日本記者クラブにおけるケネディ大使のスピーチ「未来の日米同盟を築く」

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

2015年12月17日

 こんにちは。本日は、日本記者クラブでお話しする機会をいただきありがとうございます。中井良則専務理事、ご招待に感謝申し上げます。後ほど司会を務めてくださる西村陽一企画委員長、ならびにお越しいただいた皆さまにお礼を申し上げます。

 私の同僚である米国政府の高官は皆、日本滞在中に日本記者クラブに来ており、皆さまからの温かい歓待や、さまざまな問題についての率直な議論、そして日本国民の皆さんとコミュニケーションを図る機会を与えていただいたことに感謝しております。

 民主主義国家は、自由かつ独立した報道機関と透明かつ責任ある政府との間に強固な関係がなければ機能しません。私は、日本の真摯(しんし)な報道や幅広い報道機関の存在に、常々感銘を受けております。そして良いことに、米国にいるときと違い、皆さまが報道する内容が私にはほとんどわかりません。(笑)

 皆さまにお話しする準備をしたことは、日本での2年間を振り返り、この先の1年を考える良い機会となりました。本日は、私の考えをいくつかお話ししたいと思います。

 まず、日米同盟はかつてないほど強固になっています。先週末発表された読売新聞社とギャラップ社の共同世論調査によると、日米関係は、この調査が始まった15年前以降最良の状態にあるとのことです。

 政府、ビジネス、科学、建築、アニメ、武道などの分野において、日米国民が何世代にもわたり努力してきたおかげで、両国は、国民の生活を豊かにするだけでなく、地球規模の問題に取り組む上で重要な役割を果たすパートナーシップを築き上げました。

 日米の2国間パートナーシップは今、強力な多国間連合の中核を成しています。国力の小さい、脆弱な国々は、繁栄するため、そして時にはただ生き残るために、我々の支援を必要としています。

 気候変動、テロ、貧困、病気、核不拡散などの問題は、一国が単独で行動するだけでは解決できません。これらは、国際社会の行動を要する地球規模の懸念です。

 日米は関与するだけでなく、指導的役割を果すことを求められています。世界の2大民主主義国として、日米は、自由、民主主義、法の支配という共通の価値観が、両国の最大の強みであることを決して忘れてはいけません。

 この点を証明する事例は無数にありますが、ここ数週間に限った例をいくつか挙げましょう。5日前、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と米国航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士が、半年にわたり国際宇宙ステーション(ISS)に共に滞在した後、無事帰還しました。米国政府は先月、メリーランド州へのリニアモーターカー導入の可能性を検討し始めました。そして先週末、歴史的な国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)の協議において、日米はリーダーシップを発揮し、再生可能エネルギーの研究開発予算を今後5年間で倍増させる約束をしました。

 このような取り組みは、技術革新とより安全な、より良い世界の構築に向けた両国が共有する決意の上に築かれています。だからこそ、日米は他国から助言や投資を求められ、安全保障で頼りにされているのです。

 2年前、オバマ大統領が私をこの職に任命した際に言ったのは、アジアへのリバランス戦略は米国の外交政策の中核要素の1つであり、それは日米同盟の揺ぎない基盤の上に築かれている、という強いメッセージを発信したいということでした。

 2014年に国賓として来日した際には、米国は太平洋国家であること、そして日本の防衛に尽力することをあらためて表明するとともに、日米同盟は転換期を迎えており、一世代に一度あるかないかのこの機会を最大限に活用する必要があると強調しました。

 オバマ大統領は、安倍首相が自国の将来について前向きなビジョンを持つ、活力にあふれたリーダーであることを知っており、安倍首相が掲げる経済再生計画や女性の活躍推進への取り組みに感銘を受けています。オバマ大統領はまた、日本と近隣諸国との関係改善は米国の国益にかなうと強調し、私にこのプロセスを前進させるため力を貸してほしいと言いました。

 働く母親として初の駐日米国大使となった私に、オバマ大統領は、日本の女性や家族に働きかけ、米国の経験を共有してほしいと言いました。

 私の子どもたちには、同世代に対して、この非常に重要な同盟の未来に力を注ぐよう促してほしいと頼みました。

 オバマ大統領は、戦後70周年の年に太平洋戦争を戦った退役軍人の娘が駐日米国大使を務めることで、日米両国民が和解の力と平和の可能性を思い出してくれることを願っていました。

 私は、ケネディ大統領の思い出が日本人の心の特別な場所を占めていることに強く心を動かされ、彼が訴えた国への奉仕が、ここ日本で強い共感を呼んでいることに深い感慨を覚えます。私の家族が温かい歓迎を受けたことで、このケネディ大統領が残した遺産に応え、両国の関係をさらに緊密にするため全力を尽くそうという決意がさらに強固になりました。

 この2年間、外務省のおかげで、米国人の元戦争捕虜の方々を大使館にお招きすることができました。父が生きていたら同じくらいの年齢だった元捕虜の方々からは、同じ和解のメッセージをいただきます。

 中国で捕らえられた人。(フィリピンの)バターン半島やコレヒドール島で生き残った人。東京上空で撃墜された人。彼らは苦しみを味わったにもかかわらず、食べ物を分け与え、彼らが生き残れるよう危険を顧みず助けてくれた、日本人兵士の優しさについても話してくれます。

 個人的に、ここ1年で最も印象に残ったのは、今年3月に、父が乗っていた魚雷艇を撃沈した日本の駆逐艦の艦長のご家族にお会いしたときのことでした。父と同じように、花見艦長は戦後故郷に戻って公職に就き、出身地の福島県で町長を務めました。

 「きのうの敵であり、きょうの友である花見艦長へ」と父がメッセージを書いた1950年代の写真を見て、対立している時でさえ、我々には相違点よりも共通点の方が多いということをあらためて強く感じました。

 そのわずか数週間後、安倍首相がアーリントン国立墓地の無名戦士の墓と第2次大戦記念碑で献花をした後、米国連邦議会の上下両院合同会議という公の場で、大々的に歴史的な演説を行いました。私もその場に立ち会いました。この説得力のある演説は米国民に強い印象を与えました。演説の中で首相は、日米関係を「希望の同盟」と呼びました。ここ数カ月、それが本当であることに感じ入っています。

 安全保障分野では、平和安全法制の成立および「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の改定により、緊張がますます高まる域内情勢のなか、将来の日米協力に向けた強固な基盤が出来上がりました。

 米国は最新のレーダー、艦船、航空機を日本に前方展開し、ここに駐留する米国兵士たちは命をかけて日本の防衛に献身的に努めています。

 日米はちょうど昨日、新たな在日米軍駐留経費負担について実質合意に至ったと発表しました。この5年間の合意は、日米同盟のもう1つの重要な成果です。米国は、アジアへのリバランスを強化し、揺らぐことのない日米同盟の強さを明確に示すことになるこの支援と協力に感謝しています。

 私は、三沢基地と佐世保基地の共同使用や、日米共同方面隊指揮所演習(やまさくら)のような共同演習において、米軍と自衛隊が互いを尊敬している様子を目にしました。彼らが現実の世界で強い関係を築いていることを何よりもはっきりと示しているのが、日米がフィリピンとネパールで展開した人道支援任務です。この協力のきっかけとなったのは、東日本大震災後に東北地方で実施された「トモダチ作戦」で、今では、米軍と自衛隊は自然災害の被害を受けている他の国々で人命を救助し、希望をもたらすために活動しています。

 日米両政府は、2国間の安全保障の課題に加え、テロやサイバーセキュリティーという21世紀の課題に立ち向かわなければなりません。また宇宙の軍事利用を阻止しなければなりません。

 日米は両国の安全保障協力を、同じ民主主義の価値観を共有するオーストラリアやインドといった地域のパートナー諸国にも拡大しつつあります。日本と韓国が強い関係を築くことも、これらの取り組みには欠かせません。

 しかし、安全保障協力の強化とその範囲の拡大を進める一方で、我々はそれが地域社会、特に沖縄に及ぼす影響を忘れてはいけません。だからこそ、我々は日本政府と協力し、「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」の策定、実施に取り組んできました。この計画が完了すると、太平洋地域全域の米軍が戦略的に再編され、嘉手納空軍基地以南の土地の68%のほか、4000ヘクタールの未開発の土地が返還されることとなります。これは米軍が管理する土地のおよそ20%にあたります。

 3月に返還された西普天間住宅地区では、最先端の医療施設の開発が進んでいます。さらにわずか10日ほど前、日米は、このプロセスを加速させ、交通渋滞も緩和させることになる、那覇(沖縄)の3区画の土地の早期返還を発表しました。

 我々はこの取り組みを続けていきます。なぜなら、我々は米国兵士を長年にわたり受け入れてくれている日本国民の皆さんに感謝しており、そのお返しに良き隣人になろうと努力しているからです。

 経済面においては、日米はかつてないほど緊密な関係にあります。米国は最大の対日直接投資国であり、日本は第2位の対米投資国です。ボーイング、サンディスク、3Mのような企業は、最新技術を用いた製造を日本で行っており、アップルは横浜に大型の研究開発センターを建設しています。

 日米は、脳科学、再生医療、ロボット工学で新たな知識分野を開拓しています。またどちらの国でも、ディズニーのお姫様キャラクターや野球が大きなビジネスとなっています。

 日米の強固な2国間関係は、今やグローバルな関係に発展しつつあります。そのなかで、両国は地域を主導し、過去に交渉した中で最大かつ最も広範囲に及び、最も基準の高い貿易協定、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の合意を達成しました。

 TPPは日米両国の農家、製造業、中小企業に、質の高い雇用と輸出機会をもたらし、太平洋の両岸で、多くの人々を貧困から救い出し、中間所得層に引き上げます。児童労働の禁止、労働基準の向上、国有企業への公平な競争の義務化を通して、我々の中核的価値観を推進します。

 TPPは知的財産を保護することで、参加する全12カ国で発明と創造性を促進します。TPPには、野生生物の密輸や違法な漁業を防止し、生物多様性を保護する、強力で法的拘束力のある条項が盛り込まれています。

 他の国々がTPPに参加し、このような条項が来るべき欧州との協定にも組み入れられることになれば、我々が共有する価値観が、今後何年もこの地域および世界の経済構造を決定付けることになります。

 この後の質疑応答でご質問されたい方に、先にお答えします。米国連邦議会はTPPを承認します。

 今後を見据えたときに、日米が共に取り組まなければならない最重要課題はおそらく、気候変動でしょう。パリでの歴史的な合意に関して、オバマ大統領は「時代の求めに応えることができた」と述べました。しかし、取り組みが始まったばかりだということも認識していました。

 日米は低炭素の未来に向けた活動でリーダーとなり、途上国の同様の取り組みを支援しなければなりません。

 クリーンな再生可能エネルギーは、利用者数が2030年までに推定90億人になると見込まれる市場で、何百万もの雇用を生み出すでしょう。日米両国の企業は既に、未来の自動車、充電池、送電網の開発に乗り出しています。

 ジョン・ケリー国務長官は次のように述べました。「この合意をいかに実施するか。いかにして目標を設定し、合意を発展させていくか。人類史上最も複雑な課題の1つに対処できるか否かはこれにかかっている」

 我々には解決策があり、革新的な解決策を実現し、大規模に展開する資本があります。これは、ビジネスと環境の両面で道理にかなったものであり、正しい行動です。

 この問題、そしてその他の多くの問題に取り組むには、次世代に参加してもらう必要があります。なぜ両親や祖父母たちが日米同盟にそこまで力を注いできたかを理解し、日米同盟を素晴らしいものと捉え、自分たちも関わりたいと思ってもらう必要があります。

 彼らの参加を募る最善の方法は、互いのことを知り、互いの国で勉強し、そこでの生活を楽しみ、人生を切り開く機会を提供することです。

 在日米国大使館では、2020年までに留学生の数を倍増するという、オバマ大統領と安倍首相が掲げた目標の達成に向け全力を尽くしています。

 高校や大学で留学支援プログラムを実施し、留学相談窓口を日本各地に設置しています。米国の大学を卒業した日本人は留学の提唱に最も適した立場にあるので、彼らにそれを促しています。より若い学生には、新しい、今までとは異なる方法で働きかけ、彼らが関心をもつ問題に関わってもらおうとしています。

 例えば、私が今取り組んでいるプログラムでは、東京、沖縄、韓国、サウスブロンクス地区(ニューヨーク市)の高校生たちがテレビ会議を通じて交流し、将来に対する不安や希望、夢を分かち合っています。

 また(京都府)経ヶ岬の小学校とマサチューセッツ州マンチェスターの小学校の橋渡しもしました。両校は技術を介して協力し、2つの地域が共有する珍しい自然資源である鳴き砂の研究に取り組んでいます。

 この2つの取り組みや従来の取り組みがきっかけとなり、日米の子どもたちが成長して、より広い世界を探求したいと思うようになることを願っています。

 日本政府は海外留学向けに多くのリソースを提供していますが、財界および学術機関にも、この取り組みを推進していただく必要があります。

 今日の世界が恐ろしい場所であるように思われることもあります。また日米どちらの国にも、むしろ内向きになり、国内のことだけに目を向けていたいと考える人がいます。しかし、それは我々の本来の姿ではないと子どもたちに教える必要があります。

 日本は国連安全保障理事会で11回目の非常任理事国となり、主要7カ国首脳会議の議長国として準備を進めています。このことから、2016年は、日米両国が共通の優先課題でより緊密に連携する年になることが期待されています。

 日米は国連分担金と緑の気候基金で最大の拠出国です。西アフリカでは、両国の医療関係者たちが緊密に連携し、エボラ出血熱に立ち向かっています。今年3月には、ミシェル・オバマ大統領夫人と安倍昭恵首相夫人が、東南アジアの女子教育推進に向けた米国平和部隊と青年海外協力隊のパートナーシップを発表しました。両国の外交官たちはここ数カ月、イランの核合意の実現に向け協力しました。共にテロと闘い、絶望の中にいる多くの難民たちがより良い生活を築く支援を行っています。

 我々は率先してリーダーシップの責務を担っています。なぜなら第2次世界大戦から生まれた対話、パートナーシップ、そしてルールに基づいた秩序の恩恵を受けてきたからです。

 安倍首相はそれを「積極的平和主義」と呼んでいます。

 オバマ大統領は国連で自らの構想を次のように語りました。「すべての個人の尊厳を重んじ、互いの相違は乗り越えられると信じ、対立ではなく協調を選択することは、弱さではなく強さを示すものである。そして互いにつながりあっているこの世界では現実的に必要なものである」

 日米両国民は、日米同盟を誇りに思っていいでしょう。日米同盟は、和解と友情から成る無数の行動を通じて構築されてきました。この同盟は尊敬と多大な努力によって維持されており、知識と機会をもたらします。 

 日米両国にはそれぞれ独自の文化、神話、伝統があり、この相違こそが、今日の分断された世界で日米連携の緊密性をさらに際立たせるものにしています。

 日米は共に、希望をもたらす歴史の力、進歩をもたらす知識の力、そして平和をもたらす自由の力を示しています。

 日米両国民には、素晴らしい贈り物が与えられています。日米両国が未来の同盟を構築する中で、私は自分がその贈り物にふさわしくありたいと願っています。

 ありがとうございました。