ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際研究大学院(SAIS)におけるケリー国務長官の米中関係に関する講演
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
2014年11月4日
(前略)
ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際研究大学院(SAIS)は、第2次世界大戦中にポール・ニッツェとクリスチャン・ハーターが創設しました。2人ともマサチューセッツ州出身であり、大変誇りに思います。彼らの著書をお読みになった方はご存知だと思いますが、第2次世界大戦後の世界は根本的に変わり、外交政策の立案者はそれにあわせて変化し、その変化についていくだけでなく変化のスピードを自分たちが設定し、将来像を示し、未来を見通し、強い米国を保ち、世界のリーダーとして他国と協力し、そうした国々の国力を高める方法を見つける必要があることを予見する能力を、2人は持っていました。そこから生まれた政策がマーシャル・プランで、当時は不人気でしたが、国家の復興、民主主義国家の樹立、そして新たな方向性の設定で成功を収めました。
それから70年余りの間、世界は変化を続け、ほぼ確実にハーターとニッツェが夢見たであろう方向に進んでいます。宗教を巡る過激派やテロなどの報道がなされ、課題もありますが、世界は良い方向に変化してきたと言えます。大体において世界が良い方向に変化してきた理由は、ハーターとニッツェも信じ望んだように、慎重かつ創造力を持って分析したことにより、より自由で、繁栄に富み、人道的な世界が形成されたことに尽きるでしょう。さまざまな報道がなされ、場所によっては緊張状態にあるにもかかわらず、世界は事実、自由で繁栄し、人道的です。
米国の偉大な哲学者ヨギ・ベラはかつてこのように言いました。「予測するのは難しい、特に未来を予測するのは」。本当にこう言ったのです。未来を憶測するのは明らかに危険なことだと承知してはいますが、確信が持てる予測が2つあります。アジア太平洋地域は地球上で最も将来が期待できる地域の1つであること、そしてアメリカの未来、安全保障、繁栄はこの地域とますます密接に絡み合っているということです。
8月のビルマ、オーストラリア訪問から帰国する途中、私はホノルルのイースト・ウェストセンターでオバマ大統領のアジア太平洋へのリバランス(再均衡)戦略について、そして我々が日本、韓国、オーストラリア、タイ、フィリピンとの長年にわたる同盟関係、および関係が急速に進む東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国ならびに東南アジア諸国との連携を重要視している点について講演しました。その中で、リバランス戦略を定義する4つの特定の機会、つまり目標の概要をお話ししました。
1つ目は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)妥結を含む、持続的な経済成長を生み出す機会です。TPPは単なる通商協定ではなく、米国と太平洋諸国が連携し、共に繁栄するための戦略的な機会です。2つ目は、世界中の経済を活性化しながら気候変動問題の解決にもつながるクリーンエネルギー革命の推進。3つ目は、ルールに基づいた、安定した地域づくりに寄与できる制度や規範の強化による緊張緩和や域内連携の推進。4つ目は、アジア太平洋全域の人たちに力を与え、尊厳を持ち、安全に、機会に恵まれた生活を送れるようにすることです。
これらが米国が掲げるリバランス戦略の目標です。そして達成に向けて取り組んでいる目標でもあります。アジア全域の同盟国そしてパートナー諸国と共に取り組んでおり、オバマ大統領は来週北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)、そしてその後ビルマで開催される東アジアサミットでこれらの目標を各国首脳と議論します。
リバランス戦略の目標は、ある1つの国に影響を与えたり、人々をいずれかの方向に押しやる戦略的な取り組みではありません。各国が繁栄、尊厳そして安定に向かって共に歩みだすための包括的な招待状なのです。本日私は、オバマ大統領がこれらの全ての目標の達成に向け、間違いなく全力を注いでいると明言できます。
しかし我々のリバランス戦略の中核をなしているのが米中関係の強化であるということも間違いありません。なぜでしょうか。米中関係の強化は米中だけ、アジア太平洋だけを利するのではなく、世界全体のためになるからです。このSAIS出身の優秀な卒業生の中には、中国の崔天凱駐米大使がいます。本日、この場にご出席を賜っております。大使、ありがとうございます。
崔大使は1年前にここSAISで講演し、米中関係を、大使の言葉を引用させていただきますと「最も重要かつ慎重な取り扱いを要し、最も包括的かつ複雑で、最も有望かつ困難を伴う」ものと表現しました。これらの特徴はすべて正しいですが、せんえつながらもうひとつ付け加えさせていただきます。米中関係は、今日の世界で重要性が最も高く、21世紀の形を決める大きな影響力を有しています。
つまり、我々はこれを正しく行わなければなりません。これこそがまさに、オバマ大統領が就任以来取り組んでいることです。大統領が6年間かけて構築しようとしているもの、そして我々が今後2年間で前進させようとしているものは、信念に基づいた、実りある対中関係です。だからこそ大統領と私は中国側と何度も会談しましたし、昨年6月には習近平国家主席の就任直後に同主席をサニーランズにお招きし、米中首脳会談を行いました。数週間前には、楊潔篪国務委員、崔大使および中国側訪米団を私の故郷であるボストンにご招待しました。そして一日半を一緒に過ごし、米中関係の新たな機会について計画を立てました。私は来週、大統領と共に中国を訪問する予定です。およそ2年前に国務長官に就任して以来4度目の中国訪問となります。
中国の国の大きさや経済力、そして中国が大きく、急速に変化していることを考えると、、米中関係には当然ながら非常に大きな可能性があることになります。世界第1位、第2位の経済を有する大国として、米中は気候変動から国際貿易まで、あらゆる問題に建設的な道筋を設定する大きな機会を有しています。そして確かに、そうすることが我々にとって基本的な利益となります。そのため、米中関係を慎重に管理、そして導いていかなければなりません。それは新しい手段や大げさな身振りによるものではなく、長期的な戦略構想に基づき、勤勉に取り組み、健全な外交そして友好的な関係によって、です。
忘れてはならないのは、つい最近まで米中関係が比較的狭義な2カ国間問題や地域問題に焦点を当てていたことです。しかし今日では、双方の焦点を絞った外交政策、そしてオバマ大統領と習主席の指導力のおかげで、米中は世界で前例のない複雑でグローバルな問題に連携して取り組んでいます。このようなことができるのは、新興勢力と既存勢力の間に生まれる戦略的な対立という歴史的な落とし穴を避けるべく、2カ国が緊密に連携しているからです。代わりに、我々は単なる共存ではなく協力するために必要な措置を重要視しているのです。
米国の対中政策は2本柱から成ります。互いの相違点―確かに相違点はあります―に建設的に対処すること、そして互いの利益が一致する幅広い問題に関して取り組みを建設的に調整することです。誤解しないでください。米中は全く異なる国で、その事実ははっきりしています。政治体制、歴史、文化は異なり、そして何よりも、いくつかの重要な問題で見解が大きく異なります。両国の首脳は、まず互いの相違点を出し合い、この相違点について全て話し合い、対処し、時間をかけて意見の隔たりを縮めるよう努力することが肝要だと信じています。率直に申し上げると、このような議論は注目を浴びませんし、我々の発言の大部分は報道されません。しかしここで皆さんに断言したいのは、首脳会談でいつも困難な問題を詳細に議論しているということです。
互いの相違点への対処について話すことは、意見の不一致を認めるという意味ではありません。例えば、南シナ海や東シナ海を巡る海上安全保障に関しては、意見の不一致を単に認めるにとどまりません。米国は領有権を主張していませんし、他国のさまざまな領有権問題に立ち入る気はありません。しかし、我々はこのような主張についての議論がどのように進み、いかにして解決されるかということに関しては確固たる立場をとっています。だからこそ、我々は南シナ海で高まっている緊張を深く憂慮しており、関係諸国に対して国際法に基づいて主張を議論し、紛争の平和的解決を目指して自制するように求めるとともに、迅速かつ有意義に議論を前進させ、将来の紛争の可能性を軽減するような行動規範を策定するよう求めています。そして米国は主張の理非の判断に関与することなく、このプロセスの完了に向け支援していきます。なぜなら、そうすることにより、より大きな安定が生み出され、他の地域での協力の機会が拡大するからです。
サイバー問題に関して、我々は意見の不一致を認めていません。米国は、サイバー空間を悪用して米国企業から企業秘密やその他重要な情報を盗むことについては、その実行者が誰であっても、断固として反対することを明確にしてきました。そしてこのような行為をやめさせることは、中国側の利益にもなると確信しています。外国企業は、対中投資をした場合に自社の知的財産権が保護されると確信が持てれば、投資をさらに増やすでしょう。中国がグローバルなサイバー問題の解決に真剣に取り組む姿勢を示せば、国際企業にとって中国市場の魅力はさらに高まるでしょう。そして最終的には中国企業が知的財産を生み出し、中国政府が皆に公平に、そして完全にルールを実施すれば、中国の産業も繁栄することとなるでしょう。このような喫緊の経済や安全保障の課題に関して、米国は開かれた率直な対話を通じて、信頼を構築し、共通の基本ルールを策定しようとしています。
人権問題に関しても、もちろん我々は意見の不一致を認めていません。米国はこれからも常に、全ての国に対し、その国民が自由に、公に、平和的にそして報復の恐れなく不満を発言することを認めるよう主張しています。だからこそ我々は香港の状況や中国の他の地域での人権問題について堂々と意見を主張しています。なぜなら基本的自由の尊重は常に米国の外交政策の屋台骨となってきており、今もそうだからです。そして、法の支配への尊重そして人権保護は、いかなる国の長期的な成長、繁栄、安定にとっても、そして世界で尊敬を得るためにも必要不可欠だからです。
はっきりしておきましょう。米国は、我々の中に深く根ざした価値観をはっきりと述べ、域内で我々の利益、同盟国そしてパートナー国を守ることを決して恐れません。中国もこのことを十分にわかっていると思います。しかし米中関係は時間とともに飛躍的に発展し、成熟しました。両国の相違点がこれからも両国関係の試金石となることは間違いありません。これは人間同士、家族間そして国家間でも常に起こります。しかし、相違点によって、他分野での2国間の協力が阻まれてはいけないのです。
では協力できるのはどのような分野でしょうか。このすばらしい機会はどこにあるのでしょうか。まずは経済です。米中が国交を樹立した35年前は、両国間の貿易は実質、存在しませんでした。今日、両国企業による商品・サービスの貿易額は毎年ほぼ6000億ドルに及び、互いへの投資総額は1000億ドル近くにのぼります。中国に進出する米国企業の報道を目にすることも多いと思いますが、実際は、米国に進出する中国企業のほうが多くなっており、我々はこの動きを歓迎しています。我々は中国に対して対米投資誘致の努力をかなりしており、同時に在中国の米国大使館や領事館では、米国企業向けに中国でのビジネス機会を特定する取り組みを行っています。
米中企業が互いに市場で競争する中、我々は互いの経済の健全化に大きな利害を持っています。事実、全世界が米中経済の活力に大きな利害があるといえます。だからこそ、我々は、現在交渉中の高い基準の2国間投資協定を通じたものを含め、2カ国間の貿易・投資を拡大することを重視しています。太平洋を挟んだ両国の企業や投資家の保護に大きく役立つ基本的なルールを規定することで、米中は共に成長し、繁栄し続けることが可能となるでしょう。ピーターソン国際経済研究所の最近の調査では、米中間の貿易・投資の大幅拡大は年間5000億ドルの経済利益を両国にもたらすと試算しています。
しかし、はっきり申し上げますと、我々の利害が一致しているのは経済だけでなく、協力は通商分野にとどまりません。中国がアジア太平洋地域を越えて利益を追求するなか、世界規模の安全保障問題を解決するため互いの取り組みを調整する機会と必要性があります。気候変動というグローバルな脅威に対応する共通の取り組みは、それを端的に示した例です。先週末に公表された国連の気候変動報告書は新たな警鐘を鳴らしています。科学がこれ以上ないほどはっきりと示しています。地球温暖化は進行し、その原因は我々、人間の活動です。そして被害はすでに目に見える形で現れており、科学者たちの予想を超える速度と規模で現れています。だからこそ警戒する理由があります。なぜなら予測されている全てのことがすでに起こりつつあり、しかもより速く、大規模に起きているからです。解決策は手の届くところにあります。しかしそこに到達するには、意欲的で迅速な断固たる行動をとることが求められます。
昨年北京で、私は楊国務委員と共に、気候変動問題に関する米中ワーキンググループを立ち上げ、すでに実証プロジェクトや政策交流などの動きが始まっています。我々が気候変動問題を閣僚レベルに格上げしたのは、高官レベルで継続的に問題に取り組むためです。ワーキンググループ設置以来、両国は絶え間なく協議を行い、来年パリで開催される第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議で国際社会が首尾よく意欲的な合意に到達できるよう、できる限りの努力をしていくことを目指しています。2月に、米中は、先ほど申し上げた2015年のパリ会合に向け、国内の排出削減目標を強化するそれぞれの計画を策定するため、情報交換や政策協議を実施する計画を発表しました。余談となりますが、来年のパリ会合に先駆けて、近くペルーのリマで会合を開く予定です。この問題に関しては多くの取り組みが現在進行しています。
来年、各国は設定目標を提出することになっています。我々は米中の連携が、国際的な指導力や、設定目標や交渉全体に関わる目的の本気度を示す一例になればと考えています。世界第1、第2位の経済大国であり、世界全体の排出量のほぼ半分を占める米中が共に、目的に対して真剣であることを示したときに世界に与える影響を想像してみてください。米中は最大のエネルギー消費国であり、世界最大の温暖化ガス排出国でもあります。両国の排出量は世界のおよそ45%を占め、残念なことに増大しています。
だからこそ、我々は共にこの問題を解決する必要があります。なぜでしょうか。どちらか一方だけでの取り組みでは問題を解決できないからです。自転車通勤や相乗り通学、家庭での太陽光パネルの導入を米国人一人一人が実施したとしましょう。そして、排出量ゼロを実現したり、一人につき十数本の木を植え、国内の温室効果ガスの排出を完全になくしたとしても、中国や他の国からの炭素汚染に対抗する十分ではありません。反対に、もし中国が排出量など全て削減しても、その一方で米国が排出を続けていれば、同じことが中国にもあてはまるでしょう。中国が努力して得たものを米国が帳消にするでしょうし、その反対に中国が我々の努力を無にしてしまうでしょう。今日では、たった1~2カ国の経済大国がこの脅威に対応することを怠れば、他で実施されたすばらしい取り組みが帳消しとなってしまいます。
これは単なる環境問題でなく、経済、安全保障、健康への脅威であり、世界各国が一丸となって取り組むべき前例のない喫緊の課題です。なぜなら、食料生産や水の確保、生存する能力に大きな変化が生じ、そのため今後国の特定の地域で避難民が出てくると予想されるからです。そしてこのような状況が世界の安全保障や紛争の性質を変えていくでしょう。これこそが我々が立ち向かっている現実です。だからこそ、米中は真の前進への道筋を示す誠実な排出量削減を実施して、世界を主導しなければならないのです。
いいニュースもあります。気候変動に取り組む米中共有の責任は、歴史上かつてない規模の機会を創出します。責任を共有することは、繁栄の共有にもつながります。気候変動の解決策は問題と同じくらいはっきりとしています。それは、そのへんのどこかにあるわけでもなく、もちろん非現実的なことではありません。遠いどこかにあるものでも、手でつかむのが不可能なわけでもありません。目の前にあるのです。その解決策とはエネルギー政策です。単純なことです。エネルギー政策で正しい選択をすれば、必然的に気候変動の問題解決に至るのです。
考えてみてください。エネルギー政策によって経済も活性化し、多くの雇用創出にもつながります。今までにない経済機会も生まれます。なぜならエネルギーの国際市場は将来、世界がかつて経験したことのない規模へ成長するからです。これから2035年までに、この分野への投資額は17兆ドルにのぼると予想されています。エネルギー市場は米国の皆を豊かにしました。1990年代に皆の所得を増大させ、米国史上最大の富を生み出しました。その当時の市場規模は1兆ドルで、利用者は10億人でした。今日、エネルギー市場の規模は6兆ドルで利用者は40~50億人へと拡大しています。30年、40年、50年後には利用者の数はおそらく90億人へと膨れ上がるでしょう。考えてみてください。17兆ドルという数字は中国とインドの国内総生産(GDP)を合算した金額を上回ります。わずかな賢い選択をするだけで、クリーンエネルギーが国際エネルギー市場で最も魅力的な投資対象となり、世界の起業家たちも、この悪い状況から脱却し、地球をより健全な状態に変えいく技術を創出しようとする我々を支援することで、彼ら自身も繁栄することができます。
このいずれも、我々が行動しない限り、決して起きません。米中が気候変動とクリーンエネルギー問題で世界を主導するか、しないかということは、我々がこの前例のない経済機会をうまく活用できるか、そして世界が気候変動およびそれがもたらす世界の安全保障や繁栄、健康への脅威に効果的に取り組みことができるかどうかに大きな影響を及ぼします。
核拡散問題に関しても、我々の協力は影響を及ぼします。中国は「P5プラス1」(国連安全保障理事会常任理事国5カ国とドイツ)の枠組みの正式メンバーとしてイランとの交渉に真剣に関与しており、これは我々の励みとなっています。北朝鮮問題に関しては、米中が連携を一層深めることで、北朝鮮に現在のやり方は行き詰まり、安全と繁栄への唯一の道は朝鮮半島の非核化に向け本当の意味での前進のみであると認識させることができると期待しています。この分野での米中協力も大きな影響を及ぼします。
「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)のような、世界中のあらゆる場所で人々に危害を加える過激派組織への対抗でも米中協力は影響を及ぼします。米中協力によりアフガニスタンなどでは安定を取り戻しています。今日、米中はアフガニスタンで政治的結束の支援や、アフガニスタンが再びテロリストの安全な隠れ場所となることを防ぐ取り組みで連携しています。我々は、中国がアフガニスタンで重要な役割を果たすことを歓迎します。実は先週、アフガニスタンのアシュラフ・ガーニ大統領、米国のダン・フェルドマン・アフガニスタン・パキスタン問題担当特使、ジョン・ポデスタ大統領顧問が北京を訪れ、アフガニスタンの平和と復興を支援する会議に出席しました。
先ごろのエボラ出血熱の問題でもそうであったように、中国は、アジアから遠く離れた、地球の反対側で起こっているものを含め、国際的な危機解決に向け大きな役割を果たす用意があることを示しています。中国はエボラ出血熱の危機に対処するため、これまでに1億3000万ドル以上の援助と物資の提供を表明しており、我々はそれに深く感謝します。そして先週にはこの危機への対応を支援するため、人民解放軍の一部隊をリベリアに派遣する計画を発表しました。これこそ地球規模の指導力です。これは重要なことで、中国が我々と協力することを大歓迎します。
我々はより多くのことを迅速に実施する必要があります。しかし我々が見てきたような中国からの支援は非常に重要で、中国がグローバルな利益や責任を理解していることがわかります。実際、世界が今日直面する主要な脅威や危機の中で、米中協力の拡充によりより効果的に対応できない問題はありません。
楊国務委員と今月初めボストンで議論したように、中国が国際舞台での関与深めるなか、米中協力をアフリカ、中米やアジアの他の地域での開発に向けた多くの機会と同様に、変化と成長の機会をつかむ手段として活用することができます。またボストンでは、具体的な開発目標に関する米中協力の可能性についても話し合いました。
これらの地域の中に、米中が既に深く関与している国があります。両国が援助や開発事業の連携を倍加し、互いの取り組みを補完、統合すれば、より多くの地域を迅速に21世紀の世界に迎え、多くの世帯が貧困から抜け出し、世界中のより多くの人が自分たちの将来を創り出す手段やデータを手に入れることができるでしょう。そしてより多くの国を被援助国から貿易国にする支援をすることで、誰もが、経済成長、輸出市場の拡大、雇用創出、そして最終的には安定、繁栄、そしてそれが生み出す尊厳という恩恵に浴することになるでしょう。また、このような地域は繁栄することでより安定化していくでしょう。そして、最終的に、我々皆の安全につながるでしょう。
肝心なのは、米中合わせて世界人口の4分の1を有し、世界経済の3分の1を創出、世界貿易では5分の1のシェアを占めているということです。いかなる問題でも同じ方向に進むことで、米中は他のほとんどの国がなし得ない形で影響を及ぼすことができます。
そしてそうなるように、今まで以上に政府間で取り組んでいます。「米中戦略・経済対話」では、ジャック・ルー財務長官と共に中国側と定期的に会合を開いています。今日では、貿易から運輸にいたるまで100以上の2カ国間対話が行われていますが、我々が重要視しているのはトップレベルの定期会合です。
ここで1つ言っておきます。この関係の可能性を最大限活用するには、政府間協力だけでは十分ではありません。国民同士のつながりの強化も続けなければなりません。最近実施されたある世論調査によると、米国人の対中感情は数年前よりも悪くなっており、その逆の中国人の対米感情も悪くなっています。ここで明らかなのは、我々は両国民を結びつけるようさらなる努力をし、我々が効果的に相互の意思疎通を図ることで、国民にも効果的に意思を伝えていくようにしなければなりません。我々に必要なのは共通の目的意識と仲間意識を築くことで、これは今後何十年にもわたって両国関係を持続させる上で必要不可欠となります。これが私が中国の劉延東副総理と共同議長を務める人的・文化交流に関する対話を支える論理です。
両国のつながりを深める最善の方法の1つに、交換留学生プログラムの拡充があります。私は先ほどSAISの交換留学プログラムで米国に来ている多くの学生と会い、話をしました。オバマ大統領が進める「100000ストロング・イニシアチブ」については既にご存知だと思います。今日、米国で勉強している留学生の出身国は中国が一番多く、我々は米国人学生の中国への留学機会を増やす取り組みに積極的に投資しています。なぜなら、共通の理解を最も効果的に促す方法は、実際に相手方の国に住み、世界を別の視点から見つめ、何十年も続く友情を育むことだと認識しているからです。
少しご紹介したいことがあります。私が定期的に会談している中東などの地域の外務大臣の多くは、米国の大学や大学院を卒業しており、実に誇らしげに自らの留学経験を私に語ってくれます。その経験は永遠に彼らの心に残っており、両国間が困難な問題に取り組むときに役立っています。
私が今お話したことは、決して驚くような新しい理念でないということをこの場を借りて申し上げます。ここSAISでは長年理解されてきたものです。SAISが南京に国際キャンパスを設置したのはおよそ30年前のことです。南京校では交換留学生プログラムの促進から将来的なビジネスや関係づくりの展望などまで、あらゆる問題に力を入れています。その結果、SAISの学生は我々が住むグローバル社会への準備が誰よりも整っています。しかし現実には、SAISが当然と思って実施していることを当然のことととらえていない場所も数多くあります。そのような人たちにとって、これは2014年の現在でさえも、進取な取り組みなのです。
デービッド・ランプトン教授をはじめSAISの皆さんが、この取り組みで指導力を発揮していることに感謝申し上げます。米中は究極的には、政府のあらゆるレベル、より多くの分野、そして両国に住んでいるより多くの人たちの間で交流を促進する方法を見つける必要があります。このようなつながりは、我々の相互理解を深め、将来より良い関係を構築し、互いの違いを乗り越え、相互不信を強める誤解や固定観念を消し去ってくれるでしょう。また我々を同じ方向に導き、両国だけが持つ、互いを助ける、そして究極的には世界を助ける機会を活用できるよう導いてくれるでしょう。
我々は、そして私個人としても、我々が現在住んでいる世界の複雑さや、我々が直面するこの問題が慎重な取り扱いを要する点を決して軽視していません。米中関係を実りあるものにする道のりは平坦なものではありませんでしたし、これからも険しいかもしれません。しかし、我々がこの道を歩み続けることが、今ほど重要になっている時期はありません。米中の指導力が純粋な意味で試されており、両国政府は正しい選択をしなければなりません。
多くの点において、我々が今いる世界は、冷戦時や20世紀の大部分で経験した2極化や分断された世界よりも、勢力の均衡や異なる利害を特徴とする19世紀や18世紀のグローバル外交の世界に似ていると思います。新たな新興勢力が次々と生まれていますが、このような国は我々が望んだことを行っています。今日の援助国のうち少なくとも15カ国は、ほんの10~15年前はまだ被援助国でした。我々はこのような国々がグローバルな責任を担い、グローバルな影響力を拡大するまで発展したことを歓迎します。
しかし問題はより複雑です。他国が経済力を強め、商品・サービスや市場シェアを巡る競争が激しくなれば、世界はより複雑になります。そして近代化に伴うこうした変化や対立で生じた宗派主義や宗教的過激主義などの発生により、我々が外交で進む道は、より複雑で険しくなっています。
しかし、米中は互いに異なるバックグランドを持つ世界の2大大国として、世界が直面する主な課題を解決する機会を有しています。もし我々が協力し、その解決の道筋を示すことができれば、他の国を取り込み、世界の規範を確立する一助になるでしょう。我々は、大国と新興国がいずれの利益にもかなうよう協力し、赤道直下であろうが、極地であろうが、世界のあらゆる地域で安定、繁栄そして平和を実現する可能性を高める道を示す機会を有しています。
ひょっとするとこれは高い目標かもしれません。しかし、私は高過ぎるとは思いません。スピーチで言うのは簡単ですが、実際に行うのは非常に難しいことです。しかし、質の高い対話を持ち、大小さまざまな問題の解決策を常に求め、決意を持って相違点に対応し、協力できる大きな枠組みを見つけ、うまく機会をとらえるなかで、その取り組みが真に成功か失敗かがわかるでしょう。
ニッツェは晩年、マーシャル・プラン、北大西洋条約機構(NATO)、米ソ関係での大きな貢献について聞かれた際に、威張るわけでも、自慢するわけでもなく、こう言いました。「私は非常に幸運だった。私は重要なことを成し遂げる必要があったときにそこに居合わせただけだ」
今日ほど重要なことを成し遂げる必要が高まっている時期はありません。私は、国力、資源、そして優秀な人材に恵まれた米中が、今こそ重要なことを共に成し遂げられることを願っています。そして米中が数日後北京で開催される会合で、あるいは今後協力するなか、その責務に向き合い、ニッツェがSAIS創設時だけでなく、人生を通じて示した基準を満たしていけることを願っています。
ありがとうございました。