東京アメリカンセンターにおける米太平洋海兵隊司令官キース・ストルダー中将の講演

*下記の日本語文書は資料保管の目的で作成された仮翻訳で、正文は英文です。

2010年2月17日

 (草稿)

 ご来賓の皆さん、今日ここで、このように著名で博識な方々の前でお話をさせていただくことを大変光栄に思います。人口わずか25人のアラスカの小さな町で育った者が、このように教養ある方々と同席させていただくなど、とても本当のこととは思えません。皆さんが時間を割いて参加してくださったことに感謝いたします。皆さんに自分の考えをお話しできることをうれしく思います。

  私は、今週東京を訪れる機会を喜んで受け入れました。というのは、日本の皆さまの友情と日米同盟(への支援)にお礼を申し上げる良い機会だと考えたからです。日米同盟は、まぎれもなく東アジアの安全保障の礎であり、ここで何よりも先に私の感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

  また、日米同盟とパートナーシップが、東アジアの安全保障に限られていない点についても感謝いたします。これまでにボスニア、コソボ、イラク、アフガニスタン、そしてパキスタンで、私は日本の開発・援助の取り組みを直接目にしました。日本の貢献の現場を目撃しました。そして大きな変化を生み出しました。米国と、より具体的には、私が代表する海兵隊は、日本のリーダーシップの恩恵を受けることができました。日本が多くの人々にもたらした全ての貢献に対してお礼申し上げます。

  日米安全保障条約締結50周年は、私にとっては、両国のパートナーシップと友情を示す最高の事例です。日本は50年間、米軍基地とその人員を受け入れ、駐留に必要な経費の多くを負担して同盟国としての責任の一部を果たしてきました。日本が米軍の人員を受け入れたことで、この国に来て日本の文化と人々をとても好きになった米国人は数知れません。私自身、若い時に日本に配属され、以来日本に対する敬意を持ち続けている1人です。当時からこの素晴らしいパートナーシップに感謝しておりますが、その気持ちは強くなる一方です。

  初めて岩国基地に配属されてから長い年月がたち、今日私は、歴史を変えることになった同盟について皆さま方とお話しするために東京に参りました。一言で言うと、アジアにおける平和と安全を維持するという日米の取り組みが、50年にわたる経済、社会そして政治の奇跡的な発展を生み出しました。

  国連の最近の報告では、1960年には世界の最貧国63カ国中、29%がアジアの国々でした。2001年には、ほとんど全てのアジア諸国が最貧国から脱し、とりわけ日本、台湾、シンガポールの3カ国は、世界で最も裕福な国の1つに数えられるようになりました。

  何がこのアジア経済の奇跡を可能にしたのでしょう?

  この50年間でアジアの変革に最も大きく貢献したのは、平和です。ベトナム戦争と、大変悲惨ではありましたが限定的な地域紛争を除けば、東アジア諸国はこの50年間、前例のない平和と安全を享受しました。

  米国がアジアに展開しているという事実、そして日本との安全保障同盟を通じ、米国が地域の安定の維持に取り組んでいるという事実を知ることにより、日本を含む東アジア諸国は、国の富と人材を防衛ではなく、国の発展に傾注することができました。

  ご理解いただきたいのですが、アジアが今日享受している繁栄は、日米同盟によって守られた平和な安全保障環境なしには成り立ちませんでした。先ほどお話ししたように、私が今週、東京に来た一番の理由は、日本にお礼を申し上げるためです。けれど他にも、日本政府および自衛隊の指導者の方々と真剣な協議をするためでもあり、私は2~3カ月毎に日本に来ております。

  現在の東アジアの平和と安全に対する脅威は、1960年当時とはいろいろな点で異なるものの、依然として深刻です。まず北朝鮮。北朝鮮がなぜ、そしてどういう脅威なのか、日本の皆さまに説明する必要はないでしょう。北朝鮮の攻撃的な行為が数十年にわたり、非常に多くの日本国民を危険にさらし、危害を及ぼしているという事実から、北朝鮮が危険な国であることがわかります。北朝鮮は、世界最大級の軍隊を有する国で、大量破壊兵器の開発を積極的に進め、そのミサイル計画は日本にとって現実の脅威となっています。

  北朝鮮の挑発的な行為とミサイルを結びつけ、さらに同国が核兵器を生産できると言っていることを考え合わせると、現在の安全保障環境の現実がはっきりします。ご承知のように、北朝鮮の越境攻撃に対する抑止力として、また韓国軍と共に訓練を行うために、米国は2万8500人の兵士を韓国に駐留させています。

  この地域で安全保障上の緊急事態や全面的な戦闘が発生すれば、米国や他の国々は、軍隊を増員して支援し、それぞれが専門とする能力を提供します。

  ここで指摘しておきたいことは、第3海兵遠征軍の任務の1つは、韓国にいる民間人の安全を確保することですが、その中には多くの日本人が含まれるということです。

  米国のマスコミは最近、沖縄の海兵隊の主要任務は、韓国での戦闘に備えることであると報じました。それはもちろん間違っています。沖縄の海兵隊は、多くのさまざまな緊急事態や有事に対応するために訓練しています。

  それにもかかわらず、迅速に展開でき、十分な訓練を受け、装備も充実し、高い機動性を備えた海兵隊が沖縄に駐留しているという事実は、北朝鮮に対して強い抑止力となっています。この抑止力は、他のどの国よりも特に韓国と日本の利益となるものです。北朝鮮がはっきりとした目下の脅威であるとすれば、中国(の脅威)はより曖昧です。はっきり申し上げて、私は軍人として、現在の中国政府あるいは中国軍を脅威とは思っていません。これまで中国は、他国を侵略する意図はないと発言しており、私はその言葉通りに受け取っています。文化と知識において世界に多くの貢献してきた中国は、今後もさらに貢献できるでしょう。

  オバマ大統領は、米中関係は、協力と競争の両方の要素を合わせ持つと述べました。そして米国は前向きで、協力的、そして包括的な関係を中国と築きたいと強調しています。

  太平洋海兵隊を指揮する私の目標は、オバマ大統領の希望を反映した、軍同士の関係を中国と築くことです。

  以上のことを踏まえながら、私には軍の将官として将来について考える義務があります。相手の能力を考察し、将来の意図を予測することが仕事です。米国と国際社会はまだ、中国の将来について確かなことが分かっておりません。物質的に豊かになり、軍事能力を向上させている中国が、今後他国にとって問題のある方法で利益を追求することがあるでしょうか。

  逆に、中国の成長が減速すれば、社会が不安定となり、地域全体の安全保障と繁栄に影響を及ぼすでしょうか。米国は、この両方の可能性を検討しなければなりません。

  中国政府自身が認めているように、中国の国防費は2009年に14.9%上昇し、年間成長率は20年連続で2桁になりました。中国の国防費はいまや世界第2位です。中国政府は2009年の国防予算が706億ドルであったと発表しましたが、米国国防総省は、実際の中国の軍事関連支出は1500億ドルを超えていた可能性があると推定しています。

 中国が最高レベルの軍事能力の開発を進めている具体例として、同国が2007年1月に行った衛星攻撃兵器の実験が挙げられます。米国、日本、その他多くの国々が中国にこの実験の説明を求めましたが、これまでに納得のいく説明は得られていません。こうした兵器実験のような出来事、中国の軍事開発や予算決定に関する透明性の欠如、そして中国と軍同士の関係を維持する際に直面してきた困難により、私は懸念を覚えます。

 このようなフォーラムでは、北朝鮮や中国の話が多くなりますが、ここで我々がまだ認識していない脅威について少し時間を割きたいと思います。1972年に私が海兵隊に入隊した時、ポーランドやエストニアが後に北大西洋条約機構(NATO)に加盟するとは考えられませんでした。星を3つ付けた将官、つまり私が、ベトナム軍の指導者と友好関係を築くことなるとは、想像もつきませんでした。そしてイスラエルとエジプト間の平和条約は、まだまだ先のことだったのです。

 1972年当時、アフガニスタン、タリバン、スロボダン・ミロシェビッチ、ラドバン・カラジッチは、誰にも知られていませんでした。

 もし何かひとつ、私が歴史から学んだことを挙げるとしたら、我々は「次に起こり得る大きな脅威」を予測することに長けていないということです。将来の脅威を予測することが非常に下手だということが証明されているので、さまざまな状況に適応できるよう備えなければなりません。

 我々はいかにして、予測不能な世界の安全保障を維持したらよいのでしょう。自国と同盟国の利益を守ることははっきりしています。我々の能力と即応性をはっきりと示しておく必要があります。問題を起こす可能性のある者が、問題となる行動を起こした場合に支払う代償が大きいと判断すれば、脅威が発生することはおそらくないでしょう。

 この地域に存在するどれだけの数の敵対勢力が、すぐ近くの日本に基地を置く米国の対応を懸念して、行き過ぎた行動を取ることを断念したか分かりますか。その数は多いと私は考えます。脅威は存在します。そしてその脅威を抑止し打ち破るために日米同盟が存在します。ではその方法は? 優れた能力を持ち、善意で行動する米軍が存在することによって、可能になります。

 存在するというのは、我々が常にこの地域にいるということです。我々は地域とその習慣を知り、地域の各国の軍隊と友好関係を築き、地域の条件に合った訓練をします。それが存在するということです。

 優れた能力とは、我々には必要なことする能力があるということです。仕事をするために適した人材、装備、輸送手段があり、その事実を誰もが、特に敵対勢力が分かっているということです。

 善意とは、公平であるということです。米国の軍隊は、地域において公平な存在であり、多くの国々と友好関係を築き、要請があれば友好国に駆け付けることを約束し、かつての敵や対抗勢力を融和させます。アジア地域に対する米軍の関心は、安全保障の推進以外にありません。そのことが我々を強くします。なぜなら米国が持つ多くの2国間関係が均衡を形成し、それが地域を前進させるからです。

 もしその均衡を乱したらどうなるでしょう。米国の存在感がかつてほどではなくなり、能力が低下し、あるいは意志が弱まったと人々が思ったらどうなるでしょう。均衡は崩れ、他の国々は安心感を得るために別の方法を取ることになりかねません。そうなった場合、真っ先に困るのは、アジアで一番裕福な国、日本です。

 皆さん、ご承知のように、米国はこの地域で、オーストラリア、フィリピン、韓国、タイ、日本の5カ国と同盟を結ぶ恩恵を受けています。

 これら同盟はすべて重要ですが、日本の米軍基地が地域全体の均衡を保っているため、要となるのは日本です。

 アジアでうまく機能してきた均衡を生み出しているのは、アジアにおける米国の存在です。この地域における米国の存在が、競争相手や潜在的な敵対勢力の影響のバランスを保っています。米国がこの地域に存在したからこそ、日本はリソースを、時にソフトパワーと呼ばれる外交力や経済力に注ぐことができ、国内総生産の99%以上を防衛費以外の支出に当てることができたのです。

 この事実は、日米同盟の根本である2国間合意の核に関係しています。他の大変重要な協力的取り組みをすべて取り除くと、日米同盟の基盤は非常に基本的なものです。すなわち、日本に対する米国の日米安保条約上の義務とは、陸、海、空軍、および海兵隊の兵士が米国の憲法を支持し、守ると宣誓したならば、日本が攻撃を受けた場合、その米軍兵士には日本を防衛する義務が生じるということです。米軍兵士には、日本防衛のため生命を危険にさらす準備があるということです。NATOとは異なり、日本には米国を防衛する相互義務がありません。

 米国はこの非対称性を十分に理解し受け入れていますが、その非対称性の存在を再認識することが重要です。米国が日本の防衛を保証するのと引き換えに、日本は基地、訓練の機会、そして最近では財政的な支援を提供しています。

 私はこのことをはっきりさせたいと思います。この部屋にいる海兵隊員全員が、沖縄に駐留する海兵隊員全員が、日本の防衛のために必要ならば喜んで生命をささげます。それがこの同盟における我々の役割です。日本は米国を防衛する相互義務を負いませんが、米軍が必要とする基地と訓練を必ず提供しなければなりません。

 50年間にわたって、海兵隊員をはじめとする米軍兵士が、日本を防衛するために生命をかける覚悟で臨んだ結果、前例のない富と社会の向上が日本と地域全体にもたらされました。

 我々はこのことに関与していることを誇りに思い、アジア経済の奇跡がわが国にもたらす恩恵をよく理解しています。しかし、率直に申し上げますが、少なくとも自分が読んだ報道では、基地と訓練を提供する見返りに、米国が約束し提供してきたものに対する認識は低いと言わざるを得ません。日本は、日米同盟から多大な利益を得ています。

 日米同盟がアジアにおける安全保障の礎であるならば、そして米軍が存在し、優れた能力を持ち、その意図が善意であることを求められるのであれば、条約上の義務を遂行するにあたり、米国にはどのような軍事的能力が必要なのでしょう。

 日本には、この国に基地を置く米海軍だけで十分な抑止力となると言う人がいます。航空母艦に配属された経験がある者として申しますが、米海軍が自由に使える技術は、高性能で敵に甚大な被害を与えることができます。

 米国の優秀な海軍兵士と航空隊員は、この地域における主な抑止力となっていますが、海上で、あるいは航空機を使ってできることは限られています。

 それから空軍がいます。ご承知の方もいらっしゃると思いますが、私は戦闘機のパイロットです。キャリアのほとんどでF-4とF-18に乗っていました。そして現在も時々ヘリコプターを操縦します。米国の航空機の能力には目を見張るものがあります。米空軍は、特に日本の航空自衛隊と連携すると、驚異的な戦闘能力を発揮します。

 それでも、これまでの50年間に私たちが学んだことが何か1つあるとすれば、空軍力と海軍力だけでは戦争を戦うには不十分であり、また抑止力としても十分ではないということです。

 世界貿易センターが攻撃された後にアフガニスタンのアルカイダとタリバンに対して遂行された作戦は必然的に、空軍力だけで行われました。空軍力は、タリバンとアルカイダの標的をすべて破壊しましたが、敵の戦闘意欲を失わせる効果はありませんでした。タリバン政府に勝利するには、米地上軍の投入が必要でした。

 イラク戦争について皆さんがどのようにお考えになろうと、そしてここにおられる方々はさまざまなご意見をお持ちと思いますが、イラク戦争で学んだ教訓は、空軍力と海軍力には限界があるということです。地上軍のみが、イラクのサダム・フセインの軍隊を打ち砕くことができたのです。

 皆さん、アジア太平洋地域においては、米軍の地上軍は海兵隊です。米陸軍は韓国に兵士を駐留させていますが、彼らは、他の場所で発生する緊急事態に対応する遠征軍ではありません。

 韓国の米陸軍は主に、統合防衛を支援するため朝鮮半島に存続することが求められています。ということは、ハワイからインドまでの地域に駐留する地上軍で唯一展開可能なのは、沖縄の海兵隊です。彼らが日本を防衛し、東アジアの安全保障を維持するために配属された地上軍なのです。「日米同盟は必要だけれども、地上軍はいらない」という考えは機能しないのです。

 危機に際して地上軍を迅速に展開する能力なくしては、抑止も防衛も敵を打ち砕くことも不可能です。適切な能力を持つ訓練された地上軍なくしては、日本を防衛し、地域の平和と安全を維持するという同盟国としての義務を、米国は果たすことができません。遠征可能な地上軍がなくては、日米同盟の抑止力は大幅に弱体化します。

 地上軍についてもう1つお話しします。地上軍の任務は、紛争に対応するだけではありません。今日のハイチを見てください。フィリピンでピナツボ山が噴火した時のことや、2004年にインド洋で津波が発生した後の活動を思い起こしてしてください。バングラデシュとビルマでのサイクロンへの対応を思い起こしてください。これらの人道支援活動で中心となったのは、海兵隊です。

 ここで、日本の自衛隊と共にハイチで活動したときに、海兵隊がどれだけ誇りに思ったかについて触れたいと思います。日本政府が率先して、緊急援助を必要としている人々を助けるため地球を半周する場所まで自衛隊を派遣したことで、日本国民の価値観について説得力のあるメッセージを送る結果になりました。

 第3海兵遠征軍が人道支援任務で展開するたびに、我々は沖縄市民に助けられます。沖縄の米軍基地によりこれらの人命救助の任務が可能になり、これまでの50年間で非常に多くの生命が救われました。地理的条件は重要です。沖縄は、地震とサイクロンが発生する地域の中心に位置します。自然災害の際に海兵隊を派遣する基地として、世界でこれほど適した場所はないでしょう。そのような悲惨な状況では時間が重要です。どれだけ時間を節約できるかによって、悲惨な災害が発生した後に救われる生命の数が決まります。人道援助はまた、安定を支える重要な手段でもあります。災害救援活動はしばしば、危機管理能力に欠ける貧困国の政府を援助することを意味します。こうした政府が、国民のニーズを満たし、生活を再建するのを援助することにより、我々は、広範な地域で経済成長を持続させる政治的な安定に貢献しています。

 日米同盟の今後の50年を考えると、平和と安定を強化する一方で、日米がそれぞれの能力を結集して、多くの人々の生活に変革をもたらす大きな可能性を持つ分野が人道支援と災害救援です。人道支援は重要です。なぜなら人道支援は政治的な安定を強化し、我々に基本的な価値観を世界に広げ、我々の意図について嘘をつく敵に1つの答えを提供するからです。また一方で抑止力を強化します。優れた能力を持つ米国海兵空地任務部隊が、数時間から数日で被災地に到着すれば、我々の競争相手はその能力を知ることになります。

 ここから、海兵隊の目的に思い至ります。それは、遠征能力を持ち、水陸いずれの能力も持ち、海軍としての能力も持つ、ということです。海軍と海兵隊のチームは世界最高です。

 抑止力であれ実際の戦争を戦うものであれ、信頼できる戦闘能力を有するかどうかは、3つの要素にかかっています。すなわち、適切な能力、高度な即応性、そして迅速な実施態勢です。能力、即応性、実施態勢の3つの要素が組み合わされた海兵隊は、アジアにおける理想的な緊急対応軍にふさわしいのです。

 基本的な海兵隊の組織構造は、海兵空地任務部隊です。この構造では、航空軍、地上戦闘軍、そして補給軍の構成部隊がすべて1人の指揮官の下に入ります。この独特の組織構造は日米同盟の目的にかなっています。海兵空地任務部隊は、どのような任務要求にも対応できます。

 この部隊はもともとの性質が海事型で、極めて柔軟で適応能力があり、連合軍や他の部隊との連携に適合するからです。

 最小限の部隊規模で最大限の戦闘能力を発揮でき、(その能力は)世界で実証済みです。太平洋地域に展開する海兵隊にとって完璧な組織モデルであり、潜在的な敵を抑止し、防衛し、打ち砕くという日米同盟の目的に沿う完璧なモデルです。

 もちろん、海兵空地任務部隊という統合軍が、急な命令を受けて安全保障や自然災害の緊急事態に迅速に展開できるようにするには、すべての小部隊が共に継続的に訓練を行わなければなりません。

 このような訓練が必要なので、海兵空地任務部隊を構成する各小部隊は同じ場所にいるよう命令されています。例えて言えば、海兵空地任務部隊は、野球のチームに似ています。外野手がある町で練習し、キャッチャーは別の町で、そして三塁手がさらに別の町で練習しても、意味がありません。1つのまとまったグループとして一緒に練習しなければなりません。

 海兵空地任務部隊も同じなのです。

 地上軍、ヘリコプター、そして補給隊が、緊急事態に対応するときに、効果的に各小部隊の能力を統合できるよう、毎週毎週共に訓練をする必要があります。

 アジア地域を回っていると、ヘリコプターで訓練するとはどういう意味かと尋ねられます。「ヘリコプターに乗り降りするのは難しいのですか」と尋ねられます。この質問に答えるとすれば、敵が自分に発砲しているとき、地域で食糧の略奪が起きているとき、あるいはホバリングしているヘリコプターから吊るされているロープを上らなければならないときなどは、乗り降りするのが大変困難です。

 しかしヘリコプターで行うのは、人員や補給品の輸送だけではありません。戦闘ヘリコプターは、地上軍を危険にさらす敵陣に接近して空対地攻撃をします。監視ヘリコプターは、誘導や標的選定の支援をします。重量物吊り下げヘリコプターは、人命救助のための補給品を積んだ荷台を運び、地上で待っている海兵隊員に降ろします。

 言い換えると、ヘリコプターは、人道支援であれ安全保障に関係する状況であれ、海兵隊が対応するあらゆる活動に欠かせないものです。このような活動には、熟練と正確さが要求されます。

 地上軍は常に、彼らを支援するヘリコプターと共に訓練をしなければなりません。でなければ、有事に出動したときにミスが起き、任務は失敗し死者が出るでしょう。

 海兵隊にとってヘリコプターというのは、昔の米国西部の騎兵にとっての馬のような存在です。馬は、あらゆることを騎兵と共に行いました。騎兵は馬と生活し、眠り、食べ、戦い、訓練し、そして馬と共に死にました。馬がなければ騎兵であり得ず、任務を遂行することができませんでした。

 皆さん、ここで沖縄についてお話したいと思います。沖縄の海兵隊基地は、日米同盟と日本の国家安全保障に死活的に重要だからです。

 沖縄は大変重要です。なぜなら先ほどお話したように、地理が重要だからです。海兵隊がなぜ沖縄に軍を維持するのか知たければ、地図をご覧になってください。沖縄から本州までの海上移動時間は1日から2日、韓国までは2日、南シナ海までは3日、マラッカ海峡までは5日です。カリフォルニアからですと、これらの場所に到達するのに21日以上を要します。

 第31海兵遠征部隊が沖縄近海で航行している場合、いつでも、100%の確率で、数日あれば米国と防衛条約を結ぶ同盟国まで移動できますし、地域安定に対する脅威、あるいは繰り返し発生する災害救援にも対応できます。

 以上の理由から、日本を防衛するという同盟国としての責任を果たすため、遠征が可能で迅速に展開できる米軍部隊であり、ハワイからインドまでの地域で唯一の前方展開部隊で対応可能な米国の地上軍である海兵隊は、沖縄に基地を置く必要があり、ヘリコプターを地上部隊と補給部隊の近くに配備する必要があるのです。

 皆さん、他国が注目しています。外国政府は、現在抱えている問題の解決策を見つけられるほど日米同盟が強いかどうか、そして優秀な抑止力を持った米海兵隊が今後数十年間沖縄に基地を維持できるかどうか、確かめようとしています。

 日米に対する潜在的な敵は、日米同盟にほころびがないか確認しようとしています。なぜならば、今日、日米同盟を弱体化できるのであれば、明日はさらに弱体化できるかもしれないからです。

 自由と人権の尊重という価値観を共有する我々の友好国もまた注目しています。それら友好国は日米の側に残りたいと思っていますが、もし日米同盟が以前ほど強力ではない、あるいは米国が東アジアの安全保障を以前ほど確実に維持できないのではないかと疑い始めれば、次の2つのうちどちらかが起きるでしょう。

 1つは、それらの国々が、自分たちを防衛する日米同盟の能力に対する信頼の欠如を埋め合わせるため防衛費を大幅に増やし、地域の軍拡競争に発展するシナリオです。もう1つは、それらの国々が、他の国や別の政治理念を探して、連携するというシナリオです。いずれにしても、このような展開は、日本にとって危険であり、地域の繁栄と安定にとって深刻な脅威となるでしょう。

 世界は、地域の安全保障と、50年に及ぶ日米同盟に、日米がどれだけ強い気持で臨んでいるか注目しています。これはアジア太平洋地域の安全保障問題であり、狭い地域に限定された問題ではありません。米太平洋海兵隊司令官である私にとっては、作戦上の課題です。

 日米にとって、これは地域の安定のための死活的な問題です。多くの国々にとっての大義です。また同盟上の課題でもあります。経済的繁栄の問題でもあります。地球上で最も重要な地域にいる我々の集団的な将来に関わることです。限定された場所における基地問題ではありません。

 日本で現在行われている議論について私が心配しているか、時々質問されることがあります。心配してません。核心的な価値観を共有する日米両国は、必要とされる能力を維持したまま1万人の海兵隊員を沖縄に継続して駐留させる一方で、我々全員がこれまでに努力して築いてきた平和と繁栄の恩恵を沖縄の住民がさらに受けられるようにする方法を見いだせるはずです。

 私には分かります。確信しています。歴史上最も素晴らしく、重要な同盟が、将来さらに力強いものになり、日米同盟が、アジアそして地域を越えて、我々の安全保障政策の礎であり続けることを。

 ありがとうございました。