在日米国商工会議所メンバーに向けたプリツカー商務長官の講演
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
2014年10月21日、東京アメリカンクラブ
(草稿)
ジェイ・ポナゼッキ在日米国商工会議所(ACCJ)会頭、ご紹介ありがとうございます。東京を再び訪れることができ、とてもうれしく思っています。私は大の日本好きで、家族との旅行や仕事でも度々日本を訪れています。実は、私はこの国に特別な思い入れがあります。私の父は1950年代に在日海軍基地で勤務しましたが、そのときに日本のことが大好きになりました。私が子供の頃には、よく日本の思い出話をしてくれました。今回は、私にとって初となる貿易使節団を率いてのアジア歴訪で、日本を再訪することができました。
本日話を始めるにあたり、まずはっきり申し上げたいことがあります。それは、米国は今も、そしてこれらからも太平洋国家であるということです。共通の歴史を持つ、互いに助け合う同盟国として、日本との経済関係を深化させようとする米国の取り組みは至極当然なことといえます。
オバマ大統領は政権発足の早い段階で、世界で最も急速に経済成長を遂げているアジア太平洋地域で米国の関与を深めていく戦略を熟慮の上、決定しました。
米国が世界の他の地域での危機や機会に取り組む中、オバマ政権がアジアへのリバランス(再均衡)戦略を継続し、それを前進させていくのかという疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ここではっきりさせておきたいことは、米国は長年にわたってアジア太平洋地域に深く関与してきたという点です。
いかなる危機が次に現れようとも、アジア重視がオバマ政権の外交政策の中核であることは今後も変わりません。この地域全域に頼もしい同盟国がいることだけでなく、アジアにより多くの時間、エネルギーそしてリソースを費やすことは、ビジネスとしても理にかなっています。
今日、この地域は全世界の国内総生産(GDP)の60パーセント近くを創出しています。この地域には世界で最も速い経済成長を遂げている国がいくつもあり、人口は世界の半分を占めています。そして米国の製品やサービスを求める中間層が現れつつあります。
我々は、強固な日米関係が地域全体を支える要であることを知っています。
全体として、オバマ政権がリバランス戦略で重視しているのは安全保障、繁栄、民主主義による統治、そして人権です。
米国政府で貿易推進を担当するトップとして、私が重視しているのは経済分野でのリバランスです。この分野は、現在のパートナー諸国、特に日本との貿易・投資関係の強化が必要です。
また、21世紀における米国の新たなパートナー諸国の成長に必要なハードそしてソフト面でのインフラ整備には、多国間で取り組むことが求められています。そしてそれには、アジア太平洋地域全体に均等な貿易の機会を創出する新しい枠組みの構築が伴います。
経済重視は、常に米国のリバランス政策の中核をなしてきました。
オバマ大統領は、アジア太平洋地域は米国経済の将来にとって不可欠であり、過去60年間そうであったように、日米両国の経済の将来が総体として互いに密接に結びついていることを常に理解しています。
今回の貿易使節団は、この広範囲にわたる取り組み、そしてリバランスの中心に日本を位置づけていることの表れです。特に、日米両国が望むような共通の未来を構築していくには、エネルギーと医療分野で最先端技術を共有し、相互に利益をもたらすビジネスの機会を切り開くことが求められます。
日本のエネルギー安全保障は、いみじくも日本政府にとって優先課題のひとつです。日本は新しいエネルギー技術の開発、輸入する各エネルギー資源の比率の最適化、そして省エネ力を高めるという切実なニーズに直面しています。米国企業はこの分野で日本を助けたい、そして助けることができると考えています。
実際、今回の使節団に参加する企業は、エネルギー効率の向上、再生エネルギーの利用拡大、スマートグリッドの強化、そして安全かつ安心な原子力発電の開発に不可欠な専門知識を有しています。
米国の政府および産業界は両国のビジネス分野での連携を拡大し、日本が直面するエネルギー安全保障のニーズへの取り組みを支援したいと考えています。
同時に、今回の使節団には米国の主な医療関連企業も同行しています。
日本の医療・健康関連製品の市場規模は1530億ドルです。医療関連の支出額は米国に次いで多く、急速に進む高齢化に先端技術を導入し、コスト面で効率的に対応する方法を模索しています。この市場で、米国企業は存在感を高めたいと考えています。
我々が持つ、生命を救う最先端技術は日本の役に立ちます。しかし、障害が立ちはだかる場合が多くあります。商務省と厚生労働省が、医療分野での規制撤廃に向けて協議を行っていることをご報告したいと思います。
米国企業は、医療のIT化、治療や健康維持、そして全体的な健康状態の向上で日本を支援する準備が整っています。しかし、まず市場アクセスの課題を克服しなければなりません。
今週私に同行している財界指導者の皆さんは、日本市場進出に真剣に取り組んでおり、150年以上も前に始まった日米の経済連携の伝統を前進させようとしています。
1858年、両国は初の通商条約に調印しました。その結果、日本はより近代的な技術を利用できるようになり、日本経済は拡大し、日本が世界の経済システムに統合される基盤が築かれました。このようにして、日米の経済関係が始まりました。
現在では、日本は米国にとって4番目に大きな貿易相手国となり、2国間の昨年の貿易総額は2900億ドルでした。また日本の対米直接投資は世界で2番目に大きく、2013年現在、日本企業による累積投資総額は3440億ドルとなっています。さらに米国の対日累積直接投資額は2013年に1230億ドルになりました。
実際に両国の経済および通商関係が強固であり、発展しているのは明らかです。しかし我々が生きているのは、新しい勢力と新興市場が生まれる新たな世界であり、傍観しているわけにはいきません。長い歴史を持つ連携だけでは十分ではありません。我々には、両国の将来を構築するビジョンと経済体系が必要です。
その経済体系の礎となるのが環太平洋パートナーシップ協定、TPPです。
ここにいる皆さんがよくご承知のように、我々はTPP交渉の最終段階にあり、どの国も大胆な決断をしなければならない時が来ています。漸進的な措置では、交渉を始めたときに全参加国が追求することに合意した高い水準の結果には到達できません。
農業と自動車分野の交渉は順調に進展していますが、解決しなければならない難しい問題がまだあります。TPPについて連邦議会の承認を得るために必要な支持を米国内で確保するには、この両分野で良い結果を出すことが不可欠です。
安倍首相は、TPPの経済および戦略的な重要性について説得力のある説明をしました。全く同感です。
忘れてはいけません。TPP交渉の妥結により、非常に大きな機会がもたらされます。
2030年までに、アジア太平洋地域の中間層の消費者の数は27億人になると見込まれています。TPPで合意すれば、日米の、そして他の10カ国の参加国の企業や労働者が、このように多くの消費者にアクセスすることが容易になります。そしてこの協定により、こうした消費者たちは、食品から医療、娯楽分野に至るまで良質の製品やサービスをより容易に入手できるようになるのです。
この協定を締結すれば、日米両国の製造業、農業、酪農関係者が、公正に競争できる条件で市場にアクセスできるようになります。
この協定を締結すれば、我々の共通の価値観に資する形で、そして貿易の利益と世界経済を広く共有できるような形で、我々に共通の将来を形づくることができるようになります。
純粋に経済的な視点で見ると、日米はTPPから次のような大きな利益を受けます。まず、ピーターソン国際経済研究所の試算では、TPPによる日本のGDPの増加額は、2025年に年間1000億ドル近くに達すると見込まれています。また日本の輸出額の増加は、2025年までに140億ドル程度になると予測されています。米国については、ピーターソン国際経済研究所の試算で、TPPによる実質所得上の利益が年間770億ドル近くにのぼり、米国の輸出額は2025年までに1235億ドル増加すると見込まれます。
しかし経済利益に焦点を当てる中で、通商政策と外交政策が不可分であるという事実を見逃してはなりません。世界のGDPの40%を占める両国が、21世紀の経済活動に適用されるルールがより良いものへと変化しつつあり、我々が直面する新たな経済問題を反映するものになると声を揃えて宣言することの戦略的重要性は、どれほど強調してもし過ぎることはありません。
この取り組みにおいて、我々は、知的財産権の保護、それぞれの経済における国有企業の役割の扱い、そしてデジタル貿易などの広範な重要課題に関する共通のビジョンを宣言できます。
はっきり言います。もし我々がこれらの問題に対する基本的なルールを決めておかなければ、我々の競争相手が決めてしまうでしょう。我々がしなければならないことの重要性が、これほど明確なことはこれまでにありませんでした。傍で見ているわけにはいかないのです。
我々は交渉の最終段階に入っています。どのような交渉においても難しい段階です。参加国が12カ国を数え、経済的、社会的に非常に重要な問題が関わっている交渉となればなおさらです。
我々の前には、この歴史的に重要な瞬間に将来のルールを決め、世界の貿易体制に勢いと活力を与える、高い基準の取り決めを締結する大きなチャンスがあります。
変革は決して簡単ではありませんが、我々には共通の将来がどのようなものであるべきかが分かっています。このような貿易使節団をもっと派遣すべきです。新しいパートナーシップや合弁事業が設立されるべきです。我々の企業や労働者に新たな市場アクセスが提供されるべきです。そして我々の国民がさらに繁栄し、同盟国間の関係が深まるべきです。
今こそ懸案を解決し、アジア太平洋全域でより多くの貿易、通商、協力を促すという共通のビジョンを前進させる意欲的な協定について合意する時です。
環太平洋パートナーシップ協定は、150年前に始まり今日まで続いている経済連携の物語の次の1章です。すべて日米両国をさらに近づける取り組みです。
オバマ大統領が5年前にこの東京で述べたことを繰り返しますが、米国が太平洋国家であることに疑いの余地はありません。日本との連携、そしてアジア太平洋地域の国々との協力により、米国は世界の中で死活的に重要なこの地域におけるリーダーシップを引き続き強化し、維持していきます。
民間部門の指導者の皆さんの助けを得て、また政治的指導者の決意をもって、我々は経済活動のために、そして相互の取引を増やすために、これからも米国と日本(の市場)の開放を続けます。 両国の通商分野での強固な結びつきを再確認し、そうした関係を深めるために日々取り組まれている方々に感謝します。