米日カウンシルでのウィリアム・J・バーンズ国務副長官の基調講演

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2013年10月4日、ワシントン DC

 おはようございます。本日は皆さんとご一緒でき、大変光栄です。

 米日カウンシルで素晴らしいリーダーシップを発揮し、日米関係の将来のために、たゆまぬ貢献をされたアイリーン・ヒラノ・イノウエ氏にお礼を申し上げます。日米両政府および国民は、イノウエ氏にとても感謝しています。

 私が30年余りにわたり米国の外交官を務める中で、ダニエル・イノウエ上院議員ほど国民に尽くした人物、誇り高き米国人、日米同盟を強く支持した人に出会ったことはありません。イノウエ議員ほど米国の可能性を信じて、これを確実に実現し、日米関係に永続的な遺産を残した人は他にいません。

 米国の外交は今、劇的な時期にあります。危機からまだ回復しきっていない世界経済、混乱状態にある中東、核の脅威、気候変動、国際テロなど、米国はさまざまな課題に直面していますが、アジア太平洋地域への米国の深い関与は変わっていません。今日、そして今後数十年においても、アジア太平洋ほど活力に満ち、米国の国益および国際的なシステムの形成にとって重要な地域は他にありません。

 今年4月、ケリー国務長官が就任以来初の日本訪問で強調したように、米国は太平洋の世紀における太平洋国家として、アジアでの積極的かつ永続的なプレゼンスを今後も拡大していきます。その際には、米国のアジア太平洋へのリバランス戦略の柱として、引き続き日本に期待することになるでしょう。

 昨日、ケリー国務長官とヘーゲル国防長官は東京で、歴史的な日米安全保障協議委員会(2プラス2)に出席しました。この会合では、日本との同盟関係、およびより広範なリバランス戦略に対する米国の熱心かつ長期的な取り組みをあらためて強化するという、今後10年間の日米同盟の目標を打ち出しました。

 確かに、条約に基づく日本との同盟は、極めて重要なこの地域における米国の関与の礎であり、今後もそれは変わりません。日米同盟は、共通の利益や価値観、民主主義の理念、人権および法の支配の尊重という強力な基盤の上に構築されています。2国間の安全保障同盟から、地域的および国際的な課題に対する共通の取り組み、非常に重要な経済関係、さらには互いの文化を豊かにし、両国を一層強く結び付ける友情や人と人との絆まで網羅する日米同盟は、まさしく地球規模のパートナーシップです。

 両国のパートナーシップの全ての要素は、歴史的な転換期にあります。安全保障関係は、かつてないほど強固になっています。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への日本の参加により、地域の経済再生が加速する態勢が整いました。そして両国の人々のつながりが増し、より意義あるものになっています。今年の年次総会のテーマであるリスク、恩恵、イノベーションは、こうした転換を精査する有益なレンズの役割を果たします。ではそれぞれのテーマについて少しお話ししましょう。

リスク

 日米がアジア太平洋地域、そして全世界でリスクや課題に直面しているのは間違いありません。

 北朝鮮の核開発計画、核拡散、挑発行為は、今も地域の主な不安定要因です。継続中の海洋紛争や領土問題も引き続き懸念材料です。そして、宇宙やサイバーネットワークへの脅威など、従来とは異なる脅威が、壊滅的な結果をもたらす可能性のある新たなリスクを生み出します。

 しかし、課題がより複雑になる中、日米同盟がより強固になっていることも間違いありません。今週の2プラス2会合は、日米関係にとって重要な節目になりました。国務長官と国防長官が出席して東京で開催された、初めての2プラス2会合であり、両国が同盟関係を重視する姿勢が効果的に実証されました。

 安倍首相は、日本を「積極的平和主義の国にする」と語っています。米国はそのビジョンを歓迎します。そして日米は今週東京で、そのビジョンを実行に移すために協力しました。

 よりバランスのとれた、効果的な同盟関係を実現するために、両国は日米防衛協力の指針(ガイドライン)を10年半ぶりに見直すことに合意しました。また在日米軍再編の実施を加速させることにも合意しました。アフガニスタンでの治安維持権限移譲からシリア危機、人道支援、災害救援、経済開発、そして平和維持活動への取り組みまで、広範囲に及ぶ切迫した地域および国際的な問題での協力の強化にも合意しました。

 2年半前に日本に壊滅的な被害をもたらした地震と津波に対し、日米が共同で取った対応は、私たちが友人として、そして同盟国として協力したときに何ができるかを明確に示す好例です。トモダチ作戦は、両国の歴史における最大規模の共同軍事作戦だっただけでなく、日米の外交機関や民間の援助機関、慈善団体、科学者、医療の専門家など、両国民の包括的な取り組みでもありました。

 この時と同じ決意とパートナーシップで、両国は自国の再生という最も重要な課題に臨まなければなりません。

恩恵

 国の経済力は、今も日米同盟とリーダーシップの基礎です。日米同盟の恩恵を最大限に享受するためには、両国の成熟した経済関係をさらに深め、アジア太平洋地域の成長する力を活用し、それを両国民のために役立てなければなりません。

 米国には、日本経済の強化に尽力する安倍首相というパートナーがいます。安倍首相は米国のパートナーとして、地域の経済協力の体制の強化や、ルールに基づく自由で透明な市場志向型の世界の経済秩序の基盤強化にも尽力しています。

 この取り組みの中心はTPPです。TPPは世界で最も活力ある経済を有する国々の一部と交渉中の、先進的かつ高い水準の多国間の自由貿易協定であり、経済成長や雇用創出を加速させ、地域経済の統合を深め、地域をさらに安定させ、私たちの国際的な指導力を高めます。同時に、TPPにより、自由市場経済の高い水準の規則が、世界の貿易と投資の基準にもなります。

 TPP全参加国の国内総生産(GDP)を合わせると、全世界のGDPの40%を占めます。米国が欧州連合と交渉中の環大西洋貿易投資パートナーシップと合わせると、高水準で先進的な貿易協定が、世界経済の3分の2を網羅することになります。

 日米は世界の2大自由市場経済大国として、戦略的にも経済的にも、TPPの成功に大きな利害があります。オバマ大統領はTPPの年内妥結を期待していることを明確にしました。今後も集中して交渉に取り組み、リーダーシップを発揮すれば、これを実現できます。

イノベーション

 貿易と投資は非常に重要です。しかし、経済成長と日米パートナーシップの活力に不可欠な要素はイノベーションであることを、私たちは皆知っています。

 米国と日本は科学者や研究者の教育交流を通じ、ガン研究から国際宇宙ステーション建設にいたるまで、科学技術に画期的な進歩をもたらしています。

 バイオマス、水素、地熱、スマートグリッド、および洋上風力プロジェクトでのイノベーションを追求するため、両国は国立研究所、研究機関、および大学間の情報共有や研究開発を拡大しています。2011年の東日本大震災をきっかけに、災害リスクの軽減、災害対応、復興の分野でイノベーションを起こしました。また世界の2大インターネット経済大国として、米国と日本は、より安全で活力のある電子商取引を実現するための取り組みを進めています。

 本日、昼食会で講演していただく山中(伸弥)博士は、このような教育交流の価値を証明する生き証人です。山中博士は大阪で医学博士号を取得した後、博士研究員としてサンフランシスコに来られました。それから20年後、米国および世界各地で培った知識、つながり、ネットワークを生かした最先端の幹細胞研究が認められ、山中博士はノーベル生理学・医学賞を受賞されました。

 安全保障や経済面での関係と同様、日米の国民の間には強いつながりがありますが、それは自動的に継続できるものではありません。21世紀において、さまざまな課題に対応し、機会を最大限に活用するために、両国はさらに努力しなければなりません。

 若者を海外に送り、互いの言語や文化を学ばせることほど効果的な方法、あるいは長期的な影響を与える方法は他にほとんどありません。残念ながら、米国で学ぶ日本人留学生の数は90年代半ばから約60%減少しています。日本で学ぶ米国人留学生の数は増えてはいますが、その水準はいまだ低いままです。

 私たちは昨年、2国間の教育タスクフォースを設置しました。このタスクフォースは、日米両国に留学するうえでの障害を特定し、双方向の交流を促すために両国ができる行動を記載した素晴らしい報告書を発表しています。日本は、英語教育の強化と国際交流の促進を、いわゆる経済再生の「第3の矢」の一環としています。

 米国は、日本人学生の米国留学を容易にし、米国人が日本での機会についての情報を入手しやすくするために努力しています。

 そうした目標を達成するには民間と市民社会からの支援が必要です。そこで米日カウンシル、日米文化教育交流会議やTOMODACHIイニシアチブのようなプログラム、そして皆さんの出番です。

 TOMODACHIイニシアチブは、米日カウンシルのリーダーシップの下、日米両国の政府、企業、財団、一般市民の支援を受けて、人と人との交流プログラムに投資し、日米の次世代の芸術家、スポーツ選手、リーダー、イノベーターの育成を目指しています。若者と日米同盟の将来への投資で、これ以上望ましいものはありません。アイリーン・ヒラノ・イノウエ氏と私の友人ジョン・ルース前駐日大使の尽力のおかげで好調なスタートを切ったTOMODACHIイニシアチブは、今後も発展していくでしょう。

結論

 日米関係は、数十年にわたりアジア太平洋地域の平和、安全保障、および繁栄を支えてきました。このパートナーシップが持続し繁栄することは、まさに日本、米国、そして地域全体の利益になります。それゆえ両国は、同盟関係を強化して将来のリスクを克服し、貿易と投資のパートナーシップの恩恵を享受し、両国の人々が共にイノベーションを起し、指導的な役割を果たす機会を拡大しようとしています。

 日米が協力してこうした変革を達成すれば、両国の将来の世代に、より安全で繁栄するアジア太平洋地域だけでなく、より安全で繁栄する世界を残すことができます。それがイノウエ上院議員と偉大な彼の世代の人々が私たちに残した遺産です。それこそ私たちが目指すべきものです。

 ありがとうございました。