ブルッキングス研究所でのダニエル・ラッセル国務次官補 (東アジア・太平洋担当)の基調講演
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
2014年12月16日
(草稿)
何年も前、私がマイク・マンスフィールド駐日大使の下で働いていた時、「次の世紀(21世紀)は太平洋の世紀になる」と大使が断言するのを私は頻繁に耳にした。当時は少し大げさだと思ったが、幸いにも何も言わないでいた。今となってみれば、いかに彼に先見の明があったかがよく分かる。
マンスフィールド大使は北東アジアに深い関心を持っていた。オバマ大統領とケリー国務長官と同様、大使もこの地域の発展が米国の福利、安全保障、繁栄そして将来に大きく影響すると確信していたからだ。オバマ政権は、中国、日本、韓国との関係を非常に重視してきており、我々もまた北東アジアでの外交関係と政策が地域と世界に与える影響を理解していた。
マンスフィールドが上院議員を引退し、駐日大使となった1977年以降、そしてオバマ大統領が就任した2009年以降、北東アジアの変化のペースは加速している。この会議の招待状にも記されているように、世界の他の地域と比べ、この地域が安定しているからといって、楽観できないし、楽観してはならない。世界経済、そして地域と世界の安定にとってのリスクは非常に高い。
従って、中国、韓国そして米国にとっての個別の、そして共通の課題は、北東アジアにおいて全ての国が参加する持続可能な秩序の構築を支援することだ。
問題はその秩序の根本となる信条が何かである。
さらには、これを基盤に、いかにすればより広い地域で、そして最終的には世界各地で平和を維持し、人間の尊厳を高め、繁栄と機会を推進できるかということである。
実のところ、これらの国々には将来を形づくる非常に高い能力がある。我々は世界の経済大国である。こうした国々は、相互投資や金融ならびにサプライチェーンにおける緊密な関係のおかげもあり、世界で最も革新的な考え方をする人々や、最も効率的な製造企業を生み出している。iPhone、サムスンのGalaxy、ThinkPadが好例だ。
だが我々は投資資本により結ばれているだけでなく、人的資本によってもつながっている。米国内の外国人留学生の40%超が北東アジア出身だ。
同じように、中国は米国人学生の中で5番目に人気のある留学先になった。また昨年は、日本と韓国で学ぶ米国人留学生の数が大幅に増えた。
我々の文化の融合と知識の共有は、食べ物から、映画、音楽、そしてこの会議まで、あらゆる分野でみられる。
さて、国際関係は「江南(カンナム)スタイル」とはやや異なる。この会議がユーチューブでブレークすることにはならない。しかし共に取り組むことにより、PSYのような独創性を発揮できる。自分がハードルを高くしていることは承知している。
我々に共通点があることを考えれば、協力する機会を求めるのは当然だ。連携する多国間のグループは、世界情勢の中で徐々に重要な勢力となってきている。その名が示す通り、多国間グループは2国間のパートナーシップより参加する国が多く、実践面ではより広い地域や全世界規模のグループより迅速に行動できる。
例えば、日米豪戦略対話は発足からすでに10年以上続いている。先月(2014年11月)私は、オーストラリアのブリスベーンで行われたこの3カ国の首脳会議に出席するオバマ大統領に同行した。この会議では、我々の取り組みを地域の問題以外にも拡大し、世界経済の活性化から、イスラム国 (ISIL)との戦いやエボラ出血熱への取り組み、人道および災害支援、開発援助に至るまで、国際社会の問題に共同で対処していることが示された。
日米韓の3カ国は、共に非常に重要な問題に取り組んでいるもう1つのグループである。オバマ大統領は3月にオランダのハーグでこの3カ国の首脳会議を主催し、オバマ大統領、朴大統領、安倍首相が北朝鮮の脅威や他の懸念事項について協議した。
これらのグループは、民主主義、人権、国際法の尊重のような共通の価値観と、太平洋地域および世界各地における共通の利害に根ざしている。
私は明日、定期的に開催される米日印3カ国協議に参加するためニューデリーに向かうが、このグループもそのうちの1つである。
これらは、北東アジア諸国と米国が参加する柔軟な形態の集団が持つ可能性と有用性を示す一例にすぎない。
そういった流れの中で、韓国の朴大統領が先月、日中韓の3カ国外相会談の再開を呼びかけたことを我々は歓迎する。3カ国の外相会談の後には首脳会談が実現するという希望と期待が広がっていると思う。これは地域の平和と安全に向けた非常に良い兆候となるであろう。
どのような形であれ、我々は皆、日中韓の間の、そして米国との意思疎通が大変重要であることを理解している。なぜならば我々の関心が一致する分野を推進し、利害が対立する分野にうまく対処する必要があるからだ。
エボラ出血熱への取り組みでの協調と調整が好例だ。先月、日本と中国が原則合意した危機管理メカニズムも同様だ。近く運用開始となることを期待する。
逆に、東シナ海における防空識別圏を昨年突然宣言した件は、国の利害が重なる微妙な問題に適切に対処しなかった例を示す教訓となった。
来年我々は、また別の、特に慎重に扱うべき問題に直面する。2015年は過去のいくつかの出来事を記念する年になる。第2次世界大戦の終結70周年であり、日韓国交正常化50周年の年に当たる。
1945年には、国連創設、広島と長崎への原子爆弾投下、米国による日本占領、朝鮮の独立と南北分裂、中華民国によるモンゴル独立の承認(モンゴルは来年民主化25周年を迎える)という出来事があった。
これらの記念日にうまく対処するには、抑制、判断、技量そして善意が必要だ。そして率直に言えば、対処するだけでなく、これらの記念日を利用して関係を前進させていくため、皆さんの支援と助言を歓迎する。
北東アジアにおける過去70年の歴史は、類いまれな前進の歴史であった。以前話したように、2015年の進展、特に日本と韓国、中国との関係の進展により、歴史的な節目が未来志向の節目に変わる可能性がある。
これは理論上だけのことではない。(実際に)中国、韓国、日本は地域における安全保障と経済で重要な役割を果たしている。国際舞台ではどの国も、ますます積極的に行動しており、影響力も増している。
もはやアジア人のためのアジアではなく、世界のためのアジアだ。これら3カ国の行動が十分に協力的でないことは受け入れがたく、ましてや食い違った行動を取ることやそれよりも望ましくない行動を取ることは許されない。
これら隣国間の良好な関係を支える重要な手段の1つとして、確固とした地域の秩序の維持がある。それにはアジア太平洋経済協力会議(APEC)、東アジアサミット、東南アジア諸国連合 (ASEAN)を中心としたその他のフォーラムなどが含まれる。もちろんその秩序は、地域の安全と安定を維持してきた米国との同盟と安全保障パートナーシップの強い土台の上に構築される。
この体制は米国が支持してきた制度であり、貿易と投資、経済と政治的な結びつき、教育と技術交流、迅速な開発を促進して、この地域の国々を豊かにした。そして多くの人を貧困から救った。
まず日本、続いて韓国と、それぞれの国が発展し、社会的、経済的、政治的基盤ができると、それがこの制度に還元され、その強化に役立ってきた。
次は中国の番だ。ニクソン大統領の歴史的訪中から、35年前の米中国交正常化、2001年の中国の世界貿易機関 (WTO)加盟、昨年のカリフォルニア州サニーランドでの米中首脳会談の成果、そして先月のオバマ大統領の北京訪問までの期間をみてほしい。
何十年にもわたり、米国は中国の平和的な台頭を支えてきた。戦略的な競争状態を避け、両国の相違点を狭める、あるいは少なくともうまく対処しようとしてきた。
だが中国の台頭が地域における唯一の変化ではない。アジア太平洋地域全体が変化している。インドは「アクト・イースト」政策を採用している。ASEANは統合を深めている。インドネシアの民主主義は花開き、ミャンマーの改革は前に進んでいる。米国のリバランス(再均衡)政策は継続しており、同盟関係はますます強固になり、能力が高まっている。
これらは全て良い方向に向かっている。だが地域の力関係が変わる時には緊張も生じる。緊張は我々の安定と繁栄に対する深刻なリスクとなる。
人工の前哨基地の建設、船舶、航空機、石油掘削装置による度重なる侵犯は、アジアの人々が海上境界線の問題を解決する方法であろうか。
南シナ海における基本的な行動規範を策定するASEANの長年にわたる交渉努力は、さらに10年を要するのだろうか。
海上境界線の問題に関する緊張の先鋭化により、岩礁の固守ではなく法の順守に基づいた地域制度を維持することの重要性が明らかになっている。つまり境界線に関する主張が権利意識や力ではなく国際法に基づいている制度、そして相互依存と平和的紛争解決に基づく制度である。
力関係の変化が緊張をもたらす一方で、地域における最大の脅威は慢性的なものだ。それはアジアで孤立している危険な国、北朝鮮だ。
歓迎すべきは、北朝鮮問題では、米国と北東アジア諸国が緊密に協力しているという点である。
我々が緊密に協力するのは、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイル開発、国際的な義務の拒否、約束の不履行、そして突然の挑発行為が皆にとってのリスクとなるからだ。
先週私は講演で、北朝鮮の違法な計画と忌まわしい人権問題の記録について話した。その内容を繰り返すことは避けるが、1つだけ触れておきたいことがある。そのとき聴衆から最初に受けた質問は、簡単に言えば「中国が問題である。中国が北朝鮮問題の発展を妨げているのではないか」というものだった。
答えは「ノー」だ。習近平国家主席が、平壌を訪問する前に、ましてや金正恩に会う前にソウルを訪問すると決めたことからも分かるように、中国は自らの不快感を示す明確なシグナルを送ってきた。
もちろん、米国と一部のパートナー諸国は、中国が北朝鮮に圧力をかけるためにできることが他にもあると考えている。そして中国は、米国が外交的に関与するために他にもできることがあると考えている。
しかし全体的には、戦略的な利害と協力への約束という点で広い連携ができていると見ている。中国、韓国、米国そして日本、さらにロシアも含めて非核化で一致している。
我々は自由で統一された朝鮮半島を求める一方、北東アジアのパートナー諸国と別な形でも協力している。なぜなら各国には、世界各地で継続している多くの課題に取り組むために果たすべき重要な役割があるからだ。
いまだに低迷する世界経済の中で、我々こそが成長のエンジンである。APECおよびG20と協力し、さらなる役割を果たす用意ができている。
米韓の自由貿易協定(FTA)の実施、投資条約に関する中国との交渉、日本および他の10カ国との環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の妥結は、世界経済に大きな活力を提供するだろう。中国との自由貿易協定ならびに東アジア地域包括的経済連携 (RCEP) のような貿易協定の提案も、対話の重要な一部だ。
米中は温室効果ガスの2大排出国だが、気候変動対策の目標についての我々の最近の行動を見れば、我々がこの問題の解決を固く決意していることが分かる。同じように、オバマ大統領と安倍首相が、韓国が韓国主催の緑の気候基金にそれぞれ30億ドルと15億ドルを拠出すると約束したことも、我々の決意を示している。そして各国が持つ研究開発および製造能力のおかげで、我々はクリーンエネルギー経済の最前線に立ち続けることになる。
各国が公衆衛生と感染症の専門家を擁しており、鳥インフルエンザ、重症急性呼吸器症候群 (SARS) などの感染症に対する経験も積んでいる。我々はエボラ出血熱への取り組みに重要な貢献をしており、将来さらに必要とされるであろう。
そしてシリアとイラクから、台風30号 による被害を受けたフィリピンに至るまで、我々が中心となって人道支援と災害救助活動を行った。
我々はまた、メコン川流域、太平洋諸国さらにはアフリカで課題となっている食糧、水、エネルギー安全保障などの相互に関係する問題にも取り組んでいる。我々の専門技術と資本はこれらの問題対処に必要だ。
世界経済を活性化し、地域の安定を維持し、世界の安全保障を強化し、世界の環境を守るため、北東アジアの主要国と米国はお互いを必要とし、同様に世界が我々を必要としている。
私のかつての上司、マンスフィールド大使の言葉を伝えるとすれば、米国と北東アジアの関係はあらゆるものの中で、世界で最も重要な多国間関係だ。
皆さんはそれを分かっている。だから皆さんはこの会議に参加している。皆さんの結論を聞くことを楽しみにしている。
ありがとう。