信仰の自由に関する国際報告書(2015年版)―日本に関する部分

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

米国国務省民主主義・人権・労働局

2016年8月10日発表

エグゼクティブ・サマリー

 日本国憲法は、万人に対する信仰(信教)の自由を規定し、宗教団体がいかなる政治上の権力も行使すること、あるいは国からの特権を受けることを禁止している。政府は、ビルマのイスラム教徒ロヒンギャ族や中国の法輪功学習者など、母国で迫害を受けていると申し立てた一部の宗教信者に保護の地位を付与した。

 最高裁判所は、世界平和統一家庭連合(FFWPU、旧統一教会)の会員に対し、この会員を改宗させようと説得するために12年以上にわたり拘束した家族に対する損害賠償請求を認める下級審判決を支持した。報告によると、イスラム教団体およびモスクは、1月のダーイッシュ(イラク・レバントのイスラム国)による日本人殺害の後、嫌がらせの電話を受けた。

 大使をはじめ、在日米国大使館および領事館の代表者は、信仰の自由の状況を観察し、寛容と受容を促すため、宗教団体や宗教指導者たちに接触した。大使館の代表者は、FFWPUや法輪功学習者など、懸念を報告するさまざまな少数派宗教団体と話をした。

第1節 宗教統計

 米国政府は、日本の総人口を1億2690万人と推計している(2015年7月の推計)。文化庁の2013年の報告によると、各宗教団体の信者数は、合計1億9700万人であった。この数字は日本の総人口よりも大幅に多く、日本国民の多くが複数の宗教を信仰していることを反映している。例えば、仏教徒が神道など他の宗教の宗教的儀式や行事に参加するのは一般的なことである。また、文化庁の報告によると、信者の定義および信者数の算出方法は宗教団体ごと異なる。宗教的帰属で見ると、神道の信者数が9100万人(48%)、仏教が8690万人(45%)、キリスト教が290万人(2.3%)、その他の宗教の900万人が含まれる。「その他」の宗教および未登録の宗教団体には、イスラム教、バハーイー教、ヒンズー教、およびユダヤ教が含まれる。

 先住民のアイヌは、主に精霊信仰を実践し、本州北部および北海道に集中しており、少数が東京に居住する。外国人労働者と緊密に接触する非政府組織(NGO)によると、ほとんどの移住者や外国人労働者は、伝統的な仏教または神道以外の宗教を実践している。

第2節 政府による信仰の自由の尊重の現状

法的枠組み

 日本国憲法は、何人に対しても信仰の自由を保障し、国は宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならないと義務付けている。また国民は、憲法が保障する自由および権利を濫用してはならず、これらの権利を公共の福祉のために利用する責任を負うと定めている。

 政府は、宗教団体の登録または認証申請を義務付けてはいないが、法人格の認証を受けた宗教団体には税制面の利点がある。法により、文部科学大臣、あるいはいかなる都道府県知事も、法人資格申請者が、儀式の執行、信者の教化育成、礼拝施設の維持に必要な一定の要件を満たしているか審査することができる。

 法により、認証を受けた宗教団体を監督するためのある程度の権限が、政府に与えられている。また、法により、認証された宗教団体には資産を政府に開示することが義務付けられ、政府には営利活動に関する規定に違反している疑いがある場合に調査を行う権限が与えられている。宗教団体がこうした規定に違反した場合、当局は当該団体の営利活動を停止する権限を持つ。

 法により、国および地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならないと規定されている。また、宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養および宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならないと定められている。

 法により、刑事収容施設において被収容者が一人で行う礼拝は、原則として禁止されてはならないと規定されている。労働組合法は、何人も宗教によって労働組合員の資格を奪われないと定めている。

政府による実践

 文化庁によると、約18万1500団体が、国および都道府県により、法人格を持つ宗教団体として認証されている。その数の多さには、宗教団体の地方組織が個別に登録していることが反映されていた。

 日本法輪大法学会によると、政府は、中国人の法輪功学習者に、人道的配慮による一時的な保護の地位を付与した。この人道的配慮による一時的な地位により、法輪功学習者は日本国内にとどまり、また、日本政府が発行した渡航書類を利用して海外に渡航することができた。

 政府は、ビルマで民族的・宗教的迫害を受けたと申し立てて来日したイスラム教徒に短期滞在ビザを発給した。これらのイスラム教徒のほとんどは日本に5年以上居住しており、中には15年以上居住している者もいた。報告によれば、日本に不法入国し、なんらの公式な再定住プログラムにも参加していない者もいた。短期滞在ビザは頻繁に更新する必要があった。短期滞在の地位には、ある程度の国外退去の法的リスクが伴ったが、2015年に、ビルマ出身のイスラム教徒のロヒンギャ族で国外退去させられた者はいなかった。ロヒンギャ族の代表は、政府がビルマ国内での宗教的迫害を恐れるロヒンギャ族の難民認定に消極的だったと述べた。2015年に、マレーシアから来たロヒンギャ族難民の3人家族が日本に再定住した。約20人のロヒンギャ族の難民申請者が、依然として不法滞在あるいは難民として認定されない状態にあった。

 10月8日、東京地方裁判所は、学校の式典で国歌のピアノ伴奏をする職務命令を拒否したキリスト教徒の元小学校教師に対して2010年に科せられた減給処分は、命令の拒否がキリスト教への信仰に基づくものであるため不当であるという判決を下した。しかし、同裁判所は、学校の措置を違憲とは判断しなかった。元教師は、学校の措置は憲法上の信仰の自由の侵害であると述べ、命令拒否を理由に東京都が科した減給処分の取り消しを求めて2013年に提訴していた。原告弁護団によると、元教師は、国歌は神道を象徴しており、彼女の信仰に反すると述べた。被告は、式典で国歌の伴奏をすることに宗教的な意味合いはなく、教師が命令に従わなかったことは、法律に規定された地方公務員の行動規範に違反すると述べた。東京都は地裁の判決を不服とし、控訴した。

 5月、法務省は、同省の人権機関が2014年に受理した信仰の自由の侵害に関連する相談は340件であり、42件について信仰の自由が侵害された可能性が高いと確認し、20件については、法的助言が得られるよう管轄当局へ紹介するなど、潜在的被害者に対する支援を行なったと報告した。

 法務省の報告によると、2013年に刑事収容施設が被収容者に実施した、民間ボランティアの教誨師による宗教的儀式や教誨の回数は、集団に対して8814回、個人に対して7614回だった。教誨師を育成する公益財団法人・全国教誨師連盟によると、受刑者が面会可能な神道、仏教、キリスト教、その他の宗教のボランティア教誨師は2015年1月時点で1862人だった。

第3節 社会による信仰の自由の尊重の現状

 FFWPU会員の1人は、改宗の説得を目的として12年以上にわたってこの会員を拘束した家族に対し、損害賠償を求める民事訴訟を起こした。FFWPUは、最高裁判所が9月29日に被告の上告を棄却し、東京高等裁判所が2014年11月に下した判決を支持したと述べた。この判決により、被告に総額2200万円(18万3000ドル)の損害賠償の支払いが命じられた。

 報道によると、イスラム教団体およびモスクは、1月のダーイッシュによる日本人殺害の後、嫌がらせ電話を受けた。警察庁は、イスラム教施設の警備強化および嫌がらせや違法行為の標的となっているイスラム教徒を保護するよう、全国の警察署に指示した。

 FFWPUによると、福岡高等裁判所はある国立大学の教員が1人のFFWPU会員およびその両親の信仰を侮辱した発言をしたことから、信仰の自由を侵害したとし、この大学に対し、同会員とその両親への損害賠償の支払いを命じた。原告は、福岡高等裁判所が政教分離の違反を認めなかったとして、4月に最高裁判所に上告した。2015年末時点で、最高裁判所の判決はまだ出ていなかった。

 4月9~10日、世界宗教者平和会議日本委員会とサウジアラビアのメッカに本部を置く世界イスラーム連盟は、対話集会を東京で共同開催した。主催者によると、約300人のイスラム教徒および日本人宗教家が、宗教の違いを超えた共存の重要性、協力、平和のための共通のビジョンについて議論した。

 2月15日、宗教間組織が、仏教、神道、イスラム教等の信者が参加する駅伝を京都府で開催した。主催者および佛教タイムスによると、約40人の参加者たちが、宗教的寛容および世界平和を訴えた。

 8月、滋賀県の比叡山天台宗延暦寺において、宗教の違いを超えて世界平和推進への祈りをささげる年次行事である「比叡山宗教サミット」が開催された。主催者および参加者によると、世界中から約1100人の仏教、キリスト教、神道信者が、宗教間の協調を通じて世界平和を支援するため参集した。

 イスラミックセンター・ジャパンのメンバーは、引き続き教会で講演し、キリスト教徒、ユダヤ教徒、仏教徒と共に宗教を超えた平和の祈りに参加した。

第4節 米国政府の政策

 米国大使館および領事館は、法執行官を含む日本政府に対して、信仰の自由の尊重を促進する米国政府の立場を伝えた。大使館の担当官は、信仰の自由の状況を注意深く観察し、FFWPUや法輪功学習者などの少数派宗教団体およびNGOと接触を持った。

 大使は、(ユダヤ系団体)「サイモン・ウィーゼンタール・センター」の代表と会合を持ち、仏教に根ざす一宗教である創価学会との連携など、世界各地の反ユダヤ主義に対抗し、日本国内で人権を保護しようとする同センターの取り組みについて学んだ。

 3月5日、在福岡米国領事館の担当官は、広島以西にある唯一の単独型モスク「福岡マスジド」を訪問した。モスクの指導者は領事館の担当官に対し、イスラム教徒向けの観光地図の作成上の協力や、地元警察との定期的な連携を含め、モスクが福岡市と良好な関係にあることを伝えた。この指導者はまた、モスクが仏教寺院および地元のカトリック系の学校と交流したと述べた。

 大使館の担当官は、日本で難民認定を求めるロヒンギャ族のニーズや、米国による信仰の自由の尊重の促進について協議するために、日本にいるロヒンギャ族の代表と会合を持った。大使館の担当官はまた、日本で寛容を促進しようとする、ユダヤ人社会の交流活動についてさらに学ぶために、ユダヤ人社会の指導者と会合を持った。在札幌米国領事館の担当官は、信仰の自由を尊重する米国の立場について協議するために、創価学会および北海道神宮の神官と個別に会合を持った。