2015年人身売買報告書(日本に関する部分)
*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。
国務省人身取引監視対策部
2015年7月27日
日本(第2階層)
日本は、強制労働および性的搾取の人身取引の被害者である男女、および性的搾取の人身取引の被害者である児童が送られる国であり、被害者の供給・通過国である。主にアジアからの移住労働者は男女共に、政府の技能実習制度(TITP)も含め、強制労働の状態に置かれる。東アジア、東南アジア(主にフィリピンおよびタイ)、南米、アフリカ、東欧、ロシアおよび中米からの男性、女性および児童の中には、雇用あるいは偽装結婚のために来日し、性的搾取の人身取引の被害にさらされる者もいる。人身取引犯は、バー、クラブ、売春宿およびマッサージ店で強制売春をさせる目的で外国人女性を日本へ入国させやすくするために、外国人女性と日本人男性との偽装結婚を利用する。人身取引犯は、借金による束縛、暴力または強制送還の脅迫、恐喝、その他の精神的な威圧手段を用い、被害者の移動を厳しく制限する。強制売春の被害者は契約開始時点で借金を負っている場合がある。ほとんどの被害者は、生活費、医療費、その他の必要経費を雇用主に支払うよう要求され、債務奴隷にされやすい。また、素行が悪いとされ「罰金」が被害者の当初からある借金に加算される。売春宿の運営者によるこうした借金の計算方法は、概して不透明である。人身取引の被害者は、日本を経由して東アジアと北米の間を移動する。
日本人、特に、家出した十代の少女や外国人と日本人の間に生まれて日本国籍を取得した児童もまた、性的搾取の人身取引の被害にさらされる。「援助交際」という現象や、さまざまな形態の「JK(女子高生)ビジネス」が、日本人児童の買春を依然として助長している。巧妙かつ組織的な売春ネットワークが、地下鉄、若者のたまり場、学校、インターネット上などの公共の場で、脆弱な日本人女性および少女を標的にする。こうした女性や少女は貧困状態にある、あるいは精神障害や知的障害を持つ場合が多い。中には人身取引被害者となる女性や少女もいる。日本人男性は依然として、東南アジア、および程度は低いものの、モンゴルにおける児童買春旅行への需要の大きな源泉の一つとなっている。
強制労働の事案は、政府が運営するTITPにおいて発生している。この制度は本来、外国人労働者の基本的な産業上の技能・技術を育成することを目的としていたが、むしろ臨時労働者事業となった。「実習」期間中、多くの移住労働者は、TITPの本来の目的である技能の教授や育成は行われない仕事に従事させられ、中には依然として強制労働の状態に置かれている者もいた。技能実習生の大半は中国人およびベトナム人であり、中には職を得るために最高で1万ドルを支払い、実習を切り上げようとした場合には、数千ドル相当の没収を義務付ける契約の下で雇用されている者もいる。この制度の下での過剰な手数料、保証金、および「罰則」契約は依然として報告されている。脱走やTITP関係者以外の人との連絡を防ぐために、技能実習生のパスポートやその他の身分証明書を取り上げ、技能実習生の移動を制限する雇用主もいる。
日本政府は、人身取引撲滅のための最低基準を十分に満たしていないが、満たすべく著しく努力している。政府はTITPの包括的な見直しを行うとともに、強制労働の加害者を処罰する能力を有する第三者管理・監督機関を設置し、移住労働者の救済制度を改善する改革法案を国会に提出した。また、人身取引対策行動計画の改定版を発表し、計画を実施するために閣僚級会議を設置した。しかし、政府は、法の大きな欠缺を埋め、それにより人身取引犯罪の訴追を推進するという法整備や制定は行わなかった。TITPにおける労働搾取目的の人身取引の申し立てにもかかわらず、政府が訴追または有罪にした強制労働の加害者はいなかった。2013年以降、訴追および有罪判決の総数は減少した。政府は、配偶者による暴力の被害者向けの既存のシェルター網とは別に、人身取引の被害者専用のシェルター網を全国に設置するなどの、人身取引被害者に特化した保護や支援措置は策定しなかった。政府は、2000年に採択された国連人身取引議定書を締結しなかった。
日本への勧告
2000年に採択された国連人身取引議定書と整合性を持つ、あらゆる形態の人身取引を禁止する包括的な人身取引対策法案の起草と法の制定を行う。強制労働の事案を捜査および訴追し、有罪判決を受けた人身取引犯に実刑を科す取り組みを大幅に強化する。TITP改革法案を成立させる。TITPにおける強制労働の一因となる過剰な保証金、「罰則」の合意、パスポートの取り上げ、その他の行為の禁止の実施を強化する。第一線にいる担当官が、強制労働または性的搾取を目的とする人身取引の男女の被害者を認知するための、新たに拡充した被害者認知手続きを実施する。人身取引の被害者となったことに直接起因する違法行為を犯したことで、人身取引の潜在的な被害者が拘束または強制送還されることのないように、被害者の審査を強化する。人身取引の被害者専用のシェルターなど、人身取引の被害者に対して専門のケアと支援を提供する資源を確保する。児童買春旅行に参加する日本人の捜査、訴追、有罪判決、処罰を積極的に行う。2000年に採択された国連の国際的な組織犯罪の防止に関する国際条約および人身取引議定書を締結する。
訴追
政府は人身取引対策としての訴追の取り組みを低下させた。日本の刑法は、国際法で定義されているあらゆる形態の人身取引を禁止するものではなく、政府は人身取引犯罪の訴追にあたり、売春、略取・誘拐、児童福祉および雇用に関する法律のさまざまな規定に依拠している。1956年制定の売春防止法第7条から第12条は、強制売春を含む売春関連犯罪を禁止している。1907年制定の刑法第225条から第227条は、さまざまな目的(「営利」および「わいせつ」を含む)の略取または誘拐、および人身売買を禁止している。これらの規定は、上記を目的とする人の引き渡し、収受、輸送、蔵匿・隠避を犯罪としているが、募集は犯罪としていない。1947年制定の職業安定法は、「暴行、脅迫、監禁、その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段」を用いて労働者の募集に従事する者、あるいは「公衆衛生または公衆道徳上有害な業務」に就かせることを目的に労働者を募集する者に罰則を設けている。政府は、性的搾取の人身取引を含む強制労働の訴追において、この法律に依拠していると報告している。さらに、1947年制定の児童福祉法は、児童に淫行または児童にとって有害な行為をさせるなど、児童に対する危害を幅広く犯罪としており、報告によれば、この法律が児童に売春行為をさせた被告を訴追する根拠となってきた。しかし、児童福祉法は、売春を目的として児童を募集、輸送、引き渡し、または収受することには効力が及ばないため、あらゆる形態の性的搾取を目的とした児童の人身取引に適用されるものではないとみられる。刑法第225条および226条は、営利あるいはわいせつ目的での略取または誘拐および同目的での人の買い受けに対して最長10年の懲役刑を規定している。これは十分に厳格であり、強姦罪等のその他の重罪に対して規定されている刑罰とおおむね同等である。しかし、上記の略取または誘拐や人身売買の犯罪の一環として、人を略取、誘拐、買い受け、または売り渡しのために所在国外に移送することは最長2年の懲役に処せられ、より軽度な犯罪とされている。日本の検察官が人身取引犯罪を訴追する上で拠り所とするその他の犯罪も、刑罰が十分に厳格でない。児童に売春を行わせ「児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる」ことで児童の福祉を害する罪で有罪となる犯罪者は、最長3年の懲役もしくは最高100万円(8000ドル)の罰金、またはその両方の刑に処される。故に、罰金の支払いのみで済む可能性がある。同様に、職業安定法が強制労働の構成要素である募集を処罰する限りにおいて、認められている最大の罰則は20万円(1700ドル)を最低額とした罰金であるが、これは十分に厳格ではない。さらに、強制売春の場合、形態によっては最長3年の懲役または罰金に処せられ、その他の形態の場合は、罰金刑はなく、懲役5年が科される。
政府の報告によると、刑法の人身売買罪条項に基づき訴追した事案は2件、有罪判決を下した事案は1件だった。これ以外は、政府は、人身取引・売買の可能性がある犯罪の訴追に人身売買罪条項以外の法律条項を用いた。政府による人身取引関連犯罪の捜査は32件であり、2013年は28件であった。有罪判決を下した性的搾取を目的とする人身取引犯は17人であり、2013年は31人であった。有罪判決を受けた17人の人身取引犯のうち、5人が実刑、8人が執行猶予、4人が罰金刑に処された。パスポートの取り上げ、法外な罰金の要求、契約によらない違反行為を起因とする恣意的な減給など、TITPにおいて、労働搾取を目的とする人身取引犯罪の可能性についての多くの報告や申し立てがあったにもかかわらず、政府は、TITPにおける労働者の使用に関与した人身取引犯を訴追することも、有罪とすることもなかった。政府は、児童買春の捜査を661件行い、507件を送致したと報告した。2013年の送致件数は709件だった。有罪判決の件数は不明であった。有罪件数のうち、性的搾取を目的とする児童の人身取引関連事案が何件あったかも不明であった。警察庁、法務省、入国管理局および検察庁は、上級捜査官および警察官、検察官、裁判官および入国管理局職員を対象に、人身取引被害者の認知および人身取引事案の捜査について、多数の人身取引対策研修を引き続き実施した。人身取引犯罪に加担した政府職員に対する捜査、訴追、有罪判決の政府報告はなかった。
保護
政府による保護の取り組みは、人身取引の狭義の定義により引き続き制約を受けた。借金による束縛、パスポートの取り上げ、および拘束をはじめとして、人身取引を示す実質的証拠があるにもかかわらず、政府はTITPにおける強制労働の被害者をこれまで1人も認知していない。警察庁は性的搾取の人身取引の被害者として25人の女性を認知した。2013年は21人だった。認知された12人の日本人被害者のうち、7人は児童だった。警察は児童買春の被害者を464人認知したと報告した。政府は児童買春の被害者に対する心理カウンセリングおよび医療ケアを提供したと報告した。政府には人身取引の被害者に特化したサービスが依然として欠けていたが、婦人相談所および配偶者による暴力の被害者向けシェルターに資金を提供し、これらのシェルターは人身取引被害者のうち5人を支援した。その他の被害者は非政府組織(NGO)のシェルターで支援を受けるか、または本国に帰国あるいは自宅に戻った。婦人相談所では、食料、生活必需品、精神的ケアおよび医療費が提供され、施設の職員が同行すれば、被害者は外出することもできた。日本には依然として、男性被害者専用シェルターはなく、また明確に男性被害者に特化した資源もなかった。
警察庁は、被害者を認知し、被害者に利用可能なサービスを紹介するため、国際移住機関(IOM)作成のハンドブックおよび人身取引対策関係省庁連絡会議の手引書を利用した。2014年に、法令執行タスクフォースが、現場の担当官向けに、新たな人身取引取締まりマニュアルを作成した。被害者の中には、認知された人身取引被害者が利用できる保護サービスは不足しているという認識から、政府の援助を求めることに消極的な者もいた。強制労働の被害者またはTITPで虐げられた「実習生」に対する支援は報告されなかった。これは、政府がこれらの脆弱な人々の中から被害者の有無の審査も認知も行わなかったためである。政府が出資する日本司法支援センター(法テラス)は、刑事および民事のいずれの訴訟でも、困窮した犯罪被害者に無料で法的支援を提供したが、このようなサービスの利用を申請または受けた人身取引被害者の有無については、3年連続で不明であった。法律は、人身取引の被害を受けたことに起因する犯罪で人身取引被害者が処罰されることを禁じているが、警察による強制捜査中に拘束された売春を行う女性や逮捕された移住労働者の中には、人身取引であることを示唆するものの有無を調査されることなく、罰金を科せられた者や本国に強制送還された者がいた。母国への帰国を恐れる被害者は、一時もしくは長期在留資格、または永住者資格という便益を受けることが可能であった。政府は2件の長期在留資格を付与した。しかし、外国人被害者は、ほとんどの場合、長期にわたる捜査と裁判の期間、日本に留まることよりも、母国への帰国を選んだ。被害者は人身取引犯から損害賠償を求める権利を有するが、これまでに賠償を求めた被害者はいない。
防止
政府は人身取引を防止する取り組みを強化した。人身取引対策行動計画の改定版を発表し、同計画の実施を監督するため、内閣官房長官を議長とする閣僚級会議を設置した。計画には、TITP改革、現場の担当官への研修、人身取引被害者の保護および支援向上の取り組みの概要が示されている。当局は、計画実施のための具体的な予算配分や期限は設けなかった。計画実施の一環として、政府はTITPを包括的に見直し、改革法案を起草して2015年3月に国会に提出した。この改革法案は、管理・監督を実施する第三者機関、加害者に強制労働罪の責任を負わせる監督制度、および外国人移住者の救済制度を設置するほか、責任を担う省庁を指定する。政府は、多言語対応の緊急時連絡ホットラインの電話番号を、各地の入国管理事務所および送り出し国の政府機関で引き続き公示するとともに、人身取引に対する意識啓発活動をオンライン上で実施し、意識向上を目的として人身取引犯の逮捕状況を公表した。法務省は2014年、22の監理団体、218の実習実施機関に対しTITP実習生受け入れを禁止した。TITPの監督を任じられた政府系団体である国際研修協力機構(JITCO)は、雇用主を訪問し研修を実施したほか、TITP実習生向けの相談ホットラインを運営し、6カ国語で書かれたTITP労働者向けハンドブックを配布した。
商業的性取引への需要を減らす取り組みとして、内閣府は、性サービスの潜在的な消費者へ向けた警告文を記載したポスター、リーフレットおよびパスポート用の冊子を引き続き全国で配布した。日本人男性は他のアジア諸国、特にタイ、インドネシア、カンボジア、フィリピン、および頻度は低いものの、モンゴルへ渡航し、児童の商業的性的搾取を行っており、日本は、児童買春旅行の需要の源泉の一つである。政府が児童買春旅行で捜査や訴追をした者は1人もいなかった。警察庁は2014年12月、東南アジアにおける児童の商業的・性的搾取に関する会議を開催し、タイ、カンボジア、フィリピンおよびインドネシアの警察組織と事案の詳細を共有した。政府は、国際平和維持活動要員に対し、海外派遣の前に人身取引対策の研修を実施するとともに、外務職員に対しても同様の研修を行った。日本は、国連で2000年に採択された人身取引議定書を締結していない唯一のG7参加国である。