ケネディ大使の「2014 USJC-ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」でのスピーチ

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2014年5月27日、ANAインターコンチネンタルホテル東京

  おはようございます。本日は、お招きいただきありがとうございます。女性の直面する重要な課題について議論するため、私たちが一堂に会する機会を与えてくださった在日米国商工会議所(ACCJ)に感謝します。アイリーン・ヒラノさんの米日カウンシルにおけるリーダーシップと、日米の若者が友達となる場を提供するTOMODACHIイニシアチブへの力添えに感謝します。働く若い女性の指導に取り組んでいるジェイ・ポナゼッキさんには、ACCJ初の女性会頭となられたことにお祝いを申し上げます。またウーマノミクスの母であり、女性のエンパワーメントの素晴しいお手本である友人のキャッシー松井さんに敬意を表します。そしてローヤン・ドイさん、ご紹介ありがとうございます。ドイさんのこの問題へのたゆまぬ取り組みに感謝します。

 本日の聴衆を前に女性の経済参加を拡大することの重要性を語るのは、まさに釈迦(しゃか)に説法、聖歌隊に説教をするようなものですが、だからと言って、これが重要でないというわけではありません。マーチン・ルーサー・キング牧師がよく言ったように「聖歌隊への説教をやめてはならない。説教をやめると歌わなくなるかもしれないから」です。

 アイリーン、ジェイ、キャシー、そして安倍首相は、日本における女性の経済的エンパワーメントの正当性を訴えてきました。これは常識です。経済的な論拠は納得できるものであり、統計には説得力があります。さらに、国のトップがこの問題に力を入れています。これが日本の将来にとって死活的に重要な問題であることが広く認識されており、また歴史の流れを変えることに熱心な世代の女性たち、すなわち皆さんがいます。

 初めての女性駐日米国大使として、私も変革のシンボルであることを承知しています。日本の皆さんの歓迎ぶりから、また男女を問わず社会のすべての人々が熱心にこの問題を推進しようとしている姿からも、より大きな社会変革をもたらす上での個人の行動の力と重要性がよくわかります。 

 日本の女性たちには、行動を起こした経験があります。明治時代、そして20世紀初めの数十年間に、女性は参政権を勝ち取るために英米の女性たちと同様、懸命に闘いました。

 一人ひとりの女性も大きな影響を与えることがあります。終戦直後の悲惨な時代に、ベアテ・シロタという、マッカーサー将軍の部下だった22歳の日本育ちの女性が、日本国憲法第14条と第24条に、それまで前例のなかった女性の権利の保障を盛り込みました。

 米国では日系人のパッツィ・タケモト・ミンクが、アジア系アメリカ人として、また白人以外の女性で初めて連邦議員に選出されました。彼女はマウイ島のサトウキビ農園で育ち、シカゴ大学法科大学院に学び、連邦議員を24年間務めました。特筆すべきは、「タイトル・ナイン」として知られる画期的な法案の共同草稿者であり、同法案の可決を推進する原動力となったことです。後にパッツィ・T・ミンク教育機会均等法と改称された「タイトル・ナイン」は、女性に高等教育と運動競技に参加する機会を提供し、米国社会を変革しました。

 こうした女性たちは、私たちのために闘ってくれました。その努力を無駄にはできません。私たち自身の母、祖母、恩師に加え、このような先人たちは、男性社会で成功しようとし、仕事と家庭を両立させ、キャリアを選び、あるいは単に十分な給料をもらえる仕事を見つけ、家庭を切り盛りし、小さな子供を育て、老いた親の面倒を見るなど、さまざまな問題と奮闘する私たちに影響を与え、導いてくれます。こうした問題はすべての女性に共通する課題であり、日本のように男女の役割が文化的に規定された長い歴史を持つ社会では、特に難しい問題となりえます。

 しかし、日本は国論の統一が成った時には、急激な進歩が可能なことを繰り返し証明してきました。日本の工業化は19世紀後半の経済的奇跡でした。日本は世界の繊維市場を席巻しました。今行われている富岡製糸場のユネスコ世界遺産登録に向けての取り組みは、誰からも認められることもなく、搾取された女工たちの素晴らしい功績を記念するものです。20世紀になり、日本は再び道を切り開いて戦争の荒廃から国を復興させ、記録的なスピードで世界第2位の経済大国になりました。しかし、戦後経済の安定と繁栄を支えた終身雇用制、家庭での従たる稼得者を優遇する税制、労働力の流動性の欠如は、今や日本の経済成長の足かせになっています。

 いろいろな意味で、今、決定的局面を迎えています。21世紀の歴史はアジアで書かれます。日米関係はこの地域の平和と繁栄の礎です。安全保障同盟を強靭(きょうじん)なものとし、日米の2国間関係が強固で多面的であるようにすることが私たちの仕事です。商業、科学研究と探査、人道支援と災害対応、および教育・文化交流など多くの分野で、更なる連携の機会があります。しかし、対等なパートナーであるためには、どちらの社会もすべての市民を対等に扱う必要があります。

 現在、両国とも女性の経済的エンパワーメントに真剣に取り組む指導者に恵まれています。安倍首相は安全保障、エネルギー、経済の分野で意欲的な政策を提示しましたが、女性の経済的エンパワーメントはその成功の中核にあります。安倍首相は国民的議論に火をつけ、政府、企業がそれに応えており、すでに進ちょくが見られます。

 女性のエンパワーメントの必要性は、道義上必要なものというだけでなく、経済的な生き残りをかけた問題です。日本の人口が減少しつつあるなか、女性の経済参加を増やすことにより、国内総生産(GDP)が最大16%も伸びる可能性があることが統計で示されています。適切に対処すれば、女性の成功が男性の犠牲により成り立つことにはなりません。むしろ、経済全体のパイが広がり、社会全体が恩恵を受けます。マクロ経済用語で言えば、全員にデザートが行き渡ることになります。

 この問題が米国では解決済みだということではありません。ただ、日本同様、米国の指導者もこの問題をよく理解しています。オバマ大統領のお母さんはシングルマザーで、ある時期、家族を養うために政府の援助を受けなければなりませんでした。彼の奥さんは米国で最も貧しく、危険な地区のひとつで育ち、苦労してプリンストン大学とハーバード大学法科大学院に進学しました。自分自身とアメリカンドリームを信じていたからです。また大統領は、両親と同じように聡明で意志の強い2人のお嬢さんの父親です。さらには、2009年にオバマ大統領が就任後、最初に行ったのが、職場での賃金差別と闘う権利を女性に与えるリリー・レッドベター公正賃金法への署名でした。

 今年の一般教書演説でオバマ大統領は次のように語りました。「今日、女性は労働力の約半数を占めています。しかし今も、男性の賃金を1ドルとすると、女性の賃金はわずか77セントでしかありません。これは間違っているだけでなく、2014年の現在では恥ずかしいことでもあります。同じ仕事をしている場合、女性にも男性と同じ賃金が支払われるべきです…なぜなら女性が成功するときに、米国は成功すると私は固く信じているからです」と。

 この好機を生かすには、女性が直面する障害を直視しなければなりません。また、高等教育を受けた女性と大学を卒業していない女性の間、そして結婚している女性とシングルマザーの間で、機会に大きな格差がある事実も直視する必要があります。

 今日、私たちが主に論じているのは、労働市場での需要が高い、高学歴で一定の技能を備えた、専門職に就く女性のエンパワーメントですが、忘れてはならないのは、多くの女性にとって最大の仕事は、貧困ラインの下に落ちないようにすることだという点です。日本の子供の15%、アメリカの子供の23%が、貧困の中で育ちます。必死に生きているお母さんたちの何と多いことでしょう。

 米国では貧困は女性問題です。貧しい成人10人のうち6人近くが女性で、貧しい子供の半数以上が、女性が世帯主の家庭で暮らしています。日本の相対的貧困率は16%であり、働く一人親家庭(通常は母子家庭)の子供の50%が貧困状態にあります。その結果、日本は、仕事を持つことが貧困率を下げることにならない唯一の国になっています。

 このような家庭の苦しみがあるからこそ、教育を受ける機会と仕事に恵まれた私たちが、女性のエンパワーメントへの取り組みを倍加する必要があります。

 高い教育を受けた働く女性にとって、状況は上向いています。日米ともに、大学の学位取得者の半数以上を女性が占めており、将来の職種には技能を備えた、教育程度の高い労働力が必要です。両国とも経済が製造業からサービス業へと移行する中で、女性の技能は今まで以上に求められるようになるでしょう。このプロセスを加速するには、女性の進出の最大の阻害要因は何か、またそれに対応するため、社会のそれぞれの部門に何ができるかを問う必要があります。

 国連総会、ダボス会議、そして日本国内での演説で、安倍首相や森(まさこ)大臣は政府が取るべき措置について提案してきました。キャシー(松井)さんのウーマンノミックスに関するレポートでは、企業統治、税制上の女性の処遇、育児に関する選択肢の欠如、そして制限的な移民政策といった点で、主な構造的問題の概略が説明されています。そして、女性の管理職や取締役の増加、保育所の定員数の拡大、フレックスタイム制や復職希望者のための制度の導入について、政府および企業が取るべき措置が提言されています。いずれも、英語力の向上や、大半が女子である留学経験者に報いるなどの政府の他の目標とも合致しています。

 大企業の方針転換に加え、社会が女性起業家を受け入れるより良い方法を見つける必要があります。従来型の職場での受け入れ環境が整わないことから、パートタイム、在宅勤務,起業といった、従来とは異なる就労方法を追求する女性が増えています。米国では、株式非公開企業の30%以上で経営者が女性です。この10年で、女性が経営する会社の数は28.6%増加しました。参考までに、米国企業全体の数は24.4%増加しました。

 しかし、米国の女性が受け取るベンチャーキャピタルや投資会社からの資金は、全体のわずか4.2%です。新たな「タイトル・ナイン」が提案されているのはそのためです。ご存じない方のために申し上げますと、「タイトル・ナイン」は公民権法修正条項第9編のことで、連邦政府から資金提供を受けるすべての教育機関に、男女を平等に処遇する義務を課しています。これにより高等教育が改革され、女性にとって非常に多くの新たな機会が生まれました。産業界に適用される「タイトル・ナイン」を制定し、女性に男性と同じ資本へのアクセスを提供することは、素晴らしい考えだと思います。実現すれば、素晴らしいアイデアを持つ女性起業家の皆さんにどれだけ役立つか想像してみてください。私は、そのような多くの女性にすでに日本で会っています。

 働くお母さんたちの受け入れ態勢を職場で整えれば、社会にとっても大きなプラスになるでしょう。私の経験では、子供を持つ女性は効果的に管理を行う、思いやりのあるリーダーです。高い基準を設け、優先順位を明確にし、非効率をなくし、ユーモアのセンスを忘れない方法を知っています。何よりも母親になると、人々を幸せな気持ちにさせながら、こちらが望むことをやってもらうようにする術を身に付けます。ですから、たとえ女性が仕事に費やす時間がわずかに減ったとしても、それを埋め合わせて余りあります。

 私の父は古代ギリシアの幸福の定義をよく引用しました。それは「自由に能力を発揮できる人生で、自分の能力を卓越性に向けてフルに活用する」というものです。米国での調査結果を見ると、そのいずれもが、キャリアと家庭のバランスが取れている女性が最も幸せであり、夫についても同じことが言えると示しています。

 高い評価を受けているピュー研究所が2011年に米国で実施した調査では、18歳から29歳の男女の72%が、夫婦共働きで家事も分担する結婚生活が最も望ましいと答えています。また若い女性の3分の2以上と年配女性の42%が、家庭を持つことに加え、高収入の仕事での成功が人生で最も重要なことのひとつと答えています。夫婦がチームとして働き、子育てをすることで、強い絆と相互理解が生まれます。

 外に働きに出ることで女性の子育ての時間が減ると心配する皆さんには、昨年発表された別のピュー研究所の調査をご紹介します。この調査から、共働きが一般である米国では、両親が子供と過ごす時間が実際には増えていることが分りました。1965年から現在までの間に、父親が子供と過ごす時間は3倍近く増加しました。また驚く人もいるかもしれませんが、母親が子供と過ごす時間も増え、現代の米国の母親は60年代の母親より多くの時間を子供と過ごしています。こうした親たちは、経済的に貢献しているだけでなく、子供にあてる時間も見つけています。

 データは、母親の選択肢を増やせば家族全員と将来の世代にも役立つことを示しています。所得は増え、息子も娘も、平等とは高尚な目標や願望だけでなく、日々取り組まねばならないものであると理解するでしょう。日々の闘いではあっても、バランスを取ることは可能です。幸福を定量化することはできませんが、すべての国民にとってより公正な社会、より不安のない未来、より幸福な生活をつくりだすためでなければ、GDPを引き上げる目標はいったい何だと言うのでしょう。そしてこうした社会をつくり上げるには、私たちそれぞれが個人の選択を通じて貢献することができます。

 私たち全員が初の女性首相、大統領、あるいはCEOになることはできませんが、自分の人生の変革を立案することは誰でもできます。そして自分自身のために立ち上がるたびに、夫にもう少し手伝ってほしいと言うたびに、病気の子供を家に残している職場の同僚に協力するたびに、私たちは周りの世界を変えていくのです。このような小さな変化が積み重なって大きくなり、努力を続ける自信と、私たちが自分より大きなものの一部であると信じる勇気を与えてくれます。またこうした小さな変化により、娘たちの成功が容易になり、息子たちが家庭生活の喜びをもっと経験できると知ることができるのです。希望のさざなみが波及し、私たちの触れるすべての人生が影響を受け、その人々が関わるすべての人生に伝わっていきます。それぞれの行為が拡大され、時と世代を超え、決して会うことのない人々の人生まで変えていきます。

 これは簡単ではありませんが、私たちにはできます。ただ取り組み続ける必要があります。米国では、ほんの少しだけ長くこの問題に取り組んできました。そして大きな前進はありましたが、まだ長い道のりが続きます。

 ここ日本では、皆さんこそ、歴史を変えることができる世代です。誰もが、このようなチャンスを手に入れる幸運に恵まれるわけではありません。苦しく、遅々として進まない道のりかもしれません。けれどもその時が来たのです。ここにいる一人ひとりが、21世紀の日本の社会変革を実現する上で一定の役割を果たすことができます。これこそ、皆さんの国、皆さんの家族、そして皆さんの未来のためになる正しい行動です。私の一番好きな引用のひとつに、多くの社会での変化を研究した文化人類学の草分け的な存在であるマーガレット・ミードの言葉があります。その言葉をご紹介します。「思慮深く、献身的な、少数の市民が世の中を変えられることを疑ってはなりません。実際に世の中を変えてきたのは、そういう人々にほかなりません」

ありがとうございました。頑張ってください。