「全世界からの支援なくしてテロとの戦いでの勝利なし — 『イスラム国』の脅威に対抗するには全世界の連帯が必要」 - ケリー国務長官のNYタイムズ紙への寄稿

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2014年8月29日

 分極化した地域と複雑化した世界において、「イラクとシリアのイスラム国」(ISIS)は、米国をはじめとする多くの国々をひとつにまとめるほどの脅威となっている。ISISの虚無的な考え方や大量虐殺の計画に対抗するには、全世界が連帯して、政治的、人道的、経済的手段や、法執行および情報活動分野での手段を用い、軍事力を支援する必要がある。

 ISIS(米国政府はISIL、「イラクとレバントのイスラム国」と呼んでいる)は、シリア、イラク、レバノンにおいて、何の罪もない幾多の人々を斬首、はりつけなど極めて邪悪な行為により殺害した。その中には、ISISがその代表であると主張する宗教を信仰するスンニ派イスラム教徒も含まれる。しかしその脅威は、この地域をはるかに越える場所にも及んでいる。

 ISISは、10年以上にわたり過激な暴力行為を行ってきた、かつての「イラクのアルカイダ」を起源とする。この集団はシリアでの紛争やイラクでの宗派間の緊張を利用し、世界的な野望を持つジハード(聖戦)に身をささげる戦士たちを集め、不屈の戦闘部隊を結成した。その指導者たちは繰り返し米国を脅迫し、5月にはISISに関わるテロリストがブリュッセルのユダヤ人博物館で3人を射殺した(4人目の犠牲者は13日後に死亡した)。ISISの外国人部隊はこの地域だけでなく、米国を含め、彼らが気づかれずに渡航することができるあらゆる場所で新たな脅威となっている。

 こうした過激派を野放しにしておくと、その行動はシリアとイラクにとどまらないことを示す証拠がある。彼らはこの新たな体制になって人数が増え、シリアとイラクでの活動の資金調達のために石油の略奪、誘拐、恐喝を行い、資金もより潤沢になっている。また戦場から略奪した高性能の重火器を装備している。ヨルダン、レバノン、トルコと国境を接し、危険なほどイスラエルに近い戦略的地域において、他のどのテロ組織よりも広い地域を占拠・掌握する能力をすでに示している。

 ISISの戦闘員はぞっとするほどの野蛮で残虐な行為を行ってきた。より広範な民族間・宗派間の対立を引き起こすために、シーア派イスラム教徒とキリスト教徒を虐殺するときにも、地域の占拠・掌握のために仲間のスンニ派イスラム教徒を殺害するという計算した戦略を実施する。米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏の斬首は、世界の良心に衝撃を与えた。

 米国および可能な限り多くの国家が連帯し、一致団結して対応すれば、ISISという「がん」が他の国に広がることはできない。世界はこの惨禍に立ち向かい、最終的には打ち勝つことができる。ISISはおぞましいが、全能ではない。このことはすでにイラク北部で証明されており、米国の空爆により戦いのすう勢が変化し、イラクおよびクルド軍が攻勢に出る余地が生まれた。イラクの指導者たちは、我々の支援を受けて団結し、ISISを孤立させ、あらゆるイラクの地域社会からの支援を確保するために必要な、(宗派を問わず)誰もが参加できる新たな政府を樹立しようとしている。

 空爆だけではこの敵を倒すことはできない。世界中がより十分な対応をする必要がある。我々は、前線でISISに立ち向かっているイラク軍およびシリアの穏健派反政府勢力を支援する必要がある。ISISの能力を低下・崩壊させ、メディアで過激派のメッセージに反論する必要がある。そして我々の防衛力と人々を保護するための協力体制を強化する必要がある。

 来週、ウェールズでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせて、チャック・ヘーゲル国防長官と私は、ヨーロッパの同盟諸国の防衛・外務担当大臣との会合を持つ。可能な限り広範な支援を得ることが目的だ。会合の後、最も直接的な脅威にさらされている国々の間で、この連帯に対する支援を広げるため、ヘーゲル長官と共に中東に向かう予定である。

 米国は9月に、国連安全保障理事会の議長国を務める。そこでこの機会を利用し、引き続き広範な協力体制を構築し、ISISに加わった者を含む外国人テロリスト戦闘員がもたらす危険を明らかにする。総会期間中にはオバマ大統領が安保理の首脳会合を主導し、この共通の脅威に対処する計画を提出する。

 この戦いでは、ほとんどすべての国に果たすべき役割がある。直接的あるいは間接的に軍事支援を提供する国もあるし、ISISの被害地域で住む場所を失い、犠牲になった多くの人々が切実に求めている人道援助を提供する国もある。また荒廃した経済だけでなく、近隣諸国との壊れた信頼関係の建て直しを支援する国もるだろう。この取り組みはイラクで進行中であり、他の国も米国と共に、誰もが参加できる政府のために、人道援助、軍事支援、その他の支援を提供してきた。

 我々の努力により、この理念の下、すでに数十カ国が集結している。さまざまな利害があるのは確かだが、まともな国であればISISの恐ろしい行為を支援することはできないし、文明国であればこの悪を根絶するために力を貸す責任を逃れるべきでない。

 ISISが嫌悪すべき戦術を取っているため、従来は相反する利害を持つ近隣諸国が、イラクの新政府を支援するために結集しつつある。こうして連帯した国々は、やがてISISや、同じ目的を持ったその他のテロ組織をあおる根本的な要因への対処を始めることができる。

 協力体制の構築は難しい仕事だが、共通の敵に立ち向かう最善の方法である。1990年にサダム・フセインがクウェートに侵攻したとき、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領とジェームズ・ベーカー国務長官は単独で行動しなかったし、あわてて行動することもなかった。二人は入念に諸国連合を組織し、その協調行動が迅速な勝利を導いた。

 過激派を打ち破ることができるのは、責任ある国家とその国民が一丸となってこれに対抗するときだけである。