ケネディ大使の日本記者クラブにおけるスピーチ後の質疑応答

 *下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。「問い」の部分については、日本語の原発言を文字に起こしました。

2015年12月17日

 (スピーチの日本語訳はこちら)

 時間が限られているので最初から硬い質問で恐縮ですが、政治安全保障問題についてお伺いします。今年は戦後70年ということで、大使も広島・長崎の記念式典に出席されましが、被爆地をご覧になった感想をお伺いしたいと思います。また、来年、大使もおっしゃったように伊勢志摩でG7サミットが開かれますが、大使はオバマ大統領の広島・長崎訪問についてどうお考えでしょうか。大使個人から大統領に訪問をお勧めになる考えはおありでしょうか。

ケネディ大使 広島・長崎を訪れることは、誰にとっても最も印象深い経験の1つになると思います。私が被爆地を初めて訪問したのは1978年のことで、叔父の(エドワード)ケネディ上院議員と一緒でした。(駐日大使となった)今は私の子どもたちと訪れ、平和公園を歩く機会を得ました。これは大きな式典の際にはできなかったことです。ケネディ大統領の最も誇りとすべき功績は部分的核実験禁止条約(の締結)ですから、(被爆地を訪問することは)私にとっても個人的に大きな意味があります。オバマ大統領も核兵器のない世界に向け取り組んでいます。被爆地を訪れる誰もが、何としても平和のために尽力するという決意を新たにすると思います。

 大統領の訪問については、ご承知のように、大統領の日程は非常に複雑ですし、まだ何カ月も先のことですから、何が可能か私には予測できません。

 先ほど大使も言及されたように、沖縄をめぐって嘉手納以南の土地の返還の動き等もありますが、慰霊の日の式典に今年ご出席されました。沖縄は他の日本の地域と比べて独特の歴史を持っていますし、米軍の基地が集中していますが、その現状についてどう思われますか。それから日米が普天間基地の移転先として辺野古の埋め立てで合意したことについて沖縄県が反対していることについてどう考えますか。日本が辺野古に変わる解決策を提案した場合、米政府が再考する余地があるのかということについてお伺いしたいと思います。

ケネディ大使 まず米国は良き隣人になろうと懸命に努力しています。そして何世代にもわたる沖縄県民の米軍兵士への支援にとても感謝しています。沖縄にはこれまで4〜5回参りましたが、米軍兵士の献身的な取り組みだけでなく、地域社会の力強さにいつも感銘を受けています。

 我々は基地の影響の軽減に向けて懸命に努力しており、その重要性を理解しています。人々が熱心に取り組み、さまざまな選択肢を検討し、策定したこの計画が、これまで検討した中で最善の計画であると私は思います。我々は今、転換期にあり、今後数年が非常に重要だと思います。そして普天間(飛行場)を移設できれば状況は改善すると思います。我々はそれを実行する決意です。できるだけ早く実現できるよう、懸命に取り組んでいます。ご存知のように、我々は土地の早期返還に向けた措置を取りました。米軍再編だけでなく、さらなる土地の返還にも取り組んでいます。ですから、未来はより良くなると思いますし、我々はこの計画をできるだけ速やかに実施すべきだと思います。

 難民問題についてお伺いしたいのですが、欧州にシリア難民が流入しているということ、それからパリでの同時テロを受けて、移民や難民受入れ問題がアメリカ大統領選でも大きな争点になってきていると思います。トランプ氏はイスラム教徒入国禁止さえ言及しています。日本でもこれは政治問題です。大使のこの問題に対する考え方を聞かせてください。

ケネディ大使 テレビをつければ誰でも、これが現代における最大の人道問題になってきていることが分かると思います。つまりこれは大きな危機であり、米国も日本もこの問題に熱心に取り組んでいます。米国は、難民の生活の向上と支援のために日本が行った多大な貢献に感謝しています。オバマ大統領は次のように明言してきました。我々はISIL(過激派組織「イスラム国」)を壊滅させる決意である、と。そして、我々は難民を米国に迎え入れるべきであり、我々の隣人であり友人であるイスラム教徒の米国人を差別してはならない、と。この問題は今後しばらく続くと思います。そしてどの国も、この危機の原因となっている紛争を解決するとともに、故郷を離れざるを得なくなった家族を支援する義務を負っていると思います。

 今年(戦後)70年ということで、安倍首相が戦後70年談話を発表しました。大使はかつて安倍首相が靖国神社を訪問した際に「失望」を表明されたことがありますが、70年談話についてはどのようにお考えでしょうか。

ケネディ大使 私は今年、ここ日本で、安倍首相が実施した有識者懇談会での議論などのプロセスを拝見ました。そして米国政府は、日本が与えた過去の苦痛に対する痛切な反省を表明し、歴代内閣の談話を支持する決意を示した安倍首相の談話を歓迎しました。米国および他の国々は、過去70年間の日本の実績が間違いなく、あらゆる国の模範となってきたと認識しています。日本はこれまで平和と安定に貢献し、国際社会で大きな役割を果たしてきました。米国政府、オバマ大統領、ケリー国務長官のいずれも、安倍首相の談話を支持する声明を出しました。

 次にTPPについて2点お伺いしたいと思います。先ほど大使は、アメリカの議会は承認するとおっしゃいました。ですが政治の季節を迎えていて、民主・共和両党から批判が出ている中で、どうしてそのようにポジティブになれるのか教えてください。

 2つ目は日本の農産物についてです。日本の農家からはアメリカなどから安い農産物が入ってきて市場を奪われるのではないかという不安の声が聞かれます。一方で「国際市場に打って出ろ」という意見が聞かれます。日本の農産物でアメリカ市場で売れると思われるもの、もしくはこう売ればアメリカ国民から歓迎されるといったようなアドバイスがあれば教えてください。

ケネディ大使 まず2番目の質問からお答えします。日本の農家が作る農作物は、世界で最も素晴らしい生産物の1つです。冬季に桃の香りのするイチゴを作ることができるのは日本の農家以外にないでしょう。農業に従事する日本の若者に会ったこともあります。私がご一緒した(都立)園芸高校の生徒さんたちは、将来、農業関係の仕事に就くことを考えています。また大使館に来て、私が園芸高校からお借りしている盆栽の世話をしてくれています。日本学校農業クラブ連盟(FFJ)と米国のFuture Farmers of America (FFA)のメンバーにもお会いしました。両組織のパートナーシップは50年以上続いています。TPPの枠組みの中で、日本の農家が成功することに疑問の余地はありません。課題もあるでしょう。しかし私は日本の農園を訪ねて、そこで多くの世代が共に働き、素晴らしい農産物を作っているのを拝見しました。彼らは消費者に直接販売しています。革新的な方法で販売しています。彼らが作る農産物は非常に優れているので、成功するのは間違いないでしょう。

 TPPに関しては、貿易協定の承認は決して簡単ではありませんが、それでもいつも承認されます。オバマ大統領はこの協定に固い決意で取り組んでおり、大統領が深い関心を持つ政策の達成率はこれまで非常に高くなっています。ですから総合的に見て、TPPが承認されることに私は疑問を持っていません。政治については、また別の話です。

 次に女性の問題についてお伺いします。先ほど大使は、経験を共有するのも任務のひとつとおっしゃいました。実際日本は、ジェンダー・ギャップ指数で世界100位にも入っておりません。こうしたなか、日本の女性の社会進出を前進させるためのブレークスルーは何だとお考えでしょうか。

ケネディ大使 まず、これは米国も取り組まなければならない課題です。我々もこの問題を解決していません。米国でも、仕事と家庭の両立はまだ難しいのですが、我々が経験を共有することで、状況は改善すると思います。1つのブレークスルーがあるわけではありません。継続した努力が必要ですし、男性、女性、子ども、企業、教育機関などの参加が不可欠であると思います。これは間違いなく、長期的には日本のため、そして短期的にはこの国の家庭や労働者を利するものです。

 安倍首相は、実施すべき措置を数多く推進してきました。皆さんもご存知だと思いますが、税制改革、法整備、労働市場の柔軟性など、挙げるときりがありません。しかし、肝心なことは、着実な前進に向けての決意です。私が日本で会った女性たちは活力にあふれた方ばかりで、1つのことに専念すれば、どのようなことも変えていく力を持っています。ですから、私はこの取り組みの成功を切望し、期待しています。私が日本に着任してからも前進がありました。この取り組みに参加し、そばで見守り、応援できることを光栄に思います。

 先ほど大使は留学生のことに触れられました。この機会にぜひ、内向きになっていると言われる日本の若者に対して、アメリカの大学で学ぶことにどのようなメリットがあるのかアピールしていただけませんでしょうか。

ケネディ大使 若者が日本から離れたくない理由はわかります。日本は本当に素晴らしい国ですから。しかし、外国で勉強することは、人生観が変わるような経験の1つになると思います。私自身も含め、留学を経験した人は皆、留学が人生を変えると捉えています。留学先の国だけでなく、自分の国に対しても新たな視野が開かれます。また、留学しなければ考えもしなかった将来の可能性を広げてくれます。

 日本では、留学するのは男性より女性のほうが多いと思います。企業のグローバル化が進み、世界が相互のつながりをますます深めるなか、日本はこの素晴らしい人的資源を活用すべきだと思います。子どもや親にとって、留学は大きな冒険となります。子どもを持つ喜びの1つは、親が子どもの冒険に参加できることです。私が常々親御さんたちに言うのは、子どもはたいていの場合(留学後)帰国するので、心配する必要はないということです。しかし、子どもにとって、留学は人生最高の経験の1つとなりますし、帰国後は、留学をしなかった場合よりもはるかに多くの機会と成功に恵まれるでしょう。企業もこの問題に取り組み、就職活動で不利にならないと学生たちを納得させる必要があります。大学も、学生が日本の大学と留学先の大学を行き来しやすくする必要があります。在日米国大使館は文部科学省と連携し、学生が単位の移行や大学間の行き来、インターンシップなどを容易に行えるよう、大学間のパートナーシップの構築に取り組んでいます。こうしたことに関心を持っている人がいますから、これを実行しやすくする必要があると思います。

 またここ数年、日本への米国人留学生の数は過去最高を記録しています。ですから、日本人留学生の数を増やす取り組みが必要です。しかし少なくとも、我々のメッセージは、米国には伝わっています。