同盟関係を維持すると同時に、対アジア太平洋戦略の第2の柱、すなわち新興国との一層深いパートナーシップの構築を引き続き進めます。

 そのために、大統領は世界最大の民主主義国家であるインドとの関係を「21世紀を特徴付けるパートナーシップのひとつ」と考えています。2009年のシン首相の訪問から2010年の大統領のインド訪問まで、米国はインドの台頭を受け入れるだけでなく、熱意を持ってこれを支援することを、随所で明確にしてきました。

 米国およびインドの利益はアジア太平洋地域に集約しており、この地域にはインドにとって得る物も提供する物も多くあります。東南アジアは北東インドから始まり、米国は、ビルマの改革に対する支援から、海上安全保障に関する日本を含めた3カ国協力まで、インドの「ルック・イースト」政策を歓迎します。例えばここ1年で、インドと東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との貿易は37%増加し、800億ドルとなりました。

 また米国は、世界的なパートナーとしてのインドネシアの可能性を実現するため努力してきました。広範囲な包括的パートナーシップ協定を導入しましたし、APECの開催およびASEANの結束の推進など、この地域の多国間フォーラムへのインドネシアの積極的な参加を歓迎してきました。さらにインドネシア、ブルネイとともに、クリーンで持続可能なエネルギーをアジア太平洋地域にもたらすための資金を動員する、重要な新たなイニチアチブでも協力しています。そして言うまでもなく、オバマ大統領とインドネシアとのつながり以上に、アジア太平洋の国と緊密な個人的なつながりを持つ大統領は、これまでいませんでした。2010年11月に大統領がジャカルタを訪問した際、この温かい関係が十分に示されました。

中国

 米国の戦略の第3の柱は、中国との間で建設的な関係を築くことです。大統領は、米中関係を極めて重視しています。なぜなら中国を交渉のテーブルにつかせることなくして、また米中の幅広い、生産的で建設的な関係がなければ、世界の外交、経済、安全保障面で対処できる課題はほとんどないからです。そして両国は、過去4年間で、そのような関係の構築へ向けて大きく前進しました。

 中国指導部の交代が完了し、オバマ政権は、習近平氏、李克強氏ら中国最高指導部との間で、既に築かれた関係をさらに発展させることができる立場にあります。中国指導部の交代と大統領の再選は、米中関係が新たな機会を伴う新たな局面に入った印です。

 もちろん米中関係には、これまでも、そしてこれからも協力と競争の両要素があります。米国は一貫して、中国との協力関係を質的にも量的にも向上させること、健全な経済競争を促進すること、米国の利益の保護および普遍的な権利と価値観の尊重を確保すべく意見の相違に対処することなどの政策を取ってきました。オバマ大統領が明らかにしているとおり、米国は普遍的な権利を支持します。最終的には、国民の権利を擁護する国家が、一層の成功、繁栄そして安定を収めることを歴史が証明しているからです。

 オバマ大統領がこれまで繰り返し述べている通り、米国は、平和で繁栄した中国の台頭を歓迎します。私たちは、両者の関係が競争や対立の関係になることを望みません。私は、新興勢力と既成勢力は対立する運命にあるという一部の歴史家や学者の言う前提に同意できません。そのような結果が予め決まっていることはないのです。大国の対立につながるのは、物理学の法則ではなく、指導者による一連の選択です。また、封じ込めを求める人もいます。これについても、私たちは拒否します。よりよい結果を導くことは可能です。しかしそれは両者、すなわち米国と中国が、既成勢力と新興勢力の関係について新たなモデルを構築できるかどうかにかかっています。習近平氏とオバマ大統領はどちらも、この目標を支持しています。

 このような新しいモデルを構築するためには、米中間の意思疎通ルートの強化を継続し、両者に関わる問題について実務的な協力を示す必要があります。

 これを受けて、米中間の不安定と潜在的な競争を生み出す要因の多くに対処するために重要なのは、一層深い米中軍事対話です。軍事対話は今も、私たちが求める新たなモデルに必要な要素であり、現在の両国の関係で決定的に不足しています。中国軍がその能力を近代化し、アジアにおけるプレゼンスを拡大しているため、両軍の接触が増え、偶発的な出来事や誤算により両国の幅広い関係を揺るがすリスクが拡大しています。短期的には両国のそれぞれの行動、そして長期的には西太平洋におけるプレゼンスおよび態勢をめぐる認識や緊張に対処するために、開かれた、信頼できる意思疎通のルートが必要です。

 また、相互依存を深める両国の広範囲にわたる経済関係の基盤の強化も重要です。中国が国際交渉の場に参加する機会が増えるにつれ、自らの経済的な影響力および国力に見合った責任を負う必要があるということを、私たちは中国に対して明示してきました。米国は、中国の新しい指導部と関わる中で、同国の第12次5カ年計画で概要が示された改革を進めるように働き掛けます。改革には、輸出依存から脱却し、よりバランスのとれた持続可能な消費者志向の成長モデルへ移行する取り組みが含まれます。米国はさらなる中国市場の開放と、公平な競争条件を求めることになります。そしてG20を通じた国際金融の安定化の促進、ならびに気候変動やエネルギー安全保障などの地球規模の問題への対処において中国との協力を目指しています。

 同様の問題がサイバーセキュリティーです。この問題は、両国の経済関係にとって重要性が高まっています。米国や中国のような経済大国には、インターネットの開放性、相互運用性、安全性、信頼性、安定性を維持することに、大きな共通の利益があります。個人情報、通信、金融取引、重要なインフラストラクチャー、そしてイノベーションや経済成長に不可欠な知的財産や営業秘密の保護に関し、両国はリスクに直面しています。

 両国間の課題の中で、私たちが最も懸念しているのが、この最後のカテゴリーにあるものです。私は通常のサイバー犯罪やハッキングについてお話ししているのではありません。そしてこれは単に、国家安全保障上の懸念、あるいは米国政府のみの懸念ではありません。中国からのネットワークへの侵入がこれまでにない規模で発生し、ビジネス上の極秘情報や知的財産権を持つ技術が、的を絞られ、精巧な方法で盗まれることについて、米国企業から深刻な懸念の声が広がっています。国際社会は、どの国によるものであれ、このような行為を容認するわけにはいきません。大統領が一般教書演説で述べたとおり、米国はサイバー攻撃の脅威から米国経済を守る措置を取ります。

 この問題は、大統領以下、米国政府の全てのレベルにおいて主な懸念事項のひとつとなり、中国との協議項目にもなりました。この状況は今後も続きます。米国は、国内のネットワーク、重要なインフラストラクチャー、官民の貴重な財産を守るために、なすべきことは全て行います。しかし、特にサイバー盗難の問題に関しては、中国に対し次の3つを求めます。第一に、この問題の緊急性と規模、そしてこの問題が国際貿易、中国産業界の評判、米中関係全体にもたらすリスクについて認識するよう求めます。第二に、中国政府がこうした行動を捜査し、これを阻止するために真剣に取り組むよう求めます。そして最後に、中国に対して、サイバー空間において許容される行為規範を確立するための建設的な直接対話を求めます。

 私たちは、優先される懸念事項について両国が率直に関与することを可能にする、建設的な2国間関係を確立するために、努力を続けてきました。そして世界の2大経済大国であり、共にインターネットに依存する国である米国と中国は、この問題への対処で主導的な役割を果たす必要があります。

地域体系

 今お話しした問題は、米国の戦略の第4の柱である地域機関の強化につながります。そしてこれは、経済、外交、安全保障に関するルールおよび理解をアジアが喫緊に必要としているという事情を反映したものでもあります。

 オバマ政権は発足当初より、地域機関の発展と強化、言い換えればアジアの体系の構築に向け、協調して取り組みました。その理由は明確です。効果的な地域体系は、共通の課題に対する集団行動に対する障壁を低減させるからです。また協力を促進し、安定を維持し、外交を通じて紛争を解決し、各国の平和的な台頭を可能にする対話や仕組みを生み出すからです。

 この地域の戦略上の重要性については過小評価はありえません。インド洋から太平洋に広がるASEAN加盟10カ国の人口は、6億をはるかに超えます。タイなどの国で大きな成長が見られることや、2011年に外国投資が25%増加したことから、ASEAN諸国が政治的にも経済的にも重要性を増していることがわかります。

 オバマ政権は発足以来、ASEANとの友好協力条約に署名し、初の駐ASEAN米国大使を任命しました。既に申し上げた通り、大統領はASEAN指導者たちとの会合のために毎年この地域を訪問し、今後もこれを継続します。大統領はまた、東アジアサミットの首脳会合にも毎年参加することを決めました。これは、東アジアサミットを格上げし、アジアにおいて政治および安全保障面の問題に対処する、最も重要な場にするという米国の目標に一致しています。

 今後、豊富な資源に恵まれた南シナ海と東シナ海における領土問題が、この地域の政治・安全保障体系の試金石となることは明らかです。こうした緊張は、アジアの繁栄を支える平和の基盤を揺るがせ、既に世界経済に打撃を与えてきました。米国はこの地域で領有権を主張しておらず、他国の主張について特定の立場を取ることもありませんが、領有権を主張するための抑圧や武力行使に断固として反対します。国際法に従った平和的、協力的かつ外交的努力によってのみ、領有権を主張するあらゆる国と、この重要な地域の全ての国の利益にかなう持続的な解決方法が生まれます。その中には中国も含まれます。世界経済における中国の存在感の高まりに伴い、海上安全保障と妨害されない合法的な商業という公共財の必要性が高まっています。それはちょうど、ビジネスに携わる中国の人々が開かれた安全なインターネットという公共財に頼っているのと同じです。

経済体系

 最後に、米国は、わが国の戦略の第5番目の柱を追求し続けます。それは、米国人を含むアジア太平洋の人々が、貿易と成長の拡大から利益を享受することのできる経済体系を構築することです。この地域が必要とする広範な成長の次の段階を実現する経済秩序は、開かれた透明な経済と、自由、公平そして環境的に持続可能な貿易と投資に基礎を置くと私たちは考えており、歴史もこれを証明していると思います。米国経済の活力も、国境を越えた、特に成長の著しい地域の新しい市場と顧客の開拓にかかっています。

 そこでオバマ大統領は、米韓自由貿易協定のような成長志向で、雇用創出型の政策を進めるために、この地域の指導者たちと協力してきました。オバマ政権はまた、APECを通じて、そして2国間で、国境あるいは国内の経済障壁の低減、投資の拡大と保護、主要分野の貿易拡大、ならびに知的財産の保護に努めてきました。

 米国経済のリバランスの中心は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)です。これは、チリやペルーから、ニュージーランド、シンガポールまでのアジア太平洋経済国と共に、米国が現在策定中の高い基準の協定です。TPPは、高い基準、物品やサービスに対する市場アクセス障壁の削減、新しい21世紀の貿易課題への対処、およびルールに基づく経済的枠組みの尊重について、参加国が共有する約束の上に成り立っています。米国は常にTPPについて、地域経済の統合へ向けた拡大するプラットフォームと考えてきました。今、私たちはこの構想を実現しようとしています。参加国の数は、オバマ政権発足当時の7カ国から、さらにベトナム、マレーシア、カナダ、メキシコの4カ国を加え、拡大しています。これらの11カ国の貿易額は年間1.4兆ドルに及びます。拡大するTPPは既に、APECの構想であるアジア太平洋における地域全体の自由貿易へつながる大きな一歩となっています。

 TPPは意欲的でありながら、達成可能であるという意味においても魅力的です。私たちはこれを達成できるでしょう。実際のところ、米国は他の当事国と共に、2013年末までに交渉を終了する努力を続けています。TPPは新たな国の参加を受け入れる開かれたプラットフォームであることを意図している点も付け加えておきます。ただし、参加希望国にTPPの高い基準を満たす意思があり、それが可能な場合に限ります。

 TPPは、米国がヨーロッパと共に追求する新しい協定である「環大西洋貿易投資パートナーシップ協定」を含む、世界経済の課題の一部です。大西洋を挟んだ貿易は年間およそ1兆ドル、投資は3.7兆ドルです。たとえ小さな前進でも、地域の人々に大きな恩恵をもたらします。大西洋から太平洋をまたぐこれらの2つの協定と、米国が世界各国と結んだ既存の自由貿易協定を合わせると、世界の貿易の60%以上を占めます。しかし米国の目標は、経済的であると同時に戦略的でもあります。多くの人は、経済的な強さは21世紀の力の通貨であると言います。米国は、大西洋から太平洋にかけて、外交上および安全保障上の同盟関係と同様に強固な経済的パートナーシップのネットワークの構築を目指します。そしてこれを全て、多角的貿易体制の強化と同時に行います。TPPはまた、長期にわたりアジア太平洋地域にとどまるという米国の戦略的な約束を明らかにするものです。そしてヨーロッパとの協定から生まれる成長は、歴史上最も強力な同盟である北大西洋条約機構(NATO)への支援に役立ちます。

結論

 最後に、オバマ大統領がアジア太平洋を戦略的に重視していることは、既にこの政権に特徴的な成果のひとつになっていると思います。しかしその十分な効果を得るためには、今後も持続的な取り組みが必要です。

 前進するために米国が果たす役割を示す簡単な思考実験を披露して、私の話を締めくくりたいと思います。このような質問をしてもおかしくないと思います。過去70年間の米国の関与という安定したプレゼンスがなかったら、アジア太平洋は今日どのような状況になっていたでしょうか。

 米国が安全と安定を保証しなかったら、北東アジアで軍国主義に代わって平和が台頭したでしょうか。安全なシーレーンが太平洋の通商を活気付けることがあったでしょうか。韓国が援助の受け入れ国から貿易大国となったでしょうか。そして小国が近隣の大国による支配から守られることがあったでしょうか。答えは明らかだと思います。

 アジア太平洋のここ数十年の飛び抜けた進歩が、この地域の能力ある努力家の人々によるものであるのは当然です。同時に、米国がアジアの台頭に不可欠な基盤を提供したと言っても過言ではありません。この点では、地域の多くの指導者や人々に賛同いただけると思います。

 ですから、新興国が平和的に台頭する地域、海、空、宇宙およびサイバー空間への自由なアクセスにより商業活動が活発になる地域、多国間の議論の場が共通の利益の推進に資する地域、そして居住する場所を問わず、市民の普遍的な権利が保護される地域として、アジア太平洋が成長するよう、米国は今後も努力を続けます。

 この地域の100年後の成功、そして21世紀における米国の安全保障および繁栄が、今もアジアにおける米国のプレゼンスと関与にかかっていることから、オバマ政権はアジア太平洋を重視するリバランスを実現させるために努力してきました。私たちは、回復力に富み、この地域で不可欠な太平洋国家の一員です。そしてオバマ大統領の第2期において、この活力あふれる地域は、米国の戦略的に優先される地域であり続けるでしょう。どうもありがとうございました。

掲載 2013年3月26日