貿易だけでない「環太平洋パートナーシップ協定」

ダニエル・ラッセル国務次官補(東アジア・太平洋担当)

(原文は国務省ブログ「DIPNOTE」に掲載)

2015年10月30日

 今年、アシュトン・カーター国防長官がこのような発言をした。「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は、空母と同じくらい重要だ」。経済協定と軍艦に共通するものとは何だろう?


米沿岸警備隊の船のデッキから眺めるシアトル港

 2つはいずれも外交手段だ。アジア太平洋地域の友好国にとって、空母ロナルド・レーガンの入港は、平和と安全保障の維持に向けた米国の決意と、ルールに基づいた秩序および普遍的価値観を守ろうとする固い意志を効果的に示す象徴である。

 TPPに空母と同じ効果があるわけではない。だがTPPはTPPなりの影響力を持っている。繁栄の原動力は、開かれた市場だ。米国および友好国・同盟国が自国の国益を守り、価値観を訴えることができるかどうかは、その経済力次第だ。我々が共に取り組むものの中で、TPPほど経済成長を加速させ、連携を緊密にするものはないだろう。

 オバマ大統領が高い基準を設け、マイケル・フロマン通商代表をTPP交渉に送り込んだのは、これが理由だ。

 私の元上司であり、外交のプロであるトーマス・ピカリング元国務次官から学んだ言葉がある。「固執しすぎると、手にする結果は往々してよくない」。オバマ大統領とフロマン通商代表はTPPを求めた。それも、よい形で手に入れたいと考えた。だから時間をかけた。待つだけの価値があったし、力を尽くして交渉する価値があった。

 TPPはリバランス戦略の経済的要素であり、中核である。なぜか? フロマン通商代表が挙げた明確な経済的理由があるからだ。しかし、それだけでない。広範囲にわたる戦略的な理由もある。TPPは米国を安全保障上、そして国家の安寧にとって不可欠となる地域につなぎとめてくれる。そしてこの地域では、TPPを、米国が引き続きリーダーシップを発揮し、アジア太平洋地域に留まる証ととらえている。

 米国が持っているものをアジア太平洋地域の国々が望んでいるという理由もある。技術革新、起業家精神、知的財産権、自由なインターネットへのアクセス、情報経済、環境基準、優れた統治、労働者の権利、団体交渉、透明性、公平性、機会、強靭さ、などだ。

 TPPには素晴らしい貿易条項が含まれているが、たとえこれらが全てなくても、この協定は、環境保護、労働者の権利、優れた統治の面で世界に誇る画期的な合意といえる。

 以上のことから、TPPは既に国々をひきつける効果を示している。多くの国が「TPPに参加したい」と言っているが、それには理由がある。

 TPPは他国が信頼し、手本とする国、すなわち米国が支持する最先端の合意だ。

 TPPは「ルールに基づいた秩序」を強化する。これは単なるキャッチフレーズではない。この協定は公平の原則を実践的に応用し、米国および太平洋アジア諸国が必要とする安全保障と安定の中枢をなす。

 リーダーシップとは、他者に何をすべきか指示するものではない。これから何をするかを伝え、その理由を説明し、他者が参加したいと思うように働きかけることだ。

 オバマ大統領およびTPP交渉参加国の首脳たちが協定合意で発揮したもの。それこそがリーダーシップだ。