2012年国別人権報告書―日本に関する部分

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

米国国務省民主主義・人権・労働局

2013年4月19日発表

エグゼクティブ・サマリー

 日本は、議院内閣制を採用する立憲君主制国家である。12月16日の衆議院選挙の結果、12月26日、自由民主党の安倍晋三総裁が首相に就任した。この選挙は自由かつ公正な選挙とみなされた。治安部隊は文民当局の監督下にあった。

 主な人権問題には、起訴前の被勾留者に対する適正手続きの欠如、子どもの搾取、ならびに雇用における女性に対する差別のほか、非嫡出子、民族に基づくマイノリティー、障害者、および永住者を含む外国人に対する社会的差別などがあった。

 その他の人権問題としては、一部の刑務所および収容施設の状況が一定の水準を満たしていないこと、検察官による不正行為、報道機関による自己検閲、汚職、女性に対する配偶者からの暴力およびセクハラ(性的嫌がらせ)、人身売買、ならびに外国人研修生の搾取などがあった。

 政府は人権侵害を禁止する法律を執行し、侵害行為を行った政府職員を訴追した。

第1部 個人の人格の尊重(以下の状況からの自由)

a. 恣意的または違法な人命のはく奪

 政府またはその職員による、恣意的、または違法な人命のはく奪は報告されなかった。

b. 失跡

 政治的動機に基づく失跡の報告はなかった。

c. 拷問およびその他の残酷、非人道的、または屈辱を与えるような処遇または処罰

 法律はこのような処遇を禁止しており、実際に日本政府は、全般的にこれらの規定を順守した。

 7月、千葉地方検察庁は、2010年に強制送還中のガーナ人男性の死亡に関与したとされた10人の入国管理局職員について、入管職員による制圧はこの男性の死亡の原因ではないとし、不起訴処分とした。2010年8月に提起された国家賠償訴訟は、2012年末時点で係属中であった。

 日本政府は依然として、死刑囚に対し、死刑執行日に関する情報を事前に提供せず、死刑囚の親族に対しては、死刑執行後、その事実を告知した。政府は、この方針は受刑者に自分の死期を知る苦しみを与えないためであると考えた。 権威ある心理学者の中にはこの論理を支持する者もいたが、異議を唱える者もいた。

 2012年には、自衛隊での新入隊員へのしごき、いじめ、セクハラが引き続き問題として報告された。入手した情報によれば、自衛隊上層部は問題行為を行った隊員を処罰した。

刑務所および収容施設の状況

 刑務所の状況は、全般的に国際基準に合致したものであったが、いくつかの施設では定員超過や、冬季の暖房または夏季の冷房の不備があった。

物理的な状況

 8月末時点の被収容者数は6万8285人で、2011年からわずかに減少した。この数字には判決を受けた受刑者だけではなく、勾留されている被告と被疑者も含まれており、そのうち女性は5332人であった。未成年者は含まれていない。刑務所と収容施設で、受刑者は男女別々の施設に収容されていた。全国の被収容者数は、国の施設の収容可能人数である9万547人(2011年末時点)を大幅に下回ったものの、6カ所の刑務所では定員超過となった。判決を受けた女性受刑者の数は、全国の収容可能人数の108%以上であった(以下の改善点に関する項目を参照)。刑務所や通常の収容施設では20歳未満の未成年者は成人とは別に収容されていたが、入国者収容施設では未成年者を成人と別の施設に収容することを義務付ける規定はない。

 刑務所や拘置所における死亡事例はまれであった。

 一部の施設では、受刑者を寒さから守るための衣類や毛布が十分に与えられていなかった。ほとんどの刑務所は、冬季に夜間気温が氷点下まで下がっても暖房を入れなかったため、受刑者は多岐にわたる予防可能な寒冷傷害にかかった。2012年に、東京の外国人受刑者は引き続き、寒さに長期間さらされたためにさまざまな程度のしもやけができた手足の指を、面会した外交官に見せた。

 信頼できる非政府組織(NGO)と外国の外交官の報告によると、一部の施設では食料や医療処置が依然として不十分であった。外国の外交官は、2012年に、刑務所の食事が不十分なため、受刑者の体重が減少している事例を確認した。受刑者には清潔な飲料水が提供された。

 医療処置が遅れたり不十分であった事例が文書に記録されており、その中には既存の疾患がある被拘禁者や受刑者も含まれていた。外交官は、歯科治療は最低限のものしか提供されず、緩和ケアが行われていないと指摘した。警察および刑務所では特に精神疾患の治療が遅く、精神科の治療を提供するための手続きがない状態が続いた。NGO、弁護士、医師は、警察が管理する留置場ならびに入国者収容施設における医療体制も引き続き批判した。

管理

 信頼できるNGOは、刑務所の管理部門が、最長3カ月だが、必要と認められる場合に1カ月ごとの更新が可能な単独室収容に関する規則を、日常的に乱用していると引き続き報告した。刑務所側は、単独室収容は、定員いっぱい、あるいは超過状態にある刑務所内の秩序を維持するために重要であると主張した。

 当局は死刑囚について、親族、弁護士、およびそれ以外の人々との面会を認めたが、死刑執行まで平均約8年間、単独室に収容し、中には、何十年も単独室に収容されている死刑囚もいたと報告された。

 収容場所、移送日、移送先、懲罰および面会者のほか、受領した荷物、書籍および書簡の数に関する情報など、受刑者に関する記録の管理は詳細かつ適切なものであった。通常、初犯の非暴力犯の場合は、代替刑や執行猶予が適用された。受刑者と被勾留者を代理する行政監察官はいなかった。

 当局はしばしば、受刑者の面会を近親者に制限し、あるいは被勾留者の母親など1人の近親者のみに面会を認め、その他の面会を認めなかった。法律により刑務所内では、刑務所の管理の妨げにならない限り、さまざまな宗教上の儀式を行うことが認められている。刑務所は教誨師(きょうかいし)との面談も許可するよう義務付けられているが、日常的に宗教上の儀式を行うことを必ずしも認めるわけではなかった。外国の外交官によれば、刑務官は時として、宗教上の会合に参加したい、または宗教的カウンセリングを受けたいという受刑者の要望を拒否し、その理由として、こうした面会には外国の大使館による許可が望ましいこと、またはカウンセリングを行う人物の適格性を確認できないことを挙げた。

 当局は受刑者と被勾留者が検閲を受けることなく司法当局に苦情を申し立て、信頼に足る主張であれば非人道的な状況の調査を要求することを認めていたが、調査結果については、依然として、最終結論以外の詳細がほとんど書かれていない書簡を受刑者に送っただけだった。

監督

 NGOの報告によると、政府は全般的に、NGOおよび国際機関による視察を許可した。2012年に、国際赤十字委員会は刑務所の視察を要求しなかったが、日本弁護士連合会は視察を要求した。

 刑事収容施設法令では、法務省が管理する刑務所および拘置所と警察が管理する留置場を、独立性を持つ委員会が視察する旨、規定されている。委員会は、医師、弁護士、地方自治体職員、地域住民の代表で構成され、刑務官の立ち会いなく被収容者と面接することが認められた。2011年4月から2012年3月までにこれらの委員会が実施した視察は184件、被収容者との面接は645件、提出した意見は562件だった。提出された意見のうち、施設側が改善措置を講じた、あるいは講じることを約束したものは384件だった。

 法律により入国者収容施設に対しても視察手続きが設置されているが、完全に独立した手続きではなかった。国内外のNGOおよび国際機関は、この手続きが刑務所の視察にかかる国際的な基準を満たしていないと引き続き指摘した。その理由として、法務省が視察委員会の全支援業務を担当していること、被収容者との面接時に法務省の通訳を使うこと、同じ施設を繰り返し訪問しないこと、収容施設職員が面接を受ける被収容者を選抜できること、そして被収容者が委員会に苦情を提出する鍵の掛けられた提案箱に法務省の職員がアクセスできることを挙げた。

 日本の52カ所の少年矯正施設を監視する視察手続きは、依然として存在しなかった。

改善点

 法務省は女性受刑者を収容する施設を拡大し、定員超過をある程度緩和した。

d. 恣意的逮捕または留置・勾留

 法律により恣意的逮捕や留置・勾留は禁止されているが、信頼できるNGOとジャーナリストは引き続き、大都市の警察が人種プロファイリングを用い、「外国人のように見える」人、特に肌が浅黒いアジア人やアフリカ系の人に理由なく嫌がらせをし、時には逮捕することもあったと主張した。

警察および治安維持機構の役割

 国務大臣がその長を務める政府機関である国家公安委員会が警察庁を管理し、都道府県公安委員会が地方警察に対し責任を負う。政府は権利の乱用および汚職を効果的に捜査し、処罰する制度を持っている。2012年には、治安部隊に関係する刑事免責の報告はなかった。一部のNGOは依然として、地方の公安委員会が警察機関からの独立性に欠けている、または警察機関に対する十分な権限を持たないと批判した。

逮捕手続きと留置・勾留中の処遇

 当局は、正当な権限を持つ当局者が証拠に基づいて発付した令状により公に個人を逮捕し、被拘禁者を独立した司法制度の下で裁いた。外国の外交官は、令状は高い頻度で発付され、証拠の根拠が薄弱であるにもかかわらず留置・勾留が行われることがあるほか、複数回にわたる被疑者の再逮捕が、警察の立件を容易にするために使われたと、引き続き主張した。

 法律は、たとえ同じ組織が捜査業務と留置業務の両方について責任を負う場合であっても、この2つの業務を分離すると規定しているが、警察の管理する留置場を使用することで、被疑者は取調官の監督下に置かれた。逮捕された被疑者の大部分が警察の留置場に送られ、法務省が管理する拘置所に収容された被疑者の割合はそれよりも大幅に少なかった。

 法律により、被拘禁者には、その留置・勾留の合法性に関する迅速な司法決定を受ける権利が与えられており、当局は被拘禁者に対して、直ちに容疑を告知しなければならない。しかし多くの場合、当局は起訴することなく、最長23日間にわたり身柄を拘束した。

 法律により、被勾留者、その親族、または代理人は、裁判所に対して、起訴された被勾留者の保釈を請求することができる。警察の留置場または法務省が管理する拘置所に勾留されている起訴前の被勾留者には、保釈が認められていない。信頼できるNGOはまた、不正行為ではあるが、取調官が被勾留者に対し、自白と引き換えに刑期の短縮や執行猶予を申し出ることもあったと述べた。

 起訴前に勾留されている被疑者は、取り調べを受けることが法的に義務付けられているが、警察庁の指針により、取り調べ時間は1日最長8時間に制限され、夜通しの取り調べは禁止されている。起訴前の被勾留者は、国選弁護人との少なくとも1回の接見を含め、弁護人と接見することができた。受刑者の権利擁護団体によると、こうした接見については、時間と回数の両面で、2012年に引き続き改善が見られた。しかし、取り調べ中に弁護人が同席することは認められていない。

 当局は通常、親族が被勾留者と面会することを許可しているが、その際には職員の立ち会いが要求された。法律により、被疑者が逃亡する、あるいは証拠を隠匿または隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合、警察は被勾留者が弁護人以外の人物と面会することを禁止できる。薬物犯罪の容疑をかけられている被勾留者の大半を含む、多くの被勾留者は、起訴されるまで隔離されており、領事および弁護人との接見しか許されなかった。犯罪の種類と、被勾留者が隔離される期間との間には法律上の関連性はない。しかし、実際は、薬物犯罪の容疑をかけられている被勾留者については、検察官が、親族やその他の者との接触が取り調べの妨げになると考え、長く隔離する場合が多かった。

 国家公安委員会の規則は、警察官が被疑者に接触すること(やむをえない場合を除く)、物理的な力を行使すること、脅迫すること、被疑者に長時間一定の姿勢を取らせること、言葉で虐待すること、自白を引き出すために被疑者に好ましい申し出をすることを禁止している。しかし、信頼できるNGOによれば、当局はこの規則を適切に執行せず、極端な事例では、依然として被勾留者に対し8時間から12時間に及ぶ取り調べを行い、その間ずっと被勾留者を手錠で椅子につないだままにし、強引な尋問方法を用いた。NGOはまた、被疑者に対する物理的な力を用いての取り調べは一般的に減少しているが、当局は自白を引き出すために心理的に威圧感を与える手法を引き続き用いていると指摘した。

 検察官は取り調べ中、自己裁量で被疑者の自白を一部録音・録画することができる。最も一般的な録音・録画方法は、読み聞かせで、警察官が被勾留者の自白を復唱、または口頭で要約するのを録画する。当局は選択して録音・録画を編集するため、自白や、警察による口頭での自白の要約という結果に至る場合が多いと報告される、心理的に威圧感を与える手法を、裁判所は確認できないかもしれない。全都道府県が取り調べの一部の録音・録画の試行を実施している。一部の県は取り調べの全過程の録音・録画の試行を開始した。

 警察内部の監督官が取り調べに同席することが増える一方で、独立した監督は行われず、強要による自白の申し立てが2012年も続いた。

 例えば、警察は7月から9月までの間に、IPアドレスを利用して、学校や宗教施設の襲撃や公共の場での無差別殺人などのテロ行為を予告した容疑により、4人の市民の所在を特定し、逮捕した。このうちの2人は、取り調べ中に犯行を認めた。しかし、さらなる捜査の結果、警察は、未知の犯人が、4人の被疑者のアカウントに不正侵入し、被疑者のコンピューターを使って第三者に宛てた脅迫メッセージを書き込んだことを突き止めた。この事件、および強要によるものと思われる虚偽の自白について報道機関が広く取り上げたことから、被疑者を誘導し、脅迫し、おびえさせる警察の取り調べ方法に人々の注目が集まった。

 警察庁は、2011年に、取り調べに関する苦情を552件受け、27 件について取り調べにかかる指針に違反する行為として確定したと発表した。監察部門は一部の違反者を懲戒処分としたが、警察庁はその方針として、関連する統計を公表しなかった。

起訴前の勾留

 当局は通常、逮捕から72時間まで、警察が運営する留置場に被疑者の身柄を拘束することができる。法律では、起訴前の勾留は、ある人物が罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があり、かつ証拠の隠匿もしくは隠滅、または逃亡のおそれがある場合に限られるが、実際には習慣的に行われていた。裁判官は逮捕から72時間が経過する時点で被疑者を面接した後、起訴前の勾留期間を10日間ずつ、最長20日間まで延長できる。検察官はこの延長を習慣的に請求し、許可を得た。暴動、外国からの侵略、暴力的な集会などの例外的な事案の場合、検察官はさらに5日間の延長を請求できる。

 裁判官は習慣的に検察官の勾留延長請求を認めるため、「代用監獄」として知られる起訴前の勾留は通常23日間続いた。2012年の被勾留者のほとんど全ては、代用監獄に勾留された。信頼できるNGOと外国の外交官は、依然として、起訴前の被勾留者が隔離されたまま、最長23日間勾留されることが日常的であり、その間弁護人、あるいは被勾留者が外国人の場合は自国の領事以外との面会が許されなかったと報告した。アムネスティ・インターナショナルは、4月1日に提出した国連の「普遍的・定期レビュー」(2012年10月~11月)への提言の中で、被勾留者に対する拷問および虐待について申し立てを行い、取り調べ全体の電子的な録音・録画の導入、および弁護人が立ち会わない取り調べの禁止などの改革を求めた。

e. 公正な公開裁判の拒否

 法律により、独立した司法制度が規定されており、実際に日本政府は、全般的に司法の独立性を尊重した。

審理手続き

 法律により、全ての国民に公正な裁判を受ける権利が与えられている。起訴された個人はそれぞれ、遅滞なく独立した裁判所で公開裁判を受ける権利を有し、貧困にある場合に提供される国選弁護人を含め、弁護人を得ることができ、反対尋問の権利が与えられている。重大な刑事事件に関しては裁判員制度が置かれており、被告は自己に不利益な供述を強要されない。被告は容疑について速やかに、詳細な情報を得る権利を与えられている。刑事事件の被告が外国人である場合は、当局が実際に、無償の通訳サービスを提供した。民事事件で被告となっている外国人は、通訳費用を負担しなければならないが、裁判官は裁判所の判決を踏まえ、その費用の支払いを原告に命じることができる。

 被告は、法廷で有罪と証明されるまで推定無罪とみなされるが、権威あるNGOおよび法律家は、実際に被告が推定無罪とみなされているかどうかについて、引き続き疑問を呈した。日本政府は、主に自白に基づいて有罪判決が下されているのではなく、取り調べに関する指針により被疑者が罪の自白を強要されることのないよう保証していると引き続き主張したが、NGOによると、起訴された被勾留者の大半は、警察に勾留されている間に自白した。

 2011年には、裁判所で審理された事件の99%以上で有罪判決が下された。独立した立場の法律学者は、日本の司法は自白を重視しすぎると主張したが、日本政府はこれに異議を唱えた。

 被告は弁護の準備、証拠の提示、および上訴のため、自らの弁護人を選任する権利を与えられている。裁判所は弁護士会を通じて、被告による弁護人の選任を支援することができる。弁護人費用を負担できない場合、被告は国選弁護人を要求できる。

 一部の独立した立場の法律学者によると、審理手続きは検察側に有利となっているということだが、日本政府はこの意見に異議を唱えた。法律により、弁護人との接見が認められているにもかかわらず、かなりの数の被告が、弁護人との接見不足を報告した。法律では、被告側の弁護人が開示手続きに関する厳しい条件を満たすことができる場合を除いて、検察官による資料の全面開示を義務付けていない。このため実際には、検察側が裁判で使用しなかった資料が隠されることもあった。6月7日、東京高等裁判所の決定を受け、当局は、渡邉泰子さんを殺害したとして15年間勾留されていた移住労働者ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏を釈放した。死亡する直前の被害者と未知の第三者を結び付け、マイナリ氏の無罪を証明するDNA鑑定の結果が出たためであった。マイナリ氏の出国後の11月9日、東京高等裁判所は同氏に無罪判決を言い渡した。

 2011年の郵便制度の不正利用事件の捜査で、起訴された政府職員に不利になるよう、主任検事が証拠を改ざんしたが、3月、大阪地方裁判所は、その捜査を監督した大坪弘道・元特捜部長および佐賀元明・元副部長に対し、故意に犯罪行為を隠ぺいしたとして、懲役18カ月・執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。(日本では、このような執行猶予判決を受けた個人は、執行猶予中に別の犯罪で有罪判決を受けない限り、当初の刑罰を免除される。ただし、執行猶予中に日本国内で別の罪を犯した場合は、当初の刑罰および新たな刑罰の両方の刑に服さねばならない)

政治囚と政治的被拘禁者

 政治囚または政治的被拘禁者が存在するとの報告はなかった。

民事司法手続きと救済

 民事事件に関しては、独立した公正な司法制度がある。個人は、人権侵害に対する損害賠償、あるいは人権侵害の中止を求める訴訟を起こすことができる。不正行為の申し立てに対しては、行政による救済措置と司法による救済措置の両方がある。

f. プライバシー、家族、家庭、または信書に対する恣意的な干渉

 法律により上記のような行動は禁止されており、実際に日本政府は、全般的にこれを順守した。

第2部 市民の自由の尊重

a. 言論と報道の自由

 憲法により言論と報道の自由が規定されており、実際に日本政府は、全般的にこうした権利を尊重した。独立した報道機関、効果的な司法制度、および機能する民主的政治制度が相まって、言論と報道の自由が確保された。

暴力およびハラスメント

 8月14日、当局は、問題の領土で活動家を取材していた、香港を拠点とする2人のジャーナリストを逮捕、拘束し、その後すぐに活動家とともに国外退去とした。

検閲または内容の制限

 報道機関は、制限を受けることなく、さまざまな意見を表現した。一部のNGOは、記者クラブ制度により、報道関係者、政府職員および政治家の間に緊密な関係が築かれ、似たような報道が奨励されたと、引き続き批判した。

名誉毀損に関する法律/国の安全保障

 5月に、原子力施設警備会社の会長が、フリーランス・ジャーナリスト田中稔氏が執筆した、日本の原子力産業複合体に関する2011年12月の記事により名誉を毀損されたとして、田中氏に対し、6700万円(約77万8000ドル)の損害賠償を請求する訴訟を東京地方裁判所に提起した。裁判所による審理は、2012年末時点で係属中だった。本件は、出版社ではなく個人のジャーナリストに対して提起された名誉毀損訴訟を裁判所が受理した初めての事例であった。大手報道機関は、おそらくは報復に対する懸念から、この問題をほとんど取り上げなかった。

インターネットの自由

 政府によるインターネットへのアクセス制限はなかった。また政府が司法の監督なく、電子メールまたはインターネット・チャットルームを監視したとの信頼できる報告もなかった。インターネットは広く利用可能であり、かつ利用された。

 法律により、選挙の候補者は、投票日までの正式な選挙期間中、ウェブサイト、ブログ、またはソーシャルメディアを利用することが禁止されている。これにより、例えば12月16日の衆議院選挙では、1200人以上の候補者が、12日間の選挙期間中、インターネットを通じた有権者とのやりとりを一切停止した。

学問の自由と文化的行事

 文部科学省による歴史教科書検定は、特に軍事に関する歴史のような、20世紀に関係する特定の題材の扱いについて、引き続き論争になった。

 国歌と国旗は、依然として論議の的となる象徴であった。公立学校の教員が、国旗掲揚時に起立し、国歌を斉唱することを拒否して処分を受けた。2011年5月の最高裁判所の判決では、国旗掲揚時の起立と国歌斉唱の要求は合憲であるが、同時に、これを拒否した教員に戒告処分以上の厳罰を科すことはできないという判断が下った。日本弁護士連合会は、教員にこれらの行為を義務付けることに引き続き抗議した。

 政府が文化的行事を制限することはなかった。

b. 平和的な集会および結社の自由

 法律により集会と結社の自由が規定されており、実際に日本政府は、全般的にこれらの権利を尊重した。

c. 信仰の自由

 国務省の「信仰の自由に関する国際報告書」を参照。

d. 移動の自由、国内避難民、難民保護および無国籍者

 法律により、国内の移動、外国旅行、移住、本国帰還の自由が規定されており、日本政府は、全般的にこれらの権利を尊重した。日本政府は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)およびその他の人道支援組織と協力して、国内避難民、難民、庇護希望者、無国籍者、およびその他の関係者に保護と援助を行った。

国内避難民

 2011年3月の地震、津波および福島第一原子力発電所の事故の後、政府は全般的に、避難所およびその他の保護サービスを十分に提供するとともに、移住または再建の選択肢を提供しようと努めた。しかし、何十万もの被災者の生活を再建するための雇用、その他の措置は、2012年も大きな課題として残った。被災地からは、さまざまな中央省庁間で復興プロジェクトを一元化できていないとして、復興庁(2月10日発足)に対し苦情が寄せられた。

 同庁の統計によれば、2月9日時点で、避難者およそ34万3000人のうち、584人が避難所に残り、約32万5000人が仮設住宅で暮らしていた。

難民の保護

庇護へのアクセス

 日本の法律は、庇護の付与あるいは難民の認定を規定しており、日本政府は難民を保護する制度を確立している。3月29日、政府は、2010年に国連の支援の下で開始したビルマ難民を毎年30人の枠で受け入れる試験的な第三国定住プログラムを、さらに3年間延長した。

 難民と庇護申請者は、難民審査参与員制度の下での異議申し立て審問への参加を弁護士に依頼することができる。法的支援を求める多くの難民および庇護希望者は、政府の援助による法的支援を受けることができなかったが、日本弁護士連合会が、金銭的な余裕がない申請者に対して無償で法律支援を行うプログラムに、引き続き資金を提供した。

 信頼できるNGOは、庇護希望者などの非正規移住者を長期間収容するという政策が依然として問題であると指摘するとともに、申請手続きを簡素化して申請者の収容期間を短縮する法務省の継続的な取り組みにより改善が見られたと述べた。

 2011年の難民認定申請者は1867人で、日本が難民認定を開始して以降、最多となった。しかし、当局が難民と認定した数はわずか21人であり、これに人道的な配慮が必要として在留を認めた(人道配慮)248人を加えた総庇護数は、対2010年比で67%減少した。庇護を受けた269人のうち、約86%はビルマ人であり、難民グループによると、ビルマ人は優遇されていた。NGOは、難民認定および人道配慮数の減少は、ビルマに対する入国管理局職員の認識の変化によると考えた。すなわち、同国がより自由で民主的な国家へと移行していることから、庇護の必要性が低下したというものである。2011年に難民の認定を受けた21人のうち、当局は当初、14人の認定を認めなかったが、異議申し立てを受けて難民と認定した。2010年の第三国定住プログラムの創設以降、9家族45人のビルマ人難民が、日本に再定住した。政府は9月25日、同プログラムでタイの難民キャンプから来日を予定していた3家族16人のビルマ人が、労働条件に関する懸念、および日本の難民認定基準により年老いた両親を連れて来ることができないことを理由として、最終的に来日しないという結論を下したと発表した。

 2月10日、法務省入国管理局、日本弁護士連合会、および日本の信頼できる難民支援NGOで構成されるネットワーク「なんみんフォーラム(FRJ)」が、難民認定手続きの改善を目指す覚書を締結した。その後、FRJグループは、成田空港に到着し、仮上陸または仮滞在の許可を得た難民認定申請者に対し、住居、社会福祉および法的サービスを提供する試験的プロジェクトを開始した。このプロジェクトは2013年3月末まで実施される。また、覚書の締結以降2012年末までの間に、この覚書に基づき6事案を処理したと報告した。

ルフールマンの原則

 政府は、生命や自由が脅かされると考えられる国への国外退去あるいは送還から、難民をある程度保護した。難民グループは2012年に、日本政府が庇護申請を判断する際の証拠の基準が高いことについて、引き続き懸念を表明した。9月12日、東京高等裁判所は、イスラム系少数民族ロヒンギャ族の17人が難民認定を求めた控訴審の判決で、原告17人のうち16人について、ビルマ国民であるとみなし、ビルマ国内で迫害の脅威に直面することはないと判断して、申し立てを却下した。原告の代理人は、ビルマ政府も最大野党の国民民主連盟も、ロヒンギャ族をビルマ国民として認めていない事実を無視しているとして、この決定を批判した。難民と認定されなかったロヒンギャ族は、2012年末に最高裁判所へ上告し、法務省への難民認定の再申請を準備した。

難民の虐待

 アムネスティ・インターナショナルは、4月1日に提出した国連の普遍的・定期レビューへの提言の中で、収容施設に収容されている庇護希望者および難民の虐待を主張した。

雇用

 難民認定申請者は、有効な短期滞在ビザを所持し、ビザの有効期限内に収入を得る活動に従事する許可(資格外活動許可)を申請しない限り、通常就業が認められていない。許可を得るまでの間、政府が出資する公益財団法人、アジア福祉教育財団の一部門である難民事業本部が、少額の給付金を支給する。しかし、予算上の制約および申請者数の増加により、多くの申請者がこの給付金を受けられない状態が2012年も続いた。

基本的なサービスへのアクセス

 難民は依然として、他の外国人と同様、住居、教育、雇用の機会を制限される差別を受けた。上記の就業する権利を得る条件を満たす人を除き、難民認定が未決、または異議申し立て手続き中の人は、社会福祉を受ける権利がなく、過密状態の政府のシェルターや、労働法の監督対象にならない違法な雇用、またはNGOの援助に頼るしかなかった。

 7月17日付の報道によると、6カ月間の日本語研修や定住支援プログラムにもかかわらず、ビルマ人の家族は、異文化コミュニケーション、就業、子どもの教育、孤立の問題など、多くの再定住および適応にかかわる問題に直面した。

一時的な保護

 政府はまた、難民と認定されない可能性のある個人を一時的に保護した。2011年にこうした保護を受けた人は248人で、対2010年比で約3分の1の減少となった。

第3部 政治的権利の尊重―国民が政府を変える権利

 法律により、平和的に政府を変える権利が国民に与えられており、日本国民は、普通選挙権に基づいて定期的に行われる自由かつ公正な選挙を通じて、この権利を行使した。

選挙と政治参加

最近の選挙

 12月16日に自由かつ公正な衆議院選挙が行われた。

女性およびマイノリティーの参画

 衆議院では480議席中38議席、参議院では242議席中43議席を女性議員が占めた。2012年末時点で19人の閣僚のうち2人が女性であった。47の都道府県のうち、女性知事は3人いた。

 民族に基づくマイノリティー・グループの中には複数の民族の血を引いている人や、マイノリティーであることを自ら明らかにしない人もいるため、民族に基づくマイノリティーの中で国会議員となった人の数を把握するのは難しかった。3人の国会議員が帰化して日本国民となったことを認めた。

第4部 政府の汚職と透明性の欠如

 法律により、公務員の汚職には刑事罰が規定されており、日本政府は全般的に法律を効果的に執行した。独立した立場の学識経験者は、政・官・財のつながりは密接であり、汚職は依然として懸念される問題だと述べた。NGOは、退職した政府の幹部職員が、政府との契約に頼る民間企業で高報酬の職を得る慣行が行われていることを引き続き批判した。2011年、法務省は同年に贈収賄容疑で98人を起訴したと報告し、最高裁判所は45人に贈収賄で有罪判決を言い渡したと報告した。著名な政治家および公務員が関与した財務会計に関する不祥事の捜査がたびたび報道された。11月19日、ある元党指導者の裁判が、高等裁判所の無罪判決を上告しないという検察側の決定を受け、終結した。

 10月22日、田中慶秋法務大臣(当時)が体調不良を理由に辞任したが、これは暴力団関係者とのつながり、および2006年から2009年まで外国人組織から政治献金を受け取っていたという申し立てを受けてのことであった。報告によると、田中氏はこの献金を返金した(法律により、外国人組織からの政治献金は禁止されている)。田中氏は12月16日の衆議院選挙で落選し、2012年末時点で起訴されていなかった。

 法律により、国会議員には、所得、および土地、建物、有価証券および輸送手段の所有状況を含む資産(普通預金を除く)の公開が義務付けられているが、配偶者および扶養する子の資産、所得または有価証券の取引状況の公開は求められていない。違反した場合の罰則はない。NGOおよび報道機関は、法律が不十分であると批判した。

 警察庁および国税庁を含む、複数の政府組織が汚職対策に従事している。他にも、公正取引委員会が、談合のような不当な取引制限および不公正な商慣行を防止するため、私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)を執行する。犯罪収益移転防止監理官は、マネーロンダリングおよびテロリストへの資金供与の防止に責任を負う。国家公務員倫理審査会は、倫理規定違反の疑いのある公務員を取り締まる。会計検査院は、政府が主要株主である企業の会計を監査する。汚職対策に従事する機関は全般的に独立して効果的に活動を行い、十分な資源を与えられたが、一部に要員の不足があった。

 法律により、一般市民には、政府の情報を入手する法的な権利があり、法律は効果的に執行された。

第5部 人権侵害の疑いに対する国際機関および非政府機関の調査に対する政府の姿勢

 国内外の多くの人権団体は、全般的に、政府による制約を受けずに活動し、人権侵害の事例について調査し、調査結果を公表した。政府関係者は、通常協力的であり、こうした団体の見解に対応した。

政府の人権機関

 法務省の人権相談所が、秘密厳守で質問に答え、相談に応じた。人権団体はこれらの相談所を独立した、または効果的なものとは考えておらず、国民の信頼を得られていないと報告した。

 国のレベルで独立した行政監察機関そのものは存在しなかったが、総務省の部局である行政評価局の行政相談制度に十分な資源が提供されており、国の行政監察機関と同じ役割を多く果たした。国際的な行政監察機関では、同局の局長が日本代表を務めた。全国50カ所の行政相談事務所および約5000人の行政相談委員に加え、19都市のデパートなどに設置された総合行政相談所が、無料かつ秘密厳守で相談を行った。こうした相談の利用は容易だった。2011年4月からの1年間に、同省は、大きな問題であった医療保険および年金に関する約18万5000件の相談事案を効果的に処理したほか、東日本大震災にかかる約2万4000件の相談事案にも対応した。

第6部 差別、社会的虐待、人身売買

 法律により、人種、性別、障害、および社会的地位に基づく差別は禁止されているが、言語、性的指向、または性同一性に基づく差別は禁止されていない。政府はこれらの禁止規定をある程度執行したが、女性、民族に基づくマイノリティー、障害者、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー(LGBT)、および外国人に対する差別の問題は残っていた。さらに、禁止規定の執行には一貫性がなく、障害者に対する一部の規定は、公共部門には適用されるが、民間部門には適用されないと解釈された。

女性

強姦および配偶者からの暴力

 法律により、配偶者間の場合も含め、暴力を用いた女性に対するあらゆる形の強姦が犯罪とされており、政府は全般的に、この法律を効果的に執行した。しかし、性交が強姦と認められるには、強制力の行使と被害者が物理的に抵抗した証拠が必要である。警察庁の統計によると、2011年に報告された女性と少女に対する強姦事件の数は1185件で、当局は同年、561人の被疑者を起訴した。最高裁判所の記録によれば、2011年に222人が強姦罪で有罪判決を受け、執行猶予から懲役20年までさまざまな刑罰を受けた。多くの警察署には、秘密を守って被害者の女性を支援するための女性職員がいたが、報告された7月の事例では、地元の警察が、妻が夫に対して提出した告訴状について、秘密にしなければならないにもかかわらず、その夫に伝えたため、報復される懸念が生じた。

 女性に対する配偶者からの暴力は法律で禁止されているが、依然として問題であった。警察庁の統計によれば、2011年に報告された配偶者からの暴力の件数は3万4329件で、女性が全被害者の96.7%以上を占めた。裁判所は、2011年に15人を有罪とし、執行猶予から懲役2年までさまざまな刑罰を言い渡した。

 「慰安婦」(第2次世界大戦中に性的目的のために売買された女性)問題への対応の要求が続いたことから、政府は過去の謝罪と金銭的支援についての主張を続けた。

セクハラ

 法律ではセクハラを犯罪と規定していないが、セクハラ防止を怠った企業を特定する措置が規定されており、都道府県労働局および厚生労働省はこれらの企業に対し、助言、指導、勧告を与える。厚生労働省は、2011年4月から2012年3月までに、こうした企業を特定し、対処した事例は53件に上ったと報告した。政府の指針を順守しない企業名は公表できるが、政府関係者によると、これまでその必要はなかった。しかし、職場におけるセクハラはまだ広範囲に見られ、厚生労働省は、2011年4月から2012年3月までに同省が受けたセクハラの相談件数は1万2228件に上り、そのうち61.5%が女性労働者からの相談だったと報告した。厚生労働省が相談を受けた従業員が働く企業の数は、国内の全企業の10%以上にあたり、産業別では、金融業界で、苦情の対象になった企業が全体の30%にも上った。5月29日、日本労働組合総連合会は、女性従業員の約17%が職場でセクハラを経験しているが、そのほとんどが苦情の申し出や相談を行っていないという調査結果を発表した。都道府県の労働局雇用均等室の政府ホットラインは、セクハラに関する相談に対処し、可能な場合は紛争を調停する。

リプロダクティブ・ライツ

 夫婦と個人は、自由に、かつ責任を持って、子どもの数、子どもを持つ間隔と時期を決めることができた。また差別や暴力を受けたり、強制されることなく、こうした決定を下すための情報と手段を得ていた。女性は避妊法と、出産時の熟練した介助、妊婦健診、不可欠な産科治療や分娩後のケアなどの妊産婦医療サービスを利用することができた。

差別

 法律により性差別は禁止され、全般的に女性には男性と同じ権利が与えられている。内閣府の男女共同参画局は引き続き、政策を検討し、その進捗状況を監視した。同局の「2011年版男女共同参画白書」は、女性の社会参加は依然として不十分であると結論づけ、経済、行政、政治の分野で上級職に就く女性の数を増やすため、定数制導入を提唱した。これに対する政府の対応は、2012年には全くみられなかった。

 雇用における不平等は依然として社会全体の問題として残っていた。2011年、女性は全労働力の42%を占め、平均月給は23万1900円(約2700ドル)で、男性の平均月給(32万8300円または約3800ドル)の約10分の7にとどまった。女性の管理職は全体の12.4%だった。

 NGOは引き続き、日本の性差別撤廃措置を実施する努力が不十分であるとし、法律における差別的な条項、労働市場での女性に対する不平等な扱い、選挙で選ばれた高位の議員の中に女性が少ないことを指摘した。NGOは日本に、女性にのみ適用される離婚後6カ月間の再婚禁止規定の廃止、婚姻最低年齢における男女の区別の撤廃、選択的夫婦別姓制度の採用、非嫡出子を差別する法律の条項の撤廃を要請した。

子ども

出生届

 国籍法では、子どもの父親が日本人でその子の母親と結婚しているか、子どもを認知している場合、子どもの母親が日本人である場合、または子どもが日本で生まれ、その両親が不明あるいは両親に国籍がない場合に、生まれた子どもに日本国籍を認めている。法律により、国内で生まれた子の場合は14日以内に、国外で生まれた子の場合は3カ月以内にそれぞれ出生届を出すことが義務付けられており、この期限はおおむね順守された。

 法律により、出生届に子が嫡出子か非嫡出子かを明記することが義務付けられている。12月21日、名古屋高等裁判所は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする法律の規定を違憲であると判断した。また、離婚成立から300日以内に生まれた子を前夫の子であると推定する別の規定があるため、正確な人数は不明だが、子どもの出生届が出されず無戸籍となり、その結果公共サービスが十分に受けられない状況が発生した。

教育

 初等教育および前期中等教育は義務教育であり、無償で提供される。外国人居住者の子どもにも無償で教育を受ける機会が与えられているが、外国人が子どもを学校へ通わせることは義務ではない。NGOは、この2つのグループの子どもたちについて、政府による処遇が異なることを指摘した。例えば、日本国籍を持つ子どもには就学通知が届くが、外国籍の子どもには就学案内が届く。日本友和会および国際人権法政策研究所(いずれもNGO)が5月に発表した調査報告によると、初等および前期中等教育を受けた外国籍の子どもの比率は、日本国籍の子どもと比べて著しく低かった。

児童虐待

 児童虐待の報告件数は増加を続けた。2011年4月から2012年3月までの間に各地の児童相談所が対応した、親あるいは保護者による児童虐待の報告件数は5万9862件であり、前年から増加した。警察庁によると、2011年には398件の児童虐待の事例で409人の逮捕者が出た。親や保護者による虐待によって死亡した子どもは39人だった。

 法律により、児童福祉職員には、虐待する親が子どもと面会すること、あるいは連絡を取ることを禁止する権限が与えられている。また法律により、しつけの名目での虐待が禁じられているほか、疑わしい状況に気づいた者は誰であろうと、各地の児童相談所または地方自治体の福祉事務所に通知することが義務付けられている。厚生労働省は、児童虐待の報告件数の増大には、この問題に対する国民の意識の高まりがあるとした。状況を改善するため、地方自治体は、児童福祉職員に対し、虐待が疑われる親または保護者を面接し、必要に応じて支援を提供することを義務付けた。警察は、必要に応じて、より多くの現職または退職した警察官を児童相談所へ派遣した。2012年に、児童相談所は、児童虐待が疑われると報告された5万9862件の事案に対し、面接および訪問を行って対応した。

児童婚

 法律は、婚姻適齢について、男性は18歳以上、女性は16歳以上と規定している。20歳未満の者は、少なくとも両親のいずれかの同意がなければ結婚できない。厚生労働省が2010年にまとめたデータによると、19歳以下の年齢で結婚する男性および女性の比率は、それぞれ全体の1.7%および3.9%であった。

子どもの性的搾取

 児童買春は違法であり、児童買春をした成人は5年以下の懲役もしくは300万円(約3万4800ドル)以下の罰金、あっせん業者は7年以下の懲役および1000万円(11万6000ドル)以下の罰金に処せられる。当局は効果的にこの法律を執行した。それにもかかわらず、引き続き行われている「援助交際」や、出会い系、ソーシャル・ネットワーキング、「デリバリー・ヘルス」などのウェブサイトの存在が児童買春を助長した。

 法定強姦に関する法律があり、同意の有無にかかわらず13歳未満の少女との性交は犯罪である。また法律や条例により、18歳未満の児童に対するわいせつな行為は禁止されている。法定強姦をした者は2年以上の懲役に処せられ、法律は執行された。

 日本は依然として、児童ポルノの製造および取引の国際的な拠点であった。児童ポルノの商用化は違法であり、3年以下の懲役もしくは300万円(約3万4800ドル)以下の罰金に処せられる。警察は2012年、この犯罪の厳重な取り締まりを続けた。児童ポルノは幼い子どもに対する残酷な性的虐待を描写している場合が多く、その配布は違法だが、法律は児童ポルノの単純所持を処罰化していない。このため法律の効果的な執行や、この分野における国際的な法執行への参加に向けた警察の取り組みが引き続き妨げられている。警察の報告によれば、2011年の児童ポルノの捜査件数は1455件であり、638人の子どもが被害者となった。これは、2010年と比べ、捜査件数で8.4%、被害者数で3.9%の増加であった。

 性描写が露骨なアニメ、マンガ、ゲームには暴力的な性的虐待や子どもの強姦を描写するものもあるが、日本の法律は、こうしたアニメ、マンガ、ゲームを自由に入手できるという問題に対処していない。警察庁は引き続き、これらのアニメ映像と子どもへの性的虐待の関連性は証明されていないと主張したが、子どもに対する性的虐待を容認するように見える文化が子どもに害を及ぼすと示唆する専門家もいた。

国際的な子の奪取

 日本は「1980年国際的な子の奪取の民事面に関する条約(ハーグ条約)」を批准していない。詳細は、「ハーグ条約の順守状況に関する国務省の年次報告書」 と、「国別情報」を参照。

反ユダヤ主義

 日本国内のユダヤ人の人口は約2000人である。反ユダヤ主義の活動は報告されなかった。

人身売買

 国務省の「人身売買年次報告書」を参照。

障害者

 法律により、身体障害者、知覚障害者、知的障害者および精神障害者に対する差別は禁止されており、障害を理由とする権利および利益の侵害は禁止されている。法律は、公共部門における雇用、教育、医療およびその他の国のサービスの提供に関する差別も禁止しているが、航空サービス、その他の交通手段の利用に関する差別は禁じていない。また法律は、差別を受けた障害者の救済も規定していない。日本政府は全般的に、これらの規定を執行した。

 しかし実際には、上記の公共サービスに対する障害者のアクセスは限られ、日本弁護士連合会は、こうした状況での差別が定義されていないため、司法的救済による法的強制力を持たないと引き続き抗議した。さらに、職場での差別に関する法律は公共部門にしか適用されず、違反した場合の罰則が規定されていない。2012年に、多くの弁護士、専門家および障害者が、包括的な差別禁止法の制定を求めた。

 法律はまた、政府および民間企業に対し、障害者(精神障害者を含む)を一定の比率以上雇用することを義務付けている。従業員200人以上の民間企業がこれを順守しなかった場合は、法定雇用数に足りない障害者1人当たり毎月5万円(約580ドル)の罰金を支払わなければならない。政府による障害者雇用は定められた最低限の比率を超えていたが、厚生労働省のデータによると、民間部門の障害者雇用は過去数年間で増加が見られたものの、公共部門に遅れを取っていた。

 公共施設の新たな建設プロジェクトでは、障害者のための設備を整備することがアクセサビリティに関する法律で義務付けられている。また政府は、病院、劇場、ホテル、およびその他の公共施設の経営者が、障害者用の設備を改善または設置する場合には、低金利の融資および税制上の優遇措置を認めることができる。

 障害のある子どもは一般的に、特別支援学校に通学した。

 3月に市民グループが、2011年5月から11月にかけて実施された調査に基づき、障害のある女性はセクハラの被害を受けやすいと報告した。

 精神衛生の専門家は、精神障害への偏見を軽減し、うつ病やその他の精神疾患は治療可能な、生物学に基づく疾患であることを一般の人々に知らしめる政府の努力が十分になされていないと批判した。警察および刑務所では特に精神疾患の治療が遅く、精神科の治療を提供するための手続きもない。

国籍・人種・民族に基づくマイノリティー

 民族に基づくマイノリティーは、その程度はさまざまであるが社会的差別を受けた。

 部落民(封建時代に社会的に疎外された者の子孫)は、政府による差別を受けていないものの、根深い社会的差別の被害者となることが多かった。部落民の権利擁護団体は引き続き、多くの部落民が社会経済的状況の改善を実現したにもかかわらず、雇用、結婚、住居、不動産価値評価の面での差別が横行している状況が続いたと報告した。公式に部落民というレッテルを貼って部落出身者を識別することはもうないが、戸籍制度を利用して部落民を識別し、差別的行為を促すことが可能である。部落民の権利擁護団体は、多くの政府機関も含め、就職希望者の身元調査のため戸籍情報の提出を求める雇用者が、戸籍情報を使って部落出身の就職希望者を識別・差別する可能性がある、と懸念を表明した。

 日本に住む中国人、韓国・朝鮮人、ブラジル人、およびフィリピン人の永住者は、その多くが日本で生まれ育ち、教育を受けていたが、差別に対する法的な保護措置があるにもかかわらず、住居、教育、医療、および雇用の機会の制限など、さまざまな形で根深い社会的差別を受けた。日本に住むその他の外国人居住者や、「外国人のように見える」日本国民も似たような差別を報告しており、さらにホテルやレストランなど一般の人々にサービスを提供している民間施設への入場を、時には「外国人お断り」と書かれた看板によって禁じられた、と述べた。権威あるNGOは、差別が通常あからさまで直接的であると指摘して、差別の禁止に向け政府が何の措置も取らないことを引き続き批判した。

 一般的に、永住権を持っていたり、日本に帰化した韓国・朝鮮人を社会が受け入れる状況は、引き続き着実に改善された。当局は、2011年に、5656人の韓国・朝鮮人の日本への帰化を認めた。帰化申請のほとんどは当局により許可されたが、人権擁護団体は、帰化手続きを複雑にする過度の官僚的な抜け穴や、不透明な許可基準について引き続き抗議した。帰化しないことを選択した韓国・朝鮮人は、市民的および政治的権利の面で困難に直面し、国連人種差別撤廃委員会に対する日本の定期的な報告によれば、住居、教育、公的年金、その他の給付金の面で常に差別を受けた。

 旧社会保険庁の通達により、依然として、外国人語学教師の場合には、日本人の語学教師と比較し、雇用者による年金と健康保険料の雇用者負担分の支払い回避が明らかに容易になっている。また、この通達では、外国人教師を不法に社会保障制度に加入させない雇用者に対する罰則が定められていない。あるカナダ人の語学教師は、1月に、勤務する大手語学学校が自分の仕事量を週30時間未満に減らし、年金および健康保険の給付を受ける機会を奪ったとして、この語学学校を訴えた。この訴訟では、旧社会保険庁の通達には法的根拠がないことが申し立てられた。

 大学は、多くの外国人の大学教授、特に女性の教授を、終身在職権を得る可能性がない短期契約で雇用した。

先住民

 アイヌ(そのほとんどは北海道に居住)は他のすべての国民と同じ権利を享受したが、明らかにアイヌであると識別されると差別を受けた。法律はアイヌ文化の保存を重視しているが、土地の所有権を認めること、国会と地方議会での議席の割り当て、過去の政策についての政府の謝罪など、アイヌ団体が要求している条項は含まれていない。

 1月21日、国会にアイヌ民族の議員を送ることを目的としてアイヌ民族党が結成された。12月の衆議院選挙では、北海道の1選挙区で候補者を擁立したが、落選した。さらに、北海道大学が1931年から1955年にかけて、研究目的としてアイヌ民族の遺骨を無断で持ち去ったため、祖先を供養する信教の自由が侵害されたとして、9月14日、アイヌの子孫が同大学を提訴した。この訴訟は2012年末時点で係属中であった。

 日本政府は琉球民(沖縄と鹿児島県の一部の住民を指す言葉)を先住民族と認定していないが、彼らの独自の文化と歴史を公式に認め、その伝統を保存し尊重する努力をしてきた。

 その他の社会的虐待、差別、性的指向および性同一性に基づく暴力行為

 性的指向または性同一性に基づく差別を禁止する法律はない。また、そのような差別に対する罰則もなく、関連する統計も入手できない。法律では性行為が男女間の膣性交としてのみ定義付けられていることから、強姦、性交渉およびその他の性交を伴う行為に関する法律は、同性間の性的行為には適用されない。このような定義により、男性を強姦した加害者に対する罰則が軽微になり、同性間の売春に関し法律上の曖昧さが増している。

 性同一性障害のため戸籍の性別を女性から変更した既婚男性が、人工授精により妻との間にもうけた2歳になる息子について、戸籍に嫡出子と記載することを拒否した新宿区の判断の訂正を求めた審判で、東京家庭裁判所の松谷佳樹裁判官は、10月31日、この申し立てを却下した。2008年に結婚した大阪府在住のこの夫婦は、1月に新宿区に出生届を提出したが、子どもを夫婦の嫡出子として認めず、戸籍の父親の欄を空欄にするという区の判断を3月に受け取った。今回の法的手続きは、性別を変更した親が戸籍に関する区の判断に異議申し立てを行った初の事案であり、知られている限りで、このような申し立てを却下した初めての裁定であった。この事案の特徴は、親が性別を変更していること、および第三者の精子提供を受けた人工授精により生まれた子であるという点である。裁判所は、戸籍の記載から、夫には生殖能力がなく、したがって父親と認められないことは明らかである、とした。

 2012年に、LGBTの権利を擁護するNGOから、組織に対する障害の報告はなかったが、いじめ、嫌がらせ、および暴力行為の報告は何件かあった。LGBTに対する偏見が、依然として、上記のような事例を自ら報告する妨げとなっており、また学校でのいじめや暴力に関する調査では、全般的に、関係者の性的指向や性同一性を考慮しなかった。また、広く浸透しているLGBTに対する社会的偏見により、多くの人が自らの性的指向を公にすることができず、LGBTの代理人になることが多い弁護士によれば、性的指向を公表するといって依頼人が脅迫された事例が2012年に10件あった。

その他の社会的暴力または差別

 HIV・エイズ感染者に対する差別を禁止する法律はないが、拘束力のない厚生労働省のガイドラインには、事業者はHIV感染が解雇あるいは不採用の理由にはならないと明記されている。裁判所はこれまでに、HIV感染が理由で解雇された個人に損害賠償請求を認めた。

 HIV・エイズ感染者に対する差別についての懸念、およびこの疾患に対する偏見により、多くの人がHIV・エイズの感染を公表しなかった。2009年に厚生労働省が資金を提供して実施された調査では、雇用主に感染の事実を公表したHIV・エイズ感染者は、全体のわずか7.5%だった。NGOの「ぷれいす東京」によれば、多くの感染者が解雇されることを恐れて、感染を隠していた。

 1月、福岡県の男性看護師が、勤務先の病院と、彼のHIV検査を実施した別の病院を提訴した。検査を実施した病院は、この看護師に無断で、陽性結果を勤務先の病院に伝えており、勤務先の病院は患者への感染のリスクを理由に、看護師に退職を強要した。看護師は訴訟で、患者に対する守秘義務違反と不当解雇を申し立て、1100万円(約12万8000ドル)の損害賠償の支払いを求めた。原告の代理人によれば、これはHIV感染を理由に医療従事者を解雇した日本初の事案であった。

第7部 労働者の権利

a. 結社の自由と団体交渉権

 法律は、関連する命令や規則を含め、民間部門の労働者が事前認可あるいは過度の要件なしに、組合を結成し、自分が選んだ組合に所属することを認め、ストライキおよび団体交渉を行う権利を保護している。

 公共部門の職員および公共企業体の従業員には、法律により一定の制限が課されている。発電および送電、運輸および鉄道、通信、医療および公衆衛生、郵便などの必要不可欠なサービスを提供する部門の労働者は、ストライキをする日の10日前までに当局に通知しなければならない。公共部門の職員にはストライキをする権利がないが、公共部門職員の団体に参加することが許されており、こうした団体が公共部門の雇用者と賃金、労働時間、その他の雇用条件について一括して交渉することができる。 必要不可欠なサービスの提供に関わる従業員には団体交渉権がない。法律は組合に対する差別を禁止し、組合活動のために解雇された労働者の職場への復帰を規定している。

 日本政府は組合の結成および参加に関する法律を効果的に執行した。労働組合は、政府の統制や影響を受けなかったが、公共部門の職員の基本的な労働組合権には別の法律が適用され、組合結成に実質的に事前認可が要求されている点で制約を受けている。公共部門の職員の労働組合が存在した。日本政府は組合が活動する権利を保護した。しかし、法律違反の事例が時に見受けられた短期雇用契約の増加は、正規雇用の妨げになり、団結活動を妨げるものでもあった。

 団体交渉権は自由に行使されたが、一部の企業は、法律の下での従業者の保護を回避するため、法人格の形態を変更して、法律的には雇用者とみなされない持ち株会社制度に移行した。同様に、日本の企業では、正社員よりも非常勤、短期契約、または非正規労働者の雇用が増加した。こうした労働者は労働力の3分の1以上を占めた。彼らは低賃金で働き、多くの場合、正規雇用の労働者より雇用の安定性や福利厚生が少なく、労働条件も不安定だった。賃金や研修の面で正社員と平等な待遇を受けるには、非常勤労働者は、業務内容、残業、転勤の面で正社員と同等でなければならない。実際には、正社員としての要件を満たすのは、非常勤労働者のわずか4~5%にすぎなかった。

b. 強制労働の禁止

 法律によりあらゆる形態の強制労働は禁止されているが、強制労働が行われたという報告が依然として複数あった。日本に不法入国した労働者やビザの期限が切れたまま不法滞在した労働者には、賃金不払いや低賃金のリスクがあった。一部の企業は、技能実習制度(TITP)に参加する外国人労働者の移動や外部との連絡を違法に制限し、渡航書類を取り上げて、給料を企業が管理する銀行口座に強制的に入金させた。TITPは、外国人労働者が日本に入国し、事実上の臨時労働者事業のような形で最長3年間就業することを認める制度だが、法改正により2010年に制度改革が実施されており、1年目の参加者にも在留資格「技能実習」が与えられ、保護が強化された。TITPで雇用される技能実習生の数は日本の労働需要により変動し、2011年に全国の企業が雇用した実習生の数は約14万人だった。

 危険な装置や不十分な研修に起因するけが、賃金や残業手当の未払い、過度の、時として誤った賃金控除、強制送還、および標準以下の生活環境など、TITPにおける悪用事例の報告がよくみられた。さらに労働者は、時として、母国で違法な手数料を徴収されたり、借金を負わされるという事態の両方あるいはその一方に直面することがあった。労働者は時として「強制貯金」も求められたが、こうした貯金は実習の切り上げ、あるいは強制送還の場合には没収された。過去数年間で何人かの技能実習生が過労により死亡しており、その結果、2008年には茨城県で訴訟が起きた。この訴訟では、11月に非公開の金額で和解が成立した。この実習生の死亡は、2010年に厚生労働省労働基準監督署により公式に過労死と認定された。10月2日、技能実習生が長野県で自殺したと報告された。この事案については、2012年末時点で法務省入国管理局による調査が継続中だった。

 日本の雇用および出入国管理関連法、法務省令、および厚生労働省のガイドラインなど、複雑に関係するさまざまな規則が、引き続きTITPを管理した。これらの規則は、不当な、あるいは搾取的な労働慣行を禁止している。名目上は、厚生労働省の労働監督官および法務省の入国審査官が、いわゆる受け入れ団体、および技能実習生を雇用する工場や農場をいずれも監督する。NGOはこうした監督が不十分であると主張した。NGOによれば、法務省の入国審査官と厚生労労働省の労働監督官の間で、基準に重複があり、また互いに矛盾する基準がある場合も多く、技能実習生を雇用する企業の評価にあたり不透明感が生じた。企業が規則を順守しない場合の政府の対応として、警告および勧告を発出し、企業のTITPへの参加を1~5年間禁止することが規定されているが、裁判所が企業の法律違反を認めた場合や、裁判外で和解が成立した場合であっても、政府が全面的に参加を禁止することはまれであった。さらに、TITPの労働条件を監督する監督官および審査官は、TITPを共管する省のうちの2省が雇用していることから、利益相反も存在した。監督官や審査官の中には、事業主が支持する政府のプログラムに対して否定的なイメージを与えかねない調査を行うことに難色を示す者もいた。

 政府が主導する訴追はなかったが、複数の技能実習生が、無償または有償の弁護士の支援を得て、TITPに参加する企業を提訴した。有償で代理人を務めた弁護士は、勝訴または和解が成立した場合には、実習生が得た賠償金の一部を受け取った。10月時点で、全国で25件が係属中であり、このうち大半は賃金または残業手当の未払いを申し立てた訴訟であった。他にも、過労死、住居費に関する差別、強制送還および就業中のけがについて申し立てた裁判があった。2012年、裁判所はこのような事案のうち数件について技能実習生を支持する判決を下した。賠償金を受け取った実習生もいたが、会社の倒産や、会社の資産が法的に保護されているために、賠償金を受け取れなかった者もいた。2人の中国人実習生が強制貯金、賃金の未払い、および強制送還の脅しを受けたと申し立てて、埼玉県の衣料品メーカーを提訴した事案では、12月に非公開の金額で和解が成立した。

 国務省の「人身売買報告書」を参照。

c. 児童就労の禁止と雇用の最低年齢制限

 法律により、15歳から18歳の子どもは、危険な、あるいは有害と指定される仕事でなければ、いかなる仕事にも従事することができる。13歳から15歳までの子どもは「軽労働」であれば従事でき、13歳未満の子どもでも芸能界であれば働くことができる。これらの法律は効果的に執行された。

 児童労働の問題は、人身売買および児童ポルノ(第6部「子ども」を参照)に集中していた。

d. 許容される労働条件

 最低賃金は、業種別および都道府県別に定められており、時給652円(約7.60ドル)から850円(約9.90ドル)まで幅があった。法律は、最低賃金を支払わなかった雇用者に対し、50万円(約5800ドル)以下の罰金を科している。当局は労働者が不服を申し立てた場合にこの罰金を科す。罰金は事案1件当たり、または労働者1人当たりで計算されるものではないため、例えば100人の従業員に10カ月間、最低賃金の支払いを怠った企業の場合も、1人の従業員が不服を申し立てた時に上記の罰金を1回限り支払う義務を負う。厚生労働省が2009年にまとめた最新の統計によれば、全体の16%の世帯で年間所得が112万円(約1万3000ドル)の貧困線を下回っていた。

 法律は、男女平等の同一賃金を義務付けるとともに、性別に基づくその他の形態の差別を禁止している。これらの規定を執行する仕組みは、全般的に、ほとんど、あるいは全く存在せず、活動家は2006年の法改正について、間接的な差別に対応していないと批判した。女性は依然として、職場での平等な待遇について懸念を表明した。

 法律により、ほとんどの産業で労働時間は週40時間と規定されており、週40時間、または1日8時間を超えて働いた場合には、賃金の25%以上50%以下の範囲で割増賃金を支払うことが義務付けられているほか、一定の期間に認められる時間外労働の時間数は制限され、かつ過度の強制的な時間外労働を禁止している。また国民の祝日を有給の休日とするほか、6カ月間継続して勤務した正規労働者に対し、年間少なくとも10日の有給休暇を支給することを義務付けている。日本政府が労働安全・衛生基準を定める。

 厚生労働省が、ほとんどの業種の賃金、労働時間および労働安全・衛生に関する法律・規則の執行について責任を負う。国家公務員の労働安全・衛生については人事院が所掌する。鉱業については経済産業省が、海運業については国土交通省が労働安全・衛生をそれぞれ所掌する。300以上の労働基準監督署に雇用された約4000人の労働基準監督官が、これらの法律・規則を執行した。労働組合は、依然として、政府が労働時間制限の執行を怠っていると批判し、政府職員を含め労働者が日常的に、法律で定められた労働時間を超えて働いていたことが広く認められていた。2011年4月から2012年3月までの間に、厚生労働省に過労死の認定を求める遺族からの申請が898件あった。厚生労働省が2012年に過労死の被害者であると公式に認定したのは248人だったが、労働者の権利を擁護するNGOは、実際にはその数はもっと多く、2011年に発生した3万651件の自殺の多くは、働き過ぎやその他の労働条件が一因だったと主張した。

 日本政府は、全ての産業において、労働安全・衛生に関する法律・規則を効果的に執行した。労働基準監督官は、重大な違反の場合には、安全でない操業を直ちに停止させる権限を有するが、重大でない場合は、拘束力のない指導を与える。日本全国の事業所を監督し検査するための資源は、十分であると思われた。しかし、厚生労働省の職員はしばしば、430万カ所以上の事業所を監督するには資源が不十分であると述べた。

 2012年には、労働災害による死亡者数が、2011年3月の地震および津波の犠牲者を含む統計と比較して、減少した。1月から9月までの労働災害による死亡者数は829人と報告された。これには震災および震災後の復興・再建活動に関連した死亡者169人が含まれている。労働災害による死亡の原因として最も多かったのは、墜落・転落、交通事故および重機によるけがであった。