ダニエル・ラッセル国務次官補のジャパン・ソサエティーでの講演
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
2015年1月13日、ニューヨーク
(草稿)
(前略)
米国と日本は古い友人です。良い時代も悪い時代も共に経験し、21世紀において、互いへの関与を決してやめない友人です。なぜなら両国は世界を同様の視点から見ており、国の「特徴」も似ているからです。
文化的な違いがあることは認めます。日本でのおもてなしの特徴は、お客さまを応接間に迎え、そのような機会のためにとっておいた最高のお茶と食器で歓待することにあります。典型的な米国流のおもてなしでは、お客さまに「さあ、上がってください。台所に家族がいますので、そちらへどうぞ。ビールはいかがですか」と呼びかけます。
では両国に共通しているものは何でしょう? どちらも自動車や漫画好きでも知られています。しかし冗談抜きで、我々には多くの共通点があります。国民の生産性の高さと企業の技術革新、教育や発明の重視、家族を尊重し、高齢者を大切に思う気持ち、国民一人ひとりが投票権、つまり国の運営方針について発言する権利を持つべきだという平等主義の理想や社会契約に対する信念などです。
両国は、先を見越して積極的に平和に貢献することにより、世界のために何かできると信じています。
2015年は特別な年です。第2次世界大戦の終結と国連の創設から70年目にあたり、安定と繁栄の素晴らしい時代の幕開けとなるからです。日米はこの記念すべき年を両国関係のさまざまな側面でお祝いしようとしています。このイベントはその第1回目となります。
本日はこの場をお借りして、日米が成し遂げた目覚しい進展、両国およびアジア太平洋地域のための取り組み、そして2015年以降にさらに多くを成し遂げるために必要な日米連携の一層のグローバル化についてお話ししたいと思います。
日米関係の重要性を深く理解する上で、ちょっとした歴史的な観点が役立つと思います。1860年代、日米両国が国内紛争から脱却し、急速な産業化が始まった節目となったのは、米国の南北戦争終結と日本の明治維新でした。
その前の3世紀間、外国との接触を制限していた日本は、その後わずか30年余りで世界に追いつきました。実際、ジャパン・ソサエティー設立は、日米両国が共通項を拡大していったことの証左でした。
20世紀の初めまでに、日本は急速に成長し、すでに世界第8位の経済大国になっていました。そして米国との交流も増していました。米国の鉄道建設の一部を担ったのは日本からの移民でした。
今日、日米の経済関係の規模には目を見張るものがあります。両国は自由市場経済としては世界で1位と2位の国であり、2国間貿易で世界最大規模でもあります。日米はグローバル経済システムを支え、主導し、国際基準の設定に取り組んでいます。女性の経済的エンパワーメントをはじめとする安倍首相の改革により、日本経済は再生しつつあります。今では米国人労働者が日本ブランドの自動車を製造し、そして輸出までしています。
20世紀初め、戦争に至る過程と戦争がもたらした悲惨な犠牲が示すように、日米関係は地域の安全保障に好ましくない影響を与えました。
今日の日米安全保障関係は地域のみならず世界にとっても重要です。戦後のこの地域の平和や安定を当たり前のものとしてとらえてはいけません。その礎となっているのは日米同盟です。
そして暴力的過激主義、地球温暖化、感染症、さらにはサイバー窃盗やサイバー戦争などさまざまな脅威と立ち向かうために、日米共同の取り組みが世界各地でますます必要とされています。
20世紀初めの日米関係は、文明の進化の上で重要でした。日本の功績としては、科学への貢献がありました。また日本の芸術もその1つで、特にアジアの豊かな文化的伝統に精通していない西洋諸国で非常に人気があり、大きな影響力を持ちました。我々は互いに学び、そして尊敬し合いました。
今日、日米は世界有数の援助国です。日本の援助プログラムは、戦争の荒廃からわずか10年後に始まり、今では世界最大級のプログラムにまで拡大しました。
日米の科学者は文字通り世界に「光り」をもたらしました。例えば中村修二教授です。中村教授は日本と米国の両方にルーツを持ち、省エネのLED照明の発明でノーベル賞を受賞しました。また日米のアーティストたちは、子供たちの生活や表情を明るく輝かせています。アニメがその一例です。両国は共に協力して、病気の治療、クリーンエネルギーなどの最先端技術の開発、壮大な宇宙の疑問に答えるために取り組んでいます。
個人的には、日米の友好関係の親密さを非常によく示しているのは、2011年3月11日の東日本大震災に対する米国の救援活動「トモダチ作戦」だと思います。私は津波発生の翌日の午前中にオバマ大統領に説明をしました。
大統領が心を動かされていたのは明らかでした。「我々はあらゆる支援を行う」と言い、即座に行動を起こしました。米国は同盟国が困難に直面しているときに一丸となって対応するという指示を出し、その後、数日もたたないうちに、2万4000人の米軍兵士がトモダチ作戦に参加しました。
米国の優秀な科学者たちは、震災で損傷し、危険な状態になった福島の原子炉の封じ込め作業を支援して、連日連夜働きました。加えて、ジャパン・ソサエティーの会員をはじめ、数え切れないほどの米国民が救援物資やお金、その他必要なものを送りました。
日米が困ったときに緊密でいられるのは、常日ごろから緊密な関係を築いているからです。私は自分の経験からこのことを実感していますし、世論調査でも同様の結果が出ています。
日米パートナーシップは、政治の世界ではめったに手に入れられないもの、すなわち超党派の支援を受けています。しかも日本と米国の両方で。
日米関係はもうひとつの重要な道を一巡しました。広島・長崎から核兵器のない世界を実現する取り組みに至る道です。オバマ大統領の発言を引用します。「核兵器を使ったことのある唯一の核保有国として、米国には行動を起こす道義的な責任がある」。そして核兵器の使用を耐え忍んできた唯一の国として、日本には行動を起こしたいという特別な思いがあることを私は知っています。
日米は過去70年にわたり、以上全ての分野で責任を果たしてきました。日米連携という壊れることのない基盤を足がかりに、「アジアの台頭」の促進を支援し、不透明な世界でリーダーシップを発揮してきました。
では、2国間において、そして地域および世界において、日米はどこに向かっているのでしょうか。このことについて順を追ってお話しします。
2国間においては、我々はあらゆる方法で両国関係の基盤を固めようとしています。
日米間では毎年何万もの学生が互いの国へ留学し、生涯の友情を育んでいます。しかしご存知の方もいらっしゃると思いますが、米国への日本人留学生の数は1990年代をピークに減少しています。日本への米国人留学生は増えていますが、絶対数はまだ低いままです。
ジャパン・ソサエティーの研究員奨学金制度には感謝しています。しかし学生時代に日本に留学した者として、この件について私は個人的な関心があります。本日、ソサエティーの会員として、また一個人として、皆さんに学生交流へのさらなる支援をお願いいたします。
日本人の若者にワシントンのタイダルベイスンの岸辺で米国人の若者と一緒に花見をするよう勧めてください。もし皆さんのお子さんがヤンキース・ファンであれば、日本に1学期間留学して、田中将大投手の古巣である東北楽天ゴールデンイーグルスのゲームを見るように勧めてみてはどうでしょうか。
人的交流は日米2国間関係の柱の1つです。もう1つの柱は安全保障同盟です。日米両国は新たな能力への投資を通じて、同盟の近代化を進めています。我々はまた、日本の安全保障のさらなる確保、相互運用性の向上、他のパートナー国との連携推進、両国の平和と安全保障への貢献の拡大に向け、1997年の日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直しも行っています。
オバマ大統領は昨年4月に東京を訪れた際、日本の安全保障を守るという米国の固い決意をあらためて表明しました。
我々は透明性および地域のパートナー国との連携を重視しています。日米両国が国内そして他国に対し両国の計画を説明しているのはそのためです。この取り組みの一環として、誰でも閲覧できるよう、新たなガイドラインに関する中間報告を公表しました。米国はまた集団的自衛権をめぐる日本国内での議論を歓迎しており、域内の他の国々も歓迎すべきと考えます。
次の柱は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉を通して2国間および地域で強化しつつある経済関係です。
この協定は、オバマ大統領が最優先する米国の雇用創出に欠かせません。関税を下げ、世界の貿易の3分の1と国内総生産(GDP)の40%を占める地域に高い基準をもたらします。そして、すでにニューヨークの100万人近くの雇用を支える地域との貿易の拡大に貢献します。
TPPの参加国は12カ国で、この中で米国と日本が最大の経済規模を持ちます。TPPは全参加国の輸出、成長、雇用創出の促進に役立ちます。またTPPには両国が製品、サービス、投資市場の開放、および技術革新、公正競争、コア労働基準と環境基準の保護を重視している点が反映されています。
日米はTPPを通じて、地域を主導し、より高い貿易基準を実現しようとしています。しかしこの意欲的な目標を達成するには、両国の間に残る2国間の問題、主に農業と自動車分野の問題を解決しなければなりません。
安倍首相は、日本経済を再生させる政策の「第3の矢」である構造改革に取り組んでおり、首相の日本経済のビジョンにとってTPPが重要であることを明確にしています。マイク・フロマン米国通商代表が言うように、「今こそ(安倍首相の)大胆なビジョンを交渉での具体的な進展に変えるときです」。両国の交渉担当官たちはここ数カ月で、多くの点で協議を進展させました。交渉の終わりが見えてきたと我々は信じています。
TPPは経済の枠を越え、オバマ大統領のアジア・リバランス政策の中心です。この協定の締結と批准は、今後長い期間にわたり太平洋を取り巻く諸国の関係を強固にするために、今年実現できる最も重要なことです。オバマ大統領はTPPに対する決意を明確にしています。地域での交渉においても、連邦議会や国内の利害関係者との交渉においても、ケリー国務長官、ルー財務長官、プリツカー商務長官をはじめとするオバマ政権の閣僚が、大統領とフロマン通商代表を支えています。
地域の繁栄は安全保障と密接な関係があるので、我々は北朝鮮による核兵器やミサイル開発のような脅威に対処し、東シナ海や南シナ海の緊張を緩和するため協力します。さらに、東南アジア諸国連合(ASEAN)、東アジアサミット、アジア太平洋経済協力会議(APEC)のような機関を通じるなどして、効果的な地域の枠組みの構築に努めています。
なぜならこうした機関は、公平の原則と法の支配を支持し、力こそ正義という考え方を否定するからです。これらの機関が国の大小を問わず全ての諸国の平和と繁栄に不可欠なことを我々は知っています。
また日米は2国間や地域の協力を越えて、世界的なパートナーシップを強化しています。これにはワクワクします。今もとても多くのことをしていますが、協力をさらに広げる非常に大きな可能性があるからです。日本は長年にわたり国連の枠組みの中で指導的立場にあります。そして今日でも、米国と共に、さまざまな分野で、世界の平和に積極的に貢献する、なくてはならない国となっています。
暴力的過激主義に立ち向かうため、日本はイスラム国と戦うグローバル連合で重要な役割を果たし、被害に遭っている地域で多くの人道支援を提供してきました。今週の安倍首相の中東訪問により、この問題への日本の関与がさらに深まるでしょう。
日米両国は、開発途上国の気候変動との闘いを支援する緑の気候基金への最大の貢献国です。これまでに日本は15億ドル、米国は30億ドルの支援を約束しています。
エボラ出血熱に関しては、日本は昨年約1億5000万ドルを提供しており、それ以前にも長年にわたりアフリカ全土で、そして世界各地で保健および貧困問題を軽減するため尽力してきました。我々は共に、サハラ砂漠以南の地域で貿易、投資、開発を促進するアフリカの女性起業家を支援しています。
日本は、ロシアによる昨年のウクライナへの侵攻を阻止するための厳しい制裁を支持してきました。そのずっと以前から、日本は世界各地で人権と民主主義の原則を支持するため誇りを持って米国に協力してきました。
日本がフィリピンの台風30号(ハイヤン)の被災者を支援するため、第2次世界大戦後、最大規模の自衛隊を派遣したのは、1年と少し前のことでした。他にも日本は数え切れないほど貢献しています。
このような幅広い行動は、世界の指導的立場にある国々の中で、日本が真のパートナー国であることを示しています。
先ほど、今年は第2次世界大戦終結と国連創設70周年にあたると申し上げました。この記念の年に我々が共に直面する課題の中で、最も細心の注意を要するのは、前世紀の遺産に取り組むことです。
我々は、2015年の年頭記者会見における安倍首相の前向きな発言を歓迎します。今年の記念行事の運営において、和解を真に進める形で協力することに誰もが利害を持つと私は固く信じています。
米国は、日本とその隣国との関係に深い関心を持つべきです。我々は皆、北東アジアにおける協調に大きな利害関係があります。
日本と韓国の担当者が、米国を交えた3カ国間を含め、緊密に連携していることをうれしく思うのはそのためです。自由市場経済を取り入れた、米国の同盟国でもあるこの2つの民主主義国家は、2015年に国交樹立50周年を迎えます。
安倍首相と習近平国家主席が昨年11月に初めて会談し、我々皆が今後日中関係の改善につながると期待する一歩を踏み出したとき、私はオバマ大統領と北京にいました。
私は近年の日本の活発な外交にも感銘を受けてきました。私はニューデリーを訪れたばかりで、そこでは私と日本、インドの担当者が会合を持ちました。その前に訪れたオーストラリアでは、安倍首相がオバマ大統領、アボット首相と会談しました。
日本は東南アジアにおいて、特にASEANに積極的に関与しています。またこれと同程度に太平洋諸島諸国にも関与しており、これらの国々は日本の貴重な開発援助の恩恵を受けています。
オバマ大統領は過去6年間、米国経済の将来と安全保障は活力あるアジア太平洋地域に左右されるという認識に基づいて、この地域を戦略的最優先事項としてきました。ケリー国務長官はさまざまな方法で、米国のリバランス政策を精力的に進めてきました。
この地域への関与が米国の国益であることは明らかなので、個人の性格や政権政党に関係なくこの政策が継続することに疑問の余地はありません。
そして同様に、地域および国際システムを構築するにあたり、日本が掛け替えのないパートナーであり続けることにも疑問の余地はありません。自問してみてください。世界が直面する大きな課題とは? イノベーションを必要とする課題とは? そしてリソースと情熱を必要とする課題は? さらには普遍的な権利と自由を擁護する国の道徳的権威を必要とする課題とは? このような問題がどこで発生しようとも、日本と米国は協力して対処するでしょう。
私は日米関係の将来に大きな希望と自信を持っています。私がこのように感じるのは、1つには、今私が挙げたように、日米にはさまざまな共通点と協力分野があるためであり、また私自身の個人的な経験のためでもあります。
これらの共通点と協力分野が示すのは、日本と米国、そして日米の文化と国民の間のつながりが、貿易や安全保障上の協力関係から得られる以上のものを生み出すこと、そして日米関係全体はその要素を足し合わせたものよりも大きいということです。
昨年の感謝祭に、何に最も感謝するかという質問をタイム誌から受けたとき、ケリー国務長官はこう答えました。「ほとんど奇跡と思えるような変化が可能なことを証明する世界です」
我々がこの記念すべき年を迎えるにあたり、奇跡的な変化を体現し、さらに前進しているパートナーシップに感謝しましょう。次の70年間にこのパートナーシップがもたらす恩恵は、我々の想像をはるかに超えるものとなるでしょう。