2014年国別人権報告書―日本に関する部分

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

米国国務省民主主義・人権・労働局

2015年6月25日

エグゼクティブ・サマリー 

  日本は、議院内閣制を採用する立憲君主制国家である。2012年の衆議院選挙の結果、自由民主党の安倍晋三総裁が首相に就任した。2013年7月の参議院選挙により、連立与党が参議院の過半数を獲得した。11月21日、安倍首相は衆議院を解散し、12月14日に総選挙を実施した。現政権の監督下で2回目の国政選挙となったこの選挙は、自由かつ公正とみなされた。当局は治安部隊に対する実効的な支配を維持した。

  主な人権問題には、起訴前の被勾留者に対する適正手続きの欠如、刑務所および収容施設の劣悪な状況、および子どもの搾取などがあったが、政府は6月18日、児童ポルノの単純所持を犯罪とする法改正を行った。

   他にも根強く残る人権問題として、庇護希望者の収容、女性に対する配偶者からの暴力およびセクハラ(性的嫌がらせ)、外国人実習生の搾取を含む人身取引、マイノリティー・グループ、レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー(LGBT)、および障害者に対する社会的差別などがあった。

  政府は人権侵害を禁止する法律を執行し、侵害行為を行った政府職員を訴追した。

1部 個人の人格の尊重(以下の状況からの自由) 

a. 恣意的または違法な人命のはく奪 

 政府またはその職員による、恣意的、または違法な人命のはく奪は報告されなかった。

b. 失跡 

  政治的動機に基づく失跡の報告はなかった。

c. 拷問およびその他の残酷、非人道的、または屈辱を与えるような処遇または処罰 

  法律はこのような行為を禁止しており、知られている限りでは、政府職員がこうした行為を行ったという報告はなかった。

 10月28日、検察審査会は、2010年の強制送還中のガーナ人男性の死亡に関与したとされた10人の入国管理局職員について、不起訴処分とした2012年の地方検察庁の決定を支持した。この検察審査会の決定により刑事手続きは終了したが、国に賠償を求める民事訴訟は引き続き係争中であった。11月、羽田空港で上陸を拒否されたスリランカ人男性が、東京入国管理局で退去強制手続き中に死亡したという報道があった。この男性が収容施設の居室で倒れた後、入管職員が救命措置を施し、救急車を呼んだが、病院で死亡が確認された。この事案は捜査中であった。

 日本政府は依然として、死刑囚に対し、死刑執行日に関する情報を事前に提供せず、死刑囚の親族に対しては、死刑執行後、その事実を告知した。政府は、この方針は受刑者に自分の死期を知る苦しみを与えないものであると考えた。 権威ある心理学者の中にはこの論理を支持する者もいたが、異議を唱える者もいた。

 2014年には、自衛隊でのしごき、いじめ、セクハラが継続した。4月23日、東京高等裁判所は、2004年に発生した21歳の自衛隊員の自殺について、暴行、恐喝および監督義務の不履行との因果関係を認め、国および元自衛隊員に対し、約7330万円(69万1500ドル)の損害賠償の支払いを命じた。同裁判所はまた、証拠隠匿により、国に対しさらに20万円(1890ドル)の損害賠償の支払いを命じた。8月26日、自衛隊は18人の女性隊員にわいせつ行為をしたとして、男性1等陸曹を停職処分とした。防衛省は2013年4月から2014年3月までに、42人の自衛隊員を懲戒処分にした。

刑務所および収容施設の状況 

 刑務所の状況は、全般的に国際基準に合致したものであったが、いくつかの施設では定員超過や、冬季の暖房または夏季の冷房の不備があった。

物理的な状況

 2013年末時点の被収容者数は6万2971人で、2012年からわずかに減少した。この数字には判決を受けた受刑者だけではなく、勾留されている被告と被疑者も含まれており、そのうち女性は5056人であった。未成年者は含まれていない。当局は、刑務所と収容施設で、被収容者を男女別々の施設に収容した。全国の被収容者数は、施設の収容可能人数である9万536人(2013年末時点)を大幅に下回ったものの、4カ所の刑務所で定員超過が報告された。判決を受けた女性受刑者を収容する施設は、全国で定員の82.9%以上に相当する数の受刑者を収容していた。当局は、刑務所や通常の収容施設では20歳未満の未成年者を成人とは別に収容したが、入国者収容施設では未成年者を成人と別の施設に収容することを義務付ける規定はない。

  刑務所や拘置所における死亡事例はまれであった。2013年にビルマ人庇護希望者が死亡した入国者収容施設と同じ施設で、3月、2人の被収容者が死亡したという報道があった。食事を喉に詰まらせたイラン人男性は、治療のため地元の病院に運ばれたが、翌日死亡した。2日後、単独室にいたカメルーン人の男性が意識不明の状態で発見された。収容施設の職員が救命措置を施し、救急車の出動を要請したが、病院へ到着してから1時間後に死亡が確認された。収容施設の広報担当者は、このカメルーン人被収容者が死亡する数日前に体調不良を訴えたことから単独室に移し、医師の診察を受けていたと語った。両事案の死因については不明のままである。2013年に、57歳のビルマ人被収容者が脳卒中の発作を起こして死亡したが、このとき同施設の職員は当直の医師が昼食中だったと説明した。当局は、この被収容者が倒れた約1時間後に医師を呼んだものの、彼はその後病院で死亡した。

 一部の施設では、受刑者を寒さから守るための衣類や毛布が十分に与えられていなかった。ほとんどの刑務所は、冬季に夜間気温が氷点下まで下がっても暖房を入れなかったため、受刑者は多岐にわたる予防可能な寒冷傷害にかかった。東京の外国人受刑者は引き続き、寒さに長期間さらされたためにさまざまな程度のしもやけができた手足の指を見せた。

 信頼できる非政府組織(NGO)と、この分野の外国の専門家の報告によると、一部の施設では食料や医療処置が依然として不十分であった。この分野の外国の専門家は、2014年に、刑務所の食事が不十分なため、受刑者の体重が減少している事例を確認した。受刑者には飲料水が提供された。

 この分野の専門家は、医療処置が不十分であった事例を文書に記録し、その中には既存の疾患がある被勾留者や受刑者も含まれていた。外国の専門家は、歯科治療は最低限のものしか提供されず、緩和ケアが行われていないと指摘した。法律により受刑者には毎日少なくとも30分間の運動が認められているにもかかわらず、受刑者は十分な運動の機会が与えられなかったと抗議した。警察および刑務所では特に精神疾患の治療が遅く、精神科の治療を提供するための手続きがなかった。この分野の外国の専門家は、精神疾患を患う被勾留者について、裁判が無期限に延期されることもあると指摘した。NGO、弁護士、医師は、警察が管理する留置場ならびに入国者収容施設における医療体制も引き続き批判した。

管理

 信頼できるNGOは、刑務所の管理部門が、最長3カ月だが、必要と認められる場合に1カ月ごとの更新が可能な単独室収容に関する規則を、日常的に乱用していると引き続き報告した。刑務所側は、単独室収容は、定員いっぱい、あるいは超過状態にある刑務所内の秩序を維持するために重要であると主張した。

 報告によれば、当局は死刑囚について、死刑執行まで平均約8年間、単独室に収容した。親族、弁護士、およびそれ以外の人々との面会は認められたものの、中には、何十年も単独室に収容された死刑囚もいた。3月、国はある死刑囚を48年ぶりに釈放した。このうち30年は単独室での収容であった。裁判所は、有罪判決に用いられた証拠を捜査機関がねつ造した可能性があると判断し、再審を命じた。

 収容場所、移送日、移送先、懲罰および面会者のほか、受領した荷物、書籍および書簡の数に関する情報など、受刑者に関する記録の管理は詳細かつ適切なものであった。初犯の非暴力犯の場合、当局は通常、代替刑や執行猶予を適用した。

 法律により刑務所内では、刑務所の管理の妨げにならない限り、さまざまな宗教上の儀式を行うことが認められている。刑務所は教戒師との面談も許可するよう義務付けられているが、日常的に宗教上の儀式を行うことを必ずしも認めるわけではなかった。刑務官は、宗教上の会合に参加したい、または宗教的カウンセリングを受けたいという外国人受刑者の要望について、受刑者の国籍国の大使館に、この要望を許可する、あるいはカウンセリングを行う人物の資格を確認する意思がない限り、時としてこれを拒否した。

 当局は受刑者と被勾留者が検閲を受けることなく司法当局に苦情を申し立て、問題があると主張する状況の調査を要求することを認めていたが、調査結果については、最終結論以外の詳細がほとんど書かれていない書簡を受刑者に送っただけだった。刑務所を監察する行政監察官は存在しなかったが、独立性を持つ委員会(以下を参照)がその役割を果たした。

独立した監督

 NGOの報告によると、政府は全般的に、NGOおよび国際機関による視察を許可した。11月時点で、赤十字国際委員会は刑務所の視察を要求しなかったが、日本弁護士連合会は視察を要求した。

 刑事収容施設法令では、法務省が管理する刑務所および拘置所と警察が管理する留置場を、独立性を持つ委員会が視察する旨、規定されている。当局は、医師、弁護士、地方自治体職員、地域住民で構成される委員会が、刑務官の立ち会いなく被収容者と面接することを認めた。3月までの1年間にこれらの委員会が実施した視察は185件、被収容者との面接は547件、提出した意見は578件だった。提出された意見のうち、職員が提案された改善措置を講じた、あるいは講じることを約束したものは381件だった。

 法律により、入国者収容施設についても第三者による視察委員会が視察を行っている。6月までの1年間にこれらの委員会が実施した視察は16件、被収容者との面接は66件、提出した意見は86件だった。提出された意見に基づき、収容施設が改善措置を講じた、あるいは講じることを約束したものは68件だった。国内外のNGOおよび国際機関は、この手続きが刑務所の視察にかかる国際的な基準を満たしていないと引き続き指摘した。その理由として、法務省が視察委員会の全支援業務を担当していること、被収容者との面接時に法務省の通訳を使うことを挙げた。入国者収容施設の管理者は、通訳は法務省ではなく民間人であると指摘した。

 日本の52カ所の少年矯正施設を監視する視察手続きは、存在しなかった。

d. 恣意的逮捕または留置・勾留 

 法律により恣意的逮捕や留置・勾留は禁止されているが、信頼できるNGOとジャーナリストは引き続き、大都市の警察が人種プロファイリングを用い、「外国人のように見える」人、特に肌が浅黒いアジア人やアフリカ系の人に理由なく嫌がらせをし、時には逮捕することもあったと主張した。

警察および治安維持機構の役割 

 国務大臣がその長を務める政府機関である国家公安委員会が警察庁を管理し、都道府県公安委員会が都道府県警察を管理する。政府は権利の乱用および汚職を捜査し、処罰する効果的な制度を有していた。2014年には、治安部隊に関係する刑事免責の報告はなかった。一部のNGOは依然として、都道府県の公安委員会が警察機関からの独立性に欠けている、または警察機関に対する十分な権限を持たないと批判した。

逮捕手続きと被拘禁者の処遇 

 当局は、正当な権限を持つ当局者が証拠に基づいて発付した令状により公に個人を逮捕し、被拘禁者を独立した司法制度の下で裁いた。この分野の外国の専門家は、令状は高い頻度で発付され、証拠の根拠が薄弱であるにもかかわらず留置・勾留が行われることがあるほか、複数回にわたる被疑者の再逮捕が、警察の立件を容易にするために使われたと、引き続き主張した。

  法律は、たとえ同じ組織が捜査業務と留置業務の両方について責任を負う場合であっても、この2つの業務を分離すると規定しているが、警察の管理する留置場を使用することで、被疑者は取調官の監督下に置かれた。警察は逮捕された被疑者の大部分を警察の留置場に送り、法務省が管理する拘置所に収容された被疑者の割合はそれよりも大幅に少なかった。

 法律により、被拘禁者には、その留置・勾留の合法性に関する迅速な司法決定を受ける権利が与えられており、当局は被拘禁者に対して、直ちに容疑を告知しなければならない。

 法律により、当局は起訴することなく、最長23日間にわたり被疑者の身柄を拘束することができる。

 法律により、被勾留者、その親族、または代理人は、裁判所に対して、起訴された被勾留者の保釈を請求することができる。警察の留置場または法務省が管理する拘置所に勾留されている起訴前の被勾留者には、保釈が認められていない。信頼できるNGOはまた、不正行為ではあるが、取調官が被勾留者に対し、自白と引き換えに刑期の短縮や執行猶予を申し出ることもあったと述べた。

 起訴前に勾留されている被疑者は、取り調べを受けることが法的に義務付けられているが、警察庁の指針により、取り調べ時間は1日最長8時間に制限され、夜通しの取り調べは禁止されている。起訴前の被勾留者は、国選弁護人との少なくとも1回の接見を含め、弁護人と接見することができた。しかし、取り調べ中に弁護人が同席することは認められていない。

 当局は通常、親族が被勾留者と面会することを許可しているが、その際には職員の立ち会いが要求された。法律により、被疑者が逃亡する、あるいは証拠を隠匿または隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合、警察は被勾留者が弁護人以外の人物と面会することを禁止できる。薬物犯罪の容疑をかけられている被勾留者の大半を含む、多くの被勾留者は、起訴されるまで隔離されており、領事および弁護人との接見しか許されなかった。犯罪の種類と、被勾留者を隔離できる期間との間には法律上の関連性はない。しかし、薬物犯罪の容疑をかけられている被勾留者については、検察官が、親族やその他の者との接触が取り調べの妨げになると考え、他の被疑者よりも長く隔離する場合が多かった。

 国家公安委員会の規則は、警察官が被疑者に接触すること(やむをえない場合を除く)、物理的な力を行使すること、脅迫すること、被疑者に長時間一定の姿勢を取らせること、言葉で虐待すること、自白を引き出すために被疑者に好ましい申し出をすることを禁止している。法務省はこのような事例があったことを否定しているものの、信頼できるNGOは、当局がこの規則を適切に執行せず、極端な事例では、依然として被勾留者に対し8時間から12時間に及ぶ取り調べを行い、その間ずっと被勾留者を手錠で椅子につないだままにし、強引な尋問方法を用いたと主張した。NGOはまた、物理的な力の行使は一般的に減少しているが、当局は自白を引き出すために心理的に威圧感を与える手法を引き続き用いていると指摘した。

 検察官は取り調べ中、自己裁量で被疑者の自白を一部録音・録画することができる。最も一般的な録音・録画方法は読み聞かせで、警察官が被勾留者の自白を復唱、または口頭で要約するのを録音・録画する。当局は選択して録音・録画を編集するため、自白や、警察による口頭での自白の要約という結果に至る場合が多いと報告される、心理的に威圧感を与える手法を、裁判所は確認できないかもしれない。全都道府県が取り調べの一部の録音・録画の試行を実施している。一部の県は取り調べの全過程の録音・録画の試行を開始した。警察内部の監督官が取り調べに同席することが増える一方で、独立した監督は行われず、強制的に自白させられたという申し立てが続いた。

 警察庁は、2013年に取り調べに関する苦情を487件受け、35 件について取り調べにかかる指針に対する違反行為を確認したと発表した。監察部門は一部の違反者を懲戒処分としたが、警察庁は関連する統計を公表しなかった。アムネスティ・インターナショナルは、取り調べ全体の電子的な録音・録画の導入、および弁護人が立ち会わない取り調べの禁止などの改革を求めた。

起訴前の勾留

 当局は通常、逮捕から72時間まで、警察が運営する留置場に被疑者の身柄を拘束した。法律では、起訴前の勾留は、ある人物が罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があり、かつ証拠の隠匿もしくは隠滅、または逃亡のおそれがある場合に限られるが、これは習慣的に行われていた。裁判官は逮捕から72時間が経過する時点で被疑者を面接した後、起訴前の勾留期間を10日間ずつ、最長20日間まで延長できる。検察官はこの延長を習慣的に請求し、許可を得た。暴動、外国からの侵略、暴力的な集会などの例外的な事案の場合、検察官はさらに5日間の延長を請求できる。

 裁判官は習慣的に検察官の勾留延長請求を認めるため、「代用監獄」として知られる起訴前の勾留は通常23日間続いた。2014年の被勾留者のほとんど全ては、代用監獄に勾留された。信頼できるNGOと、この分野の外国の専門家は依然として、起訴前の被勾留者が隔離されたまま、最長23日間勾留されることが日常的であり、その間弁護人、あるいは被勾留者が外国人の場合は自国の領事以外との面会が許されなかったと報告した。

受け入れを拒否された庇護希望者または無国籍者の収容

 信頼できるNGOは、庇護希望者などの非正規移住者を長期間収容するという政策が依然として問題であると指摘した。NGOは、申請手続きを簡素化して申請者の収容期間を短縮する法務省の継続的な取り組みにより改善が見られたと述べた。

e. 公正な公開裁判の拒否 

 法律により、独立した司法制度が規定されており、実際に日本政府は、全般的に司法の独立性を尊重した。

審理手続き 

 法律により、全ての国民に公正な裁判を受ける権利が与えられている。起訴された個人はそれぞれ、遅滞なく独立した裁判所で公開裁判を受ける権利を有し、貧困にある場合に提供される国選弁護人を含め、弁護人を得ることができ、反対尋問の権利が与えられている。重大な刑事事件に関しては裁判員制度が置かれており、被告は自己に不利益な供述を強要されない。被告は容疑について速やかに、詳細な情報を得る権利を与えられている。刑事事件の被告が外国人である場合は、当局が、無償の通訳サービスを提供した。民事事件で被告となった外国人は、通訳費用を負担しなければならないが、裁判官は裁判所の判決を踏まえ、その費用の支払いを原告に命じることができる。

 被告は、有罪と証明されるまで推定無罪とみなされるが、権威あるNGOおよび法律家は、実際に被告が推定無罪とみなされているかどうかについて、引き続き疑問を呈した。日本政府は、主に自白に基づいて有罪判決が下されているのではないこと、および取り調べに関する指針は被疑者が罪の自白を強要されない旨を規定していると引き続き主張したが、NGOによると、起訴された被勾留者の大半は、警察に勾留されている間に自白した。

 2013年に裁判所が審理した刑事事件は約40万件であり、無罪判決が下った被疑者は122人であった。その結果、有罪判決の割合は99.9%を超えた。裁判所はまた、345件について公訴棄却とした。独立した立場の法律学者は、日本の司法は自白を重視しすぎると主張したが、日本政府はこれに異議を唱えた。

 被告は弁護の準備、証拠の提示、および上訴のため、自らの弁護人を選任する権利を与えられている。裁判所は弁護士会を通じて、被告による弁護人の選任を支援することができる。弁護人費用を負担できない場合、被告は国選弁護人を要求できる。

 一部の独立した立場の法律学者によると、審理手続きは検察側に有利となっている。法律により、弁護人との接見が認められているにもかかわらず、かなりの数の被告が、弁護人との接見不足を報告した。法律では、被告側の弁護人が開示手続きに関する厳しい条件を満たすことができる場合を除いて、検察官による資料の全面開示を義務付けていない。このため、検察側が裁判で使用しなかった資料が隠されることもあった。

政治囚と政治的被拘禁者 

 政治囚または政治的被拘禁者が存在するとの報告はなかった。

民事司法手続きと救済 

 民事事件に関しては、独立した公正な司法制度がある。個人は、人権侵害に対する損害賠償、あるいは人権侵害の中止を求める訴訟を起こすことができる。不正行為の申し立てに対しては、行政による救済措置と司法による救済措置の両方がある。

f. プライバシー、家族、家庭、または信書に対する恣意的な干渉 

 法律により上記のような行動は禁止されており、実際に日本政府は、全般的にこれを順守した。

2部 市民の自由の尊重 

a. 言論と報道の自由 

 憲法により言論と報道の自由が規定されており、実際に日本政府は、全般的にこうした権利を尊重した。独立した報道機関、効果的な司法制度、および機能する民主的政治制度が相まって、言論と報道の自由を促進した。

検閲または内容の制限

 報道機関は、制限を受けることなく、さまざまな意見を表明した。一部のNGOは、記者クラブ制度により、報道関係者、政府職員および政治家の間に緊密な関係が築かれ、自己検閲や似たような報道が助長されたと、引き続き批判した。

インターネットの自由 

 政府はインターネットへのアクセス制限や介入、またはオンライン上のコンテンツの検閲を行わなかった。また政府が適切な法的権限なく、個人的なオンライン通信を監視したとの信頼できる報告もなかった。インターネットは広く利用可能であり、かつ利用された。

学問の自由と文化的行事 

 文部科学省による歴史教科書検定は、特に日本の20世紀の植民地支配および軍事に関する歴史の扱いについて、引き続き論争になった。

 国歌と国旗は、依然として論議の的となる象徴であった。行政は、国旗掲揚時に起立し、国歌を斉唱することを拒否した公立学校の教員を戒告処分とした。

 政府が文化的行事を制限することはなかった。

b. 平和的な集会および結社の自由 

 法律により集会と結社の自由が規定されており、実際に日本政府は、全般的にこれらの権利を尊重した。

c. 信仰の自由 

 国務省の「信仰の自由に関する国際報告書」(www.state.gov/religiousfreedomreport/)を参照。

d. 移動の自由、国内避難民、難民保護および無国籍者 

 法律により、国内の移動、外国旅行、移住、本国帰還の自由が規定されており、実際に日本政府は、全般的にこれらの権利を尊重した。日本政府は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)およびその他の人道支援組織と協力して、国内避難民、難民、庇護申請者、無国籍者、およびその他の関係者に保護と援助を行った。

国内避難民 

 2011年3月の地震、津波および福島第一原子力発電所の事故の後、政府は全般的に、避難所およびその他の保護サービスを十分に提供するとともに、移住または再建の選択肢を提供しようと努めた。報道機関は、行政の混乱または住宅の再建や放射能汚染地域の除染の進展が遅いことを挙げて、復興庁を批判した。7月31日、復興庁は、被災地の復興に割り当てられた2013年度予算のうち、64.7%が未執行であると発表した。同庁の統計によれば、6月および7月の時点で、避難者およそ24万7000人のうち、避難所に残った者はいないものの、約23万人が仮設住宅で暮らしていた。

難民の保護 

庇護へのアクセス

 日本の法律は、庇護の付与あるいは難民の認定を規定しており、日本政府は既に国内に居住する難民を保護する制度を確立している。2013年3月、政府は、国連第三国定住プログラムに参加するビルマ難民の選考基準を緩和した。

 2013年の難民認定申請者は3260人で、日本が難民認定を開始して以降、最多となった。当局が難民と認定した数は6人で、人道的な配慮が必要として在留を認めた(人道配慮)数は151人であり、2012年の総庇護数より21%増加した。難民グループによると、庇護を受けた157人のうち、約52%は優遇措置を受けていたビルマ人であった。2013年に難民の認定を受けた6人のうち、当局は当初、3人の認定を認めなかったが、異議申し立てを受けて難民と認定した。NGOは、シリア人申請者について、一部の者は人道配慮から在留が認められたものの、難民認定を受けた者がいないことを指摘した。

 難民と庇護申請者は、難民審査参与員制度の下での審問への参加を弁護士に依頼することができる。法的支援を求める多くの難民および庇護希望者は、政府の援助による法的支援を受けることができなかったが、日本弁護士連合会が、金銭的な余裕がない申請者に対して無償で法律支援を行うプログラムに、引き続き資金を提供した。

 政府、日本弁護士連合会、およびNGO「なんみんフォーラム」は、成田空港に到着し、仮上陸または仮滞在の許可を得た難民認定申請者に対し、住居、社会福祉および法的サービスを提供する試験的プロジェクトを延長した。

ルフールマンの原則

 政府は、「国連難民の地位に関する条約」および「難民の地位に関する議定書」に従い、生命や自由が脅かされると考えられる国への難民の国外退去あるいは送還を行っていない。難民グループは、日本政府が庇護申請を判断する際の証拠の基準が高いことについて、引き続き懸念を表明した。11月の時点で、在日ビルマ・ロヒンギャ協会は、90人のロヒンギャ族について、難民認定は受けていないものの、一時在留許可を与えられたと確認した。

 2014年にルフールマンの原則が適用される庇護希望者の事案は報告されなかった。

雇用

 難民認定申請者は、有効な短期滞在ビザを所持し、ビザの有効期限内に収入を得る活動に従事する許可(資格外活動許可)を申請しない限り、通常就業が認められていない。許可を得るまでの間、経済的に困難な状況にある一部の申請者に対し、政府が出資する公益財団法人、アジア福祉教育財団の一部門である難民事業本部が、少額の給付金を支給する。

基本的なサービスへのアクセス

 難民は依然として、他の外国人と同様、住居、教育、雇用の機会を制限される差別を受けた。就業する権利を得る条件を満たす人を除き、難民認定が未決、または異議申し立て手続き中の人は、社会福祉を受ける権利がなく、過密状態の政府のシェルターや、労働法の監督対象にならない違法な雇用、またはNGOの援助に頼るしかなかった。あるNGOは、ある入国者収容施設について、非常勤の精神科医および臨床心理士を配置するとともに、収容者に外部の病院の診察を受けさせる頻度を向上させることにより、医療サービスの利用状況を改善させたと指摘した。

 一時的な保護

 政府はまた、難民と認定されない可能性のある個人を一時的に保護した。2013年にこうした保護を受けた人は151人で、2012年よりも40人増加した。

3部 政治的権利の尊重国民が政府を変える権利

 法律により、日本国民には自由かつ公正な選挙を通じて政府を変える能力が与えられており、国民は普通選挙権に基づいて行われる選挙を通じてこれを行使した。

選挙と政治参加

最近の選挙

 安倍首相による11月21日の衆議院の解散を受けて、12月14日に、現政権の監督下で2回目の国政選挙が行われた。また、2013年7月に自由かつ公正な参議院選挙が行われた。候補者が、正式な選挙期間中に、ウェブサイト、ブログ、またはソーシャルメディアを利用することを禁止する法律が2012年に改正されたため、2013年7月の選挙では、候補者がインターネットを通じて有権者と交流することが初めて認められた。

女性およびマイノリティーの参画

 12月の総選挙後、衆議院では475議席中45議席、参議院では242議席中39議席を女性議員が占めた。この選挙後に任命された19人の閣僚のうち4人が、また与党・自由民主党の党三役のうち1人が、それぞれ女性であった。2014年末時点で、47の都道府県のうち、女性知事は2人いた。

 民族に基づくマイノリティー・グループの中には複数の民族の血を引いている人や、マイノリティーであることを自ら明らかにしない人もいるため、民族に基づくマイノリティーの中で国会議員となった人の数を把握するのは難しかった。少なくとも2人の国会議員が帰化して日本国民となったことを認めた。

4部 政府の汚職と透明性の欠如

 法律により、公務員による汚職には刑事罰が規定されており、日本政府は全般的に法律を効果的に執行した。公務員は時として汚職に関わることがあった。独立した立場の学識経験者は、政・官・財のつながりは密接であり、汚職は依然として懸念される問題だと述べた。NGOは、退職した政府の幹部職員が、政府との契約に頼る民間企業で高報酬の職を得る慣行が行われていることを引き続き批判した。法務省は8月、2013年に贈収賄容疑で76人を起訴したと報告し、最高裁判所は2013年に30人に贈収賄で有罪判決を言い渡したと報告した。著名な政治家および公務員が関与した財務会計に関する不祥事の捜査がたびたび報道された。松島みどり法務大臣および小渕優子経済産業大臣の2人の閣僚は、自らの政治団体がそれぞれの選挙区の有権者に物品を贈ったとして公職選挙法違反の疑いを受けたため、10月20日に大臣職を辞任した。

 汚職

 警察庁および国税庁を含む、複数の政府組織が汚職対策に従事している。他にも、公正取引委員会が、談合のような不当な取引制限および不公正な商慣行を防止するため、私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)を執行する。犯罪収益移転防止対策室は、マネーロンダリングおよびテロリストへの資金供与の防止に責任を負う。国家公務員倫理審査会は、倫理規定違反の疑いのある公務員を取り締まる。会計検査院は、政府が主要株主である企業の会計を監査する。汚職対策に従事する機関は全般的に十分な資金を得て独立して効果的に活動を行ったが、一部に要員の不足があった。 

 2013年8月、警察は、組織犯罪集団とつながりを持つ信用調査会社に個人情報を漏洩した見返りに約16万3000円(1540ドル)の賄賂を受け取ったとして、福岡県警の警部補を逮捕したと報告した。警察によれば、この情報の中には、特定の複数の個人の住所および車庫証明に関する情報などが含まれていた。同警部補は懲戒免職となり、2013年12月に懲役3年執行猶予4年の判決を受けた。

資産公開

 法律により、国会議員には、所得、および土地、建物、有価証券ならびに交通手段の所有状況を含む資産(ただし普通預金を除く)の公開が義務付けられているが、配偶者および扶養する子の資産、所得または有価証券の取引状況の公開は求められていない。違反した場合の罰則はない。NGOおよび報道機関は、法律が不十分であると批判した。

情報への国民のアクセス

 法律により、一般市民には、政府の情報を入手する法的な権利があり、法律は効果的に執行された。

5部 人権侵害の疑いに対する国際機関および非政府機関の調査に対する政府の姿勢

 国内外の多くの人権団体は、全般的に、政府による制約を受けずに活動し、人権侵害の事例について調査し、調査結果を公表した。政府関係者は、通常協力的であり、こうした団体の見解に対応した。

政府の人権機関

 法務省の人権相談所が全国315カ所に設置されている。約1万4000人のボランティアが、直接面談して、あるいは電話やインターネットを通じて質問に答え、秘密厳守で相談に応じた。一部の相談所では外国語での相談も可能だった。2013年に法務省は約25万6000件の人権に関する問い合わせを受け、2万2127件の事案で相談または調整を行った。事案の中には、住居に関する不公平な待遇、嫌がらせ、名誉棄損、教師による虐待、および学校におけるいじめの問題が含まれた。法務省はまた、2011年の東日本大震災に関連する相談事案にも引き続き対応した。人権団体はこれらの相談所を独立した、または効果的なものとは考えておらず、国民の信頼を得られていないと報告した。

 国のレベルで独立した行政監察機関そのものは存在しなかったが、総務省の部局である行政評価局の行政相談制度に十分な人員が配置されており、国の行政監察機関と同じ役割を多く果たした。その局長が、国際的な行政監察機関で日本代表を務めた。全国50カ所の行政相談事務所および約5000人の行政相談委員に加え、19都市のデパートなどに設置された総合行政相談所が、無料かつ秘密厳守で相談を行った。こうした相談の利用は容易だった。

6部 差別、社会的虐待、人身取引

  法律により、人種、性別、障害、および社会的地位に基づく差別は禁止されているが、言語、性的指向、または性同一性に基づく差別は禁止されていない。政府はこれらの禁止規定をある程度執行したが、女性、マイノリティー・グループ、障害者、LGBT、および外国人に対する差別の問題は残っていた。さらに、禁止規定の執行には一貫性がなく、障害者に対する一部の規定は、公共部門には適用されるが、民間部門には適用されないと解釈された。

女性

強姦および配偶者からの暴力

 法律により、配偶者間の場合も含め、暴力を用いた女性に対するあらゆる形の強姦が犯罪とされており、政府は全般的に、この法律を効果的に執行した。法律により、強姦者とは「暴行または脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者、または13歳未満の女子を姦淫した者」と定義されている。検察側は、性交が強姦と認められるには、強制力の行使および/または被害者が物理的に抵抗した証拠が必要であると解釈した。警察庁の統計によると、2013年に報告された女性と少女に対する強姦事件の数は1409件で、当局は、531人の被疑者を起訴した。強姦およびその他のわいせつ行為により有罪となった事案は1723件であり、このうち918件(53.3%)で執行猶予付きの判決が下された。

 女性に対する配偶者からの暴力は法律で禁止されているが、依然として深刻な問題であった。警察庁の統計によれば、2013年に報告された配偶者からの暴力の件数は4万9533件で、女性が全被害者の93.4%以上を占めた。1月3日の改正法の施行により、生活の本拠を共にする交際相手、配偶者、元配偶者からの暴力の被害者が、シェルターにおいて保護を受け、裁判所による保護命令を申し立てることが可能になった。

 2013年10月、電子メールによる嫌がらせを禁止する「ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律」が施行された。同月、改正法施行後初のストーカー事件で男が起訴された。被告は元交際相手の女性にストーカー行為を行ったうえ殺害したとして、懲役22年の判決を受けた。警察は2013年に2万1089件のストーカー事件を認知し、逮捕件数は1889件だった。

 政府は第2次世界大戦時の「慰安婦」(戦時中に性的目的のために取引された女性)に対して謝罪を繰り返した。韓国人の元慰安婦およびその支持者は、政府からの公式な謝罪と賠償について要求を続けた。

女性器切除(FGM/C)

 法律はFGM/Cについて具体的に禁止していない。このような行為が行われているという報告はなかった。

セクハラ

 法律ではセクハラを犯罪と規定していないが、セクハラ防止を怠った企業を特定する措置が規定されており、都道府県労働局および厚生労働省はこれらの企業に対し、助言、指導、勧告を与えた。政府の指針を順守しない企業名は公表できるが、政府関係者によると、これまでその必要はなかった。しかし、職場におけるセクハラはまだ広範囲に見られ、2013年4月から2014年3月までに、都道府県の労働局雇用均等室の政府ホットラインが受けたセクハラの相談件数は9230件に上り、そのうち61.8%が女性労働者からの相談だったという報告があった。6月、日本労働組合総連合会は、女性従業員の約49%が職場でのセクハラまたはパワーハラスメントを経験しているが、そのうちの31%の女性が苦情の申し出や相談を行っていないという調査結果を発表した。都道府県の労働局雇用均等室の政府ホットラインは、セクハラに関する相談に対処し、可能な場合は紛争を調停した。

 6月、東京都議会で女性議員が妊娠や出産への支援策について質問を行った際に、男性議員より「早く結婚した方がいいんじゃないか」などというヤジが嘲笑とともに飛び、国内に大きな議論を巻き起こした。この男性議員はその後謝罪し、政党の会派を離脱したものの、議員辞職はしなかった。

リプロダクティブ・ライツ 

 夫婦と個人は、自由に、かつ責任を持って、子どもの数、子どもを持つ間隔と時期を決め、こうした決定を下すための情報と手段を有し、かつ差別や暴力を受けたり、強制されることなく、最高水準のリプロダクティブ・ヘルスを享受する権利を有する。女性は避妊法と、出産時の熟練した介助、妊婦健診、不可欠な産科治療や分娩後のケアなどの妊産婦医療サービスを利用することができた。

差別

 法律により性差別は禁止され、全般的に女性には男性と同じ権利が与えられている。内閣府の男女共同参画局は引き続き、政策を検討し、その進捗状況を監視した。

 雇用における不平等は依然として社会全体の問題として残っていた(第7部d.も参照)。2013年、全労働力人口に占める女性の割合は42.8%だった。女性の平均月給は23万1700円(約2190ドル)で、男性の平均月給(33万4100円または約3150ドル)の約10分の7にとどまった。2013年、女性の管理職は全体の11.2%だった。雇用者はしばしば、妊娠した女性に退職を強要した。

 1月から3月に政府が女性労働者から受けた妊娠・出産関連の嫌がらせや差別に関する苦情件数は2085件であり、6年前から18%増加した。最高裁判所は、マタニティー・ハラスメントの事案を初めて審理し、10月23日、職場のマタニティー・ハラスメントを主張した理学療法士の訴えを支持する判断を下した。この理学療法士の代理人およびマタニティー・ハラスメントの問題に専門的に取り組むNGOの代表は、これを画期的な判決であると評価した。一方で、雇用機会均等法があるにもかかわらず、日本の雇用者はしばしば妊娠した女性労働者に辞職を強要し、このような行為を常に否定し、厚生労働省による苦情の調査を受けてもほとんど不利益を受けることがないと主張した。この判決により、子育て世代の女性の雇用が妨げられるとする日本企業もあった。

 安倍首相は女性の活躍の推進を成長戦略の中核テーマに据えた。この重点政策を専門家は「ウーマノミクス」と称した。保育施設および出産・育児休暇の充実は、私企業に対する有価証券報告書への女性の登用状況の開示の促進と共に、経済および政府への女性の参加拡大に向けた安倍首相の取り組みの重要な柱である。従業員100人以上の民間企業の管理職に占める女性の割合は、2012年6月の6.9%から2013年6月には7.5%へと上昇し、25歳から44歳の女性の就業率は2012年の68%から2013年には69.5%へと上昇した。

 女性の職場参加を推進する政策を安倍首相が導入したにもかかわらず、NGOは引き続き、性差別撤廃措置の実施が不十分であるとし、法律における差別的な条項、労働市場での女性に対する不平等な扱い、選挙で選ばれた高位の議員の中に女性が少ないことを指摘した。NGOは政府に、女性にのみ適用される離婚後6カ月間の再婚禁止規定の廃止、婚姻最低年齢における男女の区別の撤廃、および選択的夫婦別姓制度の採用を要請した。

子ども 

出生届

 国籍法では、子どもの父親が日本人でその子の母親と結婚しているか、子どもを認知している場合、子どもの母親が日本人である場合、または子どもが日本で生まれ、その両親が不明あるいは無国籍の場合に、生まれた子どもに日本国籍を認めている。法律により、国内で生まれた子の場合は14日以内に、国外で生まれた子の場合は3カ月以内にそれぞれ出生届を出すことが義務付けられており、この期限はおおむね順守された。提出期限を過ぎた出生届も受理されたが、罰金が科せられた。

 法律により、出生届に子が嫡出子か非嫡出子かを明記することが義務付けられている。最高裁判所は2013年9月、非嫡出子に嫡出子と同等の相続権を認めない民法の規定は違憲であるという判断を、裁判官全員一致で下した。また、離婚成立から300日以内に生まれた子を前夫の子であると推定する別の規定があるため、正確な人数は不明だが、子どもの出生届が出されず無戸籍となる状況が発生した。2014年に法務省は、無戸籍の人について初の調査を開始した。11月時点でこの調査は継続中であった。

児童虐待

 児童虐待の報告件数は増加を続けた。2014年の1月から3月までの間に各地の児童相談所が対応した、親あるいは保護者による児童虐待の報告件数は7万3765件であり、前年から増加した。警察庁によると、1月から6月までの間に、317件の児童虐待の事例で327人の逮捕者が出た。件数および被疑者の人数ともに約44%の上昇となった。親や保護者による虐待によって死亡した児童は10人だった。10月20日時点で厚生労働省が確認した所在不明児は141人で、そのうち4人は虐待の恐れがあった。

 法律により、児童福祉職員には、虐待する親が子どもと面会すること、あるいは連絡を取ることを禁止する権限が与えられている。また法律により、しつけの名目での虐待が禁じられているほか、疑わしい状況に気づいた者は誰であろうと、各地の児童相談所または地方自治体の福祉事務所に通知することが義務付けられている。厚生労働省は、児童虐待の報告件数が増大した背景には、この問題に対する国民の意識の高まりがあるとした。状況を改善するため、地方自治体は、児童福祉職員に対し、虐待が疑われる親または保護者を面接し、必要に応じて支援を提供することを義務付けた。警察は、必要に応じて、より多くの警察官を児童相談所へ派遣した。

早婚および強制婚

 法律は、婚姻適齢について、男性は18歳以上、女性は16歳以上と規定している。20歳未満の者は、少なくとも両親のいずれかの同意がなければ結婚できない。厚生労働省が2012年にまとめたデータによると、19歳以下の年齢で結婚する男性および女性の比率は、それぞれ全体の1.76%および3.66%であった。

女性器切除(FGM/C)

 法律はFGM/Cについて具体的に禁止していない。このような行為が行われているという報告はなかった。

子どもの性的搾取

 児童買春は違法であり、児童買春をした成人は5年以下の懲役もしくは300万円(約2万8300ドル)以下の罰金、あっせん業者は7年以下の懲役および1000万円(9万4300ドル)以下の罰金に処せられる。当局は効果的にこの法律を執行した。それにもかかわらず、引き続き行われている「援助交際」や、出会い系、ソーシャル・ネットワーキング、「デリバリー・ヘルス」などのウェブサイトの存在が児童買春を助長した。

 法定強姦に関する法律があり、同意の有無にかかわらず13歳未満の少女との性交は犯罪である。法定強姦をした者は2年以上の懲役に処せられ、法律は執行された。加えて、法律や条例は、少年の被害者を含む未成年者の性的虐待について包括的に対処している。

 日本は依然として、児童ポルノの製造および取引の国際的な拠点であった。6月18日、日本は児童ポルノの単純所持を犯罪とみなす法改正を行い、既存法の不備を是正した。同法は施行されたが、既に所有している映像および画像の廃棄を促すため、2015年7月15日の適用開始まで1年の猶予期間が設けられている。児童ポルノの商用化は違法であり、3年以下の懲役もしくは300万円(約2万8300ドル)以下の罰金に処せられる。警察はこの犯罪の厳重な取り締まりを続けた。警察の報告によれば、2013年の児童ポルノの捜査件数は過去最高の1644件であり、646人の子どもが被害者となった。

 性描写が露骨なアニメ、マンガ、ゲームには暴力的な性的虐待や子どもの強姦を描写するものもあるが、日本の法律は、こうしたアニメ、マンガ、ゲームを自由に入手できるという問題に対処していない。警察庁は引き続き、これらのアニメ映像と子どもへの性的虐待の関連性は証明されていないと主張したが、子どもに対する性的虐待を容認するようにみえる文化が子どもに害を及ぼすと示唆する専門家もいた。

 国務省の「人身売買年次報告書」(www.state.gov/j/tip/rls/tiprpt/)を参照。

国際的な子の奪取

 4月1日、「国際的な子の奪取の民事面に関する条約(ハーグ条約)」が日本で発効した。ハーグ条約の下での日本の中央当局は外務省に置かれており、十分な人員が配置され、ハーグ条約の各締約国の中央当局と効果的に連携しているとみられた。

詳細は、「ハーグ条約の順守状況に関する国務省の年次報告書」 (travel.state.gov/content/childabduction/english/legal/compliance.html)と、「国別情報」(travel.state.gov/content/childabduction/english/country/japan.html)を参照。

反ユダヤ主義

 日本国内のユダヤ人の人口は約2000人である。2月、報道によれば、31の公立図書館でアンネ・フランクの「アンネの日記」265冊が破損しているのが見つかった。3月、当局は被疑者を逮捕したが、被疑者が心神喪失の状態にあり刑事責任を問えないとみなされたことから、検察は不起訴処分とした。

 12月、産経新聞は、ホロコーストを否定し、米国同時多発テロや2011年の地震、津波および原子力発電所事故などの大惨事の責任をユダヤ人またはイスラエル国家と関連付ける3冊の反ユダヤ本を宣伝する広告を掲載した。産経新聞は、ユダヤ系団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」が同社社長に抗議を申し入れたことを受け、社長から同センター宛に謝罪の書簡を送付した。その2日後、産経新聞は、読者およびユダヤ・コミュニティーに対する謝罪文を掲載した。

人身取引

 12月、政府は、技能実習制度(第7部を参照)の見直し、人身取引被害者に対する保護の拡大、および人身取引に関する年次報告書の作成を盛り込んだ新しい「人身取引対策行動計画2014」(2009年版の改定)を発表した。

 国務省の「人身売買年次報告書」(www.state.gov/j/tip/rls/tiprpt/)を参照。

障害者

 障害者基本法により、身体障害者、知覚障害者、知的障害者および精神障害者に対する差別は禁止されており、公共および民間部門における雇用、教育、医療およびその他のサービスの提供に関し、障害を理由とする権利および利益の侵害は禁止されている。法律は、差別を受けた障害者の救済、ならびに違反した場合の罰則を規定していない。

 法律は、公共部門に対し合理的配慮を義務付けるとともに、民間部門に対してはそのように「努める」ことを規定している。障害者の支援団体はこの法律を広く支持した。それにもかかわらず、一部の公共サービスについては障害者の利用が制限された。

 法律は、政府および民間企業に対し、障害者(精神障害者を含む)を一定の比率(2%)以上雇用することを義務付けている。従業員200人以上の民間企業がこれを順守しなかった場合は、法定雇用数に足りない障害者1人当たり毎月5万円(約470ドル)の罰金を支払わなければならない。厚生労働省の3月のデータによると、公共部門の障害者雇用率は2.2~2.3%で、定められた最低限の比率を超えていた。一方、民間部門の障害者雇用率は1.76%で、過去最高に達したものの、定められた最低限の比率に至らなかった。

 公共施設の新たな建設プロジェクトでは、障害者のための設備を整備することがアクセスビリティに関する法律で義務付けられている。また政府は、病院、劇場、ホテル、およびその他の公共施設の経営者が、障害者用の設備を改善または設置する場合には、低金利の融資および税制上の優遇措置を認めることができる。

 障害のある子どもは一般的に、特別支援学校に通学した。

 精神衛生の専門家は、精神障害への偏見を軽減し、うつ病やその他の精神疾患は治療可能な、生物学に基づく疾患であることを一般の人々に知らしめる政府の努力が十分になされていないと批判した。警察および刑務所では特に精神疾患の治療が遅く、精神科の治療を提供するための手続きもない。

 障害者の虐待は深刻な懸念事項であった。厚生労働省の実施した初めての全国調査によれば、2012年10月から2013年3月までの間に、家族、障害者福祉施設職員または雇用者から虐待を受けた障害者は、全国で合計1699人だった。

国籍・人種・民族に基づくマイノリティー  

 マイノリティーは、その程度はさまざまであるが社会的差別を受けた。

 部落民(封建時代に社会的に疎外された者の子孫)は、政府による差別を受けていないものの、根深い社会的差別の被害者となることが多かった。部落民の権利擁護団体は引き続き、多くの部落民が社会経済的状況の改善を実現したにもかかわらず、雇用、結婚、住居、不動産価値評価の面での差別が横行している状況が続いたと報告した。公式に部落民というレッテルを貼って部落出身者を識別することはもうなかったが、戸籍制度を利用して部落民を識別し、差別的行為を促すことが可能であった。部落民の権利擁護団体は、多くの政府機関も含め、就職希望者の身元調査のため戸籍情報の提出を求める雇用者が、戸籍情報を使って部落出身の就職希望者を識別・差別する可能性がある、と懸念を表明した。

 日本に住む中国人、韓国・朝鮮人、ブラジル人、およびフィリピン人の永住者は、その多くが日本で生まれ育ち、教育を受けていたが、差別に対する法的な保護措置があるにもかかわらず、住居、教育、医療、および雇用の機会の制限など、さまざまな形で根深い社会的差別を受けた。外国人居住者や、「外国人のように見える」日本国民も似たような差別を報告しており、さらにホテルやレストランなど一般の人々にサービスを提供している民間施設への入場を、時には「外国人お断り」と書かれた看板によって禁じられた、と述べた。NGOは、差別が通常あからさまで直接的であったと指摘して、差別の禁止に向け政府が何の措置も取らないことを引き続き批判した。

 一般的に、永住権を持っていたり、日本に帰化した韓国・朝鮮人を社会が受け入れる状況は改善された。帰化申請のほとんどは当局により許可されたが、人権擁護団体は、帰化手続きを複雑にする過度の官僚的な障壁や、不透明な許可基準について引き続き抗議した。帰化しないことを選択した韓国・朝鮮人は、市民的および政治的権利の面で困難に直面し、国連人種差別撤廃委員会に対する日本の定期的な報告によれば、住居、教育、公的年金、その他の給付金の面で常に差別を受けた。

 2014年、極右グループが、在日韓国・朝鮮人が圧倒的に多く住む地域を含む全国各地で一連の反韓デモ行為を行った。このグループのメンバーが人種差別的な言葉を用いたことから、ヘイト・スピーチ(憎悪発言)として報道機関や政治家から非難された。一部の政府高官は、民族グループへの嫌がらせが差別を助長するとして公に非難し、国内のあらゆる人の権利を保護することを再度確認した。

 報道およびNGOの報告によれば、インターネット上でのヘイト・スピーチも増加している。7月、国連人権委員会は、日本の第6回定期報告に対する所見の中で、「韓国・朝鮮人、中国人または部落民といったマイノリティー・グループのメンバーに対する憎悪と差別を扇動する、広範囲に及ぶ人種差別的発言」について懸念を表明し、こうした行為から人々を保護する刑法上および民法上の保護措置が「不十分である」とした。12月、最高裁判所は、京都において右翼団体が学童を含む韓国・朝鮮人に対して行ったヘイト・スピーチについて、同団体およびその一部のメンバーに損害賠償の支払いを命じた下級審の判決を支持した。

 6月18日、最高裁判所は、永住外国人は日本国民ではないため、法律により生活保護の受給権を持たないという判断を下した。しかし、実際には、困窮している永住外国人に対しては、慣例として自治体が生活保護を支給した。10月6日、厚生労働省は、人道上の観点から外国人居住者に対しても引き続き支給が行われると述べた。

 旧社会保険庁の通達により、外国人語学教師の場合には、日本人の語学教師と比較し、雇用者による年金と健康保険料の雇用者負担分の支払い回避が可能になっている。また当局は、外国人教師を社会保障制度に加入させない雇用者を罰しなかった。雇用者は、外国人について、日本人と異なる契約を用いることができ、裁判所は概ねこの区別について差別には当たらないとした。

 全国一般東京ゼネラルユニオンは、外国人の外国語指導助手について、派遣会社への業務委託による雇用ではなく直接雇用するよう、公立学校に働きかける活動を継続した。同ユニオンは、派遣会社が、義務付けられた外国人教師の健康保険や年金制度への加入を拒否しているとともに、他の教師や職員から指揮命令を受けることが法律上禁止されている学校で外国籍の教師を雇用することにより、労働関連法に違反していると主張した。

 政府は、経済危機に際して、自主的に母国へ帰った約2万人のブラジル人2世について、3年間の再入国を禁止していたが、2013年10月にこれを認めることとした。この再入国の禁止は、経済危機時の政府による外国人の「切り捨て」であるとして、権利擁護団体の非難を受けていた。

先住民

 アイヌは他のすべての国民と同じ権利を享受したが、明らかにアイヌであると識別されると差別を受けた。法律はアイヌ文化の保存を重視しているが、土地の所有権を認めること、国会と地方議会での議席の割り当て、過去の政策についての政府の謝罪など、アイヌ団体が要求している条項は含まれていない。

 8月、北海道・札幌市議会議員が、短文投稿サイトのツイッターに、「アイヌ民族なんて、いまはもういない」というメッセージを書き込み、アイヌを自称する人々を含む特定のグループに対して不透明な形で特別な権利や支援を提供していると主張して政府の政策を批判した。これに対し、北海道アイヌ協会は、アイヌ民族が受けてきた差別の歴史を人々に再認識させた。批判的な報道が広がったことに加え、北海道知事を含む他の政治家が、アイヌに特別な支援を提供する法律への支持を表明した。北海道庁は2013年にアイヌに関する調査を実施し2014年にその結果を公表した。この調査から、アイヌを自称する人々の所得が、同じ自治体に住む他の日本人と比べて引き続き低く、アイヌの生活保護率は、2006年の前回調査と比較して6ポイント増加した。

 2012年、国会にアイヌ民族の議員を送ることを目的としてアイヌ民族党が結成された。2012年12月の衆議院選挙では、北海道の選挙区で候補者を擁立したが、落選した。2013年の参議院選挙では、アイヌ民族党は、資金難により候補者の擁立を見送った。

 アイヌの子孫である3人の日本人が、1931年から1935年にかけて研究目的として杵臼村で掘り起こされた15体の遺骨の返還を求めて、2012年に北海道大学に対して起こした訴訟は、審理を継続した。北海道大学は、1930年代には家族の墓の管理を含め、長男が財産を相続する制度が適用されていたこと、また原告が遺骨との法的な家族関係を証明できないことを主張して、遺骨の返還を拒否してきた。この歴史的訴訟において、この3人のアイヌ子孫は政府に対し、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」に記載された先住民族の集団的権利を認めるよう求めた。政府が集団的権利を認めれば、生存する民族の子孫の誰に対しても遺骨の返還が可能となり、長子相続による返還という北海道大学の主張が無効になる。2008年、政府は国会での審議を経て、アイヌを先住民族として認めた。ただし、この認定には法的効力はなかった。原告はまた、先住民族への民法の適用は同化を意味するものであることから認められないと主張した。これは先住民族が裁判所で先住民族の権利を主張した日本で初めての訴訟であった。

 日本政府は琉球民(沖縄と鹿児島県の一部の住民を指す言葉)を先住民族と認定していないが、彼らの独自の文化と歴史を公式に認め、その伝統を保存し尊重する努力をした。

暴力行為、差別、その他の性的指向および性同一性に基づく虐待

 性的指向または性同一性に基づく差別を禁止する法律はない。また、そのような差別に対する罰則もなく、関連する統計も入手できない。法律では性行為が男女間の膣性交としてのみ定義付けられていることから、強姦、性交渉およびその他の性交を伴う行為に関する法律は、同性間の性的行為には適用されない。このような定義により、男性を強姦した加害者に対する罰則が軽微になり、同性間の売春に関し法律上の曖昧さが増している。

 性同一性障害のため戸籍の性別を女性から変更した男性が、人工授精により生まれた長男との父子関係の認定を求めた訴訟で、最高裁判所は2013年12月、この請求を認めた。同年9月には大阪家庭裁判所が、父親に男性としての生殖能力がないため父子間に血縁関係を認めることはできないとして、本件を棄却していた。最高裁判所の判決は、2010年に生まれたこの男性の長男のみに適用された。2012年に生まれたこの男性の次男については、大阪家庭裁判所の別の裁判が係属中であり、最高裁判所はまだ判断を下していない。

 LGBTの権利を擁護するNGOから、組織に対する障害の報告はなかったが、いじめ、嫌がらせ、および暴力行為の報告は何件かあった。LGBTに対する偏見が、依然として、差別や虐待を自ら報告する妨げとなっており、また学校でのいじめや暴力に関する調査では、全般的に、関係者の性的指向や性同一性を考慮しなかった。また、広く浸透しているLGBTに対する社会的偏見により、多くの人が自らの性的指向を公にすることができず、LGBTの代理人になることが多い弁護士によれば、性的指向を公表するといって依頼人が脅迫された事例が2014年に数件あった。報道機関の自己検閲が要因のひとつとなり、LGBTの問題は広く議論することが依然として妨げられた。

 法律により、性同一性障害の人々が法律上の性別を変更することは可能であるが、これは性別適合手術を受けた後にのみ認められた。

HIV・エイズ感染者に対する社会的偏見

  HIV・エイズ感染者に対する差別を禁止する法律はないが、拘束力のない厚生労働省のガイドラインには、事業者に対し、HIV感染は解雇あるいは不採用の理由にはならないと明記されている。裁判所は、HIV感染が理由で解雇された個人に損害賠償請求を認めてきた。

 HIV・エイズ感染者に対する差別についての懸念、およびこの疾患に対する偏見により、多くの人がHIV・エイズの感染を公表しなかった。NGOによれば、多くの感染者が解雇されることを恐れて、感染を隠していた。2013年に、首都圏の医学系の学校の職員が、この学校に出願したHIV陽性の男性に対し、実習に参加できないことを理由に願書を取り下げるよう説得した。

7部 労働者の権利

a. 結社の自由と団体交渉権

 法律は、民間部門の労働者が事前認可あるいは過度の要件なしに、組合を結成し、自分が選んだ組合に所属できることを規定し、ストライキおよび団体交渉を行う権利を保護している。これらの権利は、外国人労働者や非常勤および短期契約の労働者にも適用される。

 公共部門の職員および公共企業体の従業員には、法律により一定の制限が課されている。公共部門の職員にはストライキをする権利がないが、公共部門職員の組合に参加することが許されており、こうした団体が公共部門の雇用者と賃金、労働時間、その他の雇用条件について一括して交渉することができる。公共部門の職員の基本的な労働組合権には別の法律が適用され、組合結成に実質的に事前認可が要求されている。発電および送電、運輸および鉄道、通信、医療および公衆衛生、郵便などの必要不可欠なサービスを提供する部門の労働者は、ストライキをする日の10日前までに当局に通知しなければならない。必要不可欠なサービスの提供に関わる従業員には団体交渉権がない。法律は組合に対する差別を禁止し、組合活動のために解雇された労働者の職場への復帰を規定している。

 日本政府は組合の結成および参加に関する法律を効果的に執行した。労働組合は、政府の統制や影響を受けなかった。日本政府は組合が活動する権利を保護した。しかし、時に法律違反の事例が見受けられた短期雇用契約の増加は、正規雇用の妨げになり、団結活動を妨げるものであった。

 団体交渉権は民間部門で一般的であったが、一部の企業は、法律の下での従業者の保護を回避するため、法人格の形態を変更して、法律的には雇用者とみなされない持ち株会社制度に移行した。同様に、日本の企業では、正社員よりも非常勤、および短期契約の雇用が増加した。

b. 強制労働の禁止 

 法律によりあらゆる形態の強制労働は禁止されているが、技能実習制度(TITP)の下で強制労働が行われたという報告が依然として複数あった。TITPは、外国人労働者が日本に入国し、事実上の臨時労働者事業のような形で最長3年間就業することを認める制度だが、法改正により2010年に制度改革が実施されており、1年目の参加者にも在留資格「技能実習」が与えられ、保護が強化された。

 厚生労働省の労働監督官および法務省の入国審査官が、TITPの下で技能実習生を雇用する事業場を監督した。同省には、受け入れ機関を監督する法的権限がない。NGOは監督が不十分であると主張した。企業が規則を順守しない場合の政府の対応として、警告および勧告を発出し、企業のTITPへの参加を1~5年間禁止することが規定されている。

 製造業、建設業および造船業において強制労働の報告があった。これは主に、TITPを通じて外国人を雇用している中小企業にみられた。このような職場で働く労働者は、移動の自由の制限、賃金の未払い、母国の仲介業者に対する多額の借金、および身分証明書の取り上げを経験した。これらを総合すると、強制労働が行われたことを示す重要な指標となり得る。労働者は時として「強制貯金」も求められたが、こうした貯金は実習の切り上げ、あるいは強制送還の場合には没収された。日本に不法入国した労働者やビザの期限が切れたまま不法滞在した労働者は、特に弱い立場におかれた。

 政府は、長野県川上村におけるTITPの中国人実習生に関し強制労働の疑いがあるとして調査を行った。NGOおよび報道によると、雇用者が農業実習生のパスポートを取り上げ、法外な罰金を科し、契約によらない違反行為に起因する減給が行われた。9月、中国人労働者が管理を行う受け入れ機関が、正式な報告書に虚偽の記載をしたとして、5年間の実習生受け入れ停止処分を受けた。この機関は停止処分後、間もなく解散した。2014年末時点で、政府が訴追したTITPの下での強制労働の事案は1件もなかった。

 国務省の「人身売買報告書」(www.state.gov/j/tip/rls/tiprpt/)を参照。

c. 児童就労の禁止と雇用の最低年齢制限

 法律は、就業が認められる最低年齢を規定している。15歳から18歳の子どもは、危険な、あるいは有害と指定される仕事でなければ、いかなる仕事にも従事することができる。13歳から15歳までの子どもは「軽労働」であれば従事でき、13歳未満の子どもでも芸能界であれば働くことができる。これらの法律は効果的に執行された。

 子どもは、商業目的の性的搾取の対象となった(第6部「子ども」を参照)。

 国務省の「人身売買報告書」(www.state.gov/j/tip/rls/tiprpt/)を参照。

d. 雇用または職業に関する差別 

 法律は、男女平等の同一賃金を義務付けるとともに、性別に基づくその他の形態の差別も禁止している。これらの規定を執行する仕組みは、全般的に、ほとんど、あるいは全く存在せず、活動家は2006年の法改正について、間接的な差別に対応していないと批判した。女性は依然として、職場での平等な待遇について懸念を表明した(第6部「女性」を参照)。

e. 許容される労働条件

 最低賃金は、都道府県別に定められており、9月26日時点で時給677円(6.40ドル)から888円(8.40ドル)まで幅があり、前年比で上昇した。厚生労働省が2012年にまとめた最新の統計によれば、全体の16.1%の世帯で年間所得が122万円(約1万1500ドル)の貧困線を下回っていた。

 法律により、ほとんどの産業で労働時間は週40時間と規定されており、週40時間、または1日8時間を超えて働いた場合には、賃金の25%以上50%以下の範囲で割増賃金を支払うことが義務付けられているほか、一定の期間に認められる時間外労働の時間数は制限され、かつ過度の強制的な時間外労働を禁止している。また国民の祝日を有給の休日とするほか、6カ月間継続して勤務した正規労働者に対し、年間少なくとも10日の有給休暇を支給することを義務付けている。日本政府が労働安全・衛生基準を定める。

 非常勤および短期契約労働者は、2013年の労働力人口の約36%を占めた。これらの労働者は正規労働者より低い賃金で働き、多くの場合、雇用の安定性や福利厚生が劣っていた。一部の非正規労働者には、保険、年金および研修を含むさまざまな福利厚生を受ける資格が与えられていた。

 改正労働契約法が2013年4月に施行された。この分野の専門家は、労働者が無期労働契約へ転換する資格を有するようになる通算5年を超える契約期間にならないよう、4年または5年未満の契約が増加していると報告した。2013年に、早稲田大学の複数の教員が、非常勤講師の契約期間として5年の上限を定めることが就業規則の一方的変更にあたるとして抗議し、同大学を刑事告発した。2014年に改正法の適用が大学の教員まで拡大されたことで、この事案は教員側が満足する形で決着した。

 厚生労働省が、ほとんどの業種の賃金、労働時間および安全・衛生に関する法律・規則の執行について責任を負う。国家公務員の労働安全・衛生については人事院が所掌する。鉱業については経済産業省が、海運業については国土交通省が労働安全・衛生をそれぞれ所掌する。

 法律は、最低賃金を支払わなかった雇用者に対し、50万円(約4720ドル)以下の罰金を科している。当局は労働者が不服を申し立てた場合にこの罰金を科す。罰金は事案1件当たり、または労働者1人当たりで計算されるものではないため、例えば100人の従業員に10カ月間、最低賃金の支払いを怠った企業の場合も、1人の従業員が不服を申し立てた時に上記の罰金を1回限り支払う義務しか負わない。300以上の労働基準監督署に雇用された約4000人の労働基準監督官が、これらの法律・規則を執行した。労働組合は、依然として、政府が労働時間制限の執行を怠っていると批判し、政府職員を含め労働者が日常的に、法律で定められた労働時間を超えて働いていたことが広く認められていた。

 2013年4月から2014年3月までの間に、厚生労働省に過労死の認定を求める遺族からの申請が784件あった。厚生労働省が2014年に過労死の被害者であると公式に認定したのは336人だったが、労働者の権利を擁護するNGOは、実際にはその数はもっと多かったと主張した。政府によれば2013年に報告された2万7283件の自殺の中で、仕事に関連する問題を動機とする自殺が4番目に多かった。

 危険な装置や不十分な研修に起因するけが、賃金や残業手当の未払い、過度の、時として誤った賃金控除、強制送還、および標準以下の生活環境など、TITPにおける悪用事例の報告がよくみられた。さらに、この分野の専門家は、TITPの労働条件を監督する監督官および審査官は、TITPを共管する省のうちの2省が雇用していることから、利益相反も存在したと指摘した。監督官や審査官の中には、事業主が支持する政府のプログラムに対して否定的なイメージを与えかねない調査を行うことに難色を示す者もいた。

 2013年7月、ある地方裁判所が、TITPの下で食品加工会社に雇用されていた中国人実習生に650万円(6万1300ドル)の損害賠償を支払いうよう会社に命じる判決を下した。この裁判所は、この実習生が妊娠していることを認めた後、雇用者が彼女を強制的に帰国させようとしたと認定した。実習生は、拘束されて無理やり空港へ連れて行かれた後に、流産した。裁判所はまた、この実習生については、雇用期間中に工場の調理器具を洗浄して膝に化学薬品によるやけどを負うなど、就業中のけがもあったと認めた。

 日本政府は全般的に、全ての産業において、労働安全・衛生に関する法律・規則を効果的に執行した。労働基準監督官は、重大な違反の場合には、安全でない操業を直ちに停止させる権限を有するが、重大でない場合は、拘束力のない指導を与える。しかし、厚生労働省の職員はしばしば、430万カ所以上の事業所を監督するには資源が不十分であると述べた。

 複数の技能実習生が、無償または有償の弁護士の支援を得て、TITPに参加する企業を提訴した。有償で代理人を務めた弁護士は、勝訴または和解が成立した場合には、実習生が得た賠償金の一部を受け取った。全国で係属中の訴訟の大半が、賃金または残業手当の未払いを申し立てたものであった。他にも、過労死、住居費に関する差別、強制送還および就業中のけがについて申し立てた裁判があった。2014年、裁判所はこのような事案のうち数件について技能実習生を支持する判決を下したが、賠償金を受け取った実習生は一部にすぎなかった。

 2013年の労働災害による死亡者数は1030人と報告された。労働災害による死亡の原因として最も多かったのは、墜落・転落、道路交通事故および重機によるけがであった。