ボーイング社レントン工場におけるケリー国務長官の講演 - 「世界は米国製品を求める」(抜粋)
*下記はボーイング社レントン工場におけるケリー国務長官の講演から環太平洋パートナーシップ協定(TPP)関連箇所を抜粋したものです。日本語は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
2015年5月19日、ワシントン州レントン
(前略)
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)には現在、米国を含む環太平洋地域の12カ国が参加している。交渉は最終局面に入っており、妥結すれば世界経済の4割を占める国々を網羅することになる。他の複雑な協定同様に、詳細に関しては意見調整が必要な部分が多い。しかしこの協定が重要である理由は明らかで、理にかなっている。
第一に、今日の世界では国内での売買だけでは経済成長は期待できない。それはありえない。貿易が雇用を支え、繁栄をもたらす。過去5年、10年、50年、100年の歴史がこれを証明している。
(中略)
基本的なルールは明白だ。ではここでTPPが必要不可欠である第二の大きな理由について話そう。TPPに参加することで、米国は最高基準の貿易ルールの策定で主要な役割を果たすことができる。
米国は長年にわたり闘ってきた。19世紀を振り返ってみよう。職場で働く全員が現在と同じような待遇を受けていたわけではない。(現在の待遇は)簡単に手に入ったものではなく、長年にわたって闘い、勝ち得たものだ。我々は経済成長のために労働者が搾取されることがないよう、長い年月をかけて労働者を保護するために闘ってきた。企業に対しては、環境基準の順守を求めている。これは各家庭が、工場や産業施設のすぐそばに住んでいようと、きれいな空気や水を享受できるようにするためだ。我々は世界各国と最下位を目指す低レベルな競争を繰り広げるために自らが大切にするものを犠牲にするのではなく、米国企業が事業活動を行う際に適用される高い基準を他国が満たすように支援することが大切であると考える。
これを可能にするのが、連邦議会に提出されている法案だ。
(中略)
今アジア太平洋地域は、過去に交渉されたことがない通商協定をまとめる機会を手にしている。参加国は、主要な国際労働および環境基準の順守、就業最低年齢に満たない労働者の雇用および危険な職場の使用の禁止、国有企業と民間企業間の公正競争の実現、通商関連の贈収賄や腐敗への取り組み、合法的なデジタル貿易や知的財産保護対策への支援が義務付けられる。また参加国は約束の履行を保証しなければならない。なぜならこれらの約束はこの協定の下で法的拘束力を持つからだ。協定がまとまらなければ、以上のことは実現しない。そんなに難しい選択ではないはずだ。私が今述べた協定は、間違いなく歴史的な通商協定となる。
TPPは一昔前の協定とは異なる。これは新しい制度で、21世紀の協定だ。主要な合意事項および高い基準は、付帯決議でも書簡でもなく、協定の文書に盛り込まれる。
連邦議会は貿易に関する新たな審議を始めた。議論の一部は関連した問題を扱っている。しかし、TPPが米国のためになるかどうかという重要な問題について、これに反対する意見は真剣であり、情熱的でもあるが、これらの主張には大きな欠点があると言わざるを得ない。
(中略)
米国は(世界各国の)人々に対し、開かれた市場、資本主義、自由な投資の流れへの支持を求めている。我々は起業し、製品を作り、世界各地で販売し、果敢にリスクを冒す能力を深く尊重する。これこそ米国という国の特徴である。そして我々が数世紀にわたり主張してきたのは、政府が果たせる最も責任ある役割とは、商取引を尊重することであるという点だ。つまり政府の意向を押し付けるのではなく、リスクを冒す自由、投資する自由、好きな仕事に就く自由など「自由」に基づく基本原則からなる枠組みをつくり出し、その後は邪魔にならないよう、この国で大きな成果を挙げている民間部門のやり方に任せることだ。
現在、この考えを懸命に取り入れようとしている国や、また既に受け入れている国もある。経済的利害からそうせざるを得ないのだ。それらの国はグローバル化した世界で競争するにはこれが唯一の方法だと認識し、取り残されたくないと考えている。我々もグローバル化した経済システムは、米国がいても、いなくても変化していくという事実を認めなければならない。だからこそ、変化に抵抗するのではなく、変化を確実に活用していくために人材に投資すべきだ。
(中略)
現在から見れば、将来の世界はかなり複雑化しているように見える。それは皆が知っていることだ。今の混乱した状況は複合的な要因から生まれている。例えば、世界がより緊密になってきている中でさえ、テロ、過激なナショナリズム、資源争い、また世界の一部の地域では成人人口が大幅に増加し十分な雇用を確保できないことなど、人々を分断する強力な力が働いている。その結果、機会と不満との競争が生まれる。我々が負けることが許されない争いだ。貿易が拡大すれば、イノベーションが推進され、またアジアなどの地域でこれまで実現してきたように、何億もの人たちが貧困から抜け出すことができ、我々がこの争いに勝利する力になる。ほとんどの暴力的過激主義の温床となっているのは貧困だ。
同様に重要なこととして、TPPのような通商協定は米国とパートナー諸国を団結させ、他分野での協力を推進させる。貿易に関する共通の利害に基づく共同体をつくることで信頼が強化され、他分野での協力拡大につながる。これは重要だ。なぜならアジア太平洋地域は、今日の世界で最も活力に満ちた地域であり、今世紀の歴史の大部分がここでつくられることになるからだ。アジア太平洋地域には、世界で最も人口が多い国の上位4カ国と世界1位から3位までの経済大国が含まれている。ここ(ボーイング社レントン工場)で製造している飛行機に乗りたいと考える中間層も急増している。
うれしいことは、米国のこの地域への関与は歓迎され、重要な影響を及ぼしている。なぜならパートナー諸国はそれぞれの市場、そして将来さえもが密接につながっていると認識しているからだ。もし米国がアジア太平洋地域から撤退したら、そして同様に我々の友好国が米国に背を向けたとしたら、我々が直面する世界はここ数十年のものと大いに様相が異なるものになっていただろう。そしてそれは、より安全な世界ではないはずだ。
はっきりと言おう。我々の太平洋地域での目標は非常に重要だ。なぜなら米国が求めているものは、この地域の大多数の国が求めているものと同じだからだ。それは、国の大小に関係なく全ての国の主権が尊重され、紛争解決を秘密裏にではなく、法の支配の下に行うことだ。我々が外交的に関与するのと同じように経済的にも全面的に関与すれば、我々は―率直に言って我々は皆―これを実現する手助けができる。同僚であるカーター国防長官が示唆したように、TPPはアジア太平洋地域での米国の国益にとって、軍事態勢と同じように重要である。TPPの妥結は、米国が今後もアジア太平洋地域の繁栄および安全保障の取り組みで先頭に立ち続けるというメッセージを地域全体そして世界に発信することになる。これは米国にとっても、貿易相手国にとっても良いことであり、米国北西部の企業や労働者のためになることは間違いない。
最も重要なことは、2015年を貿易交渉が難しすぎると判断する年にしてはならないということだ。試合を途中で放棄し、大恐慌や第2次世界大戦から得た70年間の教訓を無視してもならない。また自由で開かれた貿易の原則が、信頼性のない、空虚な保護主義や重商主義の展望に取って代わられるのを傍観しているときでもない。
技術発展や時間の経過がもたらした必然的な経済の転換を貿易や通商協定のせいにすることは前進しているとはいえない。未来が新しい産業の創出機会で満ち溢れているときに過去にしがみつくことは進歩的ではない。ワシントン州の伝統、そして米国の伝統を維持するよりも、この地域の人々や米国民のために、より力強く繁栄する、安全な未来を切り開くつながりを地平線の向こうに求めることの方が意義が大きい。
(後略)