ジーナ・マッカーシー米国環境保護庁長官のアメリカンセンターJapanでの気候変動行動計画に関する講演(草稿)

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2015年8月26日、東京

  今日はこれから、世界が気候変動に取り組む道義的責任と、米国がいかにこの課題に対処しているかについてお話しします。

  オバマ大統領は就任1日目から、気候変動が遠い世界の環境上の懸念ではなく、今、身近で起きている問題であることを理解していました。

  今日すでに、気候変動は我々のすぐそばで起きています。そして誰も、いかなる国もこの問題から逃れることはできません。

  米国では、子どもの10人中1人がぜんそくを患っています。発電所からは炭素だけでなく、粒子状物質、窒素酸化物、亜硫酸ガスなどの危険な汚染物質も排出され、これら全てが子どもや家族をさらに大きな危険にさらします。

  気温の上昇は、スモッグやぜんそくを悪化させ、アレルギー・シーズンを長引かせ、危険な昆虫媒介感染症を他の地域に拡散させます。これらは公衆衛生に対する極めて現実的な脅威です。

  海抜が低いバングラデシュや太平洋諸島は、海面上昇により陸地が後退しています。アフリカの一部では猛烈な干ばつに直面し、食料供給が脅かされています。北極圏の先住民は夏場の海氷面積がこれまでにないほど後退しているのを目にしています。

  手をこまねいているとその代償は大きくなるばかりです。海面が上昇するにつれて保険料、財産税、食品価格が上昇します。我々の経済、安全保障そして地域社会のために、とりわけ気候変動の影響を受けやすい人たちのために、我々は今、この問題に取り組まなければなりません。

  この闘いに勝利する唯一の方法は共に行動することです。各国の国民としてだけではなく、美しい地球で共に暮らす国際社会としての行動が必要です。

  どの国にも果たすべき役割があります。特に経済大国である米国や日本はそうです。

  だからこそオバマ大統領は、2013年に気候変動行動計画に着手しました。この計画は、米国が道義的な責任を果たし、気候変動に対して今、行動を起こすための包括的な戦略です。

  米国はエネルギーの生産方法から利用の仕方まで、大きな進歩を遂げました。そして経済成長を続けながら気候変動への対処が可能であることを証明する成果をすでに上げています。

  米国は過去10年間で、炭素排出量を他のどの国よりも削減しました。現在米国は、オバマ大統領の就任時に比べ、風力発電を3倍、太陽光発電を20倍に増やしています。また2010年の初め以降、太陽光発電にかかる平均コストを50パーセント削減しました。同時に米国の太陽光発電産業は、他の産業の10倍の速さで雇用を増やしています。

  米国では住宅、建物、電気器具についてエネルギーの無駄をなくすため、前例のない規模の投資をしてきました。これは消費者にとって何十億ドルもの節約になります。我々はまた技術革新にも投資しています。つい数日前、オバマ大統領は、家庭の電気代節約につながる高性能で低コストの技術開発を推進する新たな取り組みを発表しました。その中には、ソーラーパネルの発電量を大幅に増加させる技術の開発を目的とする、州政府主導のプロジェクトへの多額の投資が含まれています。

  米国の民間部門も大きく動き出しました。先月グーグル、アップル、ゴールドマン・サックス、その他の米国の大企業10社が、気候変動との闘いに1400億ドルを提供することを約束しました。

  米国は汚染の最大の要因である複数の温室効果ガスと闘っています。

  メタンガスについては、2025年までに石油およびガス産業からの排出量を2012年比で40~45パーセント削減する大胆な目標を設定しました。この目標の達成を支援するため、環境保護庁 (EPA) は、2025年時点で最大40万ショートトンのメタンガス削減につながる新たな規則を提案したところです。これは二酸化炭素900万メートルトン分の削減に匹敵します。

  ハイドロフルオロカーボンについては、地球温暖化とオゾン層破壊の原因となる可能性がある物質の使用削減を引き続き全速力で推し進めており、モントリオール議定書の下での削減目標達成に向けた日本の協力に感謝します。

  二酸化炭素に関しては、オバマ大統領がつい数週間前に、米国経済で気候変動の最大の要因となっている電力業界からの炭素排出量の削減に取り組むEPAのクリーンパワー計画を公表したところです。

  こうした措置は、米国の家庭にとって重要な健康の保護につながると同時に、大きな経済的チャンスをもたらします。オバマ大統領は広い視野に立ち、あらゆる機会をとらえ、気候変動の問題について恐れることなくリーダーシップを発揮してきました。

  米国のこれまでの気候変動への取り組みや世界各国の行動について考えると、私は気候変動問題を解決できるという自信を持つことができます。世界各国が共に行動すればできないことはありません。

  米国は自らの役割を果たしており、クリーンパワー計画はその勢いをさらに加速させるものです。

  クリーンパワー計画は史上初めて、米国電力業界の炭素排出量に制限を設けました。その制限は常識的で達成可能なものであり、子どもたちの健康を守ることにつながります。

  皆さんご存知ですが、米国は将来的にクリーンエネルギー社会の実現を目指しており、それに向けた移行がすでに始まっています。電力会社の多くが、すでに発電所の近代化と排出削減への投資を始めています。

  35を超える米国の州が、再生可能エネルギーの達成目標をすでに設定しました。また米国の1000以上の都市の市長が、炭素汚染の削減をすでに約束しています。

  クリーンパワー計画はこうした進展をさらに加速させ、推し進めます。

  この計画により米国は、信頼性が高く、手ごろな価格の電力を維持しつつ、2030年までに電力業界による炭素排出量を2005年比で32パーセント削減するという目標を達成するために前進することができます。そしてこの排出量削減に伴うスモッグとすすの減少が、米国の家庭に健康上の大きな利益をもたらします。

  この計画と、オバマ政権が過去6年間にわたり協力して実施してきた取り組みにより、米国は2030年には、多くの早死にや入院、ぜんそくの発作、学校や職場での病欠を回避することができるようになります。それだけではありません。

  この計画により、2030年には米国で年間450億ドルの純便益が生み出されると見込まれています。同じ年、米国の平均的な家庭は、公共料金の支払いを年間およそ85ドル節約できるようになります。

  日米両国は、環境が経済の安定と成長の基盤の一端を担っていることをよく理解しています。この点を米国が理解しているのは、我々が過去40年間の環境保護と経済成長を足がかりに前進しているからです。この40年間で我々は米国の大気汚染を70パーセント削減しましたが、一方で経済規模は3倍に拡大しました。

  また米国は、温室効果ガスと燃料効率について歴史的な基準を設定しました。これにより今後5~6年のうちに、1ガロン当たりの車の走行距離は2倍になるでしょう。そしてそれが家庭のガソリン代の節約になり、自動車産業の活性化につながります。現在は中型から大型車を対象に、10億トンの排出量削減につながり、新規技術の開発を促して、長期的には消費者、企業、トラック所有者のコストを節減する提案をしようとしています。

  今日、米国の大手自動車メーカーはいずれも、電気自動車を販売しています。2009年以降米国の自動車産業は雇用を25万件増やしました。燃費向上が支持されていることは明らかです。

  この点について私は日本が自動車分野で指導力を発揮していることをたたえたいと思います。日本は注目すべき成果を上げてきました。

  肝心なことは解決策があるという点です。技術革新により、かつて解決が不可能と思われていた課題が、利益を生むチャンスに変わっています。それは自動車産業にとどまらず、エネルギー効率、再生可能エネルギーなどでもみられます。これらの分野で先行する国々は勝者となるでしょう。

  民間部門もこれをよくわかっており、すでに取り組みを始めています。米国では主要な投資家や財団が、クリーンエネルギーの技術革新に何十億ドルもの資金提供を約束しています。投資家や財団はこれを好機ととらえ、逃したくないと考えています。だからこそクリーンパワー計画は道理にかなっており、規制するだけではなく市場を変えることにもなるのです。

  うれしいことに、米国民もこの状況を好機ととらえています。それを理解し、受け入れています。

  我々はクリーンパワー計画の原案について、多くの人たちから意見を聞きました。州政府、公益事業会社、環境団体、全米の地域社会などからです。いただいた意見から、米国人は議論を終えて行動を起こす準備ができていることがわかりました。米国民は、政府に行動を起こしてリードしてもらいたいと思っています。米国はその要望に応えて、力強い一歩を踏み出しました。

  しかし、この活動は短距離走ではなくマラソンです。単独で気候変動問題を解決できる国はありません。我々は力強くスタートし、同じ方向に走らなければなりません。だからこそ私は、世界中のパートナー諸国の取り組みに元気付けられるのです。

  国際社会が結集しています。世界中の国々が、それぞれが納得する方法で、そしてどの国も納得できる方法で行動しています。なぜなら、クリーンエネルギー経済への道がただ1つではないことを認識しなければならないからです。米国内だけを見ても、全ての州が同じ立ち居地にいるわけではありません。再生可能エネルギーからの発電量が多い州もあれば、天然ガス、原子力、石炭からの発電量が多い州もあります。

  だからクリーンパワー計画は、自らに最適な方法で汚染削減目標を達成する柔軟性を各州に認めているのです。

  大切なのは柔軟性です。これは米国内だけでなく他の国々にもあてはまります。なぜなら世界の多様なエネルギー源を持続させることに大きな価値があるからです。

  我々は、炭素を排出しない再生可能エネルギーや、クリーンで低炭素のエネルギーが将来的に不可欠であることを理解しています。これらがエネルギー構成で重要な位置を占め、拡大していかなければなりません。将来の雇用もこの分野で創出されます。

  米国では、クリーンパワー計画を実施したとしても、石炭、天然ガス、原子力、そして比重を増やし続ける再生可能エネルギーを含め、あらゆる燃料が今後も一定の役割を果たしていきます。こうした投資や技術革新により、我々は徐々に2050年までに達成しなければならない目標に近づいていくでしょう。

  炭素排出の少ない燃焼および二酸化炭素回収・貯留 (CCS) 分野で進歩を加速させる大きなチャンスがあります。現在米国では、新たな石炭燃料施設に対し、合理的なレベルでのCCSの採用を義務づけています。

  長期的に見ればCCS技術の進歩に伴い、より高度な二酸化炭素の回収が可能になります。既存の施設では、燃料効率向上のための投資により、効率性に優れた技術、運用法、製品が生まれ、電力需要を下げるという成果につながるでしょう。電力の消費者は、公益事業会社や国が実施するエネルギー効率計画を通じて、すでに全米で大きな恩恵を受けています。結局のところ、発電する必要がなければコストは最も安く済みます。

  実際、クリーンパワー計画の下、各州はそれぞれの目標達成のために、再生可能エネルギー、エネルギー効率化、CCSなど全ての低炭素発電技術を利用できます。我々は機会をとらえようとしています。

  重要なのは、どのような状況にも適用できる方法はないということです。米国の取り組みは唯一無二のものでも、他のどの国にとっても最善の方法というわけでもありません。各国はそれぞれの状況にあった方法で気候変動に対応しています。またそうあるべきです。米国はパートナー諸国から学び、その過程で我々の経験を分かち合いたいとも思っています。

  ここで今後の話をしましょう。

  米国のクリーンパワー計画の持続性に疑問を持つ人は、歴史を認めないことになります。公衆衛生と環境を守ってきた米国の45年間の歴史を認めないということです。この計画で実施する措置は、大気清浄法に基づいたものであり、法律で成文化されており、今後も変わることはありません。

  我々は、良い仕事をして、安全な近隣社会と呼吸に適した空気を子どもたちに残す義務があります。今こそ国内でそして世界中で行動を起こさなければなりません。米国が踏み出した大きな歩みから、何が可能かを世界が理解すると私は信じています。

  我々が協力すれば、気候変動は克服できます。ですからパリで開催される国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21) を見据え、私は希望を持っており、事態を楽観しています。しかしそれだけでなく、自信も持っています。

  世界は力を結集しています。あまりにも長い間不可能だった地球規模の解決に向けて、我々は進み出そうとしています。今こそ、強いリーダーシップを発揮し、大胆な行動を起こすときです。

  ありがとうございました。