2016年人身取引報告書(日本に関する部分)

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

国務省人身取引監視対策部

2016年6月30日

日本(第2階層)

 日本は、強制労働および性的搾取の人身取引の被害者である男女、および性的搾取の人身取引の被害者である児童が送られる国であり、被害者の供給・通過国である。主にアジアからの移住労働者は男女共に、政府の技能実習制度(TITP)を通じた一部の事案も含め、強制労働の状態に置かれる。東アジア、東南アジア(主にフィリピンおよびタイ)、南アジア、南米およびアフリカからの男性、女性および児童の中には、雇用あるいは偽装結婚のために来日し、性的搾取の人身取引の被害にさらされる者もいる。人身取引犯は、バー、クラブ、売春宿およびマッサージ店での強制売春のために外国人女性を日本へ入国させやすくしようと、外国人女性と日本人男性との偽装結婚を利用する。人身取引犯は、借金による束縛、暴力または強制送還の脅迫、恐喝、パスポートの取り上げ、その他の精神的な威圧手段を用い、被害者の移動を厳しく制限する。また強制売春の被害者は契約開始時点で借金を負っている場合もある。大半の被害者は、生活費、医療費、その他の必要経費を雇用主に支払うよう要求され、債務奴隷とされやすい。売春宿の運営者は、素行が悪いとして「罰金」を被害者の当初からある借金に加算することがあり、こうした借金の計算方法は、概して不透明である。人身取引の被害者は、東アジアや北米等、日本を越えた送り先での搾取に耐える前にまず、日本を経由することがある。

 日本人、特に、家出した十代の少女や、外国人と日本人の間に生まれて日本国籍を取得した児童およびその外国人の母親もまた、性的搾取の人身取引の被害にさらされる。「援助交際」という現象や、さまざまな形態の「JK(女子高生)ビジネス」が、日本人児童の性的搾取を目的とする人身取引を依然として助長している。巧妙かつ組織的な売春ネットワークが、地下鉄、若者のたまり場、学校、インターネット上などの公共の場で、脆弱な日本人女性および少女を標的にする。こうした女性や少女は貧困状態にある、あるいは精神障害を持つ場合が多い。中には人身取引被害者となる女性や少女もいる。日本にある複数の組織は、日本人の父親とフィリピン人の母親との間に生まれた児童とその母親が、日本国籍を取得し日本へ移住するために、手数料を取って支援すべく、こうした児童に接触する。日本入国後、これらの組織の役務を受けたことにより負った借金を返済するため、性的搾取の人身取引の被害者となる母親と児童もいる。日本人男性は依然として、アジアにおける児童買春旅行への需要の大きな源泉の一つとなっている。

 強制労働の事案は、政府が運営するTITPにおいて発生している。この制度は本来、外国人労働者の基本的な専門的技能を育成することを目的としていたが、事実上の臨時労働者事業となった。「実習」期間中、多くの移住労働者は、TITPの本来の目的である技能の教授や育成が実施されない仕事に従事させられ、中には依然として強制労働の状態に置かれている者もいた。技能実習生の大半は中国人およびベトナム人であり、中には職を得るために最高で1万ドルを支払い、実習を切り上げる場合には、数千ドル相当の没収を義務付ける契約で雇用されている者もいる。この制度の下で、送り出し機関による過剰な手数料、保証金、および「罰則」契約は依然として報告されている。脱走やTITP関係者以外の人との連絡を防ぐために、技能実習生のパスポートやその他の身分証明書を取り上げ、技能実習生の移動を制限する雇用主もいる。

 日本政府は、人身取引撲滅のための最低基準を十分に満たしていないが、満たすべく著しく努力している。本報告書の対象期間中、政府が人身取引犯を訴追および有罪にした件数と認知した人身取引被害者の数は増加したが、2015年に有罪判決を受けた27人の人身取引犯のうち、9人は罰金刑のみを受けた。TITPにおける労働搾取目的の人身取引が申し立てられたにもかかわらず、政府は強制労働の加害者を訴追または有罪にしなかった。2013年以降、訴追および有罪判決の総数は減少した。政府は人身取引対策の取り組みに関する初の年次報告書を発表した。しかし、政府は、人身取引犯罪の訴追を推進するために法律の大きな欠缺を埋め、国際法上の人身取引の定義に法律を合致させることになる法の整備や制定を行わなかった。政府は、人身取引の被害者を保護する取り組みを若干強化した。しかし、政府は、配偶者による暴力の被害者向けの既存のシェルター網とは別に、人身取引の被害者専用のシェルター網を全国に設置する等、人身取引被害者に特化した保護や支援措置は策定しなかった。政府は2000年に採択された国連人身取引議定書を締結しなかった。

日本への勧告

 国際法の定義に従い、強制労働あるいは性的搾取の人身取引を目的に個人を募集、輸送、引き渡し、収受する者を犯罪者とすることを含め、あらゆる形態の人身取引を全て犯罪とするための法的枠組みを改定する。実刑の代替となる罰金刑を排除し、人身取引犯罪に対する罰則を強化する。労働搾取目的の人身取引事案の捜査および訴追の取り組みを大幅に強化し、有罪判決を受けた人身取引犯に実刑を科す。TITP改革法案を成立させる。強制労働の一因となる、組織や雇用主による過剰な保証金、「罰則」の合意、パスポートの取り上げ、その他の行為の禁止の実施を強化する。第一線にいる担当官が、強制労働または性的搾取を目的とする人身取引被害者を男女共に認知するため、新たに拡充した被害者認知手続きを実施する。逮捕されたTITPの移住労働者を含み、またこれのみに限定されない潜在的な人身取引被害者が、人身取引の被害に直接起因する違法行為を犯したことで拘束または強制送還されることがないよう、被害者の審査を強化する。人身取引の被害者専用のシェルターなど、人身取引の被害者に対して専門のケアと支援を提供する資源を確保する。海外で児童買春旅行に参加する日本人の捜査、訴追、有罪判決、処罰を積極的に行う。2000年に採択された国連の国際的な組織犯罪の防止に関する国際条約および同年に採択された人身取引議定書を締結する。

訴追

 政府は、人身取引に対する法執行の取り組みを若干強化した。日本の刑法は、国際法で定義されているあらゆる形態の人身取引を禁止するものではなく、政府は人身取引犯罪の訴追にあたり、売春、略取・誘拐、児童福祉および雇用に関する法律のさまざまな規定に依拠している。1956年制定の売春防止法第7条から第12条は、売春の周旋および強制売春を犯罪としている。刑法226条の2は、人身売買を犯罪としている。1947年制定の職業安定法は、人が「暴行、脅迫、監禁、その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段」を用いて労働者の募集に従事すること、あるいは「公衆衛生または公衆道徳上有害な業務」に就かせることを目的に労働者を募集することを犯罪としている。さらに、1947年制定の児童福祉法は、児童に淫行または児童にとって有害な行為をさせるなど、児童に危害を与えることを幅広く犯罪としており、報告によれば、この法律が児童に売春行為をさせた被告を訴追する根拠となってきた。しかし、児童福祉法は、売春を目的として児童を募集、輸送、引き渡し、または収受することには効力が及ばないため、性的搾取を目的としたあらゆる形態の児童の人身取引に適用されるものではないとみられる。刑法226条の2は、営利あるいはわいせつ目的での人の買い受けに対して最長10年の懲役刑を規定している。これは十分に厳格であり、強姦罪等のその他の重罪に対して規定されている刑罰とおおむね同等である。しかし、国境を越えた男性または女性の移送を目的とした人の売買は最短で2年の懲役に処され、より軽度な犯罪とされている。日本の検察官が人身取引犯罪を訴追する上で依拠するその他の犯罪の場合も、収監の代替となる罰金刑を規定しているため、刑罰が十分に厳格でない。児童に売春を行わせ、かつ、「児童の心身に有害な影響を与える行為を児童に行わせる」ことにより児童の福祉を危険にさらして有罪となる犯罪者は、最長3年の懲役もしくは最高100万円(8000ドル)の罰金、またはその両方の刑に処される。故に、罰金の支払いのみの刑で済む可能性がある。同様に、児童に「淫行をさせた」場合には、さらに刑罰が重く、最長10年の懲役、300万円(24000ドル)以下の罰金、またはその両方の刑に処されるが、この条項の下でさえ、唯一の刑罰として罰金のみが科される可能性が残る。同じく、職業安定法が強制労働を目的とした募集行為を犯罪とする限りにおいて、認められている最大の罰則は20万円(1700ドル)を最低額とした罰金であるが、これは十分に厳格ではない。さらに、強制売春の場合、形態によっては最長3年の懲役または罰金に処せられ、その他の形態の場合は、罰金という代替刑はなく、懲役5年が科される。

 政府の報告によると、2015年の人身取引関連犯罪の捜査件数は44件であり、2014年は32件であった。政府が2015年に起訴した事案は17件であり、同起訴事案の大半は、直接または間接的に性的搾取目的の人身取引と関連しており、関与した人身取引の被疑者は合計26人だった。政府が有罪判決を下した人身取引犯は27人で、そのうち6人は2014年に訴追された。2014年に有罪判決を受けた人身取引犯は18人だった。有罪判決を受けた27人中、9人罰金刑のみを受けた。送り出しおよび受け入れ機関双方によるパスポートの取り上げ、法外な罰金の要求、契約によらない違反行為に起因する恣意的な減給、強制送還の試みなど、TITPの下、労働搾取を目的とする人身取引犯罪の可能性に関して多くの報告や申し立てがあったにもかかわらず、政府は、TITPの労働者の使用に関与した人身取引犯を訴追することも、有罪とすることもなかった。しかし、政府はこれらの悪用事案の一部を、罰則が十分に厳格でない労働関連法違反として訴追した。政府は、児童買春の捜査を728件行ったと報告した。2014年は661件だった。捜査が訴追および有罪判決に至った件数、ならびに、第三者により売春させられた児童の事案と比べて、取引としての性交渉に関与した児童に関する事案件数は不明であった。警察庁、法務省、入国管理局および検察庁は、上級捜査官と警察官、検察官、裁判官、入国管理局職員を対象に、人身取引被害者の認知と人身取引事案の捜査について、多数の人身取引対策研修を引き続き実施した。人身取引犯罪に加担した政府職員に対するいかなる捜査、訴追、有罪判決の政府報告もなかった。

保護

 政府は、人身取引の被害者を認知し保護する取り組みを、若干強化した。政府は54人の人身取引被害者を認知した。2014年は25人だった。政府は、認知した54人中、1件の事案で23人のフィリピン人を労働搾取目的の人身取引被害者として認知したが、同被害者の中には、性的搾取目的の人身取引も行われた可能性があった。政府はこの他2015年に、それぞれ個別の事案で、労働搾取目的の人身取引被害者として11人を認知した。政府が労働搾取目的の人身取引被害者を認知したのは、20年間で初めてであった。これらの事案の中には、性的搾取目的の人身取引とも関連した可能性がある事案もあった。政府による保護の取り組みは、人身取引の狭義の定義により引き続き制約を受けた。借金による束縛、パスポートの取り上げ、および拘束をはじめとして、人身取引を示す実質的証拠があるにもかかわらず、政府はTITPにおける強制労働の被害者をこれまで1人も認知していない。警察庁は、2015年に性的搾取の人身取引の被害者として20人の女性を認知した。2014年は25人だった。性的搾取の人身取引の被害者として認知された13人の日本人のうち、5人は児童だった。売春に関与させられたとして警察が認知した児童は518人いたにもかかわらず、政府が性的搾取の人身取引被害者として正式に認知した児童は5人のみだった。性的搾取目的の人身取引被害者である児童の中には、警察が正式に人身取引被害者として認知するのではなく、代わりに、その児童の素行に関して略式に助言を与えた場合もあった。その結果、これらの児童は人身取引の被害者に特化したサービスを受けなかった。政府には人身取引の被害者に特化したサービスが依然として欠けていたが、日本の婦人相談所および配偶者による暴力の被害者向けシェルターに対して資金を提供し、これらのシェルターは認知された被害者のうち21人を支援した。その他の被害者は非政府組織(NGO)のシェルターで支援を受けるか、または本国に帰国あるいは自宅に戻った。婦人相談所では、食料、生活必需品、精神的ケアおよび医療費が提供され、施設の職員が同行すれば、被害者は外出することもできた。2015年10月、政府は、NGOを通じて、男性被害者をシェルターで保護するための財政的支援の提供を開始した。

 警察庁は、被害者を認知し、利用可能なサービスを被害者に紹介するため、国際移住機関(IOM)作成のハンドブックおよび人身取引対策関係省庁連絡会議の手引書を利用した。被害者の中には、人身取引犯からの報復を恐れて、政府の援助を求めることに消極的な者もいた。労働搾取の人身取引被害者や虐げられたTITP参加者への政府の支援は何も報告されなかった。これは、政府がこうした脆弱な人々の中から被害者の有無の審査も認知も行わなかったためである。政府が出資する日本司法支援センター(法テラス)は、刑事および民事のいずれの訴訟でも、困窮した犯罪被害者に無料で法的支援を提供したが、このようなサービスの利用を申請または受けた人身取引被害者の有無については、4年連続で不明であった。法律は、人身取引の被害を受けたことに起因する犯罪で人身取引被害者が処罰されることを禁じているが、被害者の中には、出入国管理法違反が起こったことにより罰金刑を受けた者がいた。母国への帰国を恐れる被害者は、一時もしくは長期在留資格、または永住者資格という便益を受けることが可能であった。政府は8件の長期在留資格を付与した。しかし、外国人被害者は、長期にわたる捜査と裁判の間、就業することが認められないことが多いため、ほとんどの場合、日本に留まることよりも母国への帰国を選んだ。政府は、国際機関を通じて、外国人被害者にカウンセリング、一時避難、社会復帰および本国帰国支援を提供する事業に資金拠出をした。本報告書の対象期間中、12人の被害者がこの事業を通じて支援を受け、母国に帰国した。被害者は人身取引犯から損害賠償を求める権利を有した。人身取引被害者として認知されていない可能性のある被害者も含め、外国人労働者の中には、賃金不払いに対して民事訴訟を起こした者もいた。しかし、賠償金の支払いを命じられた会社は破産宣告をすることが多かったため、賠償金の受け取りは引き続き困難であった。

防止

 政府は人身取引を防止する取り組みを強化した。政府は、人身取引対策に関する政府の行動について初の年次報告書を発行し、人身取引対策行動計画で表明した目標に照らして、取り組みの進捗状況を追跡した。行動計画には、TITP改革、現場の担当官への研修、人身取引被害者の保護および支援向上の取り組みの概要が示されている。2015年3月に国会に提出されたTITP改革法案は、いまだに採決が行われていない。この改革法案は、管理・監督を実施する機関、加害者に強制労働罪の責任を負わせる監督制度、外国人移住者の救済制度を設置するほか、責任を担う省庁を指定することになるが、実習生が雇用主を変更することは認めない。国土交通省は、TITPを発展させる試みとして、現場での評価や調査等の強力な保護要素を備えた外国人建設就労者受入事業を開始した。法務省は2015年、企業3社、32の監理団体、238の実習実施機関に対しTITP実習生の受け入れを禁止した。TITPの監視を目途とした政府系機関である国際研修協力機構(JITCO)は、雇用主を訪問し研修を実施したほか、TITP実習生向けの相談ホットラインを運営し、6カ国語で書かれたTITP労働者向けハンドブックを配布した。

 政府は引き続き、多言語対応の緊急時連絡ホットラインの電話番号を各地の入国管理事務所に公示し、人身取引被害者の送り出し国政府に提供するとともに、人身取引問題の啓発活動をインターネット上で行い、意識向上のために人身取引犯罪の逮捕状況を公表した。商業的な性への需要を減らすため、内閣府は、性サービスの潜在的消費者へ向けた警告を記したポスター、リーフレットおよびパスポート用の冊子を引き続き全国で配布した。日本人男性は他のアジア諸国、特にタイ、インドネシア、カンボジア、フィリピン、および頻度は低いものの、モンゴルへ渡航し、児童の商業的性的搾取を行っており、日本は、児童買春旅行の需要の源泉の一つである。政府は、アジアのある国で児童を性的に搾取したとして1人の日本人を訴追し、懲役2年執行猶予4年の判決を下した。警察庁は、東南アジアにおける児童の商業的性的搾取に関する事案の詳細を、タイ、カンボジア、フィリピンおよびインドネシアの警察と共有した。政府は、国際平和維持活動要員に対し、海外派遣の前に人身取引対策の研修を実施するとともに、外務職員に対しても同様の研修を行った。日本は、国連で2000年に採択された人身取引議定書を締結していない唯一のG8参加国である。

:在日米国大使館では昨年までTrafficking in Persons Reportの日本語訳を「人身売買報告書」としていましたが、2016年版から「人身取引報告書」を使用することとしました。)