2014年人身売買報告書(日本に関する部分)

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

国務省人身取引監視対策部

2014年6月20日

日本(第2階層)

 日本は、強制労働および性的搾取の人身取引の被害者である男女、および性的搾取の人身取引の被害者である児童が送られる国であり、被害者の供給・通過国である。中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ネパール、その他のアジア諸国、ウズベキスタンおよびポーランドからの移住労働者は男女共に、強制労働の被害者となることがあり、時として、政府の技能実習制度(TTIP)を通じて被害者となる。東アジア、東南アジア(主にフィリピンおよびタイ)、南米、東欧、ロシアおよび中米からの女性や児童の中には、雇用あるいは偽装結婚のために来日し、その後、売春を強要される者もいる。人身取引犯は、バー、クラブ、売春宿およびマッサージ店で強制売春をさせる目的で外国人女性を日本へ入国させやすくするために、外国人女性と日本人男性との偽装結婚を引き続き利用した。人身取引犯は、借金による束縛、暴力または強制送還の脅迫、恐喝、その他の精神的な威圧手段を用い、被害者の移動を厳しく制限する。強制売春の被害者は契約開始時点で借金を負っている場合があり、ほとんどの被害者は、生活費、医療費、その他の必要経費を雇用主に支払うよう要求され、容易に債務奴隷とされる状態に置かれる。また、素行が悪いとされ「罰金」が被害者の当初からある借金に加算される。売春宿の運営者によるこうした借金の計算方法は、概して不透明であった。人身取引の被害者は、日本を経由して東アジアと北米の間を移動する。

 日本人、特に家出した十代の少女、および外国で生まれ、後に日本国籍を取得した日本国民の児童もまた、性的搾取の人身取引の被害にさらされる。「援助交際」という現象は、日本人児童の買春を引き続き助長している。近年流行の「女子高生(JK)お散歩」では、少女は金銭を提供されて男性と一緒に散歩やカフェに行くか、またはホテルへ行って商業的性取引を行う。巧妙かつ組織的な売春ネットワークが、地下鉄、若者のたまり場、学校、インターネット上などの公共の場で、脆弱な日本人女性および少女を標的にし、中には人身取引被害者となる女性および少女もいる。日本人男性は依然として、東南アジア、および程度は低いものの、モンゴルにおける児童買春旅行への需要の大きな源泉となっている。

 日本政府は、実務と政策のいずれを通じても、政府が運営するTTIPにおける強制労働の利用を終わらせることはなかった。この制度は当初、外国人労働者の基本的な産業上の技能・技術を育成することを目的としていたが、むしろ臨時労働者事業となった。技能実習生の大半は中国人およびベトナム人であり、中には職を得るために最高でおよそ7300ドル相当額を支払い、実習を切り上げようとした場合には、何千ドルにも相当する金銭の没収を義務付ける契約の下で雇用されている者もいる。この制度の下での過剰な手数料、保証金、および「罰則」契約が引き続き報告されている。脱走や外部との連絡を防ぐために、技能実習生のパスポートや他の身分証明書を取り上げ、技能実習生の行動を制限する企業もあった。「実習」期間中、移住労働者は、TTIPの本来の目的である技能の教授または育成ではない仕事に従事させられ、中には不十分な賃金しか支払われない、または賃金が全く支払われない状況に置かれる、契約書を隠される、狭苦しく断熱性の低い住居の賃料として法外な金額を要求されることで借金を抱え続ける労働者もいる。

 日本政府は、人身取引撲滅のための最低基準を十分に満たしていないが、満たすべく著しく努力している。政府は31人の人身取引犯を有罪とした。2012年に有罪とした人身取引犯は30人だった。警察庁は引き続き、警察庁および各都道府県警の警察官を対象に、人身取引の捜査事例や人身取引対策の取り組みの共有を目的とする年次会合を開催した。しかし、日本政府は、法の大きな空白を埋め、それにより人身取引犯罪の訴追を推進する法の整備または制定を行わなかった。日本政府は、配偶者による暴力の被害者向けの既存のシェルター網とは別に、人身取引の被害者専用のシェルター網を全国に設置するなどの、人身取引の被害者に特化した保護および支援措置を策定しなかった。TTIPは依然として、参加者を悪用から保護するための効果的な監視または手段を欠いていた。数回の改革にもかかわらず、非政府組織(NGO)および報道機関は、技能実習生の募集方法および労働条件に改善が見られないと報告した。TTIPにおける労働搾取目的の人身取引の申し立てがあったにもかかわらず、政府が訴追または有罪にした強制労働の加害者はいなかった。認知された被害者の人数、特に外国人の人身取引被害者の数は、この問題全体の規模が縮小したことを示す証拠がない中で減少し、強制労働または強制売春のいずれについても男性の被害者で政府により認知された者は1人もいなかった。

日本への勧告

 2000年に採択された国連人身取引議定書と整合性を持つ、あらゆる形態の人身取引を禁止する包括的な人身取引対策法案の起草と法の制定を行う。強制労働の事案を捜査および訴追し、有罪判決を受けた人身取引犯に実刑を科す取り組みを大幅に強化する。TTIPにおける強制労働の一因となる過剰な保証金、「罰則」の合意、パスポートの取り上げ、その他の行為の禁止の実施を強化する。TTIPの運営監査を行う中立な非政府の第三者機関を設置する。強制労働の加害者に自らの犯罪の責任を負わせるために、TTIPにおける説明責任を強化する監視制度を確立する。第一線にいる担当官が、強制労働または強制売春の男女双方の被害者を認知する正式な被害者認知手続きを拡大および実施する。人身取引の被害者となったことに直接起因する違法行為を犯したことで、人身取引の潜在的な被害者が拘束または強制送還されることのないように、被害者の審査を強化する。第一線にいる警察官に対し、売春を行った児童を逮捕するのではなく、人身取引の被害者として処遇するよう研修する。人身取引の被害者に対して専門のケアと支援を提供する。宗教的儀式や食習慣など外国人被害者の文化的慣習を尊重する支援・保護サービスを確立する。被害者が人身取引の裁判に参加する一つの動機として永住者の在留資格を与える。TTIPの送り出し機関および受け入れ機関を検査する労働基準監督官の数を増やし、労働搾取を目的とする人身取引の違反行為を通報する新たな権限を労働基準監督官に持たせる。TTIPで虐待を受けた場合に外国人移住労働者が救済を求める制度を確立し、この情報をTTIPの労働者に周知する。児童買春旅行に参加する日本人の捜査、訴追、処罰を積極的に行う。2000年に採択された国連の国際的な組織犯罪の防止に関する国際条約および人身取引議定書を締結する。

訴追

 日本政府は人身取引対策の法律を執行する取り組みを続けた。日本の刑法は、国際法上義務付けられているあらゆる形態の人身取引を禁止していない。売春防止法第7条および第12条、労働基準法第5条、および職業安定法第63条などのさまざまな法律は、人身取引の一部の要素に該当する。刑法第226条および227条は略取および誘拐、移送、ならびに「人身売買」を禁止している。日本の法律は、あらゆる形態の性的搾取の児童の人身取引(特に売春を目的とする児童の募集、移送、引き渡し、または収受)、労働搾取を目的とする人身取引(強制労働を目的とする人の移送、引き渡し、または収受に関する)、または性的搾取の人身取引(特に強制売春を目的とする人の募集、移送、引き渡し、または収受)には該当しない。この結果、検察官は人身取引という犯罪の全ての要素を網羅していない法律に基づいて起訴するか、または人身取引をより軽度な犯罪と同等に扱わなければならず、こうした犯罪の処罰はより軽い。刑法第226条および227条のような「人身売買」を禁止する法、および略取・誘拐に関する法の中には、1年から10年の懲役刑という刑罰を規定しているものもある。これは十分に厳格であり、強姦罪等のその他の重罪に対して規定されている刑罰とおおむね同等である。その他の法、すなわち売春防止法の第7条は、3年の懲役刑を規定しているが、これは十分に厳格ではない。

2013年に政府が刑法の人身売買罪規定に基づき訴追し、有罪判決を下したと報告した事案は1件だった。その他の事案では、人身取引・売買の可能性がある犯罪を訴追するために、人身売買罪以外の規定を用いた。政府は人身取引関連犯罪の捜査を2013年に28件行ったと報告し、2012年の44件から減少した。こうした捜査の結果、31人の人身取引犯が有罪判決を受けたが、2012年に有罪判決を受けた人身取引犯は30人だった。有罪判決を受けた31人の被告人のうち、実刑に服したのはわずか5人で、26人の被告人は罰金刑または執行猶予の判決を受けた。強制労働に関する捜査には、長野県川上村におけるTTIPの中国人実習生を巻き込んだ1件があった。パスポートの取り上げ、法外な罰金の要求、契約によらない違反行為を起因とする恣意的な減給など、川上村におけるTTIPにおいて、労働搾取を目的とする人身取引犯罪の可能性に関する多くの報告や申し立てがあったにもかかわらず、政府は、TTIPの労働者の使用に関与した人身取引犯を訴追することも、有罪とすることもせず、または関与した団体の同制度への参加を禁止することもなかった。政府は送り出し国内にある送り出し機関の活動に対して管轄権を持たないと主張し、人をあざむくような募集方法に対していかなる行動も取らなかった。2013年の人身売買報告書で取り上げた、TTIPにおける強制労働疑惑に関連した出入国管理及び難民認定法違反の疑いのある3人に関する捜査は、人身売買罪での訴追には至らなかった。政府の報告によると3913人を児童買春の容疑で捜査し、2012年は695人だった。2013年の送致件数は709件、2012年の送致人数は579人だった。2013年に児童買春で有罪判決を受けたのは297人で、これらの犯罪者に対する量刑の詳細については入手できなかった。

 警察庁、法務省、入国管理局および検察庁は、47都道府県の警察本部および地方の警察署の上級捜査官および警察官、検察官、裁判官および入国管理官を対象に、人身取引被害者の認知および人身取引事案の捜査についての年次人身取引対策研修を引き続き実施した。海上保安庁は人身取引問題に対する意識啓発を目的として、61人の保安官に対して一連の講義を実施した。人身取引に加担した政府職員に対する捜査、訴追、有罪判決の政府報告はなかった。

保護

 日本政府は、人身取引の狭義の定義による制約を受け、保護の取り組みを縮小した。借金による束縛、パスポートの取り上げ、および拘束をはじめ、人身取引を示す実質的証拠があるにもかかわらず、政府はTTIPにおける強制労働の被害者をこれまで1人も認知していない。被害者認知数の急激な減少は2013年も続いた。警察庁は2013年に性的搾取の人身取引の女性被害者として21人を認知したが、2012年の27人、2011年の45人から減少した。このうち外国人の被害者は8人のみであった。認知された13人の日本人被害者のうち2人は児童だった。警察は児童買春の被害者を462人認知したと報告し、2012年は471人だった。政府は児童買春の被害者に対する心理カウンセリングおよび医療ケアを提供したと報告した。警察庁は、人身取引の被害者認知のために国際移住機関(IOM)作成のハンドブックを利用し、また被害者に対して利用可能なサービスを紹介するために人身取引対策に関する関係省庁連絡会議の手引書も利用した。

 日本政府には人身取引の被害者に特化したサービスが引き続き欠けていたが、婦人相談所および配偶者による暴力の被害者向けシェルターに資金を提供し、これらのシェルターは13人の日本人の人身取引被害者を支援した。婦人相談所にいる被害者は、食料、生活必需品、精神的ケアおよび医療費が提供された。外国人の人身取引被害者の中で本国帰国前にこのようなサービスを受けた被害者がいたかどうかは明らかではない。施設の職員が同行すれば、被害者は外出することもできた。2009年の日本の行動計画は男性被害者に対する保護政策を求めているが、日本には男性被害者専用のシェルターも、男性被害者専用と明確に規定された資源もない。強制労働の被害者またはTTIPで虐げられた「実習生」に対する支援は報告されなかった。これは、政府がこれらの脆弱な人々の中から被害者の有無の審査も認知も行わなかったためである。「女子高生(JK)お散歩」で売春をさせられた少なくとも13人の児童が保護された。

 認知された人身取引被害者が利用できる保護サービスは不足しているという認識から、政府の援助を求めることに消極的な被害者もいた。政府が出資する日本司法支援センター(法テラス)は、刑事および民事のいずれの訴訟でも、困窮した犯罪被害者に無料で法的支援を提供したが、このようなサービスの利用を申請または受けた人身取引被害者の有無については、2年連続で不明であった。外国人被害者は、異なる在留資格を所持していない限り、捜査または裁判期間中に就労できず、捜査・裁判への参加を妨げる要因となった。政府は3人の被害者に就労可能な特定活動の資格を認めたと報告したが、ほとんどの被害者は、人身取引の容疑者の裁判が開始される前に本国への帰国を選択した。母国への帰国を恐れる人身取引被害者は、法律上、永住者手当を受けることが可能であるが、このような手当を受けた人身取引被害者は、少なくとも13年間連続でいなかった。1年間の有効な在留資格を4年連続で受けた被害者が1人いた。被害者は人身取引犯から損害賠償を求める権利を有するが、これまでに賠償を求めた被害者はいない。

防止

 日本政府は、ささやかではあるが、人身取引を防止する努力を継続した。政府は東南アジアの数カ国との間で人身取引防止に関する覚書の交渉を始めた。日本の領事担当官は、査証申請の審査中に潜在的な被害者を識別する研修を受けたが、こうした識別検査の結果、人身取引被害者が認知された例はまだない。人身取引対策に関する関係省庁連絡会議は、人身取引の問題に取り組むNGOとの協議を年に1回から6回に増やしたが、こうした協議の結果を受けた政策の変更はまだない。警察庁および入国管理局は、多言語対応の緊急時連絡体制とホットラインの電話番号を記載したリーフレットを、各地の入国管理事務所および送り出し国政府に引き続き配布するとともに、オンラインによる人身取引に対する意識啓発活動を実施し、人身取引犯の逮捕状況を意識向上のために公表した。

 政府は、TTIPの雇用主に対する働きかけ、およびTTIP参加企業に対する入国審査当局と労働基準当局による調査を強化し、契約書に保証金や「罰則」条項が含まれていないことを確認するため、より厳密な審査を行えるように、全ての契約書の写しを法務省へ提出するよう義務付けたと報告した。観察者は、こうした取り組みにより、むしろ、制度を回避するためのブローカーの層が新たに増えたと報告した。日本の労働基準監督官を監督する厚生労働省は、人身取引の虐待を通報する権限を持っておらず、全てのTTIP参加機関を適時に検査することができなかった。TTIPの監視を任じられた政府系団体である国際研修協力機構(JITCO)は、執行力を欠き、TTIP参加機関には自己監査が認められている。2013年5月、JITCOはTTIP労働者向けハンドブックの第4版を発行した。その中には、苦情通報の連絡先が記載されている。

 商業的性取引への需要を減らす取り組みとして、内閣府は、性サービスの潜在的な消費者へ向けた警告文を記載したポスター、リーフレットおよびパスポート用の冊子を引き続き全国で配布した。日本人男性は他のアジア諸国、特にタイ、インドネシア、カンボジア、フィリピン、および程度は低いものの、モンゴルへ渡航し、児童の商業的性的搾取を行い、日本は児童買春旅行の需要の源泉となっている。政府が児童買春旅行で捜査や訴追をした者は一人もいなかった。警察庁は2013年11月、東南アジアにおける児童の商業的・性的搾取に関する会議を開催し、タイ、カンボジア、フィリピンおよびインドネシアの警察組織と事案の詳細を共有した。日本は、国連で2000年に採択された人身取引議定書を締結していない唯一のG8参加国である。