ケネディ大使のハフィントンポスト日本版1周年記念イベントでの開会スピーチ
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
2014年5月27日、東京・アーツ千代田3331
皆さん、こんばんは。この素晴らしいイベントへのご招待ありがとうございます。ハフィントンポスト日本版1周年記念おめでとうございます。今夜皆さんが行う議論は、ハフィントンポストがオンラインで展開している対話と同様のものであり、本イベントへの参加をとても楽しみにしておりました。今は仕事と家庭の両立という課題を議論する重要な時期にあります。皆さんの考えを聞かせていただき、日本がこの問題に取り組むなか、継続的な対話に加わわらせていただきたいと思っています。
初めての女性駐日米国大使として、私も変革のシンボルであることを承知しています。日本の皆さんの歓迎ぶりから、また男女を問わず社会のすべての人々が熱心にこの問題を推進しようとしている姿からも、より大きな社会変革をもたらす上での個人の行動の力と重要性が強く印象付けられました。
日本の女性たちには、行動を起こした経験があります。明治時代、そして20世紀初めの数十年間に、女性は参政権を勝ち取るために英米の女性たちと同様、懸命に闘いました。
1950年代には、日本の看護師たちが自分たちの職業に対する見方を変えようとしました。看護師の仕事が結婚前の腰掛けでなく、真剣に取り組む専門的な職業として尊重されることを望みました。彼女たちの努力により、1958年には結婚後も仕事を続けている看護師はわずか2%でしたが、1980年代には約70%にまで増加しました。
米国では日系人のパッツィ・タケモト・ミンクが、アジア系アメリカ人として、また白人以外の女性で初めて連邦議員に選出されました。彼女は「タイトル・ナイン」として知られる画期的な法案の共同草稿者であり、同法案の可決を推進する原動力となりました。この法律は、連邦政府から資金提供を受けるすべての教育機関に、男女を平等に処遇する義務を課しました。後にパッツィ・T・ミンク教育機会均等法と改称された「タイトル・ナイン」は、女性に高等教育と運動競技に参加する機会を提供し、米国社会を変革しました。
こうした女性たちは、私たちのために闘ってくれました。その努力を無駄にはできません。私たち自身の母、祖母、恩師に加え、このような先人たちは手本となり、男性社会で成功しようしし、仕事と家庭を両立させ、キャリアを選び、あるいは単に十分な給料をもらえる仕事を見つけ、家庭を切り盛りし、小さな子供を育て、老いた親の面倒を見るなど、さまざまな問題と奮闘する私たちに影響を与え、導いてくれます。こうした問題はすべての女性に共通する課題であり、日本のように男女の役割が文化的に規定された長い歴史を持つ社会では、特に難しい問題となりえます。
しかし、日本は国論の統一が成った時には、急激な進歩が可能なことを繰り返し証明してきました。いろいろな意味で、今、決定的局面を迎えています。日米関係は強固で多面的です。両国とも女性の経済的エンパワーメントに真剣に取り組む指導者に恵まれています。安倍首相は安全保障、エネルギー、経済の分野で意欲的な政策を提示しましたが、女性の経済的エンパワーメントはその成功の中核にあります。ある調査によると、女性の社会参加が拡大すると、国内総生産(GDP)が最大16%も伸びる可能性があります。安倍首相は国民的議論に火をつけ、政府、企業がそれに応えており、すでに進ちょくが見られます。
この問題が米国では解決済みだということではありません。ただ、日本同様、米国の指導者もこの問題をよく理解しています。オバマ大統領のお母さんはシングルマザーで、ある時期、家族を養うために政府の援助を受けなければなりませんでした。彼の奥さんは米国で最も貧しく、危険な地区のひとつで育ち、苦労してプリンストン大学とハーバード大学法科大学院に進学しました。自分自身とアメリカンドリームを信じていたからです。2009年にオバマ大統領が就任後、最初に行ったのが、職場での賃金差別と闘う権利を女性に与えるリリー・レッドベター公正賃金法への署名でした。
この好機を生かすには、女性が直面する障害を直視せねばなりません。また、高等教育を受けた女性と大学を卒業していない女性の間、そして結婚している女性とシングルマザーの間で、機会に大きな格差がある事実も直視する必要があります。今日、私たちが主に論じているのは、高学歴でスキルがあり、需要が高い、専門職に就く女性のエンパワーメントですが、忘れてはならないのは、多くの女性にとって貧困ラインの下に落ちないようにすることが最大の仕事だという点です。日本の子供の15%、アメリカの子供の23%が、貧困の中で育ちます。必死に生きているお母さんたちの何と多いことでしょう。
米国では貧困は女性問題です。貧しい成人10人のうち6人近くが女性で、貧しい子供の半数以上が、女性が世帯主の家庭で暮らしています。日本の相対的貧困率は16%です。働く一人親家庭(通常は母子家庭)の子供の50%が貧困状態にあります。その結果、日本は、仕事をすることが貧困率を下げることにならない唯一の国になっています。
このような家族の苦しみがあるからこそ、教育を受ける機会と仕事に恵まれた私たちが、女性のエンパワーメントへの取り組みを倍加する必要があります。
ここにいる私たちのような、高い教育を受けた働く女性にとって、状況は上向いています。日米ともに、大学の学位取得者の半数以上を女性が占めており、将来の職種にはスキルを持った、教育程度の高い労働力が必要です。両国とも経済が製造業からサービス業へと移行する中で、女性のスキルは今まで以上に好まれるようになるでしょう。このプロセスを加速するには、女性の進出の最大の阻害要因は何か、またそれに対応するため、社会のそれぞれの部門に何ができるかを問う必要があります。
政府は企業と連携して規制を緩和し、柔軟な勤務体制を奨励し、保育の選択肢を増やす必要があります。大手企業は、女性がキャリアを通じてトップに上ることができるルートをつくる必要があります。有能な女性たちが子供を産んだとき仕事をやめねばならないことがないよう、働く母親が利用できる施設を職場に設けることが緊急に必要とされています。経営に関する無数の調査が示すように、女性の参画の大きい企業ほど利益が大きく、経営も安定しています。加えて、より柔軟な勤務制度の導入は仕事の満足度を高めるだけでなく、生産性も向上させます。
高い評価を受けているピュー研究所が2011年に米国で実施した調査では、18歳から29歳の男女の72%が、夫婦共働きで家事も分担する結婚生活が最も望ましいと答えています。夫婦がチームとして働き、子育てをすることで、強い絆と相互理解が生まれます。
外に働きに出ることで女性の子育ての時間が減ると心配する皆さんには、昨年発表された別のピュー研究所の調査をご紹介します。この調査から、共働きが一般である米国では、両親が子供と過ごす時間が実際には増えていることが分りました。1965年から現在までの間に、父親が子供と過ごす時間は3倍近く増加し、驚くことに現代の米国の子供たちが母親と過ごす時間は60年代より多くなっています。
私たち全員が初の女性首相、大統領、あるいはCEOになることはできませんが、自分の人生の変革を立案することは誰でもできます。そして自分自身のために立ち上がるたびに、夫にもう少し手伝ってほしいと言うたびに、病気の子供を家に残している職場の同僚に協力するたびに、いい仕事をするには毎晩8時過ぎまで残業する必要はないと上司を説得するたびに、私たちは周りの世界を変えていくのです。このような小さな変化が積み重なって大きくなり、努力を続ける自信と、私たちが自分より大きなものの一部であると信じる勇気を与えてくれます。またこうした小さな変化により、娘たちの成功が容易になり、息子たちが家庭生活の喜びをもっと経験できると知ることができるのです。希望のさざなみが波及し、私たちの触れるすべての人生が影響を受け、その人々が関わるすべての人生に伝わっていきます。それぞれの行為が拡大され、時と世代を超え、決して会うこともない人々の人生まで変えていきます。
米国では進歩はあったものの、まだ長い道のりが続きます。日本では皆さんこそ、歴史を変えることができる世代です。このようなチャンスを手に入れる幸運に誰もが恵まれるわけではありません。あらゆる分野で、女性がもっと完全な形で指導的な地位につけるようにする上で、ここにいる一人ひとりが一定の役割を果たすことができます。これこそ、皆さんの国、皆さんの家族、そして皆さんの未来のためになる正しい行動です。
ありがとうございました。がんばってください。